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2020.03.06

こりゃ目から鱗!熟れ鮨から生まれた新感覚ピザに注目せよっ

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この季節、おいしい魚といえば、ふぐ、寒ブリ、あんこう、甲殻類であれば、ダントツでカニ!となります。そんな中で、「鮎」を食べに行こうよ!と言われたら、一瞬「うーん」と唸ってしまいます。やはり鮎といえば、シーズンは5月~10月、初夏から秋にかけて川沿いで塩焼きを食べるというイメージですよね。

ところが、鮎を使ってびっくりするような新感覚発酵料理を編み出したお店があるんです。まさに「目から鱗」の鮎の発酵料理をご紹介します。

1300年以上の歴史を持つ岐阜・長良川の鵜飼い

その前に鵜飼についてちょっとご紹介します。岐阜・長良川は、1300年以上前から鵜飼の歴史と共に歩んできた町です。2015(平成27)年に「長良川の鵜飼漁の技術」が国の重要無形民俗文化材に指定され、清流長良川の鮎は「世界農業遺産」にも認定されました。今でも獲れた鮎は皇室に献上されています。

かの松尾芭蕉も「おもしろうて やがてかなしき 鵜舟かな」と長良川の鵜飼いを詠んでいます。闇夜に浮かび上がる漁火の美しさとはかなさは、日本の伝統芸能としての「わび・さび」を感じさせてくれます。

古くは織田信長や徳川家康も鵜飼見物を楽しみ、江戸時代には、徳川義直以降、歴代尾張藩主の鵜飼上覧が慣習となったともいわれています。

鵜飼とは、舟の上から鵜を操る鵜匠が、川に放った鵜を使って鮎などの魚を獲る漁法です。「鵜のみにする」の語源になったように、鵜は魚を丸呑みするので、喉元で止めた鮎を素早く鵜匠が吐き出させます。この鵜匠、お家芸として、代々受け継がれるもので、岐阜長良川の鵜飼いができるのは、宮内庁から「宮内庁式部職鵜匠」という身分が与えられた人だけなんです。そんな鮎と人々が深いつながりを持つ岐阜ならではの食文化が鮎料理といえます。

新鮮な鮎を発酵・熟成して作る「熟れ鮨」

作り方は、夏場たくさん捕れた鮎を塩漬けにし、発酵・熟成することから始まります。塩漬けした鮎の腹にごはんを詰めて、半年ほど熟成させたものが「熟れ鮨」となります。

乳酸発酵したごはんの酸味と子持ち鮎の旨味が口の中でとろけます

もともと鮎の保存食として作られるようになった熟れ鮨ですが、どのような過程でできるのか簡単に説明します。

1.米(ごはん)が発酵すると、乳酸を作り酸味が強くなる。乳酸が腐敗菌の増殖を防ぐので、保存に良い。

2.魚のタンパク質は、時間が経つとアミノ酸に変化して旨みが増す。

3.魚特有の臭みは、乳酸発酵時の酪酸菌によって分解されてなくなる。

魚の臭みもなくなり、保存にも良い「熟れ鮨」はまさに、人間が編み出した知恵といえます!

鮎専門店で誕生した驚きの新感覚料理

川原町泉屋5代目店長泉善七(いずみぜんひち)さん。地元では発酵クリエーターと呼ばれ、発酵デザイナーの小倉ヒラクさんとのコラボイベントも3月に開催予定

この鮎の「熟れ鮨」を進化させ、新感覚料理を生みだした鮎料理専門店が岐阜・長良川近くにあると聞き、古い街並みが続く川原町泉屋の5代目店主泉善七(いずみぜんひち)さんを訪ね、話を伺ってきました。 

