Culture
2019.11.13

在来種の楽園をつくる?都会のかいぼり、理想と現実

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井の頭公園の池で、いわゆる「池の水全部抜きます」を行った結果、水の透明度とともに60年ぶりに絶滅危惧種の水草が復活したそう。水を抜いて池をきれいにすることを「かいぼり」といい、都立公園ではボランティアとして参加できるんですよ。

私もボランティアに参加すべく、4時間の座学に参加し、池に出向いて泥にまみれかいぼりをしてきました。来年こそ参加したいという方に役立つ情報と、都会の生態保全の最新情報をお届けします!

井の頭公園に「モネの池」が出現!

現在、東京都内には82の都立公園と9の庭園があり、池は100ほど(2018年東京都調べ)。最近、「モネの絵画のように美しい」と井の頭公園の池が話題になりましたが、実は井の頭公園だけでなく、ほかの池も続々と美しく変身しつつあるのです。

以前は水が濁っていた井の頭公園の池ですが、今は見事に透明度が回復しています。こうなるまでに、5年で3回の「かいぼり」が行われました。かいぼりとは、日本で昔から行われてきた農業用ため池の管理方法。「池干し」とも言います。稲作が終わった秋から早春に、池から水を抜いて泥を取り除き、底を空気にさらすことで正常な状態に戻すいわば“デトックス”のような作業です。

ただし、こうした活動はすぐ結果が出るものではありません。井の頭公園では、かいぼりによって池が一気に透明になって生態系が回復したかのように言われていますが、以前から自治体やさまざまな団体の働きがあってのこと。2019年に大きな話題となったのは、地道にかいぼりなどの保護活動を行ってきた結果なのです。

都会の「かいぼり」、理想と現実

農村のかいぼりは、農業用水を管理するために集落総出で行われますが、都会の公園では外来種駆除が主な目的。主に10月以降に排水を行うのは、魚たちの産卵の時期を避けるため。ただし、花見シーズンに池が枯れていると景観的に寂しいので、3月までに水を溜めなければならないのは都会ならではの苦労です。

さて、外来種駆除といっても、現状はシリアス。都会の池には、もともと住んでいた在来種と、人間がほかの地域から持ち込んだ外来種がいます。

外来種の何が問題かといえば、在来種を食べて激減させてしまう、外来種と在来種とで繁殖するとその地域の遺伝子をかく乱してしまうなど。池の人気者だったコイは池底の泥を巻き上げて水質を悪化させる、アメリカザリガニは水草を刈り取ってしまうなどと指摘されています。おなじみのコイや子どもに人気のアメリカザリガニも外来種。駆除の対象です。

池の水を抜いてまた水を戻すまでに外来種は処分され、在来種だけがきれいな水と一緒に池に戻されます。同じ生き物なのに残酷だと思いませんか。また、都市公園の池は人工的に造られたものもあるため「どこまで手を入れ管理していくのか」、人工的に造られた池で「何を在来種、何を外来種とするのか」という難しい問題があります。

講習会に参加しいざ、かいぼりへ

最近、テレビで「池の水を抜きます!」のような番組が人気です。広く知られるきっかけになったのはいいことですが、「池の底から恐ろしい外来魚が!」などという大げさな見せ方は誤解につながりかねません。

尊い生き物の命を扱う以上、考えるべきことはたくさん。そのため、かいぼりボランティアに参加するためには、事前講習会(2019年はなんと4時間!)が必須となります。2019年は、9月2日にボランティアの募集がはじまり、事前講習会が5回実施されました(募集締め切りは9月27日)。

一度講習会に出たら、その年のかいぼりボランティアなら、どこでも何度でも参加してもよいというシステム。2019年は、ボランティアを募集しはじめて2年めとなり、「2年連続で参加する予定」「今年も複数の池でかいぼりをしたい」などという頼もしい方々もいました。

ちなみに、かいぼりは実に地道な作業の連続。事前に生物・水質調査を行ってから、

①排水⇒②生物の捕獲⇒③生物の仕分け⇒④生物の運搬⇒⑤生物の飼養⇒⑥復水⇒⑦生物を池に戻す

が全行程。その後も定期的にモニタリングするなどして、復元状況を確認していきます。ボランティアは、②生物の捕獲の工程をお手伝いしている程度なのです。とはいえ、これがもっとも楽しいところなわけですが。

猿江恩賜公園をかいぼりしてきた!

