Craft
2020.01.14

この鍛接技術は見逃せない。日本製ナイフの特徴「青紙割込」って何?

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「澤田さん、肥後守の『青紙割込』って何ですか?」

そう問われる機会が多くなった。しかも、自分よりも若い女性から。

和樂webのおかげで、どうも最近の筆者は「ナイフマニア」として通っているらしい。筆者自身はナイフの魅力や有用性、日本には世界に通じるナイフ産業があって伝統工芸士も存在する、ということを広く知らせたいだけなのだが。まあ、褒められる分なら悪い気はしない。

それはともかく、青紙割込である。

日本製ナイフを観察する上で、この鍛接技術は見逃せない。まさに「日本の十八番」と表現すべきものだ。

コロッケロールと同じ構造!

刃物の素材に使われる炭素鋼は、炭素の含有量により硬さが変わる。

高炭素鋼は硬いが、何もブレード全体にそれを使う必要はない。刃の部分のみ高炭素鋼、あとは柔らかい低炭素鋼を用いるという発想が日本製ナイフには根強くある。これは鉈、折り畳みナイフ、斧、包丁においても変わらない。さて、ここにあるのはセブンイレブンで買ったミニロール(ハムたまご&コロッケ)。「何でいきなりコンビニパンの話?」と思われるかもしれないが、筆者の記事はしばしば話が飛躍する。ご容赦願いたい。この中のコロッケロールを取り出してみる。お分かりだろうか? これがナイフ鍛造における割込技術である。

コロッケが高炭素鋼で、パンが低炭素鋼。パンはどこかで完全に分離しているわけではなく、上の部分に切れ込みを作ってそこにコロッケを入れている。これは割込とまったく同じ構造だ。

この状態の鋼材を加熱し、左右から打ち延ばせば刃の部分のみ高炭素鋼のナイフが出来上がる。

この割り込み技法は、海外では「Inlay technique」と呼ばれることもある。ヒストリーチャンネルの人気番組『刀剣の鉄人』でも、予選で割込技法のナイフを作るという課題があった。この時の挑戦者は、かなり苦戦していたが。

海外では割込技法のナイフよりも、異なる種類の鋼材を幾枚も重ねて作るダマスカス鋼ナイフが多い。

割込鋼材がいつでも入手可能

次に、青紙の話である。

青紙とは、日立金属安来工場が生産する刃物鋼材である。他にも白紙や黄紙といった種類もある。さらにその中でも青紙2号、青紙1号、青紙スーパーといったように、炭素の含有量に応じたグレードが存在する。黄紙2号から不純物を取り除いたのが白紙2号、そこから炭素の含有量を増やせば白紙1号、そして白紙2号にクロムとタングステンを加えたのが青紙2号……という感じで、それぞれ「中身」が微妙に違うのだ。

製造現場では、製品が混同しないよう青い紙や白い紙を収納箱に貼って区別するそうだ。これがそのまま、製品名になっている。ちなみに、カスタムナイフ職人に向けた「青紙割込鋼材」というものも販売されている。既にコロッケロールになっているものだ。熱処理加工済みで、削り出せば刃物として利用できる。

もしも、この鋼材が割込ではなく「100%青紙」だったら、むしろ不合理な代物になってしまうというのはお分かりだろうか?

割込鋼材は、側面が柔らかい低炭素鋼でできている。ということは、その分だけ研ぎやすい。また、断面は三層構造なのでその分の強度も確保される。

ここまで解説しただけでも、日本という国は自前のカスタムナイフを作るのに適した国だということがお分かりいただけるだろうか。

それは結局のところ、良質の鋼材を生産し続けている日立金属とそれを運ぶB2B運送業者、そしてヤマト運輸や佐川急便のようなC2C業者のおかげである。たまにヤマト運輸の配達員に理不尽なクレームを言った利用者の話を聞くが、筆者はそれが許せない。

また話が脱線してしまったが、ともかく日本にはこうした下地があるということをご理解いただきたい。

家内制手工業に適した国

脱線ついでに、もうひとつ。

昔、何かのテレビ番組で観たことだが、これから入社式を迎える息子のために母親がスーツを自分で仕立てた。が、息子はそのスーツを着るのを嫌がる。「母親の手作りなんて格好悪い。何で有名ブランドのスーツを買ってくれないんだ!」と。

まず母親に高価なスーツをねだっている時点で格好悪いのだが、そもそも国際的な物の見方では「家内制手工業でスーツが作れる」というのはすごいことだ。インターネットというものが発達した今、「ウチでスーツを作ることができます」と言えば海外から注文が来ることだってあり得る。

カスタムナイフ職人とは、結局はそれと同じだ。独特な格好良さというものは一切なく、作っているのはその辺のおっちゃんおばちゃん或いは兄ちゃん姉ちゃん。けれど、やっぱり「自分で作れる」というのは特殊な技能を必要とすることで、尊敬されることはあれど見下されるということはないはず。

自宅でナイフを作ることは、決して「危ないこと」でも「恐ろしいこと」でもない。日本では割込鋼材がいつでも入手できる環境で、しかもマキタやリョービ、高儀といった世界的電動工具メーカーが刃物研削用グラインダーを生産している。

普段使いの包丁だって、自分でこしらえてみるのもアリだ!