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Art
2020.06.04

カレーを食べ歩くように鑑賞すべし?!「現代美人画」の魅力と楽しみ方【ぎゃらりい秋華洞店主ロングインタビュー】

この記事を書いた人

「美人画」というと、どんな作品が思い浮かびますか?

吉原の花魁(おいらん)を描いた浮世絵や、上村松園(うえむらしょうえん)、鏑木清方(かぶらききよかた)といった、日本画の名手が描いた近代の人物画を思い浮かべる人も多いのかもしれませんね。

ところが今、日本美術の世界でちょっとしたブームとなっているのが、20代、30代といった若手画家たちが描く現代の「美人画」なのです。写真の普及によって写実的に描く意味が薄らいだ後、美しいものを素直に表現するよりも、アイデアやコンセプトの独自性が問われるようになって久しい日本のアートシーンにおいて、人物画というジャンルは一時期完全に廃れてしまったかのようにみえました。

ところが、2010年頃からその潮目が変わります。若い作家を中心として「美しい人物画を描きたい」「きれいな女の人を表現したい」と考えて、人物画、とりわけ美人画に取り組むアーティストが徐々に存在感を増してきているのです。同時に、彼らの作品を追いかける熱心なコレクターも増えてきているのだといいます。これは、ちょっとした異変と言えるのかもしれません。

そこで、今なぜ日本のアートシーンにおいて「美人画」が復権しつつあるのか、ブームの仕掛人の一人でもある銀座のギャラリー、「ぎゃらりい秋華洞(しゅうかどう)」店主の田中千秋(たなかちあき)さんにお話を伺ってきました!

お話の中では、他にも

  • 現代美人画は近代の美人画や浮世絵とどう違うのか?
  • 現代美人画を鑑賞するためのコツとは?
  • 田中店主おすすめの美人画作家とは?
  • といった、これから美人画を新たに楽しんでみたい!という人にも役に立つような内容に触れています!

    それでは、画像をたっぷり交えながら、お話を伺っていくことにいたしましょう!

    なぜ今、現代美人画がブームになっているのか

    ぎゃらりい秋華洞店主:田中千秋さん近影(展示室内にて)

    -単刀直入にお聞きします。なぜ今、美人画が再び静かなブームになっているのでしょうか?

    もともと人物画は、古代壁画や4大文明といった超古代から普遍的な絵のテーマの一つでした。人の興味は人なので、人を描くことは基本中の基本ですよね。日本でも昭和初期頃までは、上村松園、鏑木清方、伊東深水(いとうしんすい)といった美人画の巨匠に限らず、横山大観(よこやまたいかん)など戦前の有名画家ならごく普通の主題としてみんな描いていたわけです。

    だから今、美人画を含む人物画を描く若い作家が増えてきて、コレクターにも支持されているという流れはある意味自然なことだと思うんです。逆に、昭和中期頃からつい最近まで美人画を描く人がほとんどいなかったことのほうが、長い美術史の中では異常事態だったのではないかと思っています。

    ―なぜ、いったん美人画は昭和に入ってから廃れてしまったのでしょうか?

    敗戦後に日本人の価値観が大きく変化したことが大きいですね。日本神話や源平合戦など、日本文化に関わる伝統的な歴史画が陳腐化したり、日本髪を結った和服美人が描かれた美人画も、ステレオタイプ化して古臭く感じられるようになってしまいました。特に美人画は大正末期から昭和初期に大流行して描き尽くされた分、その反動でネタ切れ状態に陥っていたことも大きいですね。そこへ、日本では伝統的に美人画が大衆的なものとして軽く見られていたことも加わって、日本画を志す人々はいつしか誰も人物画を描かなくなってしまったんです。

    -では、美人画を描かなくなった日本画家は、その間何を描いていたのでしょうか?

