美味しいスイーツをゲットした時には、紅茶を入れてほっこりお茶タイム。気軽にティーバッグを使ってという人も、多いと思います。日本で最初の紅茶ティーバッグ第1号が誕生したのは、神戸だというのはご存知ですか?神戸は紅茶文化が根付いた土地柄で、1世帯あたりの紅茶の消費量が日本でトップを誇ります。
神戸で紅茶文化が広がった歴史
神戸は、世界に開けた港として古くから外国との交流を盛んに行ってきました。1863年(慶応3年)に神戸港が開港し、翌年には外国人居留地が完成。外国人は自らの手でクッキーやケーキを作っていて、それを見た日本人が真似て、洋菓子店やパンの店が誕生するきっかけになります。その後、洋菓子やパンに合う紅茶を外国人が持ち込み、神戸で定着していきました。
神戸の地で紅茶文化を支える
神戸市東灘区に本社を構える神戸紅茶株式会社は、創業から90年を超える老舗の紅茶会社です。1961年にドイツ製のティーバッグ製造機器「コンスタンタマシン」を日本で初めて導入し、ティーバッグの生産に成功しました。それまでは、一つ一つ手作業で行っていたティーバッグが、このマシンのお蔭で1分間に150袋生産できることになり、効率が飛躍的にアップ。紅茶が一般家庭にも広がる一因となる大きな出来事でした。最近まで当時のマシンも現役で稼働していたそうです。
今回、特別に工場内部を見学させて頂けることに。食品を扱っている工場内ということで、帽子、マスク、白衣を着用し、そして靴をビニールで覆って、ガッチリ対策。何となく、実験室に入るような気分で緊張しながら、工場の内部へと入ります。案内してくださったのは、神戸紅茶株式会社執行役員・原料企画部、部長の米山欣志さんです。
紅茶の香り漂う工場内部へ!
中へ入るとほわーんと漂う紅茶の香り。何だか癒やされます。「そうですか、香りますか?日常なので、気づかないんですけどね」と米山さん。紅茶は大きなコンテナタンクに、種類ごとに保管されています。
ティーバッグに入れる茶葉を厳選する過程を見せてもらいました。機械で選り分けられた後は、目視でもチェックされます。一つのティーバッグの中には、何種類もの茶葉がブレンドされて入っているそう。ブレンドの調合は最重要シークレットだそうです。普段、何気なく飲んでいる紅茶の裏側がわかって、興味しんしん。
異物やティーバッグから漏れてしまう茶葉は、丁寧に選り分けます。
コンスタンタマシンと対面!
ついに紅茶ティーバッグを作るコンスタンタマシンと対面。間近で見ると、とても迫力のあるマシンです。1台につき一人のオペレーターが担当し、メンテナンスは専用の人が担当します。「このマシンは精密でメンテナンスが難しいのですが、部品交換などして大切に使っています」
コンスタンタマシンが実際に稼働している様子も見学しました。上部から送られてきた茶葉は、専用のティーバッグへ充填されます。
1個ずつ成形されてティーバッグの形になると、精密な動きで糸を通して仕上げていきます。リズミカルな規則正しい動きで、見ていて飽きません。
ティーバッグの種類によって変わるマシン
通常のティーバッグと違う三角形のピラミッド型のティーバッグ、「テトラ型ティーバッグ」は、専用のマシンで製造されます。ティーバッグの内部空間が広くなるので、今までのティーバッグだと入れることができなかった、少し大きめの茶葉も入れることが可能に。内部空間が広くなるので、茶葉の抽出効率が良くなるそうです。
ロール状になったメッシュフィルターをシューターと呼ばれる器具に通して、ティーバッグを形作ります。この後、回転盤を回すことで三角形の形に。
三角に形付けられたテトラ型ティーバッグは、順に運ばれて集められます。
紅茶鑑定士として日々、紅茶と向き合う
米山さんは紅茶鑑定士としての顔も持ちます。国内では数人しかいない、特別な技術を持つ人にだけ許される称号。インドやケニアなど世界中の産地、約160か所から届く茶葉を、多い時は1日300杯もティスティングするというから驚きです。
