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2025.06.17

江戸の巨匠・北斎は「無敵のシニア」だった!│浮世絵師・葛飾北斎を知るAtoZ【I】

約70年にわたって活躍した浮世絵師・葛飾北斎。ただひたすら絵を描くことに執着し続けた北斎の人生は、波乱万丈にして奇想天外! 破天荒な絵師・北斎の人生をAからZの26の単語でご紹介します。今回はI=【為一期】…って何!?

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北斎AtoZ
I=【為一期】61~74歳ごろが北斎の黄金時代!

北斎は、61歳になったころから74歳ごろまで、「為一(いいつ)」の画号を用いました。

この画号の時期に北斎は、最高傑作『冨嶽三十六景』をはじめ、風景画シリーズとして日本各地の滝を描いた『諸国瀧廻り(しょこくたきめぐり)』、海を描いた『千繪(ちえ)の海』、沖縄を描いた『琉球八景(りゅうきゅうはっけい)』、橋を描いた『諸国名橋奇覧(しょこくめいきょうきらん)』などをたて続けにヒットさせ、多忙を極めていました。

人気の風景画にとどまらず幅広いジャンルを描く

北斎にとって唯一の大判武者絵も、為一期の作。5図が確認されていて、いずれも背景が濃紺で、ふたりの武者を上下に組み合わせた構図が面白く、インパクトがある。『鎌倉の權五郎景政 鳥の海彌三郎保則(かまくらのごんごろうかげまさ とりのうみやさぶろうやすのり)』葛飾北斎 江戸時代・19世紀 東京国立博物館 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

北斎は次々に舞い込むオーダーに応えるかたわら、定番人気の風景画に甘んじることなく、花鳥画や武者絵、幽霊画など、幅広いジャンルの作品に取り組み、単なる人気絵師にとどまらない意欲と才を見せました。

押しも押されもしない大絵師となっていたこの時期を「為一期」といい、北斎の画業を語る上で欠かすことのできない黄金期とされます。

華やかで美しい花鳥画も為一期の特徴


いわゆる花鳥画という定型のスタイルにとどまることなく、風に揺れるような花と鳥や昆虫を組み合わせ、独自の空間を描いている。上/『菊花に虻(きくかにあぶ)』・下/『牡丹に蝶(ぼたんにちょう)』 葛飾北斎 江戸時代・19世紀 東京国立博物館 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

そんな絵に描いたような成功を手にしていたものの、私生活に目を転じると、波乱と不幸のオンパレード。

四女を亡くした後、長女・阿美与(おみよ)が離婚。
60代も後半になったころには中風(ちゅうふう=脳卒中)を患いますが、なんと自分で調合した民間薬で回復(!)。真偽(しんぎ)のほどはわからないものの「北斎ならもしかして」と思わせるような逸話です。

不幸続きでもユーモアは忘れない!


「百物語」は江戸時代に流行した遊び。夜中に数人で集まって、交代で怪談話をして、用意しておいた100本の蝋燭を1話ごとに消していくというもの。最後の蝋燭が消えたら怪異現象が起こるといわれ、肝試(きもだめし)としておこなわれていた。北斎は100作を目ざしたと思われるが、現在確認されているのは5作のみ。いずれも怪談話をベースにしながら、ユーモアとかわいげが感じられる。上/『百物語(ひゃくものがたり)さらやしき』・下『百物語・こはだ小平二(こへいじ)』 葛飾北斎 東京国立博物館 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

病から回復した後も不幸は続きます。
三女・応為(おうい)が離縁され出戻ってくるわ、後妻・ことに先立たれるわ、挙句の果てに、70歳になったころに放蕩(ほうとう)が過ぎた孫の尻拭いをするため借金を背負い、借金取りに追われるようになど、散々な状態でした。

そんな不遇の時を過ごしながらも筆はいささかも鈍ることなく、70代という老齢になってから渾身(こんしん)の作『冨嶽三十六景』を生み出したのですから、北斎の絵師としてのしたたかさは、すさまじいものがあります。

名作『冨嶽三十六景』は為一期に誕生


『冨嶽三十六景』シリーズは、構図の面白さが群を抜いている。46図ある中で特筆すべきがこの2作。上/『冨嶽三十六景 尾州不二見原(ふがくさんじゅうろっけい びしゅうふじみはら」葛飾北斎 江戸時代・19世紀 メトロポリタン美術館 The Metropolitan Museum of Art, Rogers Fund, 1914 下/『冨嶽三十六景 甲州石班沢(こうしゅうかじかざわ)』葛飾北斎 江戸時代・19世紀 メトロポリタン美術館 The Metropolitan Museum of Art, The Howard Mansfield Collection, Purchase, Rogers Fund, 1936
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和樂web編集部


構成/山本 毅 ※本記事は雑誌『和樂(2017年10・11月号)』の転載・再編集です。 アルファベットに用いた葛飾北斎の絵は、『戯作者考補遺』(部分) 木村黙老著 国本出版社 1935 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1874790 (参照 2025-06-04)
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