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2025.06.27

木の“死んだ部分”から、侘び寂びを表現…盆栽の奥深さを巨匠・小林國雄さんに聞いてみた。阿部顕嵐が語る「あらん限りの歴史愛」vol.25

バラエティー番組やドラマなど、大活躍の阿部顕嵐(あべ あらん)さん。最近は盆栽を始めてみたいとうずうずしているそう。そんな阿部さんの熱烈オファーで、盆栽界の巨匠・小林國雄(こばやし くにお)さんとの対談が実現した。取材は2025年6月上旬に行った。

“白骨化”した木にこそ、生命力が宿る。盆栽の迫力がすごい!

阿部:この作品、本当にすごいですね。白くて、ぐねぐねに曲がっていて……。

小林:はい、真柏(しんぱく)という種類です。白くなっている部分は死んでいます。死んだ部分をあえて出して、命の厳しさを表現しているのですよ。

阿部:白骨化、みたいなことでしょうか?

小林:そうですね。

阿部:僕、真柏がいちばん気になるかも。生から死に向かって表現している。わびさびが詰まっているところが好きです。

小林:「阿修羅」という名前を付けた作品もあります。「修羅」の感覚ですね。命が極限まで削られて、それでも生きている。その姿に人は心を動かされるのです。

阿部:生きている部分って、どこなのですか?

小林:細い茶色の部分です。水や栄養がそこを通って枝葉の隅々まで運ばれ、命が維持されています。幹の残りは死んでいる。

阿部:死んでいる部分が美しいって、なんだかすごく深いですね。

小林:私はあえて、生きている部分を少なくして、死んだ部分を強調することもあります。

ひとつの作品に最低でも30年……「時間の芸術」を世界のVIPも体感しにくる

阿部:樹齢はどれくらいですか?

小林:1000年、700年といったものがありますね。山奥で水も肥料も乏しい中を生き延びてきた木です。思い切って枝を減らし小さい鉢に植え替えます。

阿部:1000年、すごいな……。山奥からこちらに持ってきてからは、何年くらい手入れをされているのでしょう?

小林:だいたい30年くらいかけて、作品にしていきます。盆栽は「時間の芸術」といえますね。

阿部:長い年月をかけているから、高い価値がうまれるのですね。Amazonの創始者のジェフ・ベゾスも来たとか? どんな人でしたか?

お弟子さんも世界中から集まる

小林:面白い人でしたよ。あと、アポなしでキャメロン・ディアスも来ましたね。小柄でかわいらしい人でした。いい香水の匂いがしたな(笑)。

阿部:そうなのですね(笑)。

線の芸術 ― 盆栽のポイントは「粘り」「立ち上がり」「枝順」

阿部:下に向かって曲がっている作品もありますね。どうやって下に向かせるのですか?

小林:自然の形に逆らわず、人が少し導いてあげるのです。曲がり具合も、性格みたいなものです。その木自身が持つ特徴を活かして曲げていきます。

阿部:なるほど。木にも性格があるのですね。

小林:ええ、黒松は男性的で、五葉松ならもう少し柔らかさがある。それぞれの性格を読み解きながら、「粘り」「立ち上がり」「枝順」という鑑賞のポイントで見ていくと面白いですよ。

阿部:粘りとは、何でしょう?

小林:粘りは根っこの力強さを意味します。根が大地にしっかり張っているかどうか。その粘りが命の強さを象徴します。

阿部:なるほど。そして「立ち上がり」というのは?

小林:幹が地面から立ち上がっていく最初の部分のことです。ここがぐっと力強く、自然な流れで上に向かっていると、見ていて気持ちいいでしょう?

阿部:確かに。

小林:盆栽は線の芸術。「不安定の中の安定感」を求めます。あまりに安定しているとつまらない。少し危ういような、でも芯が通っている。それが面白さになります。

阿部:深い! 最後に、枝順は?

