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Fashion&きもの

2025.04.28

奇跡の織物・芭蕉布に会いに行く…!蘭乃はなの着物旅【星のや沖縄編】

もうすぐ大型連休ですね!みなさん、着物でのお出かけは予定していますか? 私は旅行先の織物や伝統工芸品を見るのが大好きで、ついついお土産を買いすぎてしまいます(笑)。 今回は「奇跡の織物・芭蕉布(ばしょうふ)」と呼ばれる織物があると伺い、沖縄に行ってきました!! 国の重要無形文化財に指定されている「喜如嘉(きじょか)の芭蕉布」。喜如嘉の集落がある沖縄県国頭郡(くにがみぐん)大宜味村(おおぎみそん)は長寿の村としても世界的に注目を集めています。神秘的な響きにワクワクしちゃいますよね!それでは喜如嘉の芭蕉布に触れる旅、スタートです♪

海岸線に沿うように位置する「星のや沖縄」

沖縄県読谷村(よみたんそん)にある「星のや沖縄」は、美しい海岸線に沿うように広がっているのが特徴。沖縄の史跡「グスク」からインスピレーションを得て作られた「グスクウォール」の前でポーズ。

 

希少価値が高く、なかなか呉服店ではお目にかかれない芭蕉布ですが、星のや沖縄では現在「涼風を装う芭蕉布サロン」が開催中。滅多にない貴重な機会を逃すまいと、着物愛と見識を深めるべく、蘭乃はな、沖縄に飛びました!
それにしても“奇跡”とは一体どういうことなのでしょうか。すぐに海に出ていける、星のや沖縄のお庭では早速、「芭蕉布インビテーション」が始まります。

芭蕉布インビテーションで、芭蕉布への興味が高まる

お庭に出ると南国の植物がいっぱい!沖縄の太陽と風を感じながらスタッフの方とお庭を歩き、芭蕉布について色んなお話を聞いていきます。
芭蕉には種類があり、バナナがなる実芭蕉、歌にも詠まれた花芭蕉、そして芭蕉布の原料となる糸芭蕉があります。まさか芭蕉布とバナナが親戚筋だったとは!驚きです。
しかし、それ以上に驚いたことは、芭蕉布の原料となる植物が敷地内に生息していたこと!糸芭蕉だけでなく、染料に使うフクギや車輪梅も、お庭で観察することができました。

初めて間近に見た芭蕉にビックリ。

琉球王国時代から、王族だけでなく庶民にまで幅広く普及していた芭蕉布は、生活圏内に生息する植物から作られ、沖縄の風土と人々の暮らしに寄り添う織物だったことを実感しました。
スタッフの方から芭蕉布の原料や特性、発祥について教えていただき、翌日の工房見学に期待が高まります!

私、どうしても沖縄で締めたい帯があったのです!それは祖母の箪笥で見つけた木槿(ムクゲ)の帯!こうして見るとハイビスカスに似ていませんか?木槿もハイビスカスも同じアオイ科フヨウ属の植物だそうなので、ざっくり“ハイビスカス”として分類しました♪

着物の飛び柄のお花もハイビスカスに見えてきませんか…?
きっと桜の季節には「これは桜をイメージした花!」と言いそうな私ですが(笑)。着回しやすい小紋なのでヘビロテしたいと思います♡

作り手から聞く芭蕉布への想い

星のや沖縄から大宜味村までは車で約1時間半。喜如嘉の工房では平良美恵子(たいらみえこ)さんが出迎えてくださいました。戦後、芭蕉布の伝統を守り人間国宝にもなられた、故・平良敏子さんの遺志を受け継いだ美恵子さん。工房内には琉球王国や織物についての本が所狭しと並んでいます。敏子さんから受け継いだ技術を伝承するのと並行して、歴史も検証し、継続と共に向上している、というお話からスタートしました。

糸芭蕉の植物から芭蕉布ができるまでの約23工程は全て手作業。「ひと工程だけでもすごく時間がかかるから、芭蕉布は一人では作れない。だから喜如嘉の芭蕉布には作家がいない。工房の職人みんなで作るのが喜如嘉の芭蕉布なの。ずっとそうして作ってきたから、どんなに大変でも継承していかないといけないの」と話す美恵子さんのエネルギーに圧倒されます。

工房では“うーびき”をしているところでした。うーとは糸芭蕉の繊維のことで、うーびきは糸芭蕉の繊維を“エービ”と呼ばれる竹製のはさみでしごく作業。「大宜味では竹がよく取れるから竹を使ったの。これが貝がよく獲れる地方だったら、糸をしごく作業は貝でやっていますね」と教えてくださいました。原料だけでなく、作業に使う器具も環境や生活に密着した素材なのです。そして美恵子さんは話しながら“管(くだ)巻き”という地糸を繭状に巻く作業をして、あっという間に1本完成させてしまいました。神業!