    風景画です。たとえば、「昭和五山」と言われる東山魁夷(ひがしやまかいい)、杉山寧(すぎやまやすし)、高山辰雄(たかやまたつお)、加山又造(かやままたぞう)、平山郁夫(ひらやまいくお)といった戦後の日本画の巨匠は、全員揃いも揃って風景画に力をいれるようになりました。横山大観だって戦後は富士山をよく描いていましたよね。人物画はゼロではないですが、かなり下火です。つまり、日本画の存立基盤が「岩絵の具の厚塗りで描いて、品位と権威ある額装の日本画を」というような流れの中で、人物画が廃れた後に風景画だけが残ったわけです。

    横山大観「霊峰飛鶴」。1967年に発行された記念切手のモチーフにも選ばれた有名な作品です。

    特に1970年代、80年代は、風景画一辺倒の傾向が非常に強くて。でも、当時「俺たち人物画をほとんど描いていないじゃないか」とは誰も気づかなかったのですね。スケール感のある風景画をみな競って描いていた時代だったんです。

    現代美人画隆盛のキーマンは池永康晟さん

    -そのような中で、美人画が見直されるきっかけとなったのは何だったのでしょうか?

    それには、美人画復興の立役者となった池永康晟(いけながやすなり)さんの存在が大きいです。池永さんは、美しい女性を純粋に美しく描きたいと願い、一貫して美人画を描き続けている画家です。その比類ないデッサン力と線の魅力、そして独自の作家性で現代美人画のトップランナーとして高く評価されています。

    池永康晟「溶ける・聖子」2020年 65.0×65.0cm 亜麻布・岩絵具・膠・墨・金銀泥・光彩箔

    ぎゃらりい秋華洞と池永さんの交流が始まったきっかけは、もう10年以上前になります。彼は僕と最初に出会った頃から「人物画を描く人がいないのはおかしい」と言っていました。まるで業界の暗黙のルールが存在するかのように、権威ある日本画家がみな人物画を描かなくなった中で、池永さんは大好きな女性を純粋に美しく描きたいと思ったんですね。

    なぜ好きなものを描かないのか。極めて素朴で当たり前の疑問ではありますが、美術系の大学を出ておらず、何のバックボーンもなく業界のしがらみも全く関係なかった池永さんだからこそ、自分ならではの絵を打ち出して、世の中に伝える表現もできた。僕たち秋華洞は、そんな彼の情熱を応援して、彼に活躍の場を提供したかったんです。

    また、僕も自分の画廊を始めるにあたって色々と勉強した中で、凄く共感できた著書がありました。戦後、キャバレー王とも呼ばれた個性派の実業家・福富太郎(ふくとみたろう)さんの『絵を蒐める』という書籍です。その福富さんが収集した作品の大事な柱が美人画だったのですね。だから、美人画を復興することに非常に興味が湧きました。

    -では、池永さんと二人でどのようにして美人画を盛り上げていったのですか?

    池永さんは日本画で美人画を描こうよ、という運動を興すべく「指派(ゆびのは)」という名前を作り、仲間を募って作品の発表をしていました。指派の「指」は、「描かれた指」のことでもありますが、「描いている人の指」の意味も込められています。私ども秋華洞は彼自身のオリジナルな運動の賛同者として、2010年の「アートフェア東京」で、池永さん・阿部清子(あべきよこ)さんと同題で展覧会を行ったのです。その後も岡本東子(おかもととうこ)さんらにも参加してもらい、何度か開催してきました。

    池永康晟・制作風景

    -ひょっとしてそれが、美人画がトレンドに浮上するきっかけになったのですね?

