12年ぶりの大劇場へ。「花のみち」から始まる里帰り

宝塚駅を降りると、すぐに「花のみち」が迎えてくれます。木々のアーチに縁取られた小道には心地よい風が吹き抜け、歩き始めた途端、気持ちは一気に宝塚の世界へ。花のみちを歩いていると、タカラジェンヌだけでなく、歌劇団の懐かしいスタッフの方々にも次々と遭遇! 嬉しさと懐かしさで気分も高まり、劇場とは反対方向にある「宝塚大橋」まで足を延ばしてみることにしました。

武庫川(むこがわ)に架かる宝塚大橋からは、宝塚大劇場と宝塚音楽学校を一望できます。撮影をしていると、ちょうど阪急電車が通過!大好きなマルーンカラー(1910年の開業時から車体に採用されている伝統色。黒みの強い小豆色)の車体を目にして、思わずはしゃいでしまいました。毎日のように見ていた風景だけに、やはり特別な愛着があります。

少し寄り道をして、いよいよ宝塚大劇場へ。大きな正門を前にすると、何度訪れても胸が高鳴ります。
劇場改札内へ足を踏み入れると、真紅の絨毯にロビー階段、美しいシャンデリアが広がり、一気に夢の世界へ。12年前、私が宝塚大劇場を旅立つ時に見送ってくれたのもこのロビーでした。あの日は、タカラジェンヌの正装である黒紋付に緑の袴姿。再びこの場所に立つと、当時の記憶がよみがえり、懐かしさで胸がいっぱいになります……。

館内にはレビューグッズやお土産を扱うショップ、カフェテリアなどもあり、改札内ロビー奥のラウンジでは、公演限定のデザートや飲み物を楽しみながらひと休みすることも。開演前や幕間には、公演の感想を語り合う人々で賑わいます。

また、大劇場の2・3階には展示施設「宝塚歌劇の殿堂」があり、宝塚歌劇の歴史を伝える貴重な資料や、その発展に尽力した出演者・スタッフについて紹介されています。観劇の際には、ぜひ少し早めに訪れて、劇場そのものも楽しんでみてください。
宝塚歌劇100周年式典でも着た、思い出の着物をもう一度

今回の里帰りに選んだのは、宝塚歌劇100周年の記念式典で司会を務めた際、緑の袴に合わせて着た思い出の一枚。私の在団中は、「袴を着る時の色着物は袂(たもと)を長めにする」という慣習があったため、一尺三寸だった袖を一尺八寸に仕立て直しています。
こちらの着物、もともとは叔母が結納の際に仕立てた付け下げ訪問着でした。それを私が記念式典で着ることになった時には、祖母や叔母も「もう誰も着ないと思っていたのに、宝塚大劇場の舞台で日の目を見るなんて……。」と、とても喜んでくれました。
当時、この着物を気に入った理由のひとつが、「花組」の組カラーであるピンク。私が理想とする「娘役像」にぴったりの淡い色合いで、さらに、綸子(りんず)ならではの華やかさも持ち合わせています。
宝塚を卒業したら、もう着る機会はないかもしれないと思っていました。それが、着物を日常的に楽しむようになった今では、控えめな色合いとほどよい華やかさが使いやすく、結婚式やちょっとしたパーティなどでもよく袖を通しています。

帯は、年上の友人から「私はもう締めないから蘭ちゃんに」と譲り受けた、山口美術織物の桜橘紋様(さくらたちばなもんよう)。華やかで存在感があり、ここぞという時に締めることの多い一本です。今回は、春になると花のみちを彩る、満開の桜を思い浮かべて選びました。
帯揚げと帯締めには寒色を合わせて、全体を引き締めて。つい浅葱色(あさぎいろ)の帯締めを合わせたくなってしまうのですが、あまりにも出番が多いので今回は封印しました(笑)。代わりに薄紫を合わせてみると、コーディネートに奥行きが出て新鮮な印象に。たまには自分の定番を変えてみるのもいいですね!
懐かしい先輩との再会も。夢の続きを楽しむ「宝塚ホテル」
宝塚大劇場に隣接する「宝塚ホテル」は、2020年に現在の場所へ移転・リニューアルオープン。白を基調とした明るい館内には、大劇場のロビーを思わせる大階段があり、かつて大劇場で使用されていた緞帳(どんちょう)も飾られています。観劇の前後まで、宝塚の夢の世界に包まれているような気分を味わえるホテルです。

