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2021.08.08

横尾忠則とは何者だったのか?カオスの王様を堪能せよ!

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東京都現代美術館で開かれている「GENKYO 横尾忠則 原郷から幻境へ、そして現況は?​​」展には、1960年代から60年以上にわたって活動を続けてきた横尾忠則の作品が600点以上出品されているそうです。訪れたつあおとまいこの二人は、会場に満ちたエネルギーを、描かれた水と一緒に浴び始めました。

美術展でエネルギーチャージ?

えっ? つあおとまいこって誰だって? 美術記者歴◯△年のつあおこと小川敦生がぶっ飛び系アートラバーで美術家の応援に熱心なまいここと菊池麻衣子と美術作品を見ながら話しているうちに悦楽のゆるふわトークに目覚め、「浮世離れマスターズ」を結成。さて今日はどんなトークが展開するのでしょうか。

花魁が女神様?!

つあお:横尾忠則さんと言えば、滝です。

まいこ:えっ?! そうなんですか?

横尾忠則『滝』 1982年、東京都現代美術館蔵 展示風景

つあお:横尾さんはすごくいろんなモチーフを描いているので言い切ってしまうわけにもいかないんですけど、けっこう滝をたくさん描いている。たわくし(=「私」を意味するつあお語)にとっては、滝の画家なんですよ。

滝の画家……!

まいこ:この展覧会は横尾さんの集大成ということでものすごい数の作品が展示されてますけど、たしかに滝のモチーフもたくさん出てきますね!

滝をモチーフにした作品が並んだ展示室

つあお:とにかく思い入れがすごく強いテーマなんだと思います。

まいこ:私は横尾さんの「Y字路」シリーズがとても強く印象にあったのですが、滝をこんなに描いていたとは!

つあお:最初から余談に入りますが、実はね、すみだトリフォニーホールという、東京の錦糸町にあるクラシックの音楽ホールの舞台裏にも、横尾さんの滝の絵がかかっていたりするんです。

まいこ:それはレア情報! 一度コンサートを聞きに行ったことがあり素敵なホールだと思いましたが、舞台裏だと一般のお客さんは見られないですね。

つあお:滝は日本では神聖視されてきた存在。和歌山県の那智の滝が象徴的。そして、クラシック音楽のホールも「神」が宿る場所。演奏者はその神聖な空気の中を通ってステージに出るわけです。

まいこ:さすが、つあおさん、「日曜ヴァイオリニスト」を名乗っているだけのことはありますね!

つあお:ここのホールではたわくしも時々演奏しているのですが、演奏前に人知れず拝んでます。

まいこ:へぇ。それで、それはどんな絵なのですか?

つあお:小さな滝の絵が70枚集められたものなんです。東京都現代美術館のこの展示では、滝の部屋がわざわざ造られていましたよね! それを見て思い出したんです。 

天井まで圧巻!

滝の写真の絵葉書が壁にぎっしり貼られた展示室

まいこ:そうそう。この部屋は何なのだろうと思ってよく見たら、滝の写真の絵葉書が大量に壁に貼られていてびっくりしました。これだけの絵葉書を集めたということなのですね。やっぱり横尾さんは、滝にすごい思い入れがあるんだ!

つあお:水は命の源とも言えますから。そして自分では滝をモチーフにした大きい絵を描いている。この展覧会ではたくさん見られて素晴らしい!

滝をモチーフにした作品が並んだ展示室

まいこ:1枚だけを見ても、画面に色々な滝が登場しているように見えます。

つあお:こんな滝が本当にあったらすごいですよね!

まいこ:滝が縦横無尽に流れ落ちてガラスの破片のように組み合わさってる!

つあお:まさに、天が作った造形物というイメージです。

まいこ:虫や猫や人物が登場するので天地創造感が出てますね!

よ〜く見ると、シルエットでいろんな生物が!

横尾忠則『四季の女神』 1990年、個人蔵 展示風景

つあお:この絵では、真ん中の花魁(おいらん)っぽい女性が、凄まじいインパクトを放っています!

