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Culture
2019.10.31

石川県金沢市「伝統文化ナイトシアター」は夜の観光におすすめの穴場スポット!

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「遠い親戚より近くの他人」
なぜだか、そんな言葉が頭に浮かんだ。どうしてこの言葉なのだろうと、金沢からの帰り道、気になって仕方がなかったが、ようやくパソコンの前に座ったところで、答えを見つけた。

そうか。これは、今の日本人と日本文化の関係なのだと。

日本の伝統文化を知らなすぎる私たち。日本に住みながら、日本文化はいつしか日本人にとって「遠い親戚」となってしまった。反対に、生活の中にある便利な異文化、つまり、「近くの他人」が頼もしく離れがたい存在となっている。

気付くきかっけとなったのが、金沢市が主催する「伝統文化ナイトシアター」。

伝統文化ナイトシアターのポスター

石川・金沢の伝統文化を、約1時間のダイジェストで実際に目の前で披露してくれる観光イベントだ。今年から始まったプログラムだが、9月から12月21日までの毎週木~土曜日夜18:30から3日間連続で行われている。

今回は2019年10月19日(土)に金沢市文化ホールで行われた「伝統文化ナイトシアター」を鑑賞した。その魅力をたっぷりと紹介しよう(※場所は週単位で変更の可能性あり)。

金沢市が日本の伝統文化に本気になる理由とは?

「『昼の観光のコンテンツは充実しているのに、夜の観光は見るところが少ない』との声が多かったんです」

金沢市役所文化政策課に話を伺うと、こんな返答が返ってきた。

金沢にある日本三名園の一つ、兼六園

2015年3月14日に北陸新幹線が開通し、来年の春でちょうど5年。観光に力を入れてきた金沢市が、次の施策と考えたのが「滞在型の観光への転換」だ。新幹線の開通で訪れる人は多くなったが、一方で日帰り客の増加にも懸念があったからだ。

同じ伝統文化を持ち、外国人の観光客も多い京都。かの有名な観光地である祇園で、「ギオンコーナー」という日本の伝統芸能のダイジェスト版舞台が行われているとの情報を得て、昨年に視察に訪れたという。18時と19時の各回200名の定員がほぼ満員になる状況を目の当たりにし、今年、金沢市でも同じスタイルの伝統文化ナイトシアターのスタートに踏み切ったのだ。

本日の会場となる金沢市文化ホール3階大会議室(週単位で場所が決定する)

運営は、一般財団法人石川県芸術文化協会の協力を得て行われている。金沢市文化ホール、しいのき迎賓館、北國新聞交流ホールの3つの会場があり、週単位で場所が決定する。

箏曲といけ花の豪華すぎるコラボレーション

まず始まりは、箏曲(そうきょく)からだ。
箏(こと)は8世紀に大陸から伝来し、雅楽を経て日本独自の演奏楽器の地位を得ている。

石川県箏曲連盟より ※今回は正派邦楽会(せいはほうがくかい)から出演

耳で聴くだけでは分からない。もちろん迫力はあるが、生演奏とはいえ、大きく箏の音色が変わるわけではない。しかし、演奏を初めて間近で見て、思いのほかパワフルだということに驚いた。

箏の音色だけだと「優雅」というイメージを持つ。事実、演奏も「優雅」に粛々と進んでいく。しかし、その優雅の裏には、アスリートのような動きがある。生演奏を近くで見るまで気付かなかったが、何しろ、箏は長いのだ。箏の先まで手を届かすには、腰を浮かして中腰のまま、手を伸ばさねばならない。空気イスと同じ仕組みだ。そのタイミングが定期的にある。多分疲れると思う。しかし、髪を振り乱すことなく、汗を流すことなく、演奏はあくまで「優雅」にだ。

見事な指さばきにも目を奪われた。やはり、生演奏。生で見て初めてわかることもあると実感した。

箏曲の演奏でいけ花を披露

さて、箏の演奏を受けて、舞台中央で行われているのがいけ花だ。
華麗なるコラボレーションである。
いけ花は、仏教と同じころに大陸から伝来し、特に石川県では江戸時代に前田藩の庇護のもと大きく発展。独自の流派も生まれたほどだ。
今回は、数ある流派のうち、池坊からの出演だそうだ。いけ花に限らず、すべての演目で、どの流派が来られるかは分からない。その都度、決められる。

石川県いけ花文化協会より ※今回は池坊(いけのぼう)から出演

持ち時間は7分。この間に、花をいけなければならない。紅葉、菊、そして赤い花がケイトウ。鳥のトサカのような形状をしていることから鶏頭(けいとう)という和名がついている。迷いなく、スッと花を挿す潔さが印象的だった。

完成したいけ花の自由花

今回のいけ花は「自由花」。決まった型がなく、草木の形状や質感をみながら自由にいけることができる。話を伺ったところ、花器(かき)を少し派手めにしてバランスを取ったという。

民謡は「日本古来の民衆の歌」に納得

次に民謡の演目となる。民謡は日本古来の民衆の唄として知られ、労働歌、舟唄、豊作の祝唄など多くの種類がある。一般的には、三味線(しゃみせん)や、尺八(しゃくはち)、胡弓(こきゅう)などの伴奏がつく。今回は、三味線と太鼓とともに民謡が披露された。

石川県民謡協会より ※今回は兼六民謡会(けんろくみんようかい)から出演

なんといっても、民謡は「うねり」が独特だ。少しずつ音量が大きくなり腹に響くような力強い声となる。笑顔で歌いながらのあの声量。やはり、民謡は日本人の魂に直接語りかけるような気がしてならない。

