Culture
2019.12.26

武士はバタバタ、商人はぐうぐう、江戸時代の元日。初詣2022は現代も楽しい七福神参りで!

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初詣とともに、七福ご利益をいただける「七福神参り」を一緒にいかがでしょうか。新たな年が楽しくなる「江戸ごよみ、東京ぶらり睦月」をお届けします。

江戸ごよみ東京ぶらり 睦月候

“江戸”という切り口で東京という街をめぐる『江戸ごよみ、東京ぶらり』。江戸時代から脈々と続いてきた老舗や社寺仏閣、行事や文化など、いまの暦にあわせた江戸―東京案内。
新たな年を迎える1月。一日違えば大違い江戸の大晦日や新年事情、そして今も続く楽しい新年のご利益参り「七福神巡り」のお話しを。新たな年の東京ぶらりをご案内します。

金の工面に四苦八苦は江戸の歳末風物詩

仕事を終え年末年始休暇を堪能派はもちろん、年末年始も普段通りに働く派であっても、年末から新年にかけてはいつもとは違う特別な時間ではないでしょうか。友人や家族と大晦日の深夜から初詣に出掛けて、初日の出を見て帰ることを恒例行事にしているひとも多いことでしょう。

「江戸名所 洲崎はつ日の出」歌川広重/国会図書館デジタルコレクション

さて江戸の大晦日から元日はどうだったのでしょうか。新年の支度をすべて終えた大晦日、初日の出を見る前にまだまだ駆け引きがありました。それは「掛け取り」。現代の買い物は、現金払い(いやクレカ?電子マネー?)が主流ですが、江戸の支払いは基本的にツケ払い。盆暮勘定と言いますが、大きくは半期に一度お取立て。なかでも暮れの勘定は、必ず支払ってもらわねばならない一年の総決算でした。

古典落語『文七元結(ぶんひちもっとい)』は、年末の支払いのために娘を吉原に五十両であずけた父親が、橋のたもとで身投げしようとしている男の事情を聴き、思わず50両をポンと渡してしまって……というお話し。そんな風に大晦日の朝から借金を取りに、または返す金の工面にと、人びとは走り回っていたようです。江戸の川柳に「掛取りも二足三足で春を踏み」とあります。大晦日に何軒かを借金取りに出向いているうちに、ついには新春を迎えてしまったという句。必死な様子がかえっておかしみを誘います。

また暮れに家族で集まり食事をする様子は、江戸のベストセラー作家・滝沢馬琴の日記などにも描かれています。江戸中期以降の風習といわれる、年越しそばを食べたという記述は残念ながらないものの、朝早くからご先祖様や竈の神様にお供えをして、お昼には一家が揃って食事をして晦日を祝ったとあります。日本橋の商家では、大晦日の夜更けまで新年のための道具や日用品を売りまくり、「江戸は晦日まで景気がよい」と作家・井原西鶴も書き残しています。

大晦日からあたふた!年賀登城の武家衆

そして迎えた元日。江戸の町の正月は、武家と商家とでそれは大きく違っていました。武士の都だけに、江戸城への年賀登城はお約束。元日の朝六つ半(7時ごろ)から御三家はじめご一門、譜代大名、諸役人が挨拶に登城します。そして二日・三日は朝五つ時(8時ごろ)から外様大名、諸役人、京坂江戸の大町人などが続々と江戸城へご挨拶に訪れました。

年賀登場でごった返す江戸城付近の光景。『東都歳事記』/国会図書館デジタルコレクション

特に大変だったのが元日に挨拶へと出向く大名家。大晦日のうちから準備を整え、夜が明けきらぬうちにお供を連れだし江戸城へと向かったそうです。また上級旗本はもちろん小者とて同じ。式服での年賀登城からはじまり、関係各所を訪ねて年始回りへ。式服を着用して、江戸中を歩きまわり、年頭のご挨拶を。しかも挨拶すべき本人は、もちろん年始回りに出掛けているため、玄関番や取次の「申し伝えます」との言葉でおしまい。誰トク?な形式美を毎年こなしてきた、武家のお正月でした。

