二葉さんは、【桂二葉の緞帳日記】をXで発信されるなど、緞帳好きを公言されています。「後世に残したい」旧き良きものを紹介する連載の第三回は、京都・南座など多くの劇場の緞帳を手がける株式会社川島織物セルコンを訪ねました。二葉さんとご一緒に、緞帳製作を見学する気分を味わってください!
二葉さんから飛び出したマニアックな質問!
「川島織物セルコン・本社 市原事業所」は、京都市郊外の、自然豊かな場所にありました。実は二葉さんは、こちらを訪れるのは二回目なのだそうです。「京都橘大学に通っていた時に、授業で来たことがあるんですよ。博物館学芸員資格も取得しています」。二葉さんが緞帳に心惹かれるのは、こうした学生時代の学びも関係しているようです。

緞帳の歴史について、マーケティング部・部長の佐藤修さんが、展示を見ながら説明をしてくださいました。川島織物セルコンの緞帳製作の歴史は古く、明治26(1893)年に、平安神宮協賛会へ納める墨彩・刺繍引幕を製作したのがはじまりだそう。そして昭和26(1951)年に大阪・朝日会館に製作・納入したのが、日本最初の綴織(つづれおり)緞帳なのだそうです。
二葉さんが手をあげて、「先生!初歩的なことですけど、綴織ってなんですか?」とすかさず質問。なんだか大学のゼミの雰囲気が漂ってきました。担当教官役となった佐藤さんが、答えます。「はい。一般的な織物はタテ糸とヨコ糸が交差し、それぞれの糸が見えているのです。ところが、綴織はタテ糸が見えないのが特徴ですね。また絵画の繊細な色表現をするのに、6本の色糸を撚り合わせて1本の糸にし、ヨコ糸に使用します。6本の色糸の配合を変えることによって、色の境界線をつくらずに、グラデーションで絵柄を描くこともできるのですよ」

全国各地へ落語の公演で訪れる二葉さんは、会場となる劇場の緞帳を、毎回チェックしているそうです。「緞帳は裏打ちと防炎加工をした後に、『火の用心』と入れます」と佐藤さんが説明すると、「その裏地の色は決まっているのですか?」と二葉さんからマニアならではの質問が……。
「川島織物セルコンはブルーですが、グリーンのところもあれば、茶色のところもありますね」。続けて佐藤さんは、「以前は客席でも煙草を吸う習慣があったので『火の用心』の表示が必要だったのでしょう。今の時代は必要ではないのですが、ホールの中央の位置を示す役割として、慣習的に残っています」と教えてくださいました。
各地の緞帳説明に、興味津々
川島織物セルコンが手がけた緞帳の日本地図を凝視する二葉さんは、「かなり緞帳を見ているつもりですけど、知っているものはないですね」。公演先の緞帳を見るのが、二葉さんの旅の楽しみになっているようです。ホールによっては、緞帳の原画を飾ってあるところもあるのだとか。「めちゃくちゃ引き伸ばされて、大きな緞帳に仕上げられているのが実感できます」

「会館によっては当社からデザインを提案させていただくこともありますし、その地域の画家の作品や、地域の工芸や文化をデザインすることもあります」と佐藤さん。「鹿児島へ行った時は、屋久杉(やくすぎ)とか、その土地の名物などが緞帳に描かれてあって。それは、すごい楽しいなあと思いました」と二葉さんは地域に息づく緞帳の魅力を話します。

いよいよ緞帳製作の現場へ!
実際に緞帳を製織(せいしょく)している作業場も、特別に見学をさせていただきました。巨大な大きさの緞帳は、全て手織りで製作されているので、工場内で機械の爆音が響くことはなく、静かなのが印象的です。

緞帳の作業を見る前に、同じ綴織で織られる、着物の帯の作業風景も見学させていただきました。織機(しょっき)の足元のペダルを踏むと、タテ糸が上下に動き、その間にヨコ糸を通して、通したヨコ糸を手前にかき寄せて、ヨコ糸だけで模様を作る仕組みです。最初に佐藤さんに説明していただいた綴織が、実際に目の前で織られるので、とてもわかりやすいです。