まいこ:本当に! 周辺はけっこう西洋的な雰囲気なのに、花魁の彼女が全体を仕切ってる。

つあお:今この絵を見て思ったんですけど、まさに花魁と言う漢字そのままのイメージじゃないですか?

まいこ:カオス的狂乱な感じがそうかも!

つあお:異常なほど艶やかな髪飾りのイメージは花のようにも見え、場面を支配してますもんね。この絵のタイトルは『四季の女神』。やっぱりこの花魁が女神様なんでしょう。

まいこ:きっとそうですよ! やはり日本の四季は、花魁が顔としてシンボライズしてくれてるのですね。

つあお:実はちょっと顔がピカソっぽいところも面白い。

まいこ:何気に和洋折衷されてますね。

つあお:この花魁には鏡を向けられてるけど、鏡には一体どんな顔が映っているのか、ちょっと気になったりもします。

まいこ:この手鏡が、浮世絵のような雰囲気を醸し出していて素敵です! 持ってる女性が自撮りしてるようにも見えますよ。

つあお:Wowそれは現代的だ。

たしかに、見る人によって異なる物語が見えてくるかも。

まいこ:つあおさんがお好きな猫もチラホラいたり。

つあお:猫も世界を構成する重要な要素だから!

まいこ:花魁の左上にいる猫は、透明になって滝の一部と化している。まるで滝が憑依(ひょうい)しているみたいです。

入浴の美学

つあお:滝は水が落ちてできるものですが、横尾さんはその真逆ともいえるモチーフもときどき描いています。

まいこ:何ですか? もったいぶらずに教えてください。

つあお:「風呂」です。

風呂をテーマにした作品群の展示風景

まいこ:この3枚ですね! よく浮世絵に登場するような日本人女性がたくさん入浴していますね!

つあお:そうそう、入浴シーンを描くのは、浮世絵の伝統でした。フランスの画家、エドガー・ドガは鳥居清長などが描いた日本の浮世絵の入浴シーンにヒントを得て、自分でもそんな絵を描いています。

へ〜! 日本の浮世絵がフランスの絵画に影響を!

まいこ:横尾さんの絵では、女性たちは小さな手ぬぐいを持って悠々と体を洗ったりしている。風情がありますね。

つあお:今は日本でも銭湯が少なくなりましたけど、みんなでお風呂に入るのってなかなか楽しいと思うんですよね。

まいこ:実は、私は銭湯に行ったことがないのと、温泉にもそんなにこだわっていないので実感がわかないのですが。。。

つあお:わーお! 気づいたら温泉に一人旅に出かけているたわくしの某親類と逆だ(汗)。もちろん、一人でお風呂を堪能するのも楽しいと思いますよ。

まいこ:あえて言うなら、私は個室バス派ですかね! 

つあお:湯船に入ると、それだけでリラックスしますもんね。浸かったとたんに後頭部が緩む感じがたまらないです。誰にも邪魔されずに、というのも悪くないです。

横尾忠則『人生浴場』 2004年、作家蔵(横尾忠則現代美術館寄託) 展示風景

横尾忠則『人生浴場』 (部分)
左下に小さく描かれた猫菩薩半跏思惟像?に思わず見入ってしまった。

まいこ:でも、そんな私でも、日本人は入浴シーンが好きだなぁとは思いますよ。やっぱり魅力的なんでしょうね。私は子どもの頃の記憶として、テレビ番組の『ドラえもん』でしずかちゃんの入浴シーンがいつも出てくるのを不思議に思っていました。

つあお:そうそう、やはりテレビ番組の『水戸黄門』でも、必ず由美かおるさんの入浴シーンがありましたね。

まいこ:バラエティ番組などでも、女性タレントが旅に出るとよく入浴シーンを映しますよね! これはもしかして日本文化なのでしょうか?

