Culture
2019.11.16

紅白のふわふわしたライオンの正体は「連獅子」!おすすめ漫画とともに解説

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ラグビーワールドカップが史上初のベスト8を成し遂げた10月。マスコットの「レンジー」も大活躍でした。また、開会式には「ノーサイド・ゲーム」に出演していた歌舞伎役者である市川右團次さん・右近さん親子が登場。レンジーのモチーフである歌舞伎舞踊「連獅子」が東京スタジアムで演じられました。こちらも世界中で話題に!ラグビーの熱狂とともに、長いフワフワの毛を持つ赤と白の獅子が日本列島を駆け巡りました。

11月は本家本元、歌舞伎座で「連獅子」が上演中!「吉例顔見世歌舞伎」夜の部では、松本幸四郎さん・市川染五郎さんによる、高麗屋二代での連獅子。また、2020年1月「壽 初春大歌舞伎」夜の部で市川猿之助さん、市川團子さんによる「連獅子」がかかると発表されました。歌舞伎のお正月と言われる11月(吉例=きちれいとはめでたいならわしのこと)、そしておめでたい新春を飾るのにふさわしい、華やかな演目ですよ。

よく見かけはしたけど、結局あの二匹ってライオンなの?人なの?どんな演目?と思われた方に、今回は「連獅子」をご紹介します!

吉例顔見世歌舞伎に登場!「赤と白」連獅子のあらすじ

狂言師二人が手獅子を持って登場

「連獅子」は親子の獅子を題材にしています。松羽目物(まつばめもの)と呼ばれる、能・狂言を原作にした演目のひとつ。能舞台を真似て、舞台奥に必ず松の木が描かれているのが特徴です。元々は「石橋」(しゃっきょう)という能。

獅子は子を谷に突き落とすという言い伝えを基に、親子の情愛が描かれます。実際に親子で演じられることも多く、父と子で芸をつないでいく歌舞伎ならではの楽しみ方ができると、長く愛されてきました。毛を大きく振り回す「毛振り」がみどころの舞踊劇です!

『それ牡丹は百花の王にして 獅子は百獣の王とかや……』華やかな言葉で始まり、白い手獅子(手持ちの獅子)を持った狂言師右近と、赤の手獅子を持った狂言師左近が登場します。左近が「子」、前髪があるのは若さのしるしです。ちなみに後半、「獅子の精」になったときも、赤い獅子の精を左近が演じ、こちらが「子」に当たります。
この連獅子は基本的には父と子の二人ですが、数が変動することもあります。2007年の公演では十八世中村勘三郎さんが親獅子、勘九郎・七之助兄弟が子獅子の、三人の連獅子が踊られました。

右近と左近は文殊菩薩の霊山・清涼山にかかる「石橋」を踊りで描き出します。この石橋は神仏の力で生み出された橋。そこで獅子が牡丹とたわむれています。獅子は文殊菩薩が乗っている像が残っていたり、文殊菩薩が座る台座と共に描かれていたりすることが多いのだとか。

さて、「獅子の子落とし」の伝説の通りに、親獅子は子を谷底へと突き落とします。子は懸命に登ろうとしますが、また突き落とされてしまう。二度目には嵐のために爪が立てられず、子獅子は木陰で休むことにしました。

登ってこない子獅子が心配な親獅子。谷底をのぞき込むと、水面に映るお互いの姿が見えます。歓喜を持って花道から本舞台へ、谷底から駆け上がる子獅子。迎える親獅子と感動の再会です。
手獅子と共に蝶々を追いかけ、狂言師は花道から引っ込みます。

僧によるラップバトル!?間狂言の一コマ

ここから「間狂言」(あいきょうげん)が行われます。こちらも能の言葉で、前半が終わった中入りにある演目のこと。転じて、歌舞伎や浄瑠璃では、踊りの合間に演じられる軽い出し物のことを指します。
現れたのは二人の僧。それぞれ、法華宗と浄土宗。お互いの宗派を知らないまま、ともに清涼山を登りはじめます。最初こそ和やかな二人でしたが、お互いの宗旨を知ると、どちらが優れているかの言い合いに発展。「法華経」の功徳は素晴らしい、「念仏」の御利益こそありがたいものと、それぞれの主張を身振り手振りで語ります。
さらに、法華宗の僧が団扇太鼓(薄い太鼓)を叩いてお題目「南無妙法蓮華経」を唱えはじめると、浄土宗の僧は叩き鉦(たたきかね)を打ち、念仏「南無阿弥陀仏」を唱えるというバトルに……。繰り返し言い合ううちに、いつしか、題目と念仏が取り違ってしまいます。
そのうち、嵐になり、僧たちは慌てて逃げていったところで間狂言は終了です。