元日はお静かに!寝正月を決めこむ商人

商家の元日は、武家とは違って静かなもの。大晦日に夜通し働いていた人たちは、明け方に近くの寺社仏閣にお詣り出向き、帰ってきて屠蘇酒をのみ雑煮をいただく。その後は、ぐうぐうと寝正月。日本橋の老舗店主に取材をした際、「正月ほどわびしいものはなかった。食べるものはおせちと雑煮だけ。おせちは苦手だったし、子ども心に正月って質素だなと思っていました。今もうちでは元日だけは静かなですよ」と笑いながら話してくれたことがあります。商家の江戸な元日は、まだまだ息づいているようです。

「大江戸年中行事之内 正月二日日本橋初売」/東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

日本橋の魚河岸(*大正12年の関東大震災後に築地に移転)は、初売りが二日。元日の夜には、準備や挨拶まわりで大忙し。二日の朝からは、市場も商店も料理屋も開くため江戸中からひとが押し寄せての大賑わいでした。商家では、二日から年始挨拶まわりに。町人の挨拶まわりは、必ず店や家に招きいれて酒を飲ますのが習慣。番頭さんなどは、これを目当てに挨拶まわりにでかけ10軒まわるはずが2軒でおしまいなんてことも。武家とは違って、千鳥足の楽しげなお年始参りでした。

人々で賑わう正月の日本橋付近。『東都歳事記』/国会図書館デジタルコレクション

初詣とともに福を呼び込む七福神巡り

江戸時代に盛んになった七福神参り。江戸の年中行事を記した天保9(1838)年刊『東都歳事記』にも、一月の行事として七福神参りが記されています。室町中期頃、竹林の七賢にならい、また経典の七難即滅、七福即生に基づいたものともいわれ、人間の七福を七神にあてた民間信仰からはじまったとされています。商売繁盛や五穀豊穣をもたらす恵比寿(えびす)、竈を守る神様で商売繁盛をもたらす大黒天(だいこくてん)、上杉謙信も愛した武神の毘沙門天(びしゃもんてん)、財や富をもたらす女神の弁財天(べんさいてん)、福徳や人徳の神である福禄寿(ふくろくじゅ)、健康や長寿をもたらす寿老人(じゅろうじん)、開運や良縁をもたらす布袋(ほてい)の七柱。

「七福神」(豊原国周)*冒頭画像は一部/東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

東京には七福神をお祀りする寺社仏閣が数多く、いくつもの名物コースがあります。正月松の内は御開帳や特別な御朱印を授けている寺社仏閣が多く、お正月の「七福神参り」はおすすめ。江戸老舗好きな私はしばしば日本橋に出掛けるのですが、この町でも「日本橋七福神巡り」ができます。パワースポットとしても名高い、日本橋七福神の福禄寿をお祀りする小網神社の宮司・服部匡記さんに七福神巡りの魅力などを教えていただきました。

福禄寿が祀られている日本橋小網町の「小網神社」。太田道灌の崇敬も篤く社名も道灌公が名づけけたとも。写真提供/小網神社

「元旦から7日まで行う日本橋七福神。コース内の人形町、堀留町、浜町などは都会のそばにありながらどこか下町風情が漂う町です。お参りしながら下町散策を楽しめるのは魅力のひとつ。すべてが神社というのは珍しいかもしれませんね」と服部さん。由緒ある神社ばかりなので、正月の歴史散策にはぴったり。七福神めぐりの期間のみ授与している「宝船」も人気だそう。

七社で神様を授与いただき宝船へ。神棚がない場合は、リビングなど皆が集まる場所にお飾りするといいそう。写真提供/小網神社

「新たな歳を迎えるお正月。これから一年を幸せに過ごせるように、と誰もが予祝(よしゅく*先を喜び、先を祝うこと)をするのが初参りです。新年を寿ぎながら、七社を巡り多くのご利益を得てください」と服部さん。日本橋からも近く買い物ついでにと人気のある日本橋七福神。小さな神社が多くお参りや御朱印で長時間並ぶこともあるそうです。時間の余裕をもってのんびりと巡って、七福を呼び込みましょう。

