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2019.10.29

東京中目黒「郷さくら美術館」は1年中桜が楽しめる穴場アートスポット!

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800本もの桜が両岸を包むように咲く、都内屈指の桜の名所目黒川。そのほとりに“一年中満開の桜が楽しめる”美術館があるのをご存知でしょうか。心休まる美しい空間、都心の隠れた名所「郷(さと)さくら美術館」をご案内します。

郷さくら美術館とは

個性が光る美術館

現代日本画専門の美術館として、2006年10月に福島県郡山市(現在休館中)、2012年3月に東京都目黒区に誕生した郷さくら美術館。2017年9月には日本を飛び出し、アメリカ・ニューヨークのチェルシーにギャラリーをオープンさせました。郷さくら美術館では、昭和生まれの日本画家およそ300名の作品を収集し、展覧会ごとにテーマを設定した「コレクション展」という形式で収蔵作品を公開しています。800点にもおよぶ収蔵作品のほとんどが、屏風画をはじめとした50号をこえる大作であることも、この美術館の特徴です。

そして、桜を描いた日本画のみを集めた“一年を通して満開の桜を楽しめる”展示室「桜百景」が、多くのファンを魅了しています。

名前に込められた“想い”

ふわりと心を包み込むような「郷さくら」という優しい響き。日本画には故郷を思い出させるような懐かしさや安らぎを感じさせる作品が多いことから“郷”の文字を、また、日本を象徴する桜のように、日本や海外の人々に愛される美術館となることを願い“さくら”の文字が館名につけられました。

日本画の「いま」を伝え「未来」へつなぐ美術館

「日本という国の美しさ、そして日本人の心を描き続けてきた日本画こそ、次の時代に伝えたい」そんな創設者(非公表)の日本画に対する情熱が生み出した郷さくら美術館。

「日本画の良さをもっと知ってもらうためには存命の日本画家の作品をより広めることが重要」という考えのもと、昭和生まれの作家の秀作を集め、東京、さらにニューヨークに展示の拠点をつくりました。

郷さくら美術館が目指していることは、「より多くの人々に現代日本画の魅力に触れて頂く“場”となること」そして、「制作の現場にいる日本画家の支援に繋がる活動」です。理念と挑戦に満ちた美術館は、その活動を通じて、日本画の「いま」を伝え「未来」へつないでいます。

“一年中満開の桜が楽しめる”夢の空間へ

東急東横線・東京メトロ日比谷線「中目黒」駅から歩くこと5分。桜の季節には大勢の花見客で賑わう目黒川のほとりに、シックで美しい佇まいの黒色の建物が姿を現します。小規模ながら意匠性の高いその建物に、道行く人の視線が集まります。

まずは、この桜の紋様に覆われた建物のこと、そして、“一年中満開の桜が楽しめる”展示室「桜百景」と、毎年春に開催される「桜花賞展」について、美術館収蔵の名作とともにご紹介します。

“意志ある” 美しい建物

美術館のファサードに並べられているのは、桜をモチーフにした1100枚の素焼きの有孔タイル。タイルの透かし彫りから、昼間は館内に柔らかい陽の光が差し込み、夜間は館内の灯りが外へこぼれ、夕闇に包まれた中目黒の街に、その姿を美しく浮かび上がらせます。

昼と夜で異なる表情をみせる概観左:自然光によって館内の壁に描かれる桜の紋様 右:街を優しく照らす館内の灯り

実はこの建物、“ストック型社会”の実現を目指し、より容易な解体・新築といった手法を選ばず、様々な法令や制約を粘り強くクリアし、既存の3階建てのオフィスビルをリニューアルしてつくられました。プロジェクトを貫く強い“意志”、環境性と意匠性が高く評価され、2012年度のグッドデザイン賞を受賞しています。

「中目黒は生活に密着した商店街と、目黒川の桜の軸沿いの小規模の目的型店舗群とで構成された、人間の生活感覚と皮膚感覚に近いスケール感を持つ街である。その街の魅力にあった美術館が誕生した。公共的な大規模な美術館ではなく、小規模の個人的な感性を大切にした美術館。そしてそれにふさわしい、既存施設の改修と言う手法で実現された美術館。皮膚に近いスケールと自然の感性を大切にした有孔タイルのファサード。有孔タイルの持つ光と空気の流れを大切にしたデザイン。中目黒は、マチにふさわしいものを手に入れた」(2012年度グッドデザイン審査員講評から)