    そうですね。僕らがこれを始めたら、他のギャラリーでも同じような趣旨の展示が増え始めました。多分、僕らのブースを見て、こういう企画もありなのだな、と思った美術関係者が多かったのではないかと推測しています。ギャラリーもそうですが、恐らく画家の中にも「人物画を描くのもありなのだな」と思った人も何人もいたのでしょうね。

    池永康晟「膨らむ雫・佳乃」2020年

    ― そして2020年に入って、現代美人画は美術雑誌『芸術新潮』でも大きく特集されました。いよいよ美人画がトレンドになりつつありますよね。

    そうですね。ちょっとしたミニ・ブームまでは広げることができたかなと思っています。ただ、先日僕らが大阪・阪急うめだ本店9階 阪急うめだギャラリーで行った美人画の展覧会を「美人画ルネサンス」と名付けたように、美人画の復権はまだまだ始まったばかりだと思うんですね。

    でも単に「きれいな人を描きたい」という表面的な美しさを追求するだけでは駄目だと思うんです。このままみんながプログラムピクチャー、つまり典型的な和服美人だけを追いかけてしまうと、せっかくのブームも空中分解しかねません。だから、ここからはちゃんと一人ひとりの作家が人物画の歴史を踏まえたり、人物画でこれから何ができるのか、ということをよく考えて制作していくことが大切だと思います。

    コロナ禍を跳ね返して盛況となった「美人画ルネサンス展」

    - 今お話があったように、ちょうど4月上旬に阪急うめだギャラリーで「美人画ルネサンス」展が開催されました。こちらはコロナ禍の一番厳しい情勢下、連日予想以上の来場者だったそうですね。

    正直、お客さんはもう誰も来ないかもしれないと諦めていました。こんな時期なのに、一生懸命見て下さるお客さんにも恵まれました。一部の作家は、購入希望者も多く抽選販売になるなど、盛況でありがたかったです。

    ― 入場無料なのに、展示点数も充実していましたし、各作家ゆかりの小物が合わせて紹介されるなど、展示構成も工夫されていましたよね。

    そう。あの展示スペースは元々有料なんです。阪急さんって、展示にかける意気込みが常に凄いんですよ。「もの」ではなく「こと」を売るのだという考え方が浸透しているので、単に絵を並べるだけでなく作品の背景をしっかりと伝えた体験型展示になっていたのも評判でした。

    - 今回は会期中に緊急事態宣言が出て、惜しくも途中終了となってしまいましたが、今後また同様の企画を期待しても良いのでしょうか?

    同じ題名ではやらないかもしれませんが、人物画の歴史を絶やさずつなげたいので、こうした展示は続けていきたいですね。まだまだ現代美人画は人々に認知されたばかりですし、しばらくは「美人画」というキーワードできちんとまとめて、人物画の歴史的な流れをおさえた展示が良いのかなと思っています。と同時にもっと「人はいかにして人を描くようになったのか」といったような、美術の本質をテーマに据えた骨太な企画でもいいのかなと思います。

    「現代美人画」と「近代美人画」の一番の違いとは?

    上村松園「上﨟賞秋」絹本着色 軸装

    ― 美人画を鑑賞する時、近代の巨匠と現代の美人画はどのあたりが一番の違いなんでしょうか?

    一番の違いは、その絵に含まれている「情報量」の多さですね。鏑木清方、伊東深水、上村松園といった、いわゆる近代美人画の巨匠は、時代考証を真剣にやっているんです。たとえば、描かれた人物の着物や髪型に対する表現や、年齢、職業、場面などを徹底的に突き詰めて描いている。だからリアリティという意味でいうと、古典はもの凄く強いと思いますよ。

    - 1枚の絵の中にストーリーがギュッと凝縮されているのが近代美人画の魅力なのですね。

    僕ら現代人が読み取れない情報まで、彼らは意識して描いていると思います。プロの学芸員が一生懸命読み解いて解説してはいるけど、彼らだって、その絵の意味する背景などを100%全部読み取りきれていないはずです。それくらい、情報量が豊かなのが戦前の巨匠の凄いところだと思いますね。

    上村松園「桜下美人」絹本着色 軸装

    もちろん、現代の美人画の描き手たちも、現代に生きる女性達を最大限魅力的に見せるために一種のモードとして和服を着せて、美しく描こうとはしています。デッサンの完成度も非常に髙い。だけど、1枚の絵の中に込められた情報量、という観点で見ると、江戸時代から昭和30年頃までの古典的な美人画にはまだまだ敵わない所があるのも現状の課題かもしれません。

    初心者でもOK!現代美人画の鑑賞ポイントは?