紅茶鑑定士の仕事は広範囲に渡りますが、なかでも重要なのは茶葉の買い付けだと言います。「同じ茶園の同じ種類の茶葉でも、茶葉が生えている土地の高さによって味が違うんです。また気候によっても品質が変わりますが、特に紅茶は雨量が大きく影響するので、最近の気候の変動には神経を使いますね。長年の付き合いのある農園とコミュニケーションを取りながら、状況を見極めることが必要になってきます」
海外からの買い付けが、手探りの時代から茶園と関係を築いてきたパイオニアとして、同業他社への茶葉の供給も行っているそうです。
社内の師匠となる社員から学んだという米山さんは、理屈ではなく実践で身につけたそうです。「様々な国の農園から送られてきた茶葉をテイスティングするのですが、最初はさっぱり見分けがつきませんでした」2年ぐらいすると徐々に産地や種類がわかるようになったそう。「ずらーっと並べられた茶葉の中から、師匠がこのお茶がいいというのを側で見ながら、実際にテイスティングして確かめて覚えていく感じですね」感性を研ぎ澄まして五感を働かすことが必修の世界。10年もの修行期間を経て、やっと認められるという奥の深い世界です。現在、米山さんに付いて修行中の社員もいて、目利きの技術が引き継がれています。
紅茶はブレンドが命
「例えば、ダージリンのお茶だけでも、数種類もの茶葉をブレンドしているんですよ」と米山さん。コーヒーは焙煎という作業工程がありますが、紅茶の場合は、そのまま茶葉で楽しむ違いがあります。味の品質を保つためには、複数の良質の茶葉を組み合わせ、調合する技術が不可欠だそうです。
「日本の水は軟水なので、ヨーロッパなどの硬水と比べて紅茶の茶葉の抽出力に優れ、香りや味わいがダイレクトに出る特徴があります」と米山さん。日本の水に合わせたブレンドに、特に気を配っているそうです。紅茶が美味しく飲める国に生まれたのなんて、全く知りませんでした。これからは、もっと味わって飲みたい気分になりますね。
美味しく入れる紅茶文化を伝えたい
最近よく見かけるようになったペットボトルや紙パック入りの紅茶。特に若者の中では主流になりつつあるようです。お手軽で便利ではありますが、ペットボトルの緑茶の普及で急須を置かない家庭が増えたように、紅茶をカップに入れて楽しむ文化が無くなって欲しくないと米山さんは言います。
「紅茶はお好きなように飲んで頂くのがいいと思いますが、ペットボトルの紅茶と、茶葉からお湯で入れる紅茶とは別の飲み物だと思います。紅茶は温度が大切です。しっかり沸騰させたお湯に茶葉を入れて飲むのが、美味しく飲むコツですね」と米山さん。
神戸はミルクティーを好む人が多いそう。また朝食のパンに合わせて、神戸紅茶の同じブランドを飲み続ける長年のファンなど、紅茶通に愛されています。「若い男性が紅茶を買いに来てくださったことがあって、聞くとお母様が入れてくださった紅茶が美味しかったからとおっしゃっていました。紅茶を美味しく入れて、楽しんでもらうことを、もっと多くの人に知ってもらいたいですね」
11月1日は、紅茶の日
世界レベルでは、水の次に多く飲まれている飲み物は紅茶なんだそうです。ちなみに11月1日は紅茶の日だそう。秋はカップに入れた紅茶で優雅なひとときにぴったりの季節。あなたも、ほっこり紅茶タイムをいかがですか?
神戸紅茶株式会社 直営店舗、北野店・基本情報
明治41年に開校した小学校舎を利用したレトロな建物、「北野工房のまち」にある直営店。紅茶好きなスタッフに好みを相談できる。
営業時間: 9:30~18:00
電話番号: 078-414-7236
定休日:不定休
公式サイト:http://kitanokoubou.jp/
住所: 神戸市中央区中山手通3-17-1北野工房のまち1F