知恵と工夫で「人と街と社会に寄り添う建築」を実現した “意志ある” 美しい建物も、郷さくら美術館の見どころのひとつです。

“一年中満開の桜が楽しめる”「桜百景」

エントランスを抜けて柔らかな自然光が差し込む階段を上がり、“一年を通じて満開の桜を日本画で楽しめる”展示室「桜百景」へ。足を踏み入れると、そこには大画面に咲く桜に包まれた夢の空間が広がっていました。

春、夏、秋、冬と季節にあわせた“お花見”が楽しめる「桜百景」。取材で美術館を訪れたのは十五夜もちかい秋のこと。「桜百景」では“月と桜”をテーマにした幻想的な世界が来館者を迎えていました。

郷さくら美術館の発祥の地・福島県には、天然記念物に指定されている樹齢1000年を超える三春の瀧桜や、名木の一本桜、桜並木など桜の名所が数多くあります。美術館には、福島の桜をはじめ日本中の桜の名所・名木を描いた作品が約300点収蔵されています(2019年現在)。

佐藤晨(さとうしん) 「宵桜」 2008年 1740×3560

収蔵作品の中には、桜や牡丹を「本物より本物らしく描く」ことで有名な花木画の名手・中島千波氏の作品や、仏・ジヴェルニー印象派美術館の「平松礼二・睡蓮の池 モネへのオマージュ」展(2013年)で一躍その名を世界に広めた平松礼二氏の作品をはじめ、現代日本画の名作が数多く含まれます。

中島千波(なかじまちなみ) 「春夜三春の瀧櫻」 1998年 1715×3520
作品のモチーフは、名木として多くの作家が取材で訪れる福島県三春の瀧桜

平松礼二(ひらまつれいじ) 「遊鯉図」 2011年 794×1160
“時代を超えたモネとの競演“で一躍世界にその名を広めた平松礼二氏。琳派に通じる華やかさとデザイン性、日本画の画材を活かした艶やかな色彩美が魅力

平松礼二(ひらまつれいじ) 「富士と桜図」 2005年 803×1167

鈴木紀和子(すずききわこ) 「誘い」 2013年 1098×1598
モチーフは作家が長年描き続けている埼玉県長瀞町法善寺にある樹齢100年のしだれ桜。細い枝先から豊かに満ちあふれる生命の息吹が描かれ、画面いっぱいに春の歓びが表現されている

栗原幸彦(くりはらゆきひこ) 「春宵瀧桜」 1993年 1795×3600
福島県三春の瀧桜を描いたもの。モチーフの名木は多くの作家が描いており、各々の個性や特徴、解釈などを比較するのも楽しい

伊達良(だてりょう) 「さくら川」 2013年 1435×960
美術館近くの目黒川の桜を描いたもの。水面の淡い輝きと、そこに重なるように描かれた桜の連なりが美しい作品

新しい才能を見つけ、育てる「桜花賞展」

戸外の桜が美しい見頃をむかえる春。郷さくら美術館でも、新しく誕生した画上の桜が一斉に開花します。美術館開館一周年にあたる2013年から開催されている「桜花賞展」では、毎年若い作家による桜をテーマにした日本画のコンペティション形式の展覧会が開かれ、“目黒川のもうひとつのお花見”として人気を集めています。

「桜花賞展」では、各方面より推薦された30人の若手作家に、“桜”を題材とした“未発表の50から80号サイズの日本画”の出品を依頼し、桜花賞大賞1名、優秀賞1名、館長賞1名、奨励賞該当者を選考します。そして、出品作品すべてを美術館が“買い上げ・収蔵・展示”するという、これからの日本画壇を担う新しい才能の発掘・育成の手助けを目的とした、郷さくら美術館ならではの展覧会です。

<第7回桜花賞・大賞> 加藤清香(かとうさやか)「名もなき花」2018年 80号

今年度の大賞受賞作品。自宅近くの雑木林で出会った桜を描いたもの。「決して良い環境とはいえないなかでも、粛々と根を地に這わせ、枝を精一杯広げ、厳しい寒さを耐え、春には美しい花を咲かせました。名のある桜とは華やかさも刻んだ歴史も比べ物にならないかもしれないけど、ただただ懸命に生きる姿は尊く、逞しさを感じました。(第7回桜花賞展図録より)」