    岡本東子「渇いた手」2020年 45.5×33.3cm 麻紙・岩絵具・墨・水干

    たくさんの作品を観る

    - ちなみに、初心者にもわかるように、現代美人画を見て楽しむポイントを教えていただけますか?

    まず、できるだけ多くの作品を観るようにしたほうがいいですね。たとえば、カレーライスだってどこが一番美味しいか本格的に知りたいなら、10軒、20軒と食べ歩いて較べてみないと駄目ですよね。1軒しか通っていないのに、ここが一番美味しいよね、って言われても説得力がない。お前他のカレー屋もいけよと(笑)。

    美人画鑑賞も同じなんです。一つ見て直感的に「あ、きれいだな」というのもOKですが、ぜひ色々な作家の絵を貪欲に見ていってほしいと思います。

    - たくさん見た時に、なにか違うものが見えてくるものなのでしょうか?

    そうやって作品を見ていくと、ある時必ず「あれ、これはなんだろう?」と、心の中に小さな違和感やひっかかりを感じる作品が必ずでてくるはずなんです。そこで自分自身と対話して「その違和感はなんなのだろう?」と考えてみてほしい。そこから、ぐっと鑑賞体験が深まっていきます。

    池永康晟「溶ける・聖子」2020年 65.0×65.0cm 亜麻布・岩絵具・膠・墨・金銀泥・光彩箔

    たとえば、池永康晟さんの作品をもう一度じっくり見てみましょう。彼の作品には使われている色が少ないし、よく見るとほとんど凹凸がなくて塗り絵のように平坦です。また、絵のサイズも展覧会でよく見るタイプと違い、四角い作品や長細い作品など変形サイズばかりですよね。よく見ると、人物も全身像で描かれたものはほとんどなくて、全部断ち切りで描かれています。

    このように、なんか変だな、と思ったポイントに、その作家の背負っているものや表現上のこだわりが必ず隠されているはずなんです。少なくとも、池永さんはこれを全部計算して制作していますよ。

    - なるほど、まずは「違和感」を大切にする、ということですね。

    デッサン力に注目する

    - たくさんの作品を観る、という他には何かありますか?

    美人画は、人物を描いた絵なので、やっぱり「デッサン力」に注目してほしいですね。人物を的確にとらえているかは、作品の魅力の重要な要素だと思います。もっとも、それはある程度写実的に描こうとしている作家に限定した話ですが。

    ― デッサンの見方はどのあたりがポイントになるのでしょうか?

    人物でいったら、プロポーションの美しさですね。部分で注目するなら、ぜひ「指」を見て下さい。指をどう描けるかが、美人画をどう見るかの秘訣です。

    - えっ?指先ですか?意外な感じがします。

    たとえば、写真の場合なら、人の手がブレたり変な形で写っていても、人間の目が無意識に補正してしまうので違和感を感じにくいのです。でも、絵画作品の場合はごまかしが利かない。上手く描けないと、違和感が残るものなんです。たとえ写真を引き写して上からなぞったとしても、なぞった線が不自然だと違和感がある。

    だから、指先まで見た時、スッと自然に入ってくる作品を描ける人は相当に巧い。デッサンを立体的に捉えられるから、絵に定着した時にちゃんとリアルに見えるような描き方ができる、という何よりの証拠だと言えます。

    議論して審美眼を育てる

    ― こうしたデッサンを見る目、つまり審美眼みたいなものを磨くにはどうすればよいのでしょうか?

