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2019.10.21

天国と地獄を下見できる、富山「まんだら遊苑」徹底ガイド!歴史とアートも紹介

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死ぬ前に一度天国と地獄がどんなところか見てみたい。そんな方におすすめのスポット「まんだら遊苑」が、富山県中新川郡立山町にある。そもそも曼荼羅とは何なのか?なぜ富山に天国と地獄があるのか?そんな疑問だらけのあなたのために、「まんだら遊苑」をガイドしよう。

まんだら遊苑の世界観

そもそも、曼荼羅(まんだら)とは、簡単にいえば、悟りの世界や仏の教えを示した図絵である。その種類は千差万別。そして、立山にも立山信仰の内容を描いた掛け軸式の絵画が残っている。それが「立山曼荼羅」だ。

ちょうど富山市から約30㎞の距離にある立山山麓の芦峅寺(あしくらじ)。歴史的にみれば、古くからこの一帯は立山信仰の拠点だった。現在も、鎌倉時代初期に起源をもつとされる雄山神社、鎌倉時代後期に起源をもつとされる閻魔堂(えんまどう)、うば堂基壇、およそ840基の石仏群が広がっている。そのため、いまだ立山信仰の原風景が残るこの地に、集落丸ごと博物館とする構想が打ち立てられた。その一つとして、平成7年にオープンしたのが、この「まんだら遊苑」だ。

まんだら遊苑の案内板

さて、まんだら遊苑は自然の中にあり、敷地の面積は約4ヘクタールと広大である。というのも、屋内の展示など目や耳を使った知覚だけでなく、立山信仰を五感で感じる野外施設として作られたからだ。設計したのは、東京武道館などを手掛けポストモダンの建築家として知られる六角鬼丈(ろっかくきじょう)氏(享年77歳)だ。

まんだら遊苑の入り口。「地界」から始まる

「立山曼荼羅」が表す立山信仰をベースに、4つのエリアで構成されている。地獄の世界を表現した「地界」、立山登拝路を表現した「陽の道」、立山浄土を表現した「天界」、そして、現世に戻る「闇の道」だ。それでは今から一つずつ、ご案内しよう(なお、苑内での写真撮影は可能)。

鐘をついて始まる「地界」

赤だ。それも、ぐつぐつ煮えたぎるような赤。
大きな鐘を一つ、「ぼーん」とつく。

建物に入る前からずっと声がしていた。人の声ではない。地底から響いてくるような声だ。だから、地獄なのだと予想した。血の池のような感じかと。そして、一歩足を踏み入れた。思いの外、低い声に包まれ、五感が研ぎ澄まされる。そして、予想通りの赤だ。

しかし、血の色というよりは、地底のマグマという感じ。解説をみれば、地表から1万4千㎞の地底にあるとされる「八熱地獄の世界」なのだそうだ。一部をご覧いれよう。

地界の出発点となる『閻魔堂 地獄百景』

地獄の閃光が飛び交う通路である『閻魔堂 音触鬼(おんしょっき)』

この焔魔堂を抜けると、地獄と自然が融合した空間に出る。餓鬼(がき)の住まいと見立てた「餓鬼の針山」、水の汚染に憤怒する鬼の怒りを表した「水泡鬼」(すいほうき)、地獄の蓋を覗きこめる「水窟鬼」(すいくつき)など、様々な展示物がある。ここでは、そのうちの「地唸鬼」(じてんき)と「精霊橋」(せいれいばし)を紹介しよう。

なにやら、意味のある立て札を発見した。「地唸鬼」だ。

『地唸鬼』(じてんき)の前に立てかけてある札

『地唸鬼』 この井戸に向かって叫ぶ

一瞬、自分の罪業を叫ぶのかと焦ったが、そうではなかった。何かしら声を出せばいいといわれても、すぐには出ず、結局迷った末に発した言葉が「こんにちは」。

人間の思い込みとはすごいものだ。叫べばそのまま「こだま」のように、こんにちはと井戸から返って来ると思っていた。しかし、井戸の中を凝視して耳を澄ましていると、全く予想外の左斜め後方の離れたところから、「ごおー」という音が。鬼の声となって反響しながら返ってくるとのこと。

次に、井戸から離れて広場を見渡すと、突き出た長い橋が見えた。

富山の常願寺川へ突き出ている『精霊橋』

足元に目を落とすと、真下に川が流れている。定員が20名と書いてあったが、1人でもなかなか揺れるスリリングな橋だ。橋の先端には鐘がついていて、現世に復帰するための救済の鐘とのこと。ここを最後に、地界が終了する。

「陽の道」で立山の自然を満喫

いったん建物を通って地界を抜けると、急に自然の中に引き戻される。ここは、次の天界へと繋がる立山の自然あふれる道だ。訪れたのは秋だが、春の4月中旬から5月上旬にかけては、水仙などが花開き、自然の音と香りを楽しむことができる。目、耳、鼻、そして心で体感できる空間だ。

「立山登山の道」ルートと「水辺の道」ルートの2つに分かれる陽の道

右手には立山登拝を体験できる「立山登山の道」ルートがあり、左手には水辺を散策できる「水辺の道」ルートがある。途中で、水や鳥、風の音、香りなどを体感することができる。

「天界」で立山曼荼羅の浄土とアートの融合を体感

陽の道を進むと、真正面に見えてくるのが、須弥山(しゅみせん)。

天界の入り口にある須弥山

須弥山とは、仏教の世界観の中にある、中心にそびえる高い山を意味する。このまんだら遊苑にも、須弥山が天界の入り口にある。須弥山を横目にして、階段を下りると、まずは天界窟へとたどり着く。