小網神社では七福神の絵馬やかわいい「まゆ玉おみくじ」(写真提供/小網神社)も。

おまけ二十四節気、1月は「小寒(しょうかん)」と「大寒(たいかん)」

最後に江戸市民の暮らしに寄り添っていた暦・二十四節気(にじゅうしせっき)についてもご案内を。2022年の睦月、1月の二十四節気は1月5日の「小寒(しょうかん)」と1月20日の「大寒(たいかん)」です。

5日の「小寒」は、一年でもっとも寒さが厳しくなってくるころ。「寒の入り」であり、この日から節分までの期間が「寒の内」です。また20日の「大寒」は、一年でもっとも寒い時期。この時期に仕込む酒や味噌のことを「寒仕込み」と言います。大寒の七十二侯に「鶏始乳(にわとりはじめてとやにつく)」とありますが、鶏が春の陽気を感じたまごを産み始める頃だそう。昔から大寒の卵は栄養価が高いと、「大寒たまご」と呼ばれて人気があったとか。最近では風水の影響で、金運と健康運があがる縁起物になっていますね。

年が明けても松の内までは正月気分が漂う睦月。初詣ついでに、お近くの七福神巡りでお楽しみください。2022年、七福のご利益がありますように。

江戸的に楽しむ、1月の東京案内

東京の七福神めぐり

浅草名所七福神
福禄寿と寿老人が2社ずつあり。九つの福が授かる。
期間:1月1日~7日 
時間:9:00~16:00*社寺により異なる
http://www.asakusa7.jp/index.html

谷中七福神
250年前に始まったと言われる江戸最古の七福神。
期間:1月1日~10日 
時間:9:00~17:00
https://t-navi.city.taito.lg.jp/
(*「TAITOおでかけナビ」谷中七福神MAPあり)

下谷七福神
アクセスがよく短時間でのお参りが可能。
期間:1月1日~1月7日 
時間:9:00~17:00
https://t-navi.city.taito.lg.jp/
(*「TAITOおでかけナビ」下谷七福神MAPあり)

日本橋七福神
すべて神社の七福神めぐり。老舗めぐりとあわせて。
期間:1月1日~1月7日 
時間:9:00~17:00
https://www.nihonbashi-shichifukujin.gr.jp/

港七福神
十番稲荷神社で「宝船」が加わる珍しい七福神。
期間:1月1日~成人の日まで 
時間:9:00~17:00
http://www.minatoshichifukujin.org/


元祖山手七福神

江戸時代から続く七福神。『東都歳事記』にも掲載。
期間:1月1日~1月7日の次の日曜日 
時間:9:00~17:00
目黒区公式HP「七福神」
https://www.city.meguro.tokyo.jp/smph/gyosei/shokai_rekishi/konnamachi/shichifukujin/index.html

隅田川七福神
向島百花園を開いた佐原鞠塢(きくう)が考案。
期間:1月1日~7日 
時間:9:00~17:00
https://www.sumidagawashichifukujin.com/

取材協力
小網神社
東京都中央区日本橋小網町16-23
強運厄除けの神様として信仰を集めている神社。「日本橋七福神」では健康長寿の福禄寿が祀られている。
https://www.koamijinja.or.jp/

2021年も2022年も正月は七福神巡りへ!

3分で読める七福神基礎知識はこちら

書いた人

和樂江戸部部長(部員数ゼロ?)。江戸な老舗と道具で現代とつなぐ「江戸な日用品」(平凡社)を出版したことがきっかけとなり、老舗や職人、東京の手仕事や道具や菓子などを追求中。相撲、寄席、和菓子、酒場がご贔屓。茶道初心者。著書の台湾版が出たため台湾に留学をしたものの、中国語で江戸愛を語るにはまだ遠い。