連獅子登場!「後シテ」

大薩摩(浄瑠璃の一派)が石橋の様子を語ると、いよいよおなじみの姿に変わった獅子の精の登場です。この場面は能にならって「後シテ」(のちして)と呼ばれています。
牡丹の花を嗅いだ獅子の精は、段々と「狂い」と言う激しい振りを舞います。牡丹の枝を手にし、牡丹の花の様子や、それを嗅ぐ獅子を描写し、最大の見せ場、勇壮な「毛振り」へ。
親子の息がぴったりあった豪快で華やかな毛振り。最後に見得を決め、幕となります。

「ぴんとこな」14巻~16巻はまだぴんとこない人にもおすすめ

(C)「ぴんとこな」嶋木あこ/小学館

「連獅子」って面白そう!でももっとわかりやすく知りたい……という方には「ぴんとこな」(嶋木あこ著・小学館Cheese!コミックス)がおすすすめ。2009~年から2015年まで連載していた歌舞伎役者の高校生たちを題材にした恋愛漫画です。全16巻。
名門に産まれたちょっとおバカな御曹司・恭之助と、部屋子ながら踊りの名手としてその実力を評価されている一弥(女形)。ひょんなことからであった二人は、反発しあいながらも共に歌舞伎役者として切磋琢磨していきます。コミカルながら歌舞伎の演目と主人公・恭之助の成長をリンクさせた作品はロングヒットし、2013年にドラマ化。第57回小学館漫画賞(少女向け漫画部門)も受賞しています。
「野崎村」「女殺油地獄」など、歌舞伎のストーリーがわかりやすく説明され、拵えや髪型、登場する台詞も忠実なので、歌舞伎を観に行ったときに「あっ」と感じるはず!

(C)「ぴんとこな」嶋木あこ/小学館

「連獅子」はクライマックスにあたる14巻から登場。恭之助の父親・世左衛門が病に倒れて入院してしまいます。自身も父親を早くに亡くした世左衛門。まだ若いというより幼さの残る恭之助を不安に思いますが、残された時間はあとわずか……。「連獅子」に出てくる、獅子の親子関係が恭之助たちと重なります。子獅子のように何度も落ち込んではなんとか這い上がってきた恭之助は、父の芸を、名を継ぐのは自分しかいないというプレッシャーに打ち勝てるのか、そのとき一弥はどう思うのか――。

(C)「ぴんとこな」嶋木あこ/小学館

獅子はなぜ子を突き落とすのか?それは子獅子が自分で這い上がれることを信じているから、という説があります。落ち込み、悩み、苦しみながらも這い上がる恭之助。

実は1巻当初で恭之助は「御曹司」である自分にあぐらをかき、歌舞伎をマジメにはやっていないのですが、巻数を重ねるごとに成長していきます。
最後に恭之助が何を言うのか。「連獅子」という作品の奥深さを感じられるクライマックスは必見です!

「ぴんとこな」第一話試し読み公開中&電子書籍販売中!

第一話の試し読みが公開中です。「最初の恭之助」を味わってから「連獅子」のくだりを読むと泣けますよ……!

「獅子の精」が教えてくれること

「連獅子」に、実際の獅子は実は出てきません。冒頭は狂言師が操る「手獅子」ですし、後半もあくまで「獅子の精」。文殊菩薩のお膝元で繰り広げられる、現実離れした美しさと力強さとは裏腹に、「親子」という誰もが身近に感じるテーマを含んでいる。そのほんの少しの身近さが、「連獅子」が長く愛されてきた人気演目たる理由のような気がします。
ちなみに、歌舞伎特有「家の型」もさまざまです。11月高麗屋の型と、1月澤瀉屋の型とは細かな違いがあります。見比べる楽しみも歌舞伎の面白さですよ!

大薩摩をはじめとした演奏や、ダイナミックな振り、そして「毛振り」。テレビや写真ではわからないその迫力を、体験するには今がチャンスです!