阿部さんが料亭で出会った金継ぎの器
ナカムラクニオ(以下、ナカムラ):阿部さんが金継ぎに興味を持ったきっかけは、何かありますか?

阿部:料亭にいったとき金継ぎされた器や、おちょこを見たことがきっかけです。完品より、金継ぎされたもののほうがかっこいいなと思い始めて。
ナカムラ:料亭は、目利きのお客さんにしか金継ぎの器を出さないと聞いたことがあります。普通のお客さんだと「この食器、壊れていますよ」とかお店の人に言う(笑)
阿部:そうなのですか。 じゃあ僕、料亭の方に“試された”のかな(笑)。
ナカムラ:金継ぎされた器は、もともといいものだからこそ修復されるのですよ。あまり価値のない器なら、割れた時点で捨てられる。
母へのプレゼント選びが難しい
―― 料亭は、お仕事の関係者と行くことが多いのですか?

阿部:母や祖母と旅行する時に、行くこともあります。母や祖母と京都旅行の話になったとき、有名な料亭に行ってみないか、と提案してみたのですが……。
―― お母さん思い!
阿部:母が「その店は興味ない」と拒否。その代わり「この料亭なら行きたい」と自分で調べていました。全部の食材を京都産で揃えるこだわりの店で、震えました。もちろん、僕の奢りです(笑)。
―― お母さま、情報通!
阿部:母に何かプレゼントしようと思ったとき、「ブランドバッグはどう? 欲しいものがあったら何でも買うよ」と言ったら、「別にいらない」と言われたこともあります(笑)。
―― 阿部さんが秀吉、お母様が千利休のようですね(笑)。秀吉が一生懸命、利休を喜ばせようと豪華な茶道具を集めても、利休はいらないと拒否するような。
割れてしまったお気に入りの器。細かい破片まで大切に保管していた阿部さん
ナカムラ:では、さっそく金継ぎの体験をしていただきましょう。
※金継ぎには一度漆を塗った後に乾燥させて削りさらに漆を塗る、などの工程がありますが、今回は簡略化しています。
ナカムラクニオさん金継ぎ講座の記事はこちら
金継ぎとは?歴史や技法・戦国時代の茶人が愛した理由・魅力や講座も紹介

阿部:今日は、お香の器を持ってきました。
―― どうして割れてしまったのですか?
阿部:家の棚に置いて大切に使っていたのですが……。あるとき、上の棚のものが落下して器にぶつかり、割れてしまいました。
ナカムラ:これは“良い”割れ方をしていますね。世界観のある割れ方。しかも細かい破片まで保管してくださっているので、金継ぎが簡単にできそうです。
阿部:破片を紛失していると、大変なのですか?
ナカムラ:大変です。破片がない部分を埋めるために、錆漆(さびうるし)というもので埋めないといけない。
阿部:まるでコンクリートを流し込むような感覚ですね。
―― 小さな破片を、阿部さんはきちんと保管されていたのですね。
阿部:気に入っていた器なので、いつか修復しようと保管していました。
―― さすがです。自分だったらすぐ失くしそうです。
「かっこよく傷を魅せる」……金継ぎ、ガンプラ共通の思想
ナカムラ:ではまず、麦漆(むぎうるし)で破片たちを接着しましょう。断面に麦漆を塗ってください。

阿部:麦漆は、どんなものなのですか?
ナカムラ:漆に、小麦粉をまぜた接着剤です。
阿部:小麦粉! 食べ物を混ぜるのは面白い。
ナカムラ:次に、破片と破片を合わせましょう。そうそう、いいですね。

―― すごい。ぴったり合わさりました。 阿部さん、めちゃくちゃお上手じゃないですか!?
阿部:じつは小さいころ、ガンダムのプラモデルをよく作っていました。だからこういう作業は慣れているのかも。
ナカムラ:ガンプラですか!
阿部:ガンプラは組み立てる難度レベルがあります。高校生以上向けの「マスターグレード」といった難しいレベルに、小学生のとき手を出したくらい熱中していました。ガンプラを作っている間は集中できるのが、とても楽しかった。
―― 飛び級ですね! すごい。
阿部:アニメの中でいつも右腕を振り回して戦うモビルスーツはストーリーを考えて、プラモデルも右腕が傷んでいるようにつくったりしました。