    先程も言ったように、まずたくさん観ることですよね。そして、その上で他の人と感想をぶつけあって自分の好き嫌いを比較して意見交換してみると良いと思います。自分の感覚を磨くには、友人でも恋人でも夫婦でもいいから、他の人と議論してみるのが非常に有効です。

    「なぜ、この作品を他の人は良いと判断したのだろう」と他者の視点を深く考えてみることで、どんどん審美眼を育てることができます。そうやって自分の世界が少しずつ広がっていくと、感覚が磨かれてきますし楽しくなってきますよ。

    ぎゃらりい秋華洞厳選!お薦めの美人画作家を大紹介!

    阪急うめだ本店「美人画ルネサンス」展より

    ここまで現代美人画の特徴やお薦めの鑑賞法をお聞きしてきましたが、数多くいる現代美人画作家の中から、まず誰をチェックすればよいのでしょうか?

    そこで、田中店主におススメの5人の現代美人画作家をピックアップしていただきました。順番に画像付きでご紹介します!

    おすすめ作家1:岡本東子さん

    岡本東子「花を飾る」2020年 40.9×53.0cm 麻紙・岩絵具・墨・水干

    - まずは、岡本東子さんから。岡本さんは、ぎゃらりい秋華洞で随分早くから推していらっしゃる作家さんですよね。

    岡本さん抜きには、長く僕たちがやってきた美人画の流れはできなかったと思います。池永さんと一緒に美人画の復興を目指した時、まず第一に必要だったのが岡本さんの存在でした。

    - それはなぜなのですか?

    池永さんはもの凄く色っぽい女性を描くけれども、それは100%男性目線で描かれている作品なんです。ある種女性を非常に単純化しているともいえますね。池永さんは美しい女性に近づきたいという強い思いがあって、男性が見たい女の姿を想像力も含めて描いているわけです。いわば、男としての本能が絵の中に直接にじみ出ている。

    これに対して、岡本さんは美しさだけでなく、醜さも含めた女性を描いている。こうした絵を描けるのは、ある種女性の特権ともいえますよね。表面的にはきれいにしてはいるけれど、女性にも男性同様に、欲も絶望も悩みも暗さもあるんです。そういった女性の業のようなものも、岡本さんの絵には含まれている。岡本さんはいつも「女性の強さを描きたい」と言っていますが、それを裏返すと「強くなりたい」ということ。弱さやつらさ、暗さなどが背景にあって、そういう中でも「力強く生きていきたい」と願うことなんです。

    - なるほど……。女性にしか描けない深みがあるのですね。

    だから、彼女が描く美人にはどこか暗さや憂いといった影もあります。表現されている色っぽさも、たとえば女性が一人で何気なく過ごしている時に立ち上る無防備な色っぽさであって、それは男が目の前にいて意識して演出された色っぽさではないんです。江戸時代で言えば、吉原の遊女が自分の部屋で休憩しているようなニュアンス。「はーお客帰った、疲れた~」というような感じですね。

    - 技法的にも、池永さんと岡本さんは好対照な感じがしますね。

    そうですね。池永さんは極力シンプルに描き、西洋の重要な美術技法である陰影表現などはかなり抑えています。これに対して、岡本さんはもう少し西洋画的な日本画表現ですね。陰影もしっかり使います。池永さんと岡本さんの二人がいるから、美人画が立体的になってくる。そういう意味でも非常に重要な画家なのです。ぜひ、池永さんの作品と対比しながらじっくりと作品を味わってください。

    おすすめ作家2:大竹彩奈さん

    大竹彩奈「花の下」 2019年 40.9×53.0cm 絹本彩色

    - 続いては大竹彩奈(おおたけあやな)さんですね。

    大竹さんはとにかく、完璧ですね。「和服美人」という文脈で見ると、大竹さんの作品には「現代の和服美人の究極の美しさ」が表現されています。これ以上、上手い人が出てくるとは思えない。デッサンも完璧に近いし、色や配色も、一見派手目の色使いですが、色が混ざり合ったり汚くなったりしないように、丁寧にコントロールされています。基調となる色を先に決めておいて、その色を中心に全体をしっかり設計して構図を作り込んでいます。建物で例えたら、建てても絶対に倒れない建物ですね。

