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2019.10.21

温泉ソムリエおすすめ、戦国大名・真田信之も愛した群馬の湯宿温泉。石畳と蕎麦も楽しみたい!

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学生時代に出会った、つげ義春の作品「ゲンセンカン主人」。仄暗い色調で描かれた漫画の舞台は、ひなびて古めかしい温泉街でした。

その奇妙でなんとも寂しい温泉の街並みが妙にリアルで、実際にこんな場所が存在するのかと思いを馳せたのが、今回の取材のはじまり。

…というわけで、こんにちは。今回で和樂での温泉取材が2回目となります、温泉ソムリエの矢野詩織です。大の温泉好きで週に3回は温泉に入る「温泉狂」であり、後世に伝え守っていきたい日本全国の温泉を「国宝級温泉」と名付けてご紹介しています。

私もつげ先生同様に、メジャーな温泉にはまったく興味がなく、なんとも淋しげな雰囲気漂う温泉へ惹かれる性格です。 実際に、つげ先生が「ゲンセンカン主人」の舞台にしたと言われるのが、今回、取材させていただいた群馬県みなかみ町の湯宿温泉です。

今回、湯宿温泉を案内してくれたのは、みなかみ町観光協会の藤野幸恵さん。生まれも育ちも湯宿出身ということで、心強いアテンドのもと、現地での取材をおこないました。「国宝級温泉」企画、第二弾の取材レポートを皆さまへお届けします。

真田家とゆかりのある温泉!ノスタルジックな雰囲気漂う湯宿温泉へ

関東と越後を結ぶ三国街道の宿場町として栄えた湯宿。江戸から明治にかけて旅籠が24軒あったと言われています。現在では、旅館が4軒、共同浴場が4箇所あり、静かな石畳の通路がノスタルジックな雰囲気を醸し出しています。

湯宿温泉の開湯は、今から約1200年前と言われており、そのとき湧き出した場所から現在も源泉が自然噴出しています。源泉の温度が約63度と高いのが特徴で開湯伝説によると、弘須法師が修行の際に岩穴にこもり読経していると、薬師如来のお告げによって薬湯が湧出したと伝えられています。その伝説に基づき、今でも温泉街の中心には、薬師如来が祀ってありました。

また、こんなエピソードも。NHK大河ドラマ「真田丸」で俳優の大泉洋さんが演じた初代沼田城主の真田信之も湯治のために湯宿温泉を訪れ湯小屋を建てるほど、この土地をとても気に入ってたんだとか。

戦国大名にとっての温泉は、病院代わりとも言える重要な役割。特に沼田城主五代の真田信利は、持病の痔に悩まされていましたが湯宿温泉での湯治のおかげで治り、その御礼にと老朽化した薬師堂を改修してくれたという記録も残っているそうです。

そして、温泉を好んだ沼田城主が「いつでも来ても温泉へ入れるように管理しなさい」と命令をし、地元で支配人を任されたのが、現在まで源泉を守り続けてきたの岡田家と言われています。真田家と時代を共に歩み、23代も続くこの岡田家の子孫にあたる「ゆじゅく金田屋」の館主 岡田洋一さんに湯宿温泉の歴史と未来についてお話を聞きました。

老舗旅館「ゆじゅく 金田屋」の館主に聞く、湯宿温泉の未来

(写真右より岡田洋一さん、妻の孝子さん)

今回、湯宿温泉の歴史と未来について熱く話して頂いたのは、湯宿で約151年の歴史を持つ老舗旅館「ゆじゅく 金田屋」の岡田洋一さんです。

宿には、『みなかみ紀行』を著した歌人、若山牧水が泊まった蔵座敷が残っており、見学することができます。良き時代を感じる木造の宿でモダンな雰囲気のインテリアがとっても素敵な印象でした。

「上越線から信越線の開通を機にお客さんの流れが変わり、湯宿温泉への客足も減った。」と話す岡田さん。やはり、湯宿では、人件費や後継者不足で宿や商店などの閉業が後を絶たないのが現状だそう。

