Culture

2026.01.30

母は山姥、父は龍!? 知っているようで知らない『金太郎』の真実

桃太郎、浦島太郎、力太郎、三年ねたろう……日本昔話はどういうわけか太郎と名のつく男たちでひしめいている。なかでもひときわ異彩を放つのが、金太郎だ。その活躍ぶりは民謡でもお馴染みだが、金太郎がどんな人物だったかと聞かれるといまいちはっきりしない。まさかり(大きな斧)を担いで熊と相撲をして、それから?
太郎史上もっとも立派な名前をもっているというのに全貌がつかめない。いったい金太郎はどこで生まれ、誰に育てられ、なにを成し遂げ、昔話になったのか。今回紹介するのは、知っているようであまり知らない『金太郎』秘話である。

日本各地に残された金太郎伝説

むかしむかし足柄山の山奥に金太郎という名前の男の子がいました。金太郎の友だちは山の動物たちです。動物たちの中には熊や鹿もいましたが金太郎には敵いません。金太郎はたいへん力持ちで、強くて、心の優しい男の子です。金太郎は立派な若者になると、えらいお侍さんの家来になって悪者を次々とやっつけましたとさ。

言わずと知れた昔話『金太郎』である。金太郎の物語は、ほかの日本昔話とはすこしちがった印象をうける。それはおそらく、金太郎が生れたとか育ったとか遊んだとか伝わる場所が日本各地に残されているからで、さらにいうと金太郎が実在の人物であるとされているからだ。

金太郎伝説の舞台とされているのは、神奈川県と静岡県にまたがる足柄山。でも、新潟県にも富山県にも愛知県にも金太郎は、いた。
長野県には、岩に金太郎の足跡が残されている。こんなにあちらこちらに出没されると実在しているという噂も信憑性を帯びてくる。そもそも、金太郎はどんな幼少期を過ごしたのだろうか。

金太郎、生まれる

喜多川歌麿『山姥と金太郎』
出典:The Metropolitan Museum of Art
(https://www.metmuseum.org/)

ご存知の通り、金太郎は怪力である。常人を超えた力の持ち主が、ふつうの人間と同じように生れてくるはずがない。そんな金太郎の育ての親は山姥(ということになっている)だ。父親については語られないことがほとんどで、語られることがあってもあまり登場しない。父親の存在はかなり薄い。が、金太郎伝説では母親のほうがずっと重要な位置を占めている。なにせ、母親は山姥である。

あえて言及しないが、山姥もふつうの人間ではない。
平安時代の武将、頼光が老婆(山姥)と金太郎の親子に出会ったときのことだ。話によれば、頼光は偶然出会った老婆に「そなたの連れている子は誰か、父親は誰か」と尋ねたという。

「わたしの子です。でも父親はありません。わたしはこの山に何十年も住んでいます。ある日、頂上で寝ていると夢の中に赤龍があらわれてわたしを抱きました。その時、ものすごい雷鳴がとどろき目が覚めました。そうしてこの子を宿したのです」

さらりと言いのけているが、これが事実なら金太郎は奇跡の子だったということになる。真偽のほどはさておき、そんな女性の子どもであるからこそ、金太郎も通常なら得ることができない怪力をもっているのだろう。

金太郎、遊ぶ

喜多川歌麿『山姥と金太郎』
出典:The Metropolitan Museum of Art
(https://www.metmuseum.org/)

金太郎は木をなぎ倒して、ひょいと川に橋をかけてしまう。重い餅もなんなく運ぶ。山中の動物たちとの綱引きで勝ち、熊と相撲をとり、勝っている。向かうところ敵なしである。ただ、疑問は残る。金太郎は、山の動物たちと本当に友だちだったのか。もしかすると力でねじ伏せてはいなかったか。

ところで金太郎についての伝承はなぜか石にまつわるものがおおい。力石、金時岩、手玉石といった伝承が今も伝わるのは、金太郎が石を投げたり持ち上げたりして力を自慢、というか、あちこちの石を手まりにして遊んでいたからだろう。
ちょっと真面目な話をすると、石を投げるという行為には神話的な意味がある。『日本霊異記』(日本最古の仏教説話集)でも子どもが石の投げ比べをしている。
金太郎といえば体に巻いた赤いひし形の布が思い出されるが、赤色は呪力とまじないの色でもある。金太郎の赤色は強さを示すものであり、願いが込められた色なのだ。だから金太郎の石遊びも単なる遊びだったとはいいきれない。

金太郎、怪我をする

喜多川歌麿『山姥と金太郎』
出典:The Metropolitan Museum of Art
(https://www.metmuseum.org/)

金太郎は足柄の山を庭にしてすくすく育った。遊び相手は山の動物たち。無双の怪力で山の動物たちと毎日楽しく仲良く遊んでいた。ある日、いつものように動物たちと遊んでいた金太郎は、元気があまって崖から転げ落ち、その拍子に枯れ枝で目を刺してしまう。枝は眼を貫通。山姥は権現様に願いをかけて平癒を祈ったという。
「南に行けば眼病によく効く温泉がある。その温泉で目を洗えば治るだろう」
お告げを聞いて山姥と金太郎が出かけると、岩の割れ目から温泉が流れ出ていた。その温泉で目を洗うと、みるみるうちに目が治ったという。その伝説から生まれたのが姥子温泉(神奈川県・箱根)である。

