「STAY HOME」という言葉が定着し、今までとは違った生活の中で、SNSには布マスクをはじめ、いろいろな手作りのものがアップされています。各自工夫を凝らし、「STAY HOME」を楽しむ様子に、改めてものづくりの国なんだと、日本の良さを再発見。手作りの良さを見直したり、少し前の暮らし方からヒントを得たり。それってとても素敵なことですよね。
この自粛で新たなブーム? となっているオンライン飲み会ですが、これも家飲みの共有バージョン。一味違った楽しみも広がっています。そんな家飲みにおすすめしたいのが、日本古来から使用されている「枡」です。「枡」で日本酒を飲むなんて、ちょっと敷居の高い日本料理屋などをイメージしちゃいますよね。でも「マイ枡」があれば、ゆったりくつろぎながら、気分を変えて家飲みが楽しめますし、自粛生活での疲れもひのきの香りが癒してくれるのです。
神聖な酒杯として愛されてきた枡は、実はエコだった
「枡」と言えば、酒造メーカーの鏡開きや相撲などの伝統行事の祝杯、節分、結婚式などのハレの日のイベントなどに使用されています。ひのきで作られていることから神聖なものというイメージもあります。高級感のある枡ですが、実は建築材料に使用された端材で作られているのをご存じでしょうか。国産ひのきから柱や鴨居などを切り出す際に出る不要となった木材を使用しているのです。丈夫で長持ち、割れることもなく、水にも強く、材料も再利用とくれば、究極のエコ商品と言えマス!
水の都と呼ばれる岐阜県大垣市は、全国シェア80パーセントを誇る枡の生産地
岐阜県大垣市は、山に囲まれ、木曽ひのきの森林が豊かなこともあり、枡の全国シェア80パーセントを占めています。しかし、枡の需要が減るにつれ、現在では、大垣市内にある枡の専門メーカーは3社のみとなってしまいました。そんな中、枡の魅力をもっと広めようと新たな取り組みにチャレンジしている枡メーカーがあります。斬新なカラーを採り入れた「カラー枡」をはじめ、戦国武将の焼き印入りやウルトラマンやゴジラシリーズなど、次々とユニークな枡を作り、さらには現代の生活にマッチしたトレイやコーヒーカップ、インテリアまで手掛ける大橋量器。枡を自分で作れるDIYキットを販売し、工場内では枡づくりのワークショップも開催しています。現在は新型コロナウィルスの影響でワークショップは中止となっているため、工場見学と枡の活用についてお話を伺ってきました。
縮小される枡業界をアイディアで再生。伝統産業の新たな可能性を拓く
― 現在では、枡は酒杯のイメージが強いですが、もともとの始まりは量りですよね。
大橋:今でもお米を炊く場合、一合、二合と表現するように、もともと枡は穀物の量りのために作られたものでした。古くは奈良時代、平城京跡近くから出土していて、穀物を量る道具として長年にわたって使われてきました。ただ、一升枡は、現在の十合ではなく、その量は、地域によってまちまちだったようです。豊臣秀吉によって施行された太閤検地で、一升枡の容量が統一されたと言われています。
― 1950年創業で、今年で70年ということですが、枡の需要が大きく変わってきたのはいつ頃からでしょうか。
大橋:東京での仕事を辞め、1991年に家業を継いで3代目となりました。しかしバブルがはじけた頃から、徐々に需要が下がり始め、酒造メーカーへ主に卸していたのですが、どんどん売れなくなってしまいました。当時、大垣市内に枡専門メーカーが11社あったんですが、業界の存続自体が危機に陥ってしまった。それで四角形の枡にこだわらず、変わった形のものや植物を入れる容器など生活雑貨への製造にもチャレンジしました。いろいろな形でのオーダーは来たのですが、なかなか量産へ結びつかなかった。それで、根本的な見直しをし、枡の魅力を一般の人に知ってもらうために、工場の前に枡だけを販売する工房を作りました。それが話題となり、取材を受けるようになって、転機となったんです。
― その頃、海外からも枡に注目が集まるようになったんですよね。
大橋:白木の枡にカラーリングしてデザイン性を高めたりしたんです。それで海外の展示会にも出店するようになると、ロンドンとニューヨークから「ポール・スミス」のバイヤーがやってきて、即、オーダーが入ったんです。
― それはディスプレイとしてだったのですか?
