Travel
2019.10.18

23区唯一の酒蔵「東京港醸造」!水道水仕込みの日本酒「江戸開城」を飲んでみた

この記事を書いた人

東京都港区。ビジネスパーソンが多く行き交うオフィス街の一角に、小さな造り酒屋があるってご存じですか? その名も「東京港醸造(とうきょうみなとじょうぞう)」。

23区唯一の造り酒屋が港区に!?

23区唯一の造り酒屋といえば、真っ先に名前が挙がっていたのは北区の「小山酒造」。2018年に惜しまれつつ廃業し、約140年の歴史に幕を閉じました。現在は、こちら「東京港醸造(とうきょうみなとじょうぞう)」が23区唯一となり、丁寧な手仕事による酒造りを行っています。

世界的に見ても、小規模醸造・蒸溜所によるクラフトビールやクラフトジンがブームとなっています。手づくり感が受けているのでしょう。「東京港醸造」もこぢんまりと営む小規模醸造所で、造り酒屋といっても、外からは普通のビルにしか見えません。

ですが、ビルの中では、麹の製造からラベル貼りまでを手造りで行っており、正真正銘の造り酒屋なのです。かなり細長~いビルですが、その中でフロアごとに工程を分けて日本酒を造っているなんて。中をちょっとだけ見せていただきました。

4階には麹室(こうじむろ)があり、ベランダに設置した蒸し器で酒米を蒸します。


酒米を洗う場所は3階。

2階では発酵や搾り、貯蔵が行われます。できあがったお酒は、1階で瓶詰めして完成。

1階はカフェ風インテリアの直売所で販売するほか、酒販店経由で都内のレストランやホテルなどにも出荷されます。

酒造りに使う水は「東京の水道水」

造り酒屋と聞くと、湧き水に恵まれた山のふもと、地下水が豊富に湧く清流のほとりなどの、自然豊かな立地をイメージしますが、ここは港区田町のオフィス街。なんと、仕込み水は水道水なのです!

確かに、不名誉な過去もありました。昭和40~50年代には、「東京の水道水はカルキ臭い」などといわれていました。ですが、現在は浄水や送配水の技術が向上し、東京の水道水はそのまま飲めるほど安全になっています。最近の東京の水道水は、きれいになっただけでなく、酒造りにおいても有利なんですって。水質は、酒どころである京都・伏見に近い中軟水で、まろやかで芳醇な酒が醸せるらしい。

さらに、ここはレストランやホテルも多い一大消費地。搾りたて・造りたてのお酒を、スピーディーに届けられるという利点もあります。こちらのお酒は、都内の名だたるレストランやホテルなどで好評を得ているそうです。ただし、どんなに人気が出ても大量生産は行うことはありません。

四季折々に味が変わる日本酒「江戸開城」

歴史をざっくりおさらいしましょう。

「東京港醸造」のはじまりは、江戸時代までさかのぼります。文化9年(1812)、東京・芝で創業した「若松屋」という造り酒屋がその前身。当時は薩摩藩の御用商人であり、西郷隆盛や勝海舟などの幕末の偉人が訪れ、造り酒屋の奥座敷では彼らの密談が行われたという逸話が残っています。「若松屋」は明治43年(1910)に廃業してしまいましたが、その約100年後の2011年に、7代目が地域の活性化を目指し、今のスタイルでの酒造りを復活させました。

現在は、純米吟醸や純米大吟醸などの清酒のほか、どぶろくや甘酒なども製造しています。

特に、「江戸開城」は看板商品。日々変化し続ける東京をイメージし、タンクごとに酵母やアルコール度数を変えるなどして、多様なお酒を造っています。

一般的に、酒造りにおいては、寒い冬に仕込みをする「寒仕込み(寒造り)」が主流ですが、「東京港醸造」では、通年で醸造をしています。春の訪れを祝う「春酒」、きりっと冷やしていただきたい「夏酒」、実りの季節を感じる「秋酒」、温かい料理と合わせたい「冬酒」など、四季ごとに新商品を続々と送り出しています。

2019年も残暑が続きましたが、「秋酒」は暦に先駆けて8月の末に販売。すると、待ってましたとばかりにファンが買い求め、10月上旬にはすでに品薄になってしまったそうです。1階の売店でようすを見ていると、ギフト用に買って行くお客さんが続々。確かに、「これ、港区の地酒なんですよ」と言って手渡すと、話が盛り上がりそうですね。話題性は十分だし、ラベルのデザインも都会的で贈り物にもぴったり。

味のほうも申し分なし。今年の秋酒は、第一弾は雄町米、第二弾は山田錦と2種類の酒米を使用し、味のほうも満足の行くものだったそう。山田錦はリンゴ酸酵母仕込みで醸したことで爽やかな酸味を実現できたと、スタッフのみなさんは嬉しそうです。

夜はお楽しみの…角打ちコーナーが出現!

このように、ユニークな酒造りを行う「東京港醸造」。酒蔵に併設する角打ちコーナーにて、立ち飲みでいただけます。夜になると「テイスティングカー」(クルマを改造したもの)が現れ、できたてのお酒を1杯350円(税込)にて提供しているのです。

グラスは、スパークリングワインに使うフルート型。飲み口は薄く、きゅっとすぼまった形のため、香りがダイレクトにやってきます。メニュー表に書かれた「TS」からはじまる数字はタンクの番号。タンクごとに異なる味を飲み比べできるという、粋なテイスティングが楽しめます。

チェイサーは仕込み水。いわゆる、東京の水道水というモノです。冷やすと…普通においしい!

18時の営業開始早々、家族連れがやってきました。聞くと、港区で工務店を営む仲良しファミリーでした。

「念願が叶ってやっと来ることができました。地元の港区でお酒が造られているなんて誇らしいような気持ちです。お酒も飲みやすくておいしいです」と、マダム。次々と新しい銘柄にチャレンジしています。私も、ご相伴にあずかり、おつまみ(近所の居酒屋から出前可!)をひと口味見させてもらいました。

おいしいお酒が造られて、気取らず楽しい人たちが集う…これも、大都会・港区の素顔かな。

◆東京港醸造

東京都港区芝4-7-10
営業時間 売店:11時~19時(土曜17時)、角打ち:平日18時~21時、土曜13時~19時
定休日 日・祝日 ※雨の日などは休みのことも
公式サイト