    思いつきでガーッと描いて、何かできちゃいました、という感じではなくて、「この絵はこれを狙って描こう」というのが一つひとつはっきりしているんです。

    ― べた褒めですね。僕も以前、ある美人画のグループ展で大竹さんの作品を見た時、十数人出品されている中で彼女の作品は際立って見えました。

    大竹さんは、「私は本当にきれいな人が好きで、ただきれいな人を描きたいのです」と、絵を描く動機も非常にシンプルなんです。だから、きれいな女性をどう表現するかということに対して100%エネルギーをかけられる。やりたいことが非常にハッキリしている。そこが彼女の強みになっているのだと思います。

    おすすめ作家3:宮﨑優さん

    宮﨑優「春光Ⅱ」2020年 絹本彩色 額装

    - 続いては、宮﨑優(みやざきゆう)さんですね。少し寂しげだけれども、凛とした表情が非常に美しい和服美人が描かれていますね。

    ある意味、今の美人画ブームのど真ん中を歩むのが宮﨑優さんです。彼女の描く可愛くて美しい和服美人は毎回大人気で、今回の「美人画ルネサンス展」でも購入希望者が多く抽選販売になりました。彼女はいつも素直で何に対しても真摯に取り組みますし、お客さんからの要望やアドバイスにも常に真剣に耳を傾けますから。

    彼女は、アーティストでありながら良い意味でイラストレーター的な素養も兼ね備えていて、作品の中に人が求めているものを的確に判断して盛り込んでいくという才能があるんです。

    ― 彼女は韓国出身の作家さんなんですね。

    そうです。人一倍日本の社会に馴染みたいという強い気持ちがあるからこそ、常に真剣勝負で和服美人を描くのだと思います。そういった真っ直ぐな生き方も、ファンの心をがっちり掴んでいる理由でしょうね。Twitter等SNSでのやり取りも、ツンデレ的なところがありませんから。将来を期待している作家さんの一人です。

    おすすめ作家4:蒼野甘夏さん

    蒼野甘夏「Summer Night」2020年 24.3×33.4 cm 紙本彩色

    - 続いては、北海道在住の個性派、蒼野甘夏(あおのあまなつ)さん。この方は、山下裕二先生も絶賛されていますよね。

    蒼野甘夏さんは、神話や歴史など教養に裏付けられた独特の世界観を持っています。だから、美人画というジャンルにくくらず、本当に幅広く描ける作家なんです。コレクターの自宅で気楽に飾れるような売れ筋の作品から、スケール感があったり趣向を凝らしたりした意外性のある冒険的な作品まで、自在に描ける引き出しの多さ、バランスの良さが素晴らしいです。

    蒼野甘夏 2011年「Escualo」116.7×272.2cm 鳥の子紙、墨、水干絵具、岩絵具、泥絵具

    - 蒼野さんは、独自で日本画を勉強されたそうですね。

    はい、インターネットで全て学んだそうです(笑)。

    - 凄い!!

    甘夏さんは、いわゆる美大・芸大出身者ではなく、日本画は無手勝流で覚えたそうです。日本画の訓練を全く受けていないのに、この巧さ。だから下手に学校で日本画の訓練を受けないほうがいいのかも(笑)。しかも、制作の途中過程で彼女はコンピューターを駆使しているんです。

    - えっ?日本画とIT技術って相容れないイメージです!