今回、披露されたのは、石川県山中温泉地方で親しまれている「山中節」、金沢市北部森本地区に伝承されている盆踊り唄の「森本はいやさんかさ」、金沢市二俣町に伝わる「二俣いやさか踊り」の三曲だ。
しっとりしたものから、会場内に手拍子が響くテンポがよいものまでと、存分に民謡を楽しむことができた。

身体に刻まれる和太鼓のリズム

箏曲や民謡は耳で、いけ花は目で楽しむものだが、次の演目である和太鼓は、その両方を楽しめるものといえる。

石川県太鼓連盟より ※今回は輪島高洲太鼓(わじまこうしゅうたいこ)から出演

和太鼓は二千年以上の歴史を持つ、日本で最も古い楽器といわれている。もともと、音楽というよりは、遠方への合図の道具など、生活における必要なツールであったが、時代とともに楽器としての立ち位置を確立していく。江戸時代には、歌舞伎での重要な楽器となるほどだ。

今回は能登輪島から「高洲太鼓(こうしゅうたいこ)」の皆さんが出演された。小学校3年生から高校3年生までの8人が元気のある和太鼓を披露してくれた。もとは、日本遺産に認定されている「輪島大祭(わじまたいさい)」でキリコの巡行のお囃子(はやし)として始めた和太鼓だそうだが、こうして祭りの時期以外も活動しているという。

和太鼓の力強いリズムもそうだが、仲間に送る掛け声もよい。時折、バチをくるっと回したり、足を高く上げたりと、パフォーマンスも一見の価値がある。そして、特筆すべきは、子どもたちのいきいきとした表情だ。久しぶりにこちらも清々しい気持ちになることができた。元気をもらえる演奏だ。

目力で会場を惹きつける剣詩舞

さて、中盤を過ぎて残るはあと2つの演目だ。どちらも会場のアナウンスでは、英語で「Dance(ダンス)」と説明されている。

じつは私、恥ずかしながら、この伝統文化ナイトシアターを見るまでは、この「吟剣詩舞道(ぎんけんしぶどう)」を知らなかった。吟剣詩舞道とは、詩歌に節をつけて朗詠する吟詠(ぎんえい)にあわせて、袴(はかま)を来て舞う剣詩舞の総称だ。なお、剣舞とは刀を持って舞い、詩舞とは扇を持って舞うことをいう。

石川県吟剣詩舞道総連盟より ※今回は渋川流剣詩舞道(しぶかわりゅうけんしぶどう)から出演

こういうのを「目が離せない」というのだろうなと、改めて納得する。滑り出しから音も立てずに、すり足でムーンウォークのように登場するやいなや、この目力である。もう、呼吸するのも忘れるほど目を奪われる。一挙手一投足キレがあって、次はどのような動きかとワクワクする。

石川県吟剣詩舞道総連盟より ※今回は渋川流剣詩舞道(しぶかわりゅうけんしぶどう)から出演

日本の伝統文化とは、不思議なものだ。吟詠の意味も正直分からないが、「決闘の最中だ」「なんか切迫している状況だ」と本能で分かる。人間一人が刀や扇を持って舞う。非常にシンプルなのに、舞いの背景が勝手に浮かび上がって、ダイナミックな映像となる。会場内の外国人も固唾をのんで魅入っていた。

ため息が出る艶やかな金沢芸妓の舞

さて、同じダンスでも、こうも違うとは、日本の伝統文化の幅広さには驚かされる。
ラストを飾るのは、芸妓衆の舞だ。

石川県三茶屋街より ひがしの芸妓衆のお二人

なぜだか、会場内の写真撮影の音が一段と多くなったような気がする。それもそのはず。私もついスマホで収めてしまった。何とも艶やかな、金沢芸妓の舞である。じつは金沢には三つの茶屋街があり、二百年余りの歴史があるという。現在、三茶屋街には50人ほどの芸妓がいて、「おもてなしの心」を伝えているとのこと。

目線一つ、首の傾き一つで表現するとは恐れ入った。
ほんの僅かな動きにも感情が読み取れる、人の仕草とはこうも雄弁なのかと、改めて奥深さを思い知った。と同時に、我が振り直せと、自身の立ち居振る舞いを猛省した。

さて、鑑賞後の感想はというと。大満足の一言。
「ワンコイン(500円)で、こんなにたくさんの伝統文化を生で見れるなんて、お得」と、地元金沢市内からも70代の夫婦が来られていた。
本当にその通りだ。ダイジェストながらも、ホンモノの石川・金沢の伝統文化に触れる機会はそうそうない。

ちなみに、今年度は3ヶ月で48回の公演を予定している。それも12月21日で終了する。来年に関しては、今年の結果を踏まえて、時期なども含めて検討するとのこと。幸いにして、今年はまだ鑑賞する機会はある。

「血は水よりも濃し」
最終的に、日本人の心を掴むのは、やはり日本の伝統文化なのだ。

撮影:O-KENTA

基本情報

イベント名:伝統文化ナイトシアター
日時:毎週木、金、土曜日の18:30開演(19:30終演予定)
電話番号:076-263-6080(お問合せは平日10:00~18:00のみ)
公式webサイト:https://k-traditional-cultures.jp/

書いた人

日本各地を移住するフリーライター。教育業界から一転、ライターの道へ。生まれ育った京都を飛び出し、北海道(札幌から車で4時間、冬は-20度)で優游涵泳の境地を楽しむ。その後は富山県、愛知県へと流れつき、馬車馬の如く執筆する日々。戦国史、社寺参詣、職人インタビューが得意。