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2019.12.23

岐阜県恵那市の特産品「細寒天」は生産量なんと日本一!観光土産にもおすすめ。現地レポート

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明智光秀が生まれた、岐阜県恵那市。令和2年1月から始まる光秀公を主役にした大河ドラマ「麒麟がくる」や、昨今の「戦国ブーム」の影響を受けて、いま全国から注目を集めています。

そんな恵那市ですが、実は市内にある山岡町は、細寒天の全国シェア8割の一大生産地であることをご存知でしょうか。

寒天づくりの最盛期は12月~2月。地元では戦国ブームだけでなく、いま細寒天づくりも盛り上がっているんです!

そこで今回は現地レポートとともに、細寒天の魅力をご紹介したいと思います。

細寒天とは

「寒天は知っているけど、細寒天って初めて聞いた」という方のために。まず寒天には、大きく3種類あります。

【粉末寒天】
工場などで通年製造される。食品だけでなく、工業・医療・化粧品などにも使われている。
【角寒天】
使う前に浸水や裏ごしが必要。少し手間がかかることから、年々消費が減っている。長野県のみで生産され、家庭料理などに使われる。
【細寒天】
岐阜県で主に生産されている。角寒天よりも強度が高く、その多くは羊羹などの和菓子づくりに使われる。

寒天と言えば「ヘルシーな食材」という印象が強いですが、全ての食材のなかで食物繊維を一番多く含んでいます。食物繊維の含有量はなんと重量の80%。

細寒天は水に浸しておくだけですぐに使える。和え物やサラダ、お吸い物など普段の料理によく合う。

水分を抱え込む作用も非常に強く、胃の中で大きく膨らみ満腹感を得やすいため「ダイエット」にもよく使われています。また便秘予防など腸の調子を整える作用もあり、健康を保つ上で欠かせない自然食品のひとつとして、昔から人々に愛されてきました。

細寒天を訪ねて、いざ山岡町へ

細寒天づくりの様子を見るべく、恵那市山岡町へ。今回お話を伺ったのは、山一寒天産業株式会社の代表取締役である西尾幸久さん。山岡町で細寒天づくりが始まった頃から生産に携わり、幸久さんは三代目です。

「では原料の天草からご案内しますね」

1.天草をきれいに洗う

寒天の主原料は「天草(てんぐさ)」。天草と一口に言っても、マクサ、ヒラクサ、オオグサ、オニクサ、オバクサなどいろいろな種類があります。5~6月頃に収穫されたものが一番美味しく、この天草のブレンドによって寒天の風味や弾力などが変わってきます。

天草の塩分や貝殻、土砂などを取り除くために、48時間ほど浸水させます。その後、洗浄機で洗い、汚れなどをしっかりと落とします。

2.釜で煮詰めて、固める

ひのき製のこしきをはめた釜に天草を入れて、ぐらぐら煮ること約12時間。

濾過した後に小舟と呼ばれるケースに移し、18~20時間かけて固めていきます。

3.形を整えて、干す

凝固したものを羊羹上に切り、「ところてん」のように天筒で突き出し、よしずの上に広げます。凍結と乾燥を繰り返すことにより、水分が抜けていきます。

昨日干し始めたばかりという細寒天。まだ水分が多く、寒天というよりは「ところてん」に近い状態。

氷点下0度になった時に、氷を振りかけて凍らせます。これにより、上質な寒天に仕上げることができるのだとか。「最近は暖冬になってきて、乾燥が進みにくくなった。寒暖差を利用して寒天を作っていると、気温の変化がよく分かるんですよ」と西尾さん。

約2週間かけてじっくりと干していきます。最後はよしずを立てて、完全に乾燥させます。


最後は、ほとんど水分が抜けて手で触るとパリパリの状態に。

はじめは茶色がかっていたものが、乾燥が進むにつれて透明な色に変化。乾燥した寒天は、選別して出荷されます。

「海で生まれて、山で育てられる」

寒天の原料である天草は海で収穫されますが、寒天づくりを行うのは山間部。何だか不思議な感じがしませんか?