<第7回桜花賞・優秀賞> 中内共路(なかうちともみち)「明日への道」2018年 80号

<第7回桜花賞・館長賞> 前田恭子(まえだきょうこ)「華しだれ」2018年 80号

<第7回桜花賞・奨励賞> 高宮城延枝(たかみやぎのぶえ)「春の辺り」2018年 80号

<第7回桜花賞・奨励賞> 佐藤果林(さとうかりん)「その花」2018年 80号

<第7回桜花賞・奨励賞> 島本純江(しまもとすみえ)「桜舞」2018年 80号

<第7回桜花賞・奨励賞> 河本真里(かわもとまり) 「春の色」 2018年 80号

<第7回桜花賞・奨励賞> 名古屋剛志(なごやたかし) 「月華」 2018年 80号

「桜花賞展」では、会期中に来館者による「人気作品投票」も行われ、まさにお祭りのような賑わい。投票結果はインターネット上で発表されます。(最新の桜花賞展の人気作品投票結果はこちら

目黒川が美しい桜色に染まる頃、「今年はどんな作家の、どんな桜に出合えるだろう」そんな期待を胸に、ぜひ「桜花賞展」にも足を運んでみてください。

充実の内容の「コレクション展」

テーマに合わせて収蔵作品を公開

桜画のみを集めた展示室「桜百景」とは別に、年4回開催される「コレクション展」。趣向を凝らしたテーマのもと、毎回見応えのある収蔵作品が公開されます。これまでに開催された「コレクション展」の中から、人気の高かった作品をいくつかご紹介します。

松村公嗣 「舟唄」 2007年 (日本画「青・蒼・碧」展より)
ベニスの美しい朝の情景を描いた作品。 ゴンドリエーレが漕ぐ舟の周りに、朝日によって輝く水面が白色や水色など様々な色で描かれている

小泉智英 「初夏の朝」 1992年 (日本画「青・蒼・碧」展より)
京都府の長岡京や、福島県の二本松の風景などから着想を得た作品。手前に見える竹林、中央奥に見える霞む山、蒼蒼と輝く若苗、自然と人の手が入った水田が織りなす初夏の里山の幻想的な風景

中島千波「峻嶺 マッターホルン」 2014年 (「ショートトリップ ―ようこそ避暑地へー」展より)
勢い良く描かれた山の峰が印象的な作品。こちらの世界と向こう側の世界をつなぐものとして雲が存在するように描かれている

現在開催中の展覧会“「空ー模様」日本画展”

9月10日(火)から11月24日(日)まで、“空”をテーマにしたコレクション展「空―模様」日本画展が開催されています。暑さがひと段落して秋の気配を感じ、ふと空を見上げたくなる。そんな季節にぴったりな展覧会です。

「空―模様」日本画展
期間:2019年9月10日(火)~11月24日(日)

ミュージアムショップも“桜”がいっぱい

エントランス近くのミュージアムショップには、桜をモチーフにした一筆箋やクリアファイルなど素敵な文具品や小物がいっぱい。美術館の収蔵作品を集めたオリジナル図録も人気です。

見ているだけで幸せになる桜画100点を収めた『100 VIEWS OF SAKURA』お土産にも喜ばれそう

「桜花賞展」にあわせて販売される桜のお菓子

美術館前のワゴンアイスは種類も豊富(※不定期の出店です)

郷さくら美術館基本情報

住所:東京都目黒区上目黒1-7-13

開館時間:10:00~18:00(最終入館17:30)

休館日:月曜日(祝日・振替休日の場合は翌日・または直後の平日)、年末年始、展示替え期間

観覧料:一般500円 シニア(70歳以上)400円 大学生・高校生 300円 中学生100円 小学生無料(保護者同伴) ※障害者手帳・療育手帳提示の場合、該当料金の半額
※緊急事態宣言の期間中、美術館は臨時休館となります。
詳細は、美術館のHPをご確認ください。
公式webサイト https://www.satosakura.jp/

交通アクセス

東急東横線・東京メトロ日比谷線 中目黒駅正面出口より徒歩5分

書いた人

大学院で西洋史に浸かり、欧米で暮らすも、やっぱりおいしい緑茶とご飯が愛しい。日本の津々浦々を旅して、とことん“和”を楽しむのが夢。好きなものは、美術展めぐり、歴史、旅行、睡眠、それから、スピッツと生まれ故郷の長州。