2019年は、猿江恩賜公園、水元公園、光が丘公園、府中の森公園、小山田緑地、野川公園、武蔵野の森公園、神代植物公園で、かいぼりボランティアの募集を実施。私は、今年初となる猿江恩賜公園の会に参加してきました。

当日は9時からスタート。到着すると池のほとりにメインのテントと着替え用テント(男女別で中にスタッフが常駐)が設営され、すでにボランティアも運営スタッフも準備万端。また、どこから噂を聞きつけたのか、見物客もたくさん集まってきました。池の水を抜き魚が取りやすくなっているため、魚を狙う鳥も多数やってきて、さらにそれを狙う野鳥カメラマンもスタンバイ!

用意された胴長(胸元までのゴム製防水ブーツ)を着て、なんとなく誇らしいような気分になったら、どろどろの池に入って魚を掬います。

少ない水の中では逃げ場もないため、魚の姿が見やすく意外とザクザク獲れる。ウシガエル(特定外来生物)も、カエルになったら無理ですが、陸に上がる前のしっぽがある状態なら捕獲しやすい! 獲った生物はプロがどんどん鑑定していきます。

網を動かし魚を狙ううちに、太古の昔に置き忘れてきた狩猟本能がよみがえってくるよう。次第にみんなの目がキラキラと輝いてきました。

マイ網を持ってきた子どももいましたが、残念ながら飛び入り参加はできません。参加資格は「高校生以上」「事前講習会に参加していること」の2点。池に入れないのは残念ですが、「こうして興味を持ってもらうのはいいことだと思っています。それに、あの子たちも数年すれば立派な戦力!」と、大人は将来の君たちに大きな期待を寄せているんだよ。

かいぼりボランティアの日は、捕獲した生き物展示も行われます。都会の子どもたちが好奇心丸出しの目で押し寄せてきます。「外来種って何?」「このカメはかみつくの?」などといった素朴な疑問を投げかけ、スタッフが一生懸命解説をするのも実にいい光景。

特に子どもは、メカっぽくてかっこいいアメリカザリガニに目が釘付け。「どうせ駆除するなら、子どもたちに飼ってもらうのはどうでしょう?」とたずねたところ、答えはNO。

「病気になったり、死んだりしたときの問題がクリアできません。学校から『池を干している期間だけ預かりたい』というお申し出をいただくこともありますが、まだ実行はできていません。また、飼育できなくなった場合に野外に放流することを防止する目的もあります」と担当者。厳格な運用ですが、本当はみんな生き物や自然が大好きないい人たち。もっと社会的関心が高まり、みんなが身近な環境を大切にすることで自然の浄化能力がよみがえり、外来種駆除なんてしなくともいい世界が訪れますように。

次はあなたが生物の楽園を作る番!

2019年のボランティア募集は締め切りですが、希少なイベントなので、興味があればぜひ当日見学へどうぞ。今年の実施予定は以下の通り。

【実施される公園】
11/2(土) 猿江恩賜公園(上池、下池)
11/4(月・祝) 水元公園(睡蓮池)
11/17(日) 水元公園(散策池)
11/24(日) 光が丘公園(バードサンクチュアリ池)
12/1(日) 府中の森公園(庭園東、庭園西)
12/7(土) 小山田緑地(上池、下池)
12/8(日) 野川公園(ひょうたん池、かがみ池)
12/14(土) 武蔵野の森公園(修景池)
12/21(土) 神代植物園(水生植物園池)

また、2020年も募集を実施(時期は未定)するはずなので、ツイッターアカウント(都立公園の池かいぼり情報 @Parkskaibori)のフォローをおすすめします。胴長を着て魚を追い、生き物の楽園をみんなで作りましょう!