    昔の日本画家は、一度描いてそこから構図を微修正するために、薄紙でちょっとずつ調整して手や小道具の位置をずらしていました。上村松園などはこれをよくやっていましたね。甘夏さんは薄紙を使う代わりに、パソコンやスキャナ等を活用しています。これぞ、ルネサンスとでもいうべき、新しい描き方だと思います。

    おすすめ作家5:池永康晟さん

    池永康晟「幸福な淡色・海乃」2020年 45.0×40.0cm 亜麻布・岩絵具・膠・墨・銀泥

    - そして真打ちとして、やっぱり最後に池永さんをご紹介しないわけにはいかないですよね。

    池永さんは、デッサンも線もピカイチですね。たとえば、今回「美人画ルネサンス展」では8人の精鋭画家を紹介しましたが、総合力では池永さんがNo.1だと思います。彼ほど正確に女性を描ける人はいませんね。

    - 池永さんに関して、何か面白いエピソードをご紹介いただけますか?

    彼は、ギャラリーに作品を持って来てくれる時に、いつも自分の作品をボロカス言うんです。他の画家はもっと淡々としているのですが、彼だけは、いつも「また失敗しちゃったすみません……」とか言って。宿題を忘れた男の子のような感じで落ち込みながら持ってくるんです。でも、僕が見たら何がダメなのかさっぱりわからない(笑)。

    - なんかわかるような気がします(笑)。ストイックな方ですよね。

    そう。それだけ、自分の作品に対して厳しいのでしょう。「もっと良くしたい」という気持ちがものすごく強いのだと思いますね。プロ意識が髙い作家です。

    - そういえば、美人画ルネサンス展では、池永さんは「市上芸術」という概念を提案されていましたね。これはどういう意味なのですか?

    市上芸術イメージカット/「美人画ルネサンス展」でも出品されました。食卓にさりげなく池永作品を取り込んだ食器が置かれ、違和感なく生活風景の中に溶け込んでいます。

    「市上芸術」というのは、わかりやすくいうと、人々の暮らしの中にもっとファインアートを気楽に取り入れようよ、ということなんです。従来の日本人の生活では、芸術がもっと近い位置にありました。だけど、それが最近全部「萌絵」になっちゃっている。たとえば駅に貼られているような自衛官募集や官公庁・自治体の人材募集のポスターなどを見ると、ほぼ全部アニメ系のイラストになっちゃっていますよね。従来はここにアートがあったはずなんです。

    一方で、西洋絵画だと、クリムトやミュシャの絵がグッズになったり、ダ・ヴィンチやモネの絵がヴィトンに取り入れられたり、上手く活用されているじゃないですか。それなら、美人画ももっとこうした普通の生活雑器の中にも使ってもらって、人々の身近な存在に入り込んでいくことができればいいね、ということなんです。

    ― それで、今回ポットなどをご自身が作られたんですね。

    そうですね。一方、平山郁夫や東山魁夷など、戦後美術の巨匠が描いた風景画は、スケール感が大きすぎてちょっとポットには使いにくいでしょう(笑)。ちょっとデザイン的なものに入れるには、真面目すぎてちょっとしんどい。

    そこでもう少しカジュアルなところで、池永さんの美人画作品あたりがぴったりだと思うんです。色も抑えめなので、意外とどんな生活雑器にも馴染みます。生活風景の中によく溶け込んで、遠くから見ると茶色い帯みたいに見えるけれど、よく見たら美人画が描かれているな、という控えめな感じが良いのです。

    田中店主がこれからの現代美人画に求めるものとは?

    新作画集「少女百遍の鬱憂」発売を記念してぎゃらりい秋華洞で開催された池永康晟さんの刊行記念展での様子(2019年)

    ぎゃらりい秋華洞が協力した阪急うめだ本店での展覧会「美人画ルネサンス展」にもある通り、日本のアートシーンにおいて、現代美人画はようやく「ルネサンス」を迎えたばかり。そこで、最後に田中店主にこれからの現代美人画についての展望をお聞きして、締めくくりにしたいと思います。

    - 田中店主は、現代美人画について今後どのような展望を持っていますか?