”〜この世の中でどうすれば古い宿が生き残っていけるのかと考えた時、地元全体でおもてなしをスタイルにする方向へ変えよう〜”と心機一転し、現在、「ゆじゅく 金田屋」は、日帰り入浴と素泊まりの2本化をはかり、家族で大切な宿と温泉を維持し続けています。食事などは、同じ地域の飲食店へお客様に出向いてもらい、地域全体がうるおうように協力し合いたいと語ってくれました。

宿のモダンな雰囲気と若返り効果が期待される温泉は不動の人気で、素泊りのプランに変更しても一人旅の女性客の利用が多いそう。女性客からは、都内からプチ湯治感覚で利用できると好評だそうです。

「東京からも女性の一人旅で来られる方が多いよ。来た時はゲッソリ疲れた顔色してるけど、温泉に浸かって数日ここで過ごすと、帰る頃には生き生きしてるよ」と岡田さん。戦国大名を癒やした温泉は、やはり現代人の心と体にも効果があるみたいです!

さらに続けて「ここの宿は一人旅の利用が多いよ。そもそも旅は、一人旅なのよ。人生が一人旅のように。」となんともグッとくる言葉を自然と話す岡田さん。実は岡田さん、新婚旅行を機会に4年間もの間、世界一周をしていたそうで、ニューヨークには3年間も住んでいたグローバルなお人。歴史文化にも博学で、インテリア等センスの良い宿づくりや柔軟な思考も、やはり岡田さんのお人柄からだと実感しました。

「たんなる湯治場ではなく、温泉地の新しいモデルになりたい」という野心もあり、頻繁に地元の若い人たちとミーティングを開き、アイディアや指摘を受け入れながら、一緒に町おこししてきたいと熱意を話してくれました。現在、温泉の地熱や川の水力など地域エネルギーを活用したアイディアを仲間たちと練っているそうです。

若返り効果も期待!”還暦の湯”とも言われる縁起の良い湯の正体

女性客に人気高い「ゆじゅく 金田屋」の温泉は、約60年前の雨水が地中深く浸透し、長期間流動しながら有効成分を取り込み、温泉となっているそうで、「還暦の湯」として長寿のお祝いにも喜ばれているそうです。

「還暦の湯とも呼ばれていて、”縁起の良い”まさに温泉そのものがパワースポットなんです」と岡田さん。なんとも女性の心を掴む温泉!

泉質はナトリウム・カルシウム硫酸塩泉で温熱効果も高く、肌のハリ感をアップさせる美肌効果も期待できるそう。浸かるだけでご利益ありと言っても過言ではないです。

温泉とアーティストのコラボレーション

このほかにも湯宿温泉では、東京藝術大学油絵研究室と主催で「アートイン湯宿」といったアートイベントを開催。「ゆじゅく 金田屋」の一角も芸大生に提供し、作品制作やパフィーマンスイベントが行われたそうです。この貴重な場所は、水害等の被害を受け、まもなく取り壊されますが、取材時には作品が残っている様子を見学させてもらいました。

生活の一部、昔ながらの共同浴場を体験

さらに湯宿温泉は、コンパクトな温泉街でありながら、現在でも共同浴場が4箇所も残っています。一般の方の利用は、16~21時までとなっており、松の湯など一部地元専用もあります。利用料金は、1人1回「清掃管理の協力金として善意の額を納める」といったお約束。

男女別で、湯船は1つのシンプルな作りですが、湯宿温泉の歴史を感じる温泉マニアにはたまらない雰囲気。地元の人の生活の一部にお邪魔させて頂いているという謙虚な気持ちで、湯巡りさせていただくものいい体験になるはずです。

温泉ならではの美味しいお打ち立ての蕎麦に出会う

取材中、湯宿温泉の自慢のグルメを聞いたところ、今回アテンドしていただいた藤野さんのご実家がなんと湯宿温泉でお蕎麦屋さんを営んでいるそうで、お言葉に甘えて案内していただきました。

