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Keyword 11「絵事三昧」
絵を描くこと以外は一切興味なし!
若冲は10代半ばのころから絵を描き始めたと考えられています。大典顕常(だいてんけんじょう)による「斗米庵若冲居士寿蔵碣銘(とべいあんじゃくちゅうじゅぞうけつめい)」にも「ほかに特技もなく、ただ絵事を好み……性格は実直で自分を飾るようなことはなく」とあり、ひたすらに絵事三昧(えごとざんまい)。画業に没入した人生であったことがわかります。
Keyword 12「キラッキラ」
最高級の絵具で輝く色彩
『動植綵絵(どうしょくさいえ)』の目をみはるほどの色彩は、高価な顔料(がんりょう)や墨などを巧みに使い分けて描かれています。若冲は裕福な家の生まれで絵具を買うお金には困らなかったはず。プルシアンブルーという海外の新しい絵具も早い時期に入手して、作品に取り入れました。
Keyword 13「鳥LOVE♡」
鶏、鸚鵡、鳳凰 なんてったって鳥が好き
若冲といえば、鶏の絵を思い浮かべる人も多いでしょう。ご存じのとおり、鶏は若冲が最も多く手がけた題材です。興味深いのは、描かれているのは現代の私たちがよく知る白いレグホンのような採卵のための品種ではなく、闘鶏用や観賞用の鶏が多いこと。眼、脚や動作など写実的に描かれていますが、尾っぽが誇張されたり、実はグラフィカルに見せるための変更部分も見られます。鶏のほかにも、若冲は、鸚鵡(おうむ)、鶴、鴛鴦(おしどり)から空想上の鳳凰まで、鳥たちの美しい姿を愛しました。
Keyword 14「草木国土悉皆成仏」
生きとし生けるものを慈しむ精神
『動植綵絵』『樹花鳥獣図屛風』『鳥獣花木図屛風』など若冲の作品には鳥や動物、虫、草花、樹木、魚や貝など、さまざまな生きものが描かれています。それは「草木国土悉皆成仏(そうもくこくどしっかいじょうぶつ)」という動植物も人間もすべてに仏性があり、成仏できるという仏教観に通じています。
Keyword 15「売茶翁」
18世紀の京都の文化人の中心的存在
日本における煎茶の祖として知られる売茶翁(ばいさおう)は、もともと黄檗宗(おうばくしゅう)の僧侶でしたが、精神の高みを求めて僧であることをやめ、茶売りとなった異色の人物。大典顕常をはじめ、当時の多くの知識人や文化人が売茶翁に憧れ、集まりました。売茶翁は、制作中の『動植綵絵(どうしょくさいえ)』を見て「丹青活手妙通神」の一行書を若冲に送りました。人物画をほとんど描かなかった若冲ですが、売茶翁の肖像画だけは複数残っています。一見貧相にも見える風貌の中に、高貴な精神が宿っている売茶翁という人物に若冲がどれだけ魅了されていたかがうかがえます。売茶翁が禅の教えを平易に伝える詩文を集めた『売茶翁偈語(ばいさおうけご)』には、若冲が描く売茶翁の上半身像が掲載され、続いて池大雅(いけのたいが)が書した売茶翁の文章や大典が記した売茶翁伝も収められています
Profile いとうじゃくちゅう
正徳6(1716)年、京都・錦市場の青物問屋「桝屋」の長男として生まれる。4代目当主となるが、40歳のときに家督を次弟に譲り、画業に専念。『動植綵絵』をはじめ、圧倒的な画力で作品を次々と発表し、京都屈指の人気絵師となる。寛政12(1800)年、85歳で没。
※本記事は雑誌『和樂(2021年10・11月号)』の転載です。構成/高橋亜弥子、後藤淳美(本誌)