Culture
2020.05.04

拷問・処刑法「蛇責め」が怖い…前田利常など実例も紹介

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物語に登場する蛇のほとんどは邪悪なものというイメージが多いように思います。実際に苦手な方も少なくはないでしょう。ということは過去に、蛇を使った拷問や処刑があったというのもおかしくはありません。日本でかつて行われていた「蛇責め」についてご紹介します。

蛇と一緒に人間を閉じ込めて……

蛇を使った拷問、処刑法が日本で行われ始めたのは鎌倉時代。そのときの方法は、口の中に蛇を突っ込むという非常に強引なやり方でした。戦国時代になると、キリシタン弾圧の際に「蛇責め」という方法が多く見られました。手足を縛ったキリシタンを大量の蛇と一緒に放り込んで蓋をした壺や桶を人々が外から棒で叩いたり火をつけたりすることで蛇を刺激するというものです。すると、中にいる蛇は驚いて自分の近くにあるものに噛み付いていきます。人間も自分以外の蛇も見境ありません。

それだけではありません。蛇は穴に入り込むという習性があります。壺や桶に閉じ込められ、逃げ場のない蛇は、人間の口や、局部、肛門に潜り込んでいくのです。しかも、体内に入った蛇の鱗が一種のストッパーとなるため、容易に取り出すことはできません。そして、息ができなくなった蛇はなんとか外に出ようとして内臓などに噛み付くのです。なんとも想像するだけで鳥肌が立つおぞましい拷問です。

実際にこの「蛇責め」を行ったといわれている人物に前田利常(まえだとしつね)がいます。利常は、将軍・徳川秀忠の娘、珠姫と政略結婚し、仲睦まじく過ごしていました。しかし、幕府関係の情報が珠姫から漏れてしまうのを恐れた珠姫の乳母は、体調不良と嘘をつき、珠姫を利常から引き離してしまうのです。やがて、夫に会えぬ珠姫は悲しみのあまり衰弱してしまいます。そして亡くなる直前、すべて乳母の嘘であったことを彼女から告げられた利常は怒り、乳母を「蛇責め」によって殺害してしまうのです。

毒をもつものも多いことから蛇を使った拷問や処刑は、日本のみならず世界中で行われていたようです。中国では殷の時代、九尾の狐の化身で悪女として知られる妲己(だっき)が行った、毒蛇やサソリを入れた穴の中に突き落とす「蟇盆(たいぼん)」。ヨーロッパでは、洞窟にたくさん送り込んだ毒蛇や爬虫類、昆虫などに噛ませたり刺させたりして中にいる囚人を毒死させる「薔薇の洞窟」と呼ばれる方法があったそうです。

ところで、なぜ蛇に恐怖を感じてしまうのだろう?

「蛇責め」について紹介しましたが、そもそもなぜ私たちは蛇に(襲われる状況でなくても)苦手意識を持ってしまうのでしょうか。蛇を使った拷問や処刑は大昔からありました。しかし、縄文時代には脱皮を繰り返すことから蛇が再生の象徴として信仰されていました。実際、縄文土器の文様や把手(とって)部分に象(かたど)られているものも多くみられます。また、神話にもたびたび登場し、古代エジプトでは生命を象徴する存在であり、死を運ぶ忌まわしく強力な力を持つ畏怖の存在でもあるとされていました。そう考えると、二面性を持った唯一の生き物と言えるかもしれません。

では、なぜ苦手なのか。名古屋大学情報科学研究科・川合信幸准教授らの研究によると、その秘密は、人間の祖先である霊長類が樹上生活をし始めた6500年前に遡るといいます。霊長類を捕食できたのは、ワシやタカ、ネコ科の動物、そして蛇がいましたが、30メートルを超える枝の生い茂った場所にいる霊長類まで辿り着けるのは、蛇だけだったと考えられています。そんな蛇から身を守るために人間は、木や葉っぱの茂みなどにうまくカモフラージュする蛇を敏感に見分ける力が脳内で発達するようになったといわれています。つまり、人間の目は、蛇のカモフラージュを見破る能力が長けているがゆえに、すぐに恐怖を感じてしまうのです。

世界では、蛇以外にもライオンやネズミ、ゾウ、タカなどあらゆる生物が拷問や処刑に使われてきました。その内容はどれもあまりにも恐ろしいですが、人間の知恵によって使われてきた生き物たちも犠牲者であった、ということを忘れてはならないと思います。

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名作『封神演義』にも「蟇盆」のシーンがあります!


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1995年、埼玉県出身。地元の特産品がトマトだからと無理矢理「とま子」と名付けられたが、まあまあ気に入っている。雑誌『和樂』編集部でアルバイトしていたところある日編集長に収穫される。趣味は筋トレ、スポーツ観戦。