2階には、宝塚歌劇の公演で実際に着用された衣装や過去公演の資料などの展示も。展示内容は期間ごとに変わるので、訪れるたびに新しい発見があります。

今回、館内を案内してくださったのは、元月組組長の憧花ゆりの(とうか ゆりの)支配人。私が2006年に入団し最初に配属された月組で、とてもお世話になった先輩です。その後、私が花組へ異動し、トップ娘役になった時には、「蘭ちゃんはしっかりと自分の考えがあるところが素敵。これからも頑張ってね。」とお手紙をくださいました。
今回は、なんと休日にもかかわらず、私に会いに来てくださったのです。憧花さん、本当にありがとうございます!短い時間ではありましたが、思い出話に花が咲き、とても嬉しい再会となりました。
現役時代から愛する、私の“宝塚グルメ”

宝塚を訪れたら、やっぱり立ち寄りたくなる思い出のお店があります。まずは、宝塚ホテルの目の前、煉瓦造りの建物「花のみちセルカ」にある「Pasta(パスタ)」。宝塚で3代続き、多くのOGや現役タカラジェンヌに長く愛されてきた名店です。
私も音楽学校に入る前から、「音楽学校の制服を着て、歴代のタカラジェンヌのようにパスタへ行く!」と憧れていました(笑)。念願かなって、同期と初めてお店を訪れた時の嬉しさは、今でも鮮明に覚えています。

なかでも大好きなのが、ホワイトピラフ。真っ白なホワイトソースの中にピラフが浮かぶ姿は、まるで小さな島のよう。クリーミーな味わいに胡椒のアクセントが効いていて、久しぶりに食べると、当時の記憶まで一緒によみがえってくるようです。

そして、もうひとつよく通っていたのが、宝塚駅直結の「ソリオ宝塚」にあるティーハウス「SARAH(サラ)」。アンティーク調の英国スタイルで、愛らしく落ち着きのある雰囲気が大好きです。

手作りのケーキやスコーンも大好きですが、この日は私のいち押し、シナモントーストとロイヤルミルクティーを。シナモントーストに添えられたレモンを絞ると、甘さの中に爽やかさが加わって、これが本当においしいのです。
今でもモーニングに訪れることがありますが、開店前から並ばないと座れないくらい大人気なのですよ。こうして昔から変わらない味に出会えるのも、宝塚に帰ってきた時の楽しみのひとつです。
宝塚の原点を訪ねて。小林一三記念館へ

今回の旅の最後にどうしても訪れたかったのが、宝塚から阪急電車で約15分、池田にある「小林一三(こばやし いちぞう)記念館」です。宝塚歌劇を創設した小林一三の旧邸を活用した記念館で、阪急電鉄や宝塚歌劇の歩みを伝える資料などが展示されています。

館内では、宝塚歌劇の生みの親としてだけでなく、実業家としての一三先生の姿にも触れることができます。なかでも私が心を動かされたのが、「お客様を喜ばせたい」という思いを大切にしていたこと。幅広い事業を手がける一方、多くの人と交流し、茶会を開いては客人をもてなしたそうです。敷地内には、即庵(そくあん)、人我亭(にんがてい)、費隠(ひいん)という3つの茶室があり、即庵と人我亭は現在も使用されています。

かつて書斎として使われていた部屋には、宝塚歌劇のモットーである「清く正しく美しく」と記された扇紙(おうぎがみ)が飾られていました。実業家として多忙を極めるなかでも、一三先生がいつも宝塚歌劇を大切に思っていたことが伝わってきます。
「きっと今も、一三先生は天国から私たちを見守ってくださっている」
そう思うと、思わず目頭が熱くなりました。
「宝塚、我が心のふるさと」
今回の旅は、懐かしい場所を巡るだけでなく、私自身のルーツをたどる旅にもなりました。
街のあちこちで「お帰りなさい」とあたたかく迎えていただき、宝塚はこんなにも愛にあふれた街だったのだと改めて感じています。懐かしさはもちろん、たくさんの方への感謝と、ここで過ごした日々への愛おしさで胸がいっぱいになりました。
「宝塚、我が心のふるさと」。
この場所でもらったものを忘れずに、これからも初心を大切に、一日一日を重ねていきたいと思います。

