我が家の玄関先に住み着いている地域ネコ。尻尾がシマシマなので縞尾(しまお)と呼んでいます。
彼の両親か、はたまたもっと前のご先祖様か、受け継がれた白と縞2つの組み合わせで偶然生まれた景色が美しいなぁと、出会うたびにカメラを向けてしまいます。
思いがけない継ぎ合せが生み出す美
柄が模様に見える、なんてこともありますよね。たとえば、ミルクにコーヒーでシミをつけたようなゴールデンハムスターの背中。世界地図に見えたり、隠れミッキーが見つかったりと、十匹十色の絵柄が想像力をかき立ててくれます。こんな風に動物の柄で思い出すだけでも、何かが継ぎ合わされたような姿には不思議な魅力が宿ることがある気がしませんか?
こうした不規則な継ぎはぎに魅せられたのは、現代の私たちだけではないようです。戦国の世の茶人たちも偶然のつなぎ目を何かに見立てたり、異なる柄の組み合わせに美しさを見出したりしていたのだそう。
その一つが、「金継ぎ(きんつぎ)」です。
戦国の茶人たちが愛した「金継ぎ」
金継ぎとは、割れたり欠けたりした陶磁器や漆器などをうるしでつなぐ室町時代頃から伝わる日本ならではの修復技術です。もともとは、愛着やもったいない精神から生まれたであろう技術ですが、ただ直すことに留まらずそこに美を見出していく人たちがいました。
発展した金継ぎの最大の特徴は、継ぎ目に金、銀、朱色などで装飾を加えて傷痕を「景色」として楽しむこと。傷をなかったことにするのではなく、歴史として受け入れ、新たな調和を生み出します。
戦国時代の茶人たちは、ヒビの中に山水画のような想像が膨らむ美が宿っていることを見つけたのです。繕うことを通じて、芸術的、美的価値が高まる不思議。戦国茶人たちはその美しさを追求していきました。
割れていた器を継ぐだけでなく、わざと器を割ってつなぎ直す茶人もいたといいます。さらには、欠けた部分に別の器の破片を組み合わせる「呼継ぎ(よびつぎ)」という技術も生まれました。
新たな景色を生み出す「呼継ぎ」
現存するもっとも古い呼継ぎといわれるのは、織田信長の弟で、千利休の弟子であった織田有楽斎のもの。その銘も「よびつぎ」! として愛用されていたと伝わっています。
その後も、時代ごとに多くの呼継ぎが名品として残されてきました。東海道五十三次を「継ぎ」と掛けた「五十三次」「東海道」なんて遊び心のある銘がついた茶碗も残っています。
また、一対の貝を見つける遊び「貝合わせ」が愛されたのと同様に、欠けたものたちの「互いに離れがたいもの同士が呼び合う」とされる心情が好まれ、茶道具のデザインから発展して、一般の人々にも広まっていきました。
縁起物として、嫁入り道具にも
美濃地方では、呼継ぎの器は「一度くっついたら離れない」という理由で、嫁入り道具には欠かせないものとなっていきました。この地方では、古い窯跡を掘り返して見つけた膨大な破片の中から、合うものを見つけて継ぎ合わせる「呼継ぎ」専門の職人がいて、日がな一日仕事に追われていたのだそう。もともとは、愛用品が壊れた際の修復技術であったものが、縁起物としてここまで発展したとは驚きです。
現代の暮らしの中の「呼継ぎ」
こうして愛されてきた呼継ぎの器たち。私たちの普段の暮らしの中でも楽しむことができたら素敵だなぁ、自分で呼継ぎできないかしら……そんな思いが膨らみます。
実は今、金継ぎ(金継ぎ技術の1つである呼継ぎも!)を学んで暮らしに取り入れることが静かなブームとなっています。
10年以上にわたり一般向けの金継ぎワークショップを開催している東京荻窪のブックカフェ「6次元」を訪ねて、店主のナカムラクニオさんに呼継ぎの器を見せていただきました。
「呼継ぎは、破損した陶磁器をパッチワークのように他の破片を使って修復する技術です。意図的に別々の陶片をつなぎ合わせて、趣の異なる器を作り上げ、お客さまをもてなしたという話もあります。厚み、そり、色、形などがピッタリ合う破片がないとうまく接着できないため、難易度の高いつくろい方法なんです」とナカムラさん。
さらには、やきもの以外の素材を組み合わせた器も。
なんとこちらは、ひきだしの取っ手をつけたマグカップ!
お気に入りのマグカップが壊れてしまった時に、東急ハンズで見つけた取っ手をつけてみよう! と思い立ったのだそう。不思議と馴染んでいて可愛らしい姿ですね。
時代を超えて、様々な素材を用いて、用途を超えて継ぎ合わせられた呼継ぎの器たち。思いがけない組み合わせから生まれる美しさにワクワクしました。
「呼継ぎに魅せられた人の中には、骨董市や古いものを扱う器屋さんで破片を買い集めて、時間をかけて一つの作品を作って楽しむ人もたくさんいます。私も、良い破片を見つけたら嬉しくなって手に入れておくんです」。
金継ぎがつなぐ世界の器
壊れたものを繕う技術を超えて新しいものを生み出す金継ぎ。
呼継ぎの技術を用いて、こんな作品も生まれました。
歴史的、または現在において対立を抱える隣国同士のお皿を国境線の形で金継ぎする「KINTSUGI PIECES IN HARMONY」プロジェクトです。
金継ぎは、壊れた陶器を金を使い修繕する日本の伝統技法です。
しかしながら金継ぎの存在自体を知らない人々も増えています。
そこで6次元は、隣り合う国と国の皿を国境の形で一枚にした特別な皿をつくりました。
この動画を通じて金継ぎの魅力、金継ぎの持つ調和の哲学を感じて頂けたら幸いです。
(「KINTSUGI PIECES IN HARMONY」紹介動画より)
トルコとアルメニア
アイルランドとUK
パキスタンとインド
北朝鮮と韓国
金継ぎについて広く知ってもらうことを目的に始まったプロジェクトですが、生まれた作品からは金継ぎの哲学を通じて「継ぐ」ということを深く考えさせられます。展示会で作品をみた方の感想の中には、「国境が違うものに見えた」というコメントもありました。
継ぐことで新たに見つかる美しさ、視点、価値観。
もしかしたら、継ぐ対象はものに限らないのかもしません。
コロナ禍にあって、これまで当たり前にしていた移動や他者との気軽な触れ合いがままならなくなり、様々な分断も浮き彫りになりました。そんな中、私たちはIT技術を活用したり工夫を重ねることで空間をつなぎ、新たな日常を作り出しています。かつての日常の単なる代替を超えて、今ならでは楽しみ方を発見することも多々ありますよね。
その様子を目の当たりにするにつけ、不安や窮屈さを超えた希望を垣間見る瞬間がありませんか?
明日をも知れぬ戦国時代の茶人たちが見出した呼継ぎの美にも、そんな世界観に通じるものがあったのかもしれません。
呼継ぎの器を眺めていて、ふとそんなことを思いました。
ブックカフェ「6次元」
色々な金継ぎを見せてくださったナカムラさんのブックカフェ。
定期的に金継ぎ講座が開催されています。
詳しくはサイトをご覧ください。
■東京都杉並区上荻1-10-3 2F
■不定休
■http://rokujigen.blogspot.com/
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