    僕がこれからの美人画作家をみる上で注目しているポイントは、「現代を含めた2000年分の情報を、作品の中へどのように織り込んでいけるか」ということです。たとえば、古事記でも平安時代の宮廷物語でも、アイヌの物語でもいいんです。

    その物語の中に、たとえば、愛情や恋愛など、いつの時代でも変わらない人間の感情を豊かにミックスさせていけるか。自分で考えて、調べて、想像力を働かせて歴史的な教養と個人的な内面の体験を意欲的に結びつけ、作品へと昇華できるアーティストこそが、発展していくのだと思います。

    戦後の大家は、それが非常に上手でした。彼らは、大きな物語の中に自分を載せることに成功したからこそ、幅広い共感を得て大御所へと上り詰めたわけです。敗戦後の荒廃から復興を目指した日本人は、仏教的な世界観で「平和」を説いた平山郁夫や、日本の雄大な自然の豊かさを「癒やし」として提供した東山魁夷の絵の中にある、豊かな物語や世界観に共感したのです。だからこそ、今でも彼らの作品は数千万円という非常に高額な価格で取引されています。

    単純に可愛い娘を描くだけだと、美人画ブームは短命に終わっちゃうと思うんですね。だから、現代美人画の各作家さんには、もっと現代の人間に共通するような物語や枠組みを作っていけるような骨太な作品をぜひ生み出していってほしいですね。

    おわりに:現代美人画の面白さ、奥深さを知ることができた150分でした!

    いかがでしたでしょうか?田中店主からお伺いした話を元に、現代美人画が復活を遂げるまでのストーリーや、美人画の鑑賞方法、近代美人画との違い、お薦めの現代美人画家など、約10,000字のレポートでお届けしました。

    実はこの原稿、元のテープを全部起こしてみると、総文字数32,690字。インタビュー時間は2時間55分と、気がついたら僕のライター人生で最長の超ロングインタビューになっていたのでした。公式Youtubeを見て頂いても分かる通り、田中店主は大の話し好き。人懐っこい笑顔で、美人画への深い思い入れをたっぷりとお伺いしているうちに、いつしか時間を忘れて身を乗り出してお話を拝聴していたのでした。

    インタビューで特に印象に残ったのは、美人画の鑑賞方法。「美人画を見る眼も、美味しいカレー屋を探すのも同じ。カレーを食べ歩きするように、まずできるだけ多くの美人画に触れるのが大事だよ」というシンプルなアドバイスが心に強く響きました。実は、田中店主が美術業界で本格的に働き始めたのは30代も半ばを過ぎてから。そこから美味いカレーを食べまくって、今日のような確かな審美眼と博覧強記を手に入れられたのです。

    現在、田中店主は現代美人画をさらに盛り上げていくため、次の構想を練っているとのこと。今後も現代美人画の盛り上がりを楽しみにしたいですね!

    ぎゃらりい秋華洞について

    ぎゃらりい秋華洞・田中店主

    ぎゃらりい秋華洞
    〒104-0061 東京都中央区銀座6-4-8 曽根ビル7F
    ぎゃらりい秋華洞:https://www.syukado.jp/
    「浮世絵ぎゃらりい秋華洞」:https://jp.japanese-finearts.com/
    SHUKADO CONTEMPORARY:https://shukado.com/
    (池永康晟さんら現代作家はこちら)

    Twitter:https://twitter.com/syukado
    Instagram:https://www.instagram.com/shukado_gallery/
    Youtube:https://www.youtube.com/channel/UCBaTCdgzzxnj0z1hvzkzuLQ
    店主・田中千秋の美人画コラム:https://www.syukado.jp/bijinga-column/

    書いた人

    サラリーマン生活に疲れ、40歳で突如会社を退職。日々の始末書提出で鍛えた長文作成能力を活かし、ブログ一本で生活をしてみようと思い立って3年。主夫業をこなす傍ら、美術館・博物館の面白さにハマり、子供と共に全国の展覧会に出没しては10000字オーバーの長文まとめ記事を嬉々として書き散らしている。