お蕎麦とうどんのお店「やまいち屋」。お昼には、多くの人で賑わいを見せていました。

雪解け水と雄大な自然から美味しい水が綺麗なことで有名な湯宿。美味しい水を使った、引き立て、打ち立て、茹でたてのお蕎麦は、透明感を感じられる美しい輝き。喉越し、香りも良く、揚げたての天麩羅との相性もバッチリでした。

また、藤野さんおすすめは野菜たっぷりの「辛味噌うどん」。ピリ辛で濃厚なスープと麺が良く絡まり、こちらも絶品でした。

さらにやまいち屋さんの隠れ裏メニューとして、女将さんと仲良くなると焼酎のそば湯割りもリクエストできるとか?!湯宿温泉に宿泊したら、湯上がりの食事は「やまいち屋」で焼酎とお蕎麦で決まりです。

湯宿温泉を盛り上げたい!湯宿を愛する地元民の熱意

今回、お話を伺った岡田さんや藤野さんによると、湯宿は、温泉と合わせて療養できる接骨院併設の旅館やみなかみ18湯で唯一の炭酸水素塩泉の源泉を持つ宿をはじめ、病院、雑貨屋や床屋など生活に必要なものがコンパクトにすべて揃っており、”ゆりかごから墓場まで”といった人が豊かに生活できる理想的なスモールヴィレッジだそうです。

さらに、湯宿温泉の街の人は、長い間、宿場町として多くの観光客と接してきたので、接待に慣れており、人を暖かく迎えてくれるDNAが今でも受け継がれているみたいです。その湯宿独特の文化が魅力であり、後世に受け継いでいくためにも、わずかでも自分たちで行動をおこしていこうという自主精神が街全体に息づいていました。

実際に湯宿では、地元の人のボランティアで、土日限定で無料でお茶を振る舞う「茶屋」を開いており、街の人と観光客が垣根なく、交流できる街づくりにも積極的です。

また、地元の床屋さん「トコヤホンダ~Hair & Healing BARBER~」の店主である本多たくみさんが中心となり、湯宿の魅力を発信していくい団体「ゆじゅくらぶ」を結成。若い力で地元を盛り上げようと様々なイベントを企画運営しています。

今年は、焼失してしまった湯宿の映画館「新盛館」を復活させようという働きで、野外映画上映イベント「湯宿シネマ」を開催。当時、映画館があった跡地で野外映画の上映を試み、子供からお年寄りまで、一晩で約150人も集まりイベントが大反響だったそうです。

「湯宿に住むお年寄りにも、若い人たちが街を盛り上げるために活動している姿を見せたい。」本多さん。今後は、湯宿でマルシェのような朝市を開きたいと意気込みを話していただきました。

その反面、取材中、街を散策しているとある宿の女将さんにお話を伺うことができ、「湯宿に何がある?湯宿のいいとこって何よ。」と厳しいご意見もありました。いい時代を知っているがゆえに、今では湯治客が減ったことが原因で旅館の運営が難しいと現状を語ってくれました。

実際に訪れてみるとつげ義春先生が描いた世界とは異なり、地元の人の愛と希望に満ち溢れた温泉だった、湯宿温泉。取材を通じて、温泉以外にも湯宿の文化と人材が宝だと実感しました。

これから、湯宿温泉でどんなことが起こるのか期待したいです。まずは、戦国大名を癒やしたご利益いっぱいの温泉を体験しに現地を訪れてみてください。

ゆじゅく金田屋:http://www.yujuku-kanetaya.com

やまいち屋:https://www.nobotokesoba-yamaichiya-01.com

みなかみ町観光協会:http://www.enjoy-minakami.jp

書いた人

岡山県生まれ。後世に残したい旅館やホテル、ディープな温泉を取材。温泉旅行と絵を描くことが趣味。粉もんが大好物です。