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2020.09.03

クイズ!京都・三十三間堂1,001体の千手観音立像は、どのようにお手入れされている?

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三十三間堂はなんだか惹かれる。堂内に座り、気品をたたえる観音様が整然と並ぶ姿をぼーっと眺める、ただそれだけでいい。

ところで、訪れるたびにいつも思うことがある。一体どうやってお手入れされているのだろうと。水拭きはできないはず。まさか、ハンディーワイパーなどで優しく撫でている?いや、それはない。だって国宝だもの。

混雑時は本堂に入る人数を制限しているとはいえ、年間100万人もの人が訪れる場所。障子を開けて換気しているのに床はいつもピカピカで埃もみかけない。ますますどうやってお手入れしているのかが気になった。

基本的にお体には触れない

ふと、障子の外を見ると、職員の方が慈しむように濡れ縁を丁寧にモップがけする姿が目に入った。思わず話しかけると「濡れ縁も堂内の床も毎日モップで乾拭きしている」という。そして、拝観者の歩く絨毯が敷かれた通路は「閉館後に毎日掃除機をかけている」と教えてくれた。

なるほど、床がピカピカなのは、そういうことだったのか。では、仏像はどうするんだろう?そこで、今度はお坊さんにたずねてみた。

すると、剥落などがあるため「基本的にお体に直接ふれることはしない」と教えてくれた。著名な寺院では仏像の埃を払う「お身ぬぐい」を行うが、三十三間堂の立像は損傷等の可能性があるため、基本的には触れないという。万が一触れる場合には筆を使い、優しく埃を払うのだそう。そして「お手入れや修理はすべて京都国立博物館内にある財団法人美術院にお任せしている」とのことだった。

蓮華王院は日本唯一の千体観音堂

三十三間堂は正式名称を「蓮華王院」という。1164年、院政を行った後白河法皇の発願により平清盛が建てたもので、南北120メートルに伸びる本堂には柱間が33あることから「三十三間堂」と呼ばれるようになった。

堂内には中尊・千手観音坐像を中心に左右に各500体、背後に1体、計1,001体もの千手観音立像並が並ぶ。千手観音立像の前に安置されている二十八部衆像と風神雷神像を含め、2018年には堂内すべての仏像が国宝に指定されている。

千手観音立像は等身大で檜材の寄木造漆箔押し。創建時のものは124体で、それ以外は1249年の建長の大火で焼失してしまったというが、運慶の長男である湛慶を筆頭に仏師が集まり、16年ほどの歳月をかけて復元されたそうだ。

千手観音立像は寄木造の漆箔押し

寄木造とは2つ以上の材木を寄せ合わせて作る伝統的な技法で、平安時代後期に確立されたという。

像の大きさにより複数材を寄せて体幹部を作り、荒彫りした上で各パーツの内部を削って空洞化し、軽量化を図るとともに割れやくるいを止める。細部の彫刻ができたら漆や膠(にかわ)、釘、鎹(かすがい)などで接合し、仏像の材と材の接合部である矧目(はぎめ)に木屎漆(こくそうるし)や布貼りを施す。

千手観音立像の場合は最後に、漆を塗った上に金箔を押す漆箔が施されているという。

修理は輪廻のごとく

千手観音立像は鎌倉時代から江戸時代にかけて幾度となく修理されてきたが、それ以降、本格的な修理は行われていなかったという。そこで1936年、国宝や重要文化財などの修理を専門に行う公益財団法人美術院の工房に運び込まれた。調査したところ体幹部の矧目が緩み、持物の欠損もみられたため、約20年かけて欠失部分の補足が行われた。

1973年からは、埃の除去・清掃とともに、漆箔の剥落と浮き上がりを止める修理が行われた。漆箔層の浮き上がっている部分に注射器で合成樹脂を注入すると、今にもこぼれ落ちそうな漆箔がぴったり接着されるという。

修理は大切だが、作品に負担をかける行為でもある

文化財は「現状維持修理」が基本。修理は作品の見栄えを良くし価値を高めることが目的ではなく、新品のようにきれいにすることでもないという。だから、表面の埃や汚れを取り、傷んだ部分は直すけれど、必要以上のことをしない。

そもそも修理は大切だが、その一方で、作品に大きな負担をかける行為でもある。だからこそ、修理に際しては作品の現状を十分把握した上で綿密な修理計画が立てられる。

長い間に様々な影響を受け、経年変化により痛んだ作品は既に、何度かの修理を受けているものが多い。その際に手を加えられオリジナルな部分が改変されている場合も少なくないという。そのため、後に行われた部分を除去するかどうかの判断も慎重に行うそうだ。

観音様のお顔は同じように見えてそれぞれ違う。亡くなった息子さんの面影を重ね、毎年訪れる方もいるという。

2017年には45年におよぶ全千手観音立像の保存修理が終わり、2018年には学術研究に基づいた配置換えが行われた。二十八部衆像と風神雷神像は現在、創建当時に近づけた位置に置かれている。

お手入れされ創建当初の世界が蘇り、観音様も安堵しているのかもしれない。

アイキャッチ画像:『田米知佳画集』国立国会図書館デジタルコレクションより

書いた人

医療分野を中心に活動。日本酒が好き。取材終わりは必ず美味しいものを食べて帰ると心に決めている。文句なく美味しいものに出合うと「もうこれで死んでもいい!」と発語し、周囲を呆れさせる。工芸であれ、絵画であれ「超絶なもの」に心惹かれる。お気に入りは安藤緑山と吉村芳生。