大橋:私も最初そう思ったのですが、実際、ニューヨークの五番街の店で販売されていました。「伝統的な箱で日本の量り」として紹介され、ものすごく高い値段で売られていてびっくりしました。ニーズはあるとわかり、ビールジョッキやコーヒーカップ、美大生とプロジェクトを組んで作った枡にバスソルトを入れたバスグッズ、照明など、四角い枡型を活かしてできるものはトライしてみました。シンプルな形状だからこそ、いろいろなものとの組み合わせが可能なこともわかり、インテリアなども提案するようになっていったんです。
70年の伝統が作り出す、長年愛される枡ができるまで
ひのきの端材を乾燥させ、成形し、枡型を作る工程は、細かい作業の連続。その緻密な作業により、あの美しい枡が出来上がるのです。1950年創業の大橋量器では、創業時職人の手により、カンナで削っていた作業を徐々に機械化していきました。それでも製品の目視チェックや最終の仕上げは職人の手によって行われ、あの寸分たがわず美しい四角い枡が出来上がるのです。その工程を紹介します。
仕入れてきた国産ひのきの端材の水分や油分を乾燥によって散らします。この乾燥の工程では、木の収縮を抑え、ヤニを出にくくし、材料を落ちつかせます。
材料の下面、右面、左面、上面と4面同時に削っていきます。機械で表面を削り加工。その後、出口の機械で超仕上げと呼ばれる枡の内側部分をかんな掛けしていきます。
次に、駒切りと言って板を枡の寸法にカットしていきます。さらにカッターで枡を組む時の溝(ほぞ)を掘る機械に通して、左右対称の溝を彫った駒ができます。溝ができた駒にのりを一度に20個刷毛で塗っていきます。のりを均一に素早く塗るのは熟練した職人技だからできることです。
仮り組みと言って、のり付けされた状態の駒を4枚1組で四角い形に組み、軽い圧を掛けて形にしていきます。
空気の圧力を利用し、締め機で締め上げながら、本組みされた商品を目視で品質チェックをしていきます。底をつける前に上部と下部を平らになるように削り、完成した木枠に底板をのりで貼り付けます。機械で乾燥させると、枡の原型ができあがります。
仕上げ削りは、円盤カンナと呼ばれるグルグル回るかんな削りの機械で側面4面を一気に削っていきます。
最後に面取りと言って、製品の角を丸め、使う人にとって優しい手触りや口当たりに仕上げます。機械や手作業で枡の全12辺の面を取り、枡が完成です。
器として活用すれば、枡を使ったおもてなしがお家でも!
家飲みを盛り上げる酒杯だけでなく、器として使用することで、ちょっとしたおもてなしにも! いくつかトライしてみたので、ぜひ参考にしてみてください。
<お酒おつまみセット>
五勺枡はおつまみを入れるのに最適な大きさです。普通のおつまみがお店の一品に見えて、家飲みが一気にグレードアップ!
<ちょっと贅沢なプチ海鮮丼>
お茶碗半分の酢飯を詰め、魚介類をトッピングしていきます。お家にいながらにして、ちょっと贅沢な味わいを感じられます。
<やっぱり、別腹スイーツ!>
家飲みをしながらも甘いものも食べたい~という時におすすめです。自分で作れなくても市販のものを買ってきて、器に入れるだけで気分はグーンと上がります。
新型コロナウィルスは、たくさんのものを奪いましたが、過剰だった生活に歯止めを掛けたり、当たり前にあった日常を大切にしたりする心を思い出させてくれました。この機会に昔から受け継がれてきた伝統を見直してみるのも一つ。身近なものを新たな視点で取り入れてみると、また新しい世界が広がるような気がします。
大橋量器
大橋量器では、新型コロナウィルスで、イベントが相次ぐ自粛となり、製造した枡にもたくさんのキャンセルが出ており、現在、職人さん支援するクラウドファンディングを立ち上げています。
クラウドファンディング
枡工房ますや
岐阜県大垣市西外側町2-8
公式ホームページ
masu cafe
住所:岐阜県大垣市東外側町2-9
広瀬第2ビル1F
営業時間:日~火・木 10:00~18:00
金・土 10:00~19:00
定休日: 水曜・毎月第2・4日曜日
(商店街や大垣市内のイベント等によって臨時営業する場合があります)
masu cafeサイト