この天界窟には7つの小部屋があって、1つずつ扉を開けて中に入るシステムだ。7人のアーティストが、それぞれ天界のイメージをオリジナリティ溢れる空間に再現している。アーティストは日本のみならず海外からも参加しており、建築家や彫刻家、カリグラファーなど、様々な分野のアーティストが集結している。一部をご覧頂こう。

『微界音』 米林 雄一(彫刻家・日本)

『天界窟』 トム・ヘネガン(建築家・スペイン)

『天界窟』 エンリック・ミラレス(建築家・スペイン)

どちらかというと、天界は意外性が大きい。

というのも、地界では、地獄をそのまま体感できたからだ。実際にマグマを連想させる赤一色の空間で、鬼たちの低い叫び声に包まれる。これぞ、日本の地獄というイメージそのものだ。その感覚で天界に足を踏み入れると、非常に困惑する。

何だか、急に洗練されている。戸惑いながら、次々と小部屋を開けていく。モダンアートの展示を見ている気分だ。タイトルを読んで、しばし、部屋の中に留まる。1分後。沈黙で小部屋をあとにする。わからない。また次の小部屋をあとにする。やっぱりわからない(※語弊があるといけないので、今の私の語彙力では説明しきれないということ)。

しかし、次第に気持ちに微妙な変化が訪れる。戸惑いから少しずつ好奇心へと変わっていく。

―このアーティストは、どのようなイメージからこの空間を作ったのか?
―なぜ? 一体、なぜなんだ?
なんだか謎解きの気分だ。それは、天界を進むうちにどんどん大きくなる。

天界窟を過ぎれば、奏楽洞(そうがくどう)だ。8種の天の楽器が用意されていて、自由に奏でることができる。

8種の天の楽器が用意されている奏楽洞(そうがくどう)

さらに、次の部屋に進むと巨大な繭のような形をしたオブジェが中央に置かれている。この部屋だけ、宇宙空間を切り取った雰囲気だ。天卵宮(てんらんきゅう)という。

天界・天卵宮(てんらんきゅう)

じつは中に入ることができる。心静かに瞑想することを目的として作られたという。中には漆黒の盆が置かれていて、つるつる滑る。その中で横たわって、しばし心を落ち着かせる。少しずつ色が変わって、かすかに伝わる音の振動が、胎内の記憶を呼び覚ますように設計されている。

天卵宮は静かに瞑想する空間

時間とともに色が変わる天卵宮

さて、天界の最後は、天遊桟敷(てんゆうさじき)だ。

浮遊感を体感できる天遊桟敷(てんゆうさじき)

壁側にある円筒状の筒を覗くと、幾何学的な映像と香りが体験できる。香りはラベンダーなど、それぞれの円筒で種類が異なる。横のネットは天衣に見立てており、歩くと浮遊感を楽しめるという。ただ、大人であれば、自分の体重で足に綱が食い込み青竹踏み状態になるのと、綱が切れないかとひやひやする。再度、靴を履いて外に出ると、ここで天界が終わると知らされる。

「闇の道」を通りもとの世に再生せよ

そして、最初の画像だ。
ようやく、「地界」「陽の道」「天界」を抜けて、再度、「闇の道」まできたというわけだ。

「闇の道」の入り口

そもそも、この闇の道は、立山信仰独特の「布橋灌頂会」(ぬのばしかんじょうえ)をイメージしているという。布橋灌頂会とは、女性の登拝が禁止されていた時代に、女性を救済する儀式として行われていたもの。このうねるような暗いトンネルを通り、天界から現実の世界へと回帰するのだ。実際に中を通り抜けると想像以上に長かった。

ようやく出口から足を一歩踏み出す。目が眩しくてすぐには開けられない。そっと開くと、そこは爽やかな風が吹く立山の自然の中だった。

最後に。
まんだら遊苑のホームページには以下のような解説が掲載されている。

一つ一つ、造形・音・ 光り・香りなどによって置き換え、来訪者の想像力に呼びかけ、感覚的に体感してもらえることを期待したものです

まんだら遊苑の施設管理をされている竹中氏は、こう話す。
「小学生が訪れれば、地獄って怖かったねと感じてもらう。また何年かして訪れてもらって違う感じ方をしてもらう。それを何回か繰り返して大人になった時に、ああ、まんだら遊苑ってこういうものだったのかと理解できる。自分が年を取るとともに、まんだら遊苑の感じ方も変わってくるんです。そうして最後に、まんだら遊苑は一つの芸術作品だとたどり着いてもらえれば…」

様々な口コミで、地獄や天国を体験できるアミューズメントパークとして紹介されていることが多い。確かに、実際に体験もできる。しかし、どちらかというと、それよりも「アート」の色合いが濃いように思う。「一つの芸術作品」という響きがストンと腹に落ち、これまで微妙に感じていた違和感の正体が分かって納得した。

ただ、いうなれば、それも私の感じ方だ。
色んな世代で色んな感じ方ができる、そういう意味では五感に訴える体験型施設ともいえよう。

自分なら…?
想像する前に、まずは体感してみてはいかがだろうか。

写真撮影:O-KENTA

基本情報

施設名:まんだら遊苑
営業時間:AM9:30~PM5:00(入苑はPM4:30まで)
定休日:月曜日(祝日を除く)・祝日の翌日
冬期休苑:12月1日~3月31日まで
電話番号:076-481-1335
備考:年に1回ナイトウォークあり(2019年度は2日間で約2800人参加)
公式webサイト

書いた人

日本各地を移住するフリーライター。教育業界から一転、ライターの道へ。生まれ育った京都を飛び出し、北海道(札幌から車で4時間、冬は-20度)で優游涵泳の境地を楽しむ。その後は富山県、愛知県へと流れつき、馬車馬の如く執筆する日々。戦国史、社寺参詣、職人インタビューが得意。