ベテランの職人さんの手によって、回転式の台で“整経”が行われていきます。大変な作業を経て作られていく糸に有り難みを感じます。

全ての工程を敷地内でできるよう工房の裏にはかまどもあり、そこでは“うー”を煮る工程や染色が行われます。「煮汁が冷める時に色がよく入るのよ」と美恵子さん。煮物も冷める時に味が入りますよね。うーん、染色も料理も一緒の原理!!生活の知恵ですね。

芭蕉布は畑作りから

見学の最後に糸芭蕉の畑に連れて行っていただきました。酸性の赤土を肥料などで工夫してアルカリに寄せて、土壌づくりをし、古株を植えて、野生の動物に食べられないように工夫して、雑草を除去、畑や糸芭蕉の管理を2~3年ほど…柔らかく水分をよく含んだ上質な糸芭蕉を作るには時間がかかるそう。糸芭蕉の畑で風に吹かれながら、美恵子さんが話してくださいました。

水害の被害を予測して、新たに高台に作られた畑を案内していただきました。

「江戸時代には徳川参りがあって、琉球王国から徳川家へ親交の証として芭蕉布が献上されたの。涼しくて喜ばれたでしょうね」と美恵子さんは話します。「沖縄では色んなところで芭蕉布が織られていたけど、第二次世界大戦のとき喜如嘉の人たちは、芭蕉布に使う道具まで持って逃げ切れたんです。だから喜如嘉の芭蕉布が残ったのよ」
多くの人の想いを背負い、芭蕉布のために人生を捧げる美恵子さんがとてもカッコよくて、私も背筋がシャンと伸びました。

そして美恵子さんの心の中にいる、芭蕉布を誇りに想い守ってきた人々の姿を想像しました。芭蕉布とは、平和を願う織物と言っても過言ではない、との思いに至り、込み上げるものがありました。

工房近くの畑で美恵子さんと記念撮影。

芭蕉布をまとって、軽やかな気分に!

星のや沖縄に戻ると、なんと実際に芭蕉布の「御田無(ンチャナシ)」を羽織ることができます!芭蕉布の歴史、製作工程、そして伝統を守る人々の想いを知った後に、芭蕉布の着物の袖に腕を通せるなんて、なんて尊く貴重な体験なのでしょうか。

ンチャナシは打掛のような長さの着物で、とても軽やか。広げると着物の向こう側が透けて見えるほど薄いので、「トンボの羽」と形容されるのにも納得です。普通の着物と違って衣紋は抜きませんが、織り目や袖口から風が抜けていくので、衿を抜く必要もないのです。

知識だけでは得られなかった芭蕉布体験に胸がいっぱいになりながら、沖縄の春風に乗って、どこまでもどこまでも高く舞い上がれそうな気持ちになりました。

「いつか芭蕉布の着物を誂える!」
新しい夢ができた蘭乃はな、着物旅はまだまだ長い道のりになりそうです♪

工房で美恵子さんに芭蕉布の反物を、特別に身体にあてさせていただき、感激!

撮影/Sandy.Kanako

▼「蘭乃はなの着物旅」これまでの記事はこちら
憧れの紬の地で、織る、纏う、食い倒れる! 蘭乃はなの着物旅【結城編】
母の着物をまとい、映画の名所や星付きレストランへ♡ 蘭乃はなの着物旅【パリ編】
サッカー観戦にオクトーバーフェスト! 蘭乃はなの着物旅【ミュンヘン編】

星のや 沖縄

住所:沖縄県中頭郡読谷村儀間474
公式ウェブサイト:https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/hoshinoyaokinawa/

▼「涼風を装う芭蕉布サロン」の詳細はこちら
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/hoshinoyaokinawa/activities/14501/

お知らせ

喜如嘉芭蕉布保存会記念展

重要無形文化財指定50周年記念展
「喜如嘉の芭蕉布」
■日時:令和7年7月11日(金)~8月24日(日)
※7月28日(月)展示替えのため休館予定。
■開館時間:午前9時30分~午後5時30分
(入館時間は閉館30分前まで)
■会場:国立工芸館(石川県金沢市出羽町3-2)
■アクセス:路線バス「広坂・21世紀美術館(石浦神社前)」下車徒歩約7分
■公式サイト:https://www.momat.go.jp/craft-museum/exhibitions/562

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蘭乃はな

俳優、元宝塚歌劇団花組トップ娘役。宝塚時代から数々のヒロインを演じ、退団後はミュージカル「エリザベート」に主演、芸能活動を開始する。2019年には日本舞踊花柳流の普通部(名取)試験に合格し、国立劇場の名披露目にて長唄「鷺娘」を披露。近年では映像作品や広告にも出演し、活動の場は多岐にわたる。2024年に主演映画「TOKYO RED 鉛丹」の公開が予定されている。
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