小林:枝がどんな順番で配置されているかということですね。「一の枝」「二の枝」「三の枝」と呼びます。基本は左・右・後ろ。

阿部:なるほど。

小林:そして「個性」「調和」「らしさ」「品位」――これが私の考える盆栽の4つの要素です。個性がなくては面白くないですよね。そして調和というのは、安定させるためのバランスを取ること。

28歳のスタートダッシュ——“遅咲き”が導いた盆栽人生

阿部:先生はいつから盆栽の道に入ったのですか?

小林:始めたのは28歳かな。私がこの業界に入ったのは非常に遅くて、それで自分は出遅れたという意識がありましたね。人の倍は働こうと1日15時間働いた。今日も朝の4時には起きて、黒松を1本手入れしましたよ。

阿部:すごい……!

小林:盆栽を始めてから、ずっと失敗の連続でした。やりすぎて枯らす。若いうちは焦りがあって、早く有名になりたい、早くお金が欲しいと考えていました。だから我慢することができなかった。それで木に力をかけすぎたりして、枯らせてしまいましたね。

阿部:毎日見ていても急に枯れてしまうこともあるのですね。

小林:あります。土の中に虫が卵を産んで、根を食べてしまうこともある。だから月に数回、消毒をする。予防が何より大事なのですよ。枯れてしまった木のための供養塔を作り、毎朝拝んでいます。

阿部:供養塔……!

小林:人間というのは失敗しなきゃダメだと思いますね。失敗して覚える。失敗して成長できる。失敗を怖がったら成長できない。失敗があってその傷を舐めながら、今に見てろという思いで、こうやって頑張っています。

阿部:勇気をもらえた気分です。貴重なお話、ありがとうございました。

次回は、盆栽とともに鑑賞されてきた「水石(すいせき)」について小林先生と対談。石が好きな阿部さんと、どんな話が展開するのか? お楽しみに。

写真/篠原宏明
インタビュー・文/給湯流茶道

春花園BONSAI美術館

小林國雄さんの仕事場、兼、美術館。小林さんのたくさんの作品がみられ、その場で購入もできる。年間の来場者は約5万人。なんと、その9割は海外からのかただという。ぜひ訪れてみてください!
https://kunio-kobayashi.com/

阿部顕嵐 お知らせ

ドラマや映画など、さまざま出演されていますのでぜひ✔︎

▷DRAMA
TELASA『続・BLドラマの主演になりました』
毎週金曜日 ひる12:00〜 配信
https://www.telasa.jp/series/15760

読売テレビ『DOCTOR PRICE』
2025年7月6日(日) よる10:30〜
第1話ゲスト出演
https://www.ytv.co.jp/doctorprice_drama/

▷MOVIE
『劇場版 スメルズ ライク グリーン スピリット』
2025年6月29日(日)より全国公開
https://slgs-movie2025.ponycanyon.co.jp

▷MORE INFORMATION
OFFICIAL SITE
>> https://alanabe.com
DIGITAL MAGAZINE
>> https://storming.alanabe.com

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阿部顕嵐

阿部顕嵐 (あべ あらん) 俳優としての活動を中心に、映画、ドラマ、舞台と幅広い作品に参加。 近年はMBS 毎日放送 ドラマフィル枠『スメルズライクグリーンスピリット』にて柳田役、自身初のプロデュース舞台作品 東洋空想世界『blue egoist』を東京THEATER MILANO-Za、大阪オリックス劇場にて上演。 2025年は4月からTBSにてレギュラー番組『~企画プレゼンバラエティ~これ採用っスカ?』がスタート、また昨年話題となったドラマ『BLドラマの主演になりました』の続編もTELASAにて6月より配信予定。 阿部顕嵐による月額会員制デジタルマガジン『Storming』も2月よりスタートし、セルフプロデュースの動画作品を制作するなど、活動は多岐にわたる。 OFFICIAL SITE >>> https://alanabe.com
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