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2022.06.03

デザインは間を適切につなぐこと。「佐藤卓TSDO展〈in LIFE〉」/佐藤卓さんインタビュー

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どうして、こんなところに、ひとんちの冷蔵庫の写真が!?

東京・銀座のギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)で開催中の「佐藤卓TSDO展〈in LIFE〉」の会場に入ると、大きな写真が目に飛び込んできた。そこに写されていたのは、冷蔵庫の扉のポケットのなか。

「普通の家庭の、冷蔵庫の景色です」

そう答えるグラフィックデザイナーの佐藤卓さんは、いたずらを仕掛けたかのように、なにやら楽しげだ。よーく見るとそこには、「明治おいしい牛乳」「キリン 生茶」から、生わさびに代表される「S&B 本生シリーズ」のチューブ類……「クリンスイ」の浄水器まで! 佐藤さんがパッケージやシンボルマーク、プロダクトのデザインを手掛けた商品がズラリと並んでいる。

果たして、展覧会の狙いとは? これまでの仕事と実験的作品を展示する会場で、佐藤さんにお話を伺った。

1階展示風景。中央が〈冷蔵庫〉のアートワーク。写真は写真家のホンマタカシさんによる ※会場での撮影はすべて森聖加
佐藤卓(さとう たく)さん プロフィール
1979年東京藝術大学デザイン科卒業、1981年同大学院修了。株式会社電通を経て、1984年佐藤卓デザイン事務所(現 株式会社TSDO)設立。パッケージデザイン、シンボルマークデザイン、商品開発、アートディレクション、子ども向け教育番組の総合指導、展覧会の企画・開催など、その活動は多岐にわたる。21_21 DESIGN SIGHT館長兼ディレクター

ニッポンの日常をニュートラルにデザインする

「スーパーのレジに並んでいて、前の人のカゴに私たちの関わった商品が入っていると、とってもうれしいんですよ。少しは何かお役に立てたのかな、と思って」

佐藤さん、およびそのデザイン事務所、TSDOが手掛けてきた仕事は、スーパーマーケットやコンビニで扱われる大量生産品のパッケージデザインが核にある。先の冷蔵庫のなかにあった「明治おいしい牛乳」をはじめとする飲料や食品のほか、「ロッテ キシリトールガム」などのお菓子、「エリエール トイレットペーパー」ほかの生活用品といった具合だ。さらに領域は広がって、化粧品やブックデザイン、「にほんごであそぼ」「デザインあ」などのテレビの教育番組もそう。「デザインの解剖」や「縄文人展」など独自の切り口で企画・展示する展覧会、地域活性化事業やブランディングにも及ぶ。仕事の幅がとにかく広い。

地下1階の展示室。展示されているのはTSDOの仕事のごく一部。展示用什器は展覧会終了後のことも考慮して段ボールを採用

会場の地下1階には、そうしたこれまでの仕事の数々がジャンルで分類され並んでいる。「わー、このデザインも佐藤さん? 私、使ってる! ウチにもある!」という声が(マスク着用のため、おそらく鑑賞者の心の中で)つぶやかれているだろう。いわば、ニッポンの日常のモノやコトをデザインしてきた。だから、今回の展覧会名〈in LIFE〉にも、佐藤さんが繰り返し説いてきた「デザインは特別なものではなく、常にあたりまえの生活の中にある」という思いを込めたそうだ。

「自分なりに言語化をすると『デザインは間を適切につなぐこと』だと私は考えています。デザインは目的ではなく、あるモノとコト、人や環境を間でつないであげるもの。例えば牛乳のパッケージは、牛乳という液体と多くの人を間でつないでいます。そこには名前があり、入れ物があり、パッケージデザインがあり、広告があって、間がつながれる。グラフィックデザインでスキルを身につけたわけですが、そのスキルを何に使ったってかまわないんじゃないかと若い時から思ってきました」