そもそも「ところてん」の水分を蒸発させて作られる寒天づくりは、夜の冷え込みが厳しく、昼はカラッと晴れる地域でなければ美味しく出来上がりません。つまり、寒くても雪の多い地域などは不向き。寒暖差が激しく雪の少ない山岡町は、美味しい水や空気にも恵まれており、寒天づくりに最適な場所だったというわけです。

山一寒天さんのすぐそばを流れている川。川底が透けて見えるほど、水が澄んでいる。

稲作の閑散期を利用して80年ほど前からこの地で細寒天づくりが始まり、昭和の頃には130もの生産工場があったのだとか。現在は、後継者不足などから11軒にまで減ってしまったものの、今でも冬の風物詩として12月~2月にはたくさんの人が寒天づくりを見学に来るそうです。

後世に残したい、日本の原風景

「ヘルシー食材」「健康食材」といった言葉だけでは語れない、奥深い食文化や手の温もりを感じる細寒天づくり。私は今回初めて山岡町を訪れましたが、その風景にどこか懐かしい印象を受けて心がじんわりと温まりました。

「寒天造る」「寒天晒す」「寒天干す」と言えば、冬の季語。そのためなのか、寒天づくりの見学者のなかには、俳句好きな方も多いのだとか。

古くから季語にも使われ、人々の心の拠り所となってきた寒天づくり。これこそ、子どもたちにも伝えていきたい日本の原風景ではないでしょうか。

山一寒天さんで寒天づくりをされている皆さん。20~30年間継続して、秋田から手伝いに来ているという方も。

「美味しい細寒天を作るためには、それに適した自然環境と丁寧な手作業が大切。手間もかかりますし、後継者不足という課題もある。こういう手作業の食材って今は本当に少なくなってきていると思う。」

ちなみに、生産された細寒天のほとんどは、羊羹などを作る和菓子メーカーに卸しているのだとか。ということは、もし美味しい羊羹に出会ったなら、それは山岡町の細寒天を使って作られたものかもしれません。

消費者と生産者の距離が遠くなり過ぎて、ひとつの食品がどのような場所や工程で作られているのかが見えづらくなってしまった現代。でも、美味しくて安心できる食品には、その背景に必ず真摯に取り組む生産者の姿がある、それを再確認した取材でした。

簡単で絶品!細寒天レシピ

細寒天は和菓子メーカーなどへの流通がメインのため、全国的にはなかなか見かけることの少ない逸品ですが、山岡町近郊の道の駅などでは手軽に購入することができます。

細寒天を使った寒天ゼリーは、通常の寒天に比べてモッチリとした弾力があるのが特徴。素材の美味しさがそのまま味わえるので、子どものおやつにも良さそうです。

ごはんを炊く時に寒天を入れると、新米のようなツヤが出て美味しくなります。西尾さんを含めて、生産者の方々がよくやっている食べ方なのだとか。他にも、煮魚に寒天を入れると美味しい煮こごりができて、日持ちもよくなるそうです。

より詳しく知りたくなったら「寒天資料館」へ

寒天についてもっと知りたくなった方は、「寒天資料館」にもぜひ足を運んでみてください。明知鉄道「山岡駅」の駅舎の1階が、平成26年から資料館としてオープン。細寒天が作られるまでの工程について、写真や映像などを通して分かりやすく学ぶことができます。


資料館の奥には、寒天カフェ・レストランも。細寒天を使った、ここでしか味わえない料理を楽しむことができます。山岡町特産の細寒天も購入できるので、寒天料理をご自宅でも楽しみたい方におすすめ。

この冬からスタートした「光秀御膳」。かんてんかん特性の「光秀五平餅」と「光秀みそ」を使った釜玉うどんなどの他、寒天づくしの料理が味わえる。

細寒天づくりは12月~2月の約80日間。光秀公の足跡を訪ねて恵那市を訪れる際には、ぜひ山岡町まで足を伸ばして、目にも口にも美味しい細寒天の素晴らしさを感じてみてくださいね。

◆山一寒天産業株式会社
・住所:岐阜県恵那市山岡町下手向417-1

◆山岡駅かんてんかん
・住所:岐阜県恵那市山岡町田沢3058-4
・営業時間 9:30~17:00、月曜日定休(祝日の場合は火曜日)
・公式webサイトhttps://www.kantenkan.net/

書いた人

バックパッカー時代に世界35カ国を旅したことがきっかけで、日本文化に関心を持つ。大学卒業後、まちづくりの仕事に10年以上関わるなかで食の大切さを再確認し、「養生ふうど」を立ち上げる。現在は、郷土料理をのこす・つくる・伝える活動をしている。好奇心が旺盛だが、おっちょこちょい。主な資格は、国際薬膳師と登録ランドスケープアーキテクト(RLA)。https://yojofudo.com/