ナカムラ:僕は個人的に、ガンプラは侘び寂びだと思うのですよね。やすりをかけてエイジングして、新品なのにいきなり侘びた状態にしたりします。
阿部:やりますね! わざと砂をこすりつけて傷を表現したり。
―― あえて戦いの傷を魅せるとは、ガンプラは奥が深い! 当時はまだ解説YouTubeなどもなかったと思います。どうやって砂をこすりつけるなどの技を身に着けたのですか?
阿部:当時はプラモデル屋がたくさんありました。ショーウィンドウにあるものをじっと観察して自分なりに工夫しましたね。
―― すごい小学生だ!
ナカムラ:ガンプラは錆びた部分がある方が良いとか、かっこよく傷を魅せようという考えがあります。金継ぎをやっていると「あれ、自分はガンプラを作っているのか?」と思うこともありますね(笑)。
阿部:錯覚に陥る……面白い。

ナカムラ:錆びや傷を愛でるというのは、日本人の美意識の中に共通している気がします。茶道の世界でも目が肥えた人は、欠けた道具をあえて直しませんね。陶磁器が欠けた部分を虫食いと呼びます。虫食いを千利休がほめたという伝承を守り、茶碗の欠けたゲジゲジを茶人が愛でる。虫食いが最上級なのですよ。
阿部:虫食いが最上級(笑)。独特の文化ですね。
一定の太さの線より、ビブラートのような揺らぐ線が面白い
ナカムラ:次はベンガラという赤い顔料を漆に混ぜて、つかいます。細い筆で接着部分の上に線を引いてください。

阿部:この筆、とても細いですね。
ナカムラ:接着部分の線をなぞっていくイメージで。一定の太さではなく、ビブラートみたいに強弱をつけるのがおすすめです。
阿部:なるほど。同じ太さの線だと、面白みがなくなる。
ナカムラ:ベンガラ漆が乾いたら、金粉をまいて仕上げます。

阿部:金粉は、やはり高いですか?
ナカムラ:どんどん値段が上がってきています。今、純金が1グラム3万円くらいだったかな。金を使わず、ベンガラ漆の赤で仕上げる人や、銀や錫(すず)を使う人もいますよ。
阿部:そうなのですね。銀もよさそう。
ナカムラ:本来は何度も乾かして削って塗って…と工程を重ねるのですが、今日はこれで完成としましょう。
阿部:ありがとうございます。
金継ぎをした器に名前をつけ価値を上げる、日本文化のおもしろさ
ナカムラ:日本文化の面白いところで、茶碗や道具に名前をつける習慣があるのですよ。銘(めい)と呼ばれています。今日、金継ぎをした器にも銘をつけましょう。
阿部:ぜひやりたいです。

ナカムラ:宇宙っぽい雰囲気がしますね。月面のようにも見えます。「月」をつかった銘にするのがいいかもしれません。月の何か、とか、月の道とか。
阿部:なるほど……。金色の線が、花瓶に生けた花のように見えてきました。なので銘を「月の花」にします。
ナカムラ:いいですね。量産された器でも割れて金継ぎをし、銘をつけると世界で一つの作品になります。
阿部:金継ぎは、資本主義と遠いところにあるようなイメージがありました。でも金継ぎをすると一点ものとなる。そうすると価値がうまれ、資本になる! じつは金継ぎが資本主義の最先端かもと気づかされました。読者のみなさんにも、ぜひ金継ぎを体験してほしいです。今日はありがとうございました。
ナカムラ:ありがとうございました。
写真/篠原宏明
インタビュー・文/給湯流茶道
ナカムラクニオ
荻窪『6次元』主宰/美術家。著書は『金継ぎ手帖』『洋画家の美術史』『こじらせ美術館』など。新刊『図解 教養としての美術史』『一気読み西洋美術史』発売中。金継ぎや絵を描き、本を執筆。諏訪と輪島と珠洲でウルシを栽培中。
https://www.x.com/6jigen/
https://www.instagram.com/6jigen/
阿部顕嵐 お知らせ
<出演情報>
MBS ドラマフィル「恋フレ ~恋人未満がちょうどいい~」
2025年10月2日(木)よりMBS、テレビ神奈川他、順次放送スタート
詳しくはこちら >>> https://www.mbs.jp/koifure
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