「明治おいしい牛乳」シリーズ。2002年に全国販売され、現在も続くロングセラー。この間、パッケージデザインには細かな調整が何度か加えられ、製品は日々進化している

一堂に集まった佐藤さんのデザインを眺めていて思うのは、商品や企画ごとに驚くほど表現が違うこと。例えば、次のふたつを見てもそれは明らか。

「ニッカ ピュアモルト」とそれに続く「フロム・ザ・バレル」は、佐藤さん自身の大きな転機となった仕事。欧米の文化であるウイスキーをその模倣から解き放ち、日本風に過激に進化させたものという。佐藤さん自身が飲みたいと思うウイスキーのあり方を突き詰めた結果だ。1980年代というバブルの真っただ中に、ボトルのデザインを控えめにすることで、飲み終わったあとの再利用まで想定して世に出された。ただし、発売時にはリユースして花瓶などに使うといったアイデアは一切明かさずに。

左が「ニッカ ピュアモルト」(1984年)。中央の「フロム・ザ・バレル」も1985年以来、デザインは変わらない

一方、こちらは「神戸コロッケ」の店舗販促ツールと「いちおしキムチ」のパッケージデザイン。ウイスキーボトルとは打って変わって、コロッケは「ハフハフッ」と揚げたてを頬張りたくなる、香りさえ漂うような和気あいあいと楽しげなデザイン。力強い書体で「いちおし」されるキムチは、コクのある辛さが想像されて……。「ブランドらしさを表現することは前提として、キムチはキムチらしく、コロッケはコロッケらしさを追求した」のだそう。

神戸コロッケ 店舗ツール(2003年~)、いちおしキムチ(2021年)

デザインに向かう姿勢は常にニュートラル。「入り口は興味なんです。それが私の範疇ではないと考える、考えない以前に『え、何それ! おもしろい』と思っちゃう。そこからすべてがはじまります」。自分のスタイルを持たず、そもそも「一切、持ちたくない」とも。「表現にデザイナーの個性が宿っていると考える人が多いし、また、そういう教育も受けてきます。しかし、商品はデザイナーの作品ではありませんから、その個性を表現する必要はありません。価値はすでに存在しているのですから」

「チ・ロ・リ・ア・ン」? デザインのヒミツは会場で!

垢抜ける必要のないデザインって?

日本各地の地域プロジェクトも積極的に取りくむ仕事のひとつ。2007年から続く茨城県での「ほしいも学校」、2008年からは愛媛県の「真穴みかん」の最高級ブランド立ち上げにも取り組んだ。「岐阜県では美濃焼の全体を世界に伝えようと〈セラミックバレー〉と名付け、シンボルマークもつくって、今、地元の人たちと活動を続けています」

全国シェア約8割を占める茨城県の干し芋。プロジェクトでは“ホシイモノ(欲しいもの)が総て手に入る”という「ほしいも神社」までつくってしまった

ただ、デザイナーが地域に入って活動することの全般を見たときに、佐藤さんにはギモンがあった。「地域プロジェクトでは自分の作品を作ろうとする人が多いなと思っていました。それはまあ、一つの方法なんですけど、作品をつくるとそこに多くの人の目がいって、本当に注目してもらいたい地域の活動に目がいきません。自分はそうではないお手伝いの方法がないかと考えた。デザインにはフォーカスさせず、人の意識が地域の中へ向くようにすることが重要だと思っています」。表層のデザインだけでなく、仕組みをつくること、それもデザイン、と佐藤さん。

誘いを受けた地域には、何をやりたいかを一切持たずに手ぶらで行く。まず話を聞き、ものづくりの現場を見学し、地元の人たちと酒を飲んで本音を聞く。いろんなコミュニケーションをとりながら、最適な解を見つけていく。「これも〈過去と未来〉、〈現在と未来〉の間をつなげていくこと。とかく、デザイナーはおしゃれに、垢抜けさせようとするけれど、それはデザインをモダンにするだけ。均質化するだけ。地域で育まれたデザインをいい形で残す。この国が目指したものとも言えますが、日本には縄文時代から続くデザインが脈々とあるのです。変な言い方ですけど、できるだけデザインをしないで済ますことも大切です」

