“白骨化”した木にこそ、生命力が宿る。盆栽の迫力がすごい!
阿部:この作品、本当にすごいですね。白くて、ぐねぐねに曲がっていて……。
小林:はい、真柏(しんぱく)という種類です。白くなっている部分は死んでいます。死んだ部分をあえて出して、命の厳しさを表現しているのですよ。
阿部:白骨化、みたいなことでしょうか?
小林:そうですね。
阿部:僕、真柏がいちばん気になるかも。生から死に向かって表現している。わびさびが詰まっているところが好きです。
小林:「阿修羅」という名前を付けた作品もあります。「修羅」の感覚ですね。命が極限まで削られて、それでも生きている。その姿に人は心を動かされるのです。
阿部:生きている部分って、どこなのですか?
小林:細い茶色の部分です。水や栄養がそこを通って枝葉の隅々まで運ばれ、命が維持されています。幹の残りは死んでいる。
阿部:死んでいる部分が美しいって、なんだかすごく深いですね。
小林:私はあえて、生きている部分を少なくして、死んだ部分を強調することもあります。
ひとつの作品に最低でも30年……「時間の芸術」を世界のVIPも体感しにくる
阿部:樹齢はどれくらいですか?
小林:1000年、700年といったものがありますね。山奥で水も肥料も乏しい中を生き延びてきた木です。思い切って枝を減らし小さい鉢に植え替えます。
阿部:1000年、すごいな……。山奥からこちらに持ってきてからは、何年くらい手入れをされているのでしょう?
小林:だいたい30年くらいかけて、作品にしていきます。盆栽は「時間の芸術」といえますね。
阿部:長い年月をかけているから、高い価値がうまれるのですね。Amazonの創始者のジェフ・ベゾスも来たとか? どんな人でしたか?
小林:面白い人でしたよ。あと、アポなしでキャメロン・ディアスも来ましたね。小柄でかわいらしい人でした。いい香水の匂いがしたな(笑)。
阿部:そうなのですね(笑)。
線の芸術 ― 盆栽のポイントは「粘り」「立ち上がり」「枝順」
阿部:下に向かって曲がっている作品もありますね。どうやって下に向かせるのですか?
小林:自然の形に逆らわず、人が少し導いてあげるのです。曲がり具合も、性格みたいなものです。その木自身が持つ特徴を活かして曲げていきます。
阿部:なるほど。木にも性格があるのですね。
小林:ええ、黒松は男性的で、五葉松ならもう少し柔らかさがある。それぞれの性格を読み解きながら、「粘り」「立ち上がり」「枝順」という鑑賞のポイントで見ていくと面白いですよ。
阿部:粘りとは、何でしょう?
小林:粘りは根っこの力強さを意味します。根が大地にしっかり張っているかどうか。その粘りが命の強さを象徴します。
阿部:なるほど。そして「立ち上がり」というのは?
小林:幹が地面から立ち上がっていく最初の部分のことです。ここがぐっと力強く、自然な流れで上に向かっていると、見ていて気持ちいいでしょう?
阿部:確かに。
小林:盆栽は線の芸術。「不安定の中の安定感」を求めます。あまりに安定しているとつまらない。少し危ういような、でも芯が通っている。それが面白さになります。
阿部:深い! 最後に、枝順は?
小林:枝がどんな順番で配置されているかということですね。「一の枝」「二の枝」「三の枝」と呼びます。基本は左・右・後ろ。
阿部:なるほど。
小林:そして「個性」「調和」「らしさ」「品位」――これが私の考える盆栽の4つの要素です。個性がなくては面白くないですよね。そして調和というのは、安定させるためのバランスを取ること。
28歳のスタートダッシュ——“遅咲き”が導いた盆栽人生
阿部:先生はいつから盆栽の道に入ったのですか?
小林:始めたのは28歳かな。私がこの業界に入ったのは非常に遅くて、それで自分は出遅れたという意識がありましたね。人の倍は働こうと1日15時間働いた。今日も朝の4時には起きて、黒松を1本手入れしましたよ。
阿部:すごい……!
小林:盆栽を始めてから、ずっと失敗の連続でした。やりすぎて枯らす。若いうちは焦りがあって、早く有名になりたい、早くお金が欲しいと考えていました。だから我慢することができなかった。それで木に力をかけすぎたりして、枯らせてしまいましたね。
阿部:毎日見ていても急に枯れてしまうこともあるのですね。
小林:あります。土の中に虫が卵を産んで、根を食べてしまうこともある。だから月に数回、消毒をする。予防が何より大事なのですよ。枯れてしまった木のための供養塔を作り、毎朝拝んでいます。
阿部:供養塔……!
小林:人間というのは失敗しなきゃダメだと思いますね。失敗して覚える。失敗して成長できる。失敗を怖がったら成長できない。失敗があってその傷を舐めながら、今に見てろという思いで、こうやって頑張っています。
阿部:勇気をもらえた気分です。貴重なお話、ありがとうございました。
次回は、盆栽とともに鑑賞されてきた「水石(すいせき)」について小林先生と対談。石が好きな阿部さんと、どんな話が展開するのか? お楽しみに。
写真/篠原宏明
インタビュー・文/給湯流茶道
春花園BONSAI美術館
小林國雄さんの仕事場、兼、美術館。小林さんのたくさんの作品がみられ、その場で購入もできる。年間の来場者は約5万人。なんと、その9割は海外からのかただという。ぜひ訪れてみてください!
https://kunio-kobayashi.com/
阿部顕嵐 お知らせ
ドラマや映画など、さまざま出演されていますのでぜひ✔︎
▷DRAMA
TELASA『続・BLドラマの主演になりました』
毎週金曜日 ひる12:00〜 配信
https://www.telasa.jp/series/15760
読売テレビ『DOCTOR PRICE』
2025年7月6日(日) よる10:30〜
第1話ゲスト出演
https://www.ytv.co.jp/doctorprice_drama/
▷MOVIE
『劇場版 スメルズ ライク グリーン スピリット』
2025年6月29日(日)より全国公開
https://slgs-movie2025.ponycanyon.co.jp
▷MORE INFORMATION
OFFICIAL SITE
>> https://alanabe.com
DIGITAL MAGAZINE
>> https://storming.alanabe.com