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Fashion&きもの

2025.09.25

着物をたたむ=マインドフルネス。変わらないことを明日も変わらず続けていくこと【和を装い、日々を纏う。】11

着物家として活動する伊藤仁美さん。京都の禅寺、両足院に生まれ育ち、現在は着物を通して日本の美意識の価値を紐解き、未来へとつないでいくことをテーマに講演やイベント出演など幅広く活躍しています。この連載ではこれまでの彼女の歩みや日々纏う着物の魅力について語って頂きます。

前回までの連載はこちらからご覧ください

心が乱れてしまったときは

足早にすぎていく日々の中で、忙しさを理由に何気なく口にしてしまった言葉について、ついつい考えてしまう。そんなつもりはなかったのにと、気がついたら後悔が身体中を覆い尽くしている。「明日もうまく切り替えられなかったらどうしよう」という不安がよぎって、なかなか寝付けない——。なんてこともあります。

そんな時、決まって私は、あることをするようにしています。

それは、着物をたたむこと。次に帯、小物と順番にできるだけ丁寧にたたんでいきます。手のひらで綺麗にシワを伸ばしながら、できるだけピッタリと。

そんな時の着物を置く場所は決まっていて、襟の方を左に、そして脇を綺麗に揃え、全ての線を把握しながら、縫い線に沿って折っていく。
面白いのが、その時正座をして背筋をピンと伸ばし深い呼吸を意識しながら畳んでいくのが、一番スムーズかつ綺麗にたためるのです。綺麗に畳むには、その物に向かう姿勢も大事ということなんです。

線と線がきれいにピッタリ合って、最後に袖を整えた時に縫い線のみがきれいに折れて、皺になってはいけない部分には皺が入らない。ずっと昔から変わらない折り方がそこにはあって、自分の心模様は変わっていても、着物の折り方はいつも変わらない。

順序正しく折っていけば、いつでも着物は美しくたたむことができます。古来から受け継がれてきた、素晴らしい先人たちの知恵。きれいにたたまれた着物を見ると、もやもやしていた気持ちもどこへやら。いつの間にか自分の心もととのったように思えるのです。

衣擦れの音は警策のよう

そして、帯をたたむときに聞こえてくるシュッシュッという衣擦れの音。たとえるなら座禅の警策(※)で肩をトントンと叩いていただくような心持ちに、この音を聞くとなります。そうしてお紐まで、五角形にきれいにたたんでいきます。

※けいさく。坐禅の際に修行者の肩に打ちつけて、注意を与えたり、眠気を払ったりするために用いられる法具。

お紐を五角形にたたむことで、シワを伸ばすことができ、なおかつタンスの中や小物入れの中も整頓され、必要な時に取り出しやすくなるからです。これを私は、次に使うときの自分に対する「ご褒美」だと考えています。

少し落ち込んでしまっているときこそ、未来の自分へのプレゼントを用意する。お金のかかることではなく、着物を綺麗にたたんだり、小物をたたんだり。そんな小さなギフトが、自分の心の余裕につながっていくように思うのです。

「道しるべになってくれる」

着物のたたみ方は、母や祖母もみんな同じようにしてきたものです。決して難しいことではなく、私にもできること。ずっと変わらないから、自分の心がどんなに不安定であったとしても、うまくいかないことが続いても、必ず最後までたたむことができる。そこにその日の心模様が写っていたとしても、私の道しるべとなって足元をいつだって照らしてくれています。

日々目の回るようなスピードで変化していく社会に生きていく中で、着物をたたむという行為は私の心を落ち着かせてくれます。それが私にとっての心をととのえる方法の一つですが、そうした行動は人それぞれ。たとえば床掃除をするとか、散歩をするとか、実は何気ない日常の中にもきっとあるはずです。

何かに瞑想のように没頭することで、昨日の自分から今日の自分へと切り替えて、新しい真っ白なページをめくっていける。変わらないことを、明日も変わらず続けていくことが、迷ったときの心の道しるべになってくれるように思います。

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伊藤仁美

着物家/伊藤仁美 京都の禅寺である両足院に生まれ、日本古来の美しさに囲まれて育つ。長年肌で感じてきた稀有な美を、着物を通して未来へ繋ぐため20年に渡り各界の著名人への指導やメディア連載、広告撮影などに携わる。 オリジナルブランド「ensowabi」を展開しながら主宰する「纏う会」では、感性をひらく唯一無二の着付けの世界を展開。その源流はうまれ育った禅寺の教えにある。企業研修や講演、国内外のブランドとのコラボレーションも多数、着物の新たな可能性を追求し続けている。
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