それにしても崖から落ちたのが金太郎でよかった。ふつうの人間ならきっと死んでいた。どんな温泉でも死人を蘇生するのはさすがに無理だろう。
姥子温泉の伝説をはじめて聞いたとき、私の頭に浮かんだのは息子の怪我をたいそう心配する山姥の悲しそうな顔だった。たくさんの母親たちと同じように、山姥もまた金太郎の怪我を心配して胸を痛めたのだろうなと想像すると、怖い顔をした山姥も愛おしく思えてくる。ただ、困ったことに山姥と一緒に暗い顔をする熊や猿の顔も一緒に思い出されて一人で笑ってしまう。

金太郎、坂田金時になる

喜多川歌麿『山姥と金太郎』
出典:The Metropolitan Museum of Art
(https://www.metmuseum.org/)

豪力、森の動物たち、山姥の母親。『金太郎』の物語には読者の心を惹きつけるユーモラスな味わいがたっぷり詰められている。金太郎を魅力的な主人公にしている理由がもうひとつある。それが、出世である。

金太郎の名前は江戸時代に英雄、坂田公時(坂田金時)の幼名として庶民の間に名付けられたといわれる。金時の金に太郎がついたのだろう。だから、金太郎。
熊の皮を腰に巻いた金太郎が平安時代の武将、頼光の前に飛び出し、渡辺綱らと相撲をとって勝ち、家来になったという物語もこのころに作られた。金太郎はやがて渡辺綱らとともに、いわゆる頼光四天王の一人として多くの武功をたてるに至る。とりわけ有名なのが、酒呑童子と呼ばれる鬼を退治したこと。やっぱり太郎たるもの、鬼を倒さなくてはならないということか。

山姥、母になる

喜多川歌麿『山姥と金太郎』
出典:The Metropolitan Museum of Art
(https://www.metmuseum.org/)

日本各地に伝わる伝承では、金太郎は山姥の子どもとして語られることがおおい。ただ、母親が山姥というのは、すこし複雑な気持ちだ。たとえ金太郎の母親が聖母のように優しい母親だったとしても、そうか母親は山姥なのか……と思わずにいられない。
山姥の母親を素直に喜べないのは、昔話の山姥が人をとって喰う恐ろしい妖怪だからだろう。そのせいか金太郎を不憫に思ってしまう。他人の家庭に口を出すなんてまったく下品である。でも、誰だってそう思わずにはいられないはずだ。どうして山姥なのか、と。

山姥と金太郎の親子は山奥の洞窟に住んでいたと伝えられる。洞窟は神が宿る場所として神聖視されることがある。ふつうの老いた女は洞窟で暮らさない。だからそんな場所に住んでいる山姥もまた、特別な存在として語られてきた。呼びかたも山姥のほかに、姥や大姥様というように各地で異なっている。
凶暴で恐ろしいイメージの強い山姥だけど、良い山姥は里に降りて田植えを手伝ったり、布を織ったり、ご飯が増えるしゃもじをくれたりする。
神聖な山という空間に住む山姥にたいする人びとの意識の表れなのだろう。山姥がもつとされる霊力や豊穣性といった特別な力が金太郎とのあいだに関係を結んだのかもしれない。山姥は、神さまでもあるのだ。

思い返してみれば、金太郎の山姥はなにひとつ悪いことをしていない。たくさんの恵みをもたらしてくれる山に暮らし、子どもを立派に育てている。見た目はさておき、この山姥は話に聞くかぎり、きっと良い山姥にちがいない。

おわりに

喜多川歌麿『山姥と金太郎』
出典:The Metropolitan Museum of Art
(https://www.metmuseum.org/)

金太郎伝説は日本各地にある。金太郎と坂田金時は同一人物として考えられてきたのに、おもしろいことに昔話では別の存在として描かれることがある。昔話でお馴染みの金太郎は「まさかりかついで きんたろう」であり、「くまにまたがり おうまのけいこ」をしているただの少年なのである。

でも、どの金太郎伝承も山奥に暮らし、力持ちであったことは変わらない。強く、たくましく、健康に育ってほしいという親の願いがいつの時代も、どの土地でも変わらないように、そんな想いを託されて金太郎は今日まで語り継がれてきたのだろう。昔話『金太郎』に耳を傾けるとき私の頭にいちばんに浮かぶのは、やっぱり山姥の顔だ。この昔話は、金太郎少年の物語であると同時に母と子の愛の物語でもあるのだから。

【参考文献】
「箱根の民話と伝説」夢工房、2001年

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馬場紀衣

文筆家。12歳で海外へ単身バレエ留学。University of Otagoで哲学を学び、帰国。筑波大学人文学類卒。在学中からライターをはじめ、アートや本についてのコラムを執筆する。舞踊や演劇などすべての視覚的表現を愛し、古今東西の枯れた「物語」を集める古書蒐集家でもある。古本を漁り、劇場へ行き、その間に原稿を書く。古いものばかり追いかけているせいでいつも世間から取り残されている。
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