-子持ち鮎で「熟れ鮨」を作ってみようと思われたのは、どのようなきっかけがあったのですか。

泉:もともと明治20(1887)年に創業した鮎の加工品が専門の店で、主に鮎の甘露煮や佃煮を贈答用などに販売していました。私の代になって、鮎をもっと他の食べ方で提案していけないかと考えていたんです。そんな時、子持ち鮎で「熟れ鮨」を作ってみたのが始まりです。昔から岐阜で作られていた「熟れ鮨」は、内臓を取ったオスの腹にごはんを詰めて作っていたんですが、保存食ではあるけれど、すごく美味しいものではなかった。それで、子持ちの内臓から出る旨味を活かしたら、美味しくなるんじゃないかと思いついたんです。ただ、内臓があると、タンパク質を分解してしまい、身がボロボロになったり、穴が空いてしまったり、溶けてしまうんです。失敗に失敗を重ね、塩の種類や樽での貯蔵期間を試行錯誤して、ようやく商品化できたのが20年前です。今でも1割は、失敗しています。ただ、うまく出来上がったものは、ごはんの部分がまろやかでチーズのような美味しさになるので、これはいろいろな料理に使えるなと思いました。

-鮎を使った新感覚料理とは、どのようなものなのでしょうか?

泉:ゴルゴンゾーラのチーズを見ていて、「熟れ鮨」でできた発酵したごはんに生クリームとサワークリームを加えたら、似たようなものができるのでは?という発想から作ったのが「白熟クリーム」という商品です。これなら、新感覚の鮎ピザができると、10年前にピザ窯を作りました。

発酵したごはんのクリーミーな味わいに驚き。生クリームとサワークリームを混ぜて貯蔵すればまさにチーズ

おいしいものにはとことんこだわりたいと、作ったピザ窯

もちもちの生地と酸味の効いた白熟クリームの相性が絶品と評判

泉:また、パンに合うパテができないかと、鮎の塩焼きのほぐし身と鮎うるか(内臓の塩辛)を、鮎脂(鮎の骨をかめりあラードで上げた脂)で炒めた玉ねぎとブレンドして作ったのが「鮎のリエット」です。これもワインにあって美味しい!ということで、商品化しました。鮎といえば塩焼きというイメージしかないと思うんですが、「熟れ鮨」を作るようになって、鮎を発酵調味料として捉えられるようになったんです。「熟れ鮨」はゴルゴンゾーラチーズ、「魚醤」はアンチョビに見立てたら、いろいろな料理のレパートリーができるようになりました。

鮎のほぐし身と塩辛をたたいて作るリエットは、ワインとパンにピッタリで驚きの味

フィールドワークから得る斬新なアイディア

-泉さんが新たな発酵料理を生み出す時の発想は、どんなところからくるんでしょうか?

泉:もともとフィールドワークが好きで、東南アジアへ行って、いろいろな食文化と出会ったり、イタリアンやフレンチを食べながら、この料理をこの調味料と合わせたら面白いかな〜と、常に考えているんです。ミャンマーあたりまでは旨味調味料を料理に使っているんですが、そこから先は、スパイスが中心になる。じゃ、旨味と言われる発酵文化とスパイス文化を融合させたらどうなるのかとか。そこから発想を得て、実際に和風スパイスカレーを考案しました。天然鮎魚醤と鮎の熟れ鮨の旨味を活かしたオリジナルカレーです。

今や泉さんの作る「白熟クリーム」は、東京のイタリアンのシェフからも注文が入るそう

地元愛が町の活性化を生み出す

現在、岐阜・長良川では天然鮎が減少し、漁師さんも後継者不足で風前の灯の状況だとか。そんな中、地元から新感覚の鮎料理を開発し、鮎の美味しさを再発見してもらうことで、長良川の活性化につなげていけたらと泉さんは語ってくれます。あくなき探求心と食いしん坊の意地で、どこまでも美味しい鮎料理を求めていく姿からは、あふれる地元愛も感じました。オリジナルカレーや鮎らーめんなど、伝統にアイディアをプラスした新感覚料理は、長良川の新たな名物となっています。

川原町泉屋の基本情報

店舗名:川原町泉屋
住所:岐阜県岐阜市元浜町20
営業時間:ランチタイム11:30~14:00(LO)
ディナー17:00~19:30(LO)
定休日:水曜日(7・8月は無休)※冬季休業あり
川原町泉屋公式サイト