タテ糸の下に織下絵(おりしたえ)があり、技術者はそれに合わせて細い糸で織っていきますが、糸がとても細いので、1日に織れる分量は多くないそうです。技術者の爪がノコギリの刃のようにギザギザになっているのは、ヨコ糸を手前にかき寄せる役割のため。爪も道具のひとつとして利用する技に、二葉さんは見入っておられました。
間近に見る伝統工芸士の技に感嘆
緞帳の織を担当する小谷靖志さんへ、「苦労されるのは、どんなところですか?」と、二葉さんが質問を投げかけると、「先ほどご覧になられた織機と作業は同じなのですが、緞帳はサイズが大きいので、体力的に大変なことはありますね。重さがありますので」。小谷さんは高校卒業後に川島織物セルコンへ入社されました。最初の3、4か月は糸巻きなどを経験し、徐々に技術を磨いていったそうです。今では伝統工芸士として緞帳製作に携わり、色の合わせ方を考える設計も担当されています。下絵のどの部分に、何色の糸で織るかを考える、重要な役割です。2026年現在、川島織物セルコンでは13名の伝統工芸士が活躍しています。

小谷さんが作業する織機は全長約24メートルで、一番大きなサイズの緞帳用のものです。繁忙期はこの織機に技術者が一斉に並んで織っていくのだそうです。川島織物セルコンではキャリア数十年のベテランと、若い世代の技術者が共に作業をするのが特徴で、それぞれのセクションで技術の継承が行われています。緞帳の織の作業場にも若い技術者がいて、その中には女性も含まれているそうです。

「落語家になっていなかったら、緞帳の技術者になりたかった」と話す二葉さん。特別に作業用の椅子に座らせていただいてニッコリ。少し技術者の気分が味わえたでしょうか?
織機の裏側に潜入
綴織は、裏面を上にして織られます。緞帳の織機で見えていたのも、実は裏面だったわけですね。二葉さんは、佐藤さんの案内で織機の裏側へ。裏側からは、巻き取られた緞帳の表面が見られます。仕上がった時は、この模様を観客席から見ることになります。

裏打ちをして劇場に納品する状態になると、1平方メートルで約5キロの重さになるそう。総重量は一般的な劇場の緞帳で、約1トン。劇場によっては、緞帳を搬入する専用の扉があると、佐藤さんに教えていただきました。

大好きな緞帳の魅力を広めたい
二葉さんは各地で独演会を行う時に、会場の緞帳が何年に作られたもので、画題が何かなどを、開演前に幕前で解説をしているそうです。これほど緞帳が好きになったきっかけは何だったのか、尋ねてみました。「やっぱり大学生の時に、ここへ来させていただいた時のことを覚えていて。すごいカッコイイなと思っていたんですね。それで落語家になって舞台に上がるようになって、緞帳がものすごく好きになりました」。ゆくゆくは、緞帳をPRするインスタグラムを作りたいと、二葉さんの夢は広がっているようです。

二葉さんの寄席小屋計画に、エールの贈り物
上方落語界を牽引する存在として大注目の二葉さんですが、ビッグな計画を教えてくださいました。「いずれ寄席小屋を作りたいと思っているんです。その時は、緞帳の相談に乗ってください」。二葉さんの心意気に、川島織物セルコンからクッションが贈られました。二葉さんプロデュースの寄席小屋に、どんな緞帳が誕生するのか?ワクワクしますね!

取材の後に、敷地内にある「川島織物文化館」を二葉さんとご一緒に見学させていただきました。こちらは日本最古の企業博物館で、起源は明治22(1889)年に川島織物セルコン二代当主・川島甚兵衞が市内に建てた「織物参考館」にさかのぼります。初代と二代が収集した染織品や、これまで製作された美術工芸織物の原画類・試織などを知ることができる膨大なコレクションを展示。予約制で見学可能なので、京都へ来られる折には、是非お立ちよりください。
取材・文 撮影/瓦谷登貴子
取材協力/株式会社川島織物セルコン
川島織物文化館 基本情報
住所:京都市左京区静市市原町265 株式会社川島織物セルコン内
アクセス:京都市営地下鉄「国際会館」下車。京都バス「小町寺」下車徒歩約5分。駐車場あり。
開館時間:午前10時~午後4時30分(入館は午後4時まで)
休館日:土・日・祝日、ゴールデンウィーク、夏季、年末年始など休業日(ホームページで要確認)
公式ウェブサイト:https://www.kawashimaselkon.co.jp/bunkakan/
入館料:無料
見学予約:事前予約制(ホームページより予約)