東日本大震災で被災するなか、支援物資が届くまでの数日間、たくさんの人々を救った宮城県・木の屋石巻水産の缶詰。その力強さを、パッケージデザインに落とし込んだ(2011年~)。会社のシンボルマークを新しくつくってプレゼントし、復旧を支援した

「デザイン=特別なもの、かっこいいもの」という一般常識をブチ壊す

他者との関係のなかで発生する仕事に対して、自発的に行う実験的作品の発表も佐藤さんは続けてきた。1階にはそれらを中心に展示している。「例えば面白いマシンに出会った時に機械の目的を外れて使えないか、とアイデアが生まれます。そこから何が得られるかはやってみないとわからない。だから実験なんです」

『ひらがな立体』(佐藤卓展「2つの実験」[2009年]会場:巷房)は、紙専用の3Ðプリンターを使って、ひらがなの優美な形と音を佐藤さんが感じるイメージで立体的に表した作品。傾斜に注目

壁からは、何やら大きな物体が飛び出して。これって、もしかして? あの牛乳なのでは?

「『何これ? 意味がわからない』。たぶん、多くの方がそう言うと思います。いいんです。いいんです。全然、意味なんて関係ない。仕事では人を説得して行く力が必要とされるけれど、理屈ではない、言語化されていない感覚が必ず優先されていて。ただ、感覚の部分は社会では削除され意味がないと言われたり、わからないものは無駄だと切り捨てられる。でも、実のところは、社会的に機能するデザインを行っていくうえでも、全ての人が一人間として素直に感じる感覚をもっと生かせば、社会はより豊かになるんじゃないか。そんなメッセージを込めているところがあるんです」

佐藤卓さん。2021年に銀座のギャラリー「巷房」で発表した、壁から飛び出す大きな『MILK』。背景の「明治おいしい牛乳」は実物のパッケージ (撮影のときのみマスクを外していただきました)

――冷蔵庫の写真にも衝撃を受けました! あの製品、ほとんど佐藤さんが関わったものですよね。

「そう、普通の家庭の、冷蔵庫の景色です。まったく小綺麗にしてない。デザインって小綺麗に伝えることが多いと思うんです。でも、世の中ってキレイなものばかりではありません。町にはダウンタウンもあるし、混とんとしている部分もあって。『デザイン=特別なもの、かっこいいもの』というイメージをブチ壊したくて。『かっこいい? いや、そうじゃないだろう』と。最終的にはゴミにもなる景色がデザインの現実だと思う。それも含めて、デザイナーのやるべき事、デザインがやるべき事、力になれることはある。それを直視するべきだというメッセージをビジュアル化しました」

捨てられた『ロッテ キリシトールガム』Photo:©Takashi Homma

2階では、山中有さんとともにつくった映像作品も展示している。また、会場のギンザ・グラフィック・ギャラリーに隣接するMMM(メゾン・デ・ミュゼ・デュ・モンド)の3Fギャラリーでは、展覧会連動企画として最新刊『マークの本』(紀伊國屋書店)を含む書籍やグッズ販売のほか、シンボルマークデザインのスケッチの展示も。佐藤さんの仕事と作品、その振り幅の大きさに圧倒されながら、自らの日常を改めて見直したい。

MMM(メゾン・デ・ミュゼ・デュ・モンド)3Fギャラリーで展示中のスケッチ。デザインの過程が垣間見れる貴重な機会だ

展覧会概要

ギンザ・グラフィック・ギャラリー第388回企画展「佐藤卓TSDO展〈 in LIFE 〉」
会期:2022年5月16日(月)- 2022年6月30日(木)
会場:ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)
休館日:日曜・祝日
開館時間:11:00-19:00
入館料:無料
※詳細はギンザ・グラフィック・ギャラリー公式サイトでご確認ください。

書いた人

日本美術や伝統芸能(特に沖縄の歌や祭り)、建築、デザイン、ライフスタイルホテルからブラック・ミュージックまで!? クロス・ジャンルで世の中を楽しむ取材を続ける。相棒は、オリンパスOM-D E-M5 Mark III。独学で三線を練習するも、道はケワシイ。島唄の名人と言われた、神=登川誠仁師と生前、お目にかかれたことが心の支え。