つあお:私の男友だちには朝昼晩3回風呂に入るっていう奴もいるから、やっぱり日本人は風呂好きなんじゃないかな。

まいこ:でも、横尾さんの絵はすごいですね。この真ん中の絵なんて、あのモネの睡蓮の池に入浴してますよ! 水を見つければ入浴する日本人!

すんごい発想力! 睡蓮の池がお風呂だったら……やっぱり気持ちよいんだろうな〜。

つあお:モネも日本が大好きだったから、きっとこの絵を見たら大喜びするんじゃないかな?

まいこ:確かに! 浮世絵もコレクションしていたモネですから、この入浴する日本人美女と自身の名作とのコラボには感動しそうですね。

つあお:まぁ日本人の風呂好きは、清潔好きとも重なっているので、一種の美学を生んでいるとも言えなくもありません。

まいこ:入浴の美学?!

つあお:先ほどの滝の絵とも重なりますけど、体すべてを清めるっていう感じでしょうか。

まいこ:素晴らしい!! ずぼらな私も、香水でごまかすのではなく滝に打たれたり入浴したり、ちょっと頑張ってみたいと思います!

つあお:ジャパナイズまいこの登場に期待します!

横尾忠則『夢千代日記』 2007/10年、作家蔵(横尾忠則現代美術館寄託) 展示風景
二つの露天風呂ではまったく同じ女性たちが入浴しており、横尾の代表的なシリーズである「Y字路」のモチーフや和装の女性のシルエットも見える。横尾らしい不思議さに満ちた1枚だ。

まいこセレクト

横尾忠則『最初の晩餐』 2020年、作家蔵 展示風景

この作品のタイトルはなんと『最初の晩餐』! 「パロディですよー」と名札を貼ってあるようなこのタイトルとテーブル上で踊る珍妙な女性の姿に瞬時に吹き出してしまった。この作品を最初に見たのは、2020年6月に国立新美術館で開催された「古典×現代2020-時空を超える日本のアート」展。コロナ禍中最初の年で、初めての緊急事態宣言直後という緊張感ある空気の中開催されたので印象深く覚えています。2回目に会ったこの日もまだコロナ禍中とは! 3回目にこの作品に出会う時は「Without Corona」(横尾さんの言葉から引用)でありたい!

なんとハッピーな絵! 私もこの絵、好きです。

つあおセレクト

横尾忠則『アマデウス369』 1997年、個人蔵 展示風景

赤を基調とした画面の中の半跏思惟像。描かれているのは、作曲家のヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトではないか。「日曜ヴァイオリニスト」を自称するつあおとしては、心の高鳴りを抑えることができない。確かにモーツァルトも神仏の世界に近い人間だったに違いない。

つあおのラクガキ

浮世離れマスターズは、Gyoemon(つあおの雅号)が作品からインスピレーションを得たラクガキを載せることで、さらなる浮世離れを図っております。

Gyoemon『猫行者』

滝行は大変な修行…であるはずだが、猫行者(ねこのぎょうじゃ)にとっては、実際はどうなのだろうか? 悟りの境地? 桃源郷? 行き着く先ははたしてどこなのか?

展覧会基本情報

展覧会名:GENKYO 横尾忠則 原郷から幻境へ、そして現況は?
会期:2021年7月17日~10月17日
会場:東京都現代美術館
※大分県立美術館(2021年12月4日~2022年1月23日)に巡回予定​​
公式ウェブサイト:https://genkyo-tadanoriyokoo.exhibit.jp/

書いた人

つあお(小川敦生)は新聞・雑誌の美術記者出身の多摩美大教員。ラクガキストを名乗り脱力系に邁進中。まいこ(菊池麻衣子)はアーティストを応援するパトロンプロジェクト主宰者兼ライター。イギリス留学で修行。和顔ながら中身はラテン。酒ラブ。二人のゆるふわトークで浮世離れの世界に読者をいざなおうと目論む。

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我の名は、ミステリアス鳩仮面である。1988年4月生まれ、埼玉出身。叔父は鳩界で一世を風靡したピジョン・ザ・グレート。憧れの存在はイトーヨーカドーの鳩。