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Art
2019.10.10

気鋭の日本画家・菅かおるの魅力を探る。「水」をモチーフとした日本画の神秘性とは

この記事を書いた人

京都と福岡を拠点に活躍する、現代日本画家の菅かおるさん。その作風は、伝統的な日本画とはまったく異なるようで、何か共通する要素が通底する不思議な輝きを放っています。菅さんの作品の何が、われわれの心を捉えて離さないのでしょうか?

今回は一部の作品を紹介しながら、その魅力を探っていきます。

主なモチーフは「水」

2000年に京都造形芸術大学美術科の日本画コースを卒業した菅さんは、主に「水」をモチーフとした日本画に力を入れています。

それは、「水」と聞いて連想する透明感あふれる青色や水色とは違う、ずっと深い色で織りなされた世界。「AQUA(deep silver)」と題された以下の作品は、その一例です。

「AQUA(deep silver)」(2016、1455×1455mm)

上の方に1つだけ、ヒトデとはっきりわかるものがありますが、ほかは幾何学的な形や伸びやかな曲線といった抽象的な要素が散りばめられています。しかし、これらの多くも海の生き物から着想して描かれたものだそうです。

私の問いかけに対し菅さんは、「貝殻や珊瑚などからインスピレーションを得て構成しています。長く伸びる曲線も、実は貝殻の流線的な模様からきています」と説明します。

そうした要素の配置は一見して無作為なものでありながら、全体として見ればバランスのとれた美しさを湛えています。

下は「Origin」というシリーズの1作「古代の記憶」です。

「古代の記憶」(2018、410×318mm)

「Origin」には「海から生まれる」という副題があるとおり、海で生まれた生き物や、生き物になろうとする有機体に満たされた深い海を表しています。「古代の記憶」からは、原初的な生命の律動を感じられると思います。

抑制された灯りの空間で展示するという試み

菅さんが、こうした作品を描き始めた頃から試みていることに、「蝋燭の灯で絵を鑑賞してもらう」というのがあります。

古来より日本画は、障子を透かして採りこまれた日の光や、室内に据えた蝋燭を光源に鑑賞され、その前提のもと画材・技術を深化させてきたという歴史があります。

それをふまえ、2010年にGallery Antennaで開催された個展「水中トリップ」では、和蝋燭の灯りのもと、金箔をふんだんに使って描かれた作品を展示し、話題を集めました。

2010年の個展で初めて和蝋燭の灯りを採用

2014年のGallery PARC(ギャラリー・パルク)で開催された個展「アクロス ザ ユニバース」では、16曲の屏風に見立てた全長14メートル、全32枚の両面絵画を展示。このとき、部分的にカラーフィルターをあてたスポットライトを光源とした空間で鑑賞していただくという試みがなされました。

2014年の個展では明かりの強さを抑えた人工灯を採用

個展「光と海」レポート【終了】

個展「光と海」は、第1期と第2期に分かれ、第1期は京都市内の長性院(真宗佛光寺派の寺院)で、10月5~6日に開催されました。

長性院では、和蝋燭の灯りと限定的な外部の光のもとで作品を鑑賞するという趣向です。和室のほの暗い空間で見る作品は、蛍光灯のもと均一に照らされたものとは別の姿。かすかに揺れ動く蝋燭の光は、作品を含めた場全体を幽玄な雰囲気に変えていました。

京都の長性院で開催された個展「光と海」第1期(撮影:守屋友樹)

第2期は、Gallery PARCで開催されました。ここでは、長性院の展示作品に新作が加わり、舞台用照明や自然光による日中の展示のほか、日時限定で和蝋燭の灯りによる展示も行われました。

「光と海」第2期が開催されるGallery PARCの会場

われわれ人類も進化の過程をさかのぼれば、海の生き物へとたどり着きます。そのせいでしょうか、菅さんの絵には不思議と心を落ち着かせる力があります。その力は、ゆらめく蝋燭の灯りによって、いっそう際立つように感じられます。

展覧会「光と海」基本情報【終了】

会場:Gallery PARC
住所:京都市中京区烏帽子屋町502 2F~4F
電話:075-231-0706
会期:2019年10月11日~10月27日の11:00~19:00 (月曜日休廊、金・土曜日のみ22:00まで)。12日の18:00~19:30は、菅かおるさん、はがみちこさん(展示会企画者)、佐々木暁一さん(長性院副住職)によるトークイベントあり(予約不要)。
入場料:無料(トークイベントも無料)
公式サイト:http://www.galleryparc.com

菅かおるさんプロフィール

大分県生まれ。2000年、京都造形芸術大学美術科日本画コースを卒業。2004~2005年、同大学国際藝術研究センターフェロープログラムのフェロー。日本画家の千住博に師事。琳派400年記念新鋭選抜展の優秀賞など受賞。京都、東京を中心に個展を開くほか、京料理木乃婦の大広間や巴バルブ本社のエントランスの壁画、月刊『茶道雑誌』の表紙絵も手掛けている。
公式サイト:https://www.kaorukan.com

書いた人

フリーライター。北国に生まれるも、日本の古くからの文化への関心が抑えきれず、2019年に京都へ移転。趣味は絶景名所探訪と美術館・博物館めぐり。仕事の合間に、おうちにいながら神社仏閣の散策ができるYouTube動画を制作・配信中→Mystical Places in Japan