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4,5月号2026.02.28発売

美の都・京都で出合う うるわし、工藝

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2026.03.29

2026年、展覧会で眼福の春!【京都の美術館で「工藝の美」に酔う】前編

職人の町でもある京都では、にぎわう繁華街のショーウインドーにも、静けさに包まれた寺社建築にも、そこかしこに工藝が息づいています。そして、工藝の高度な技術や素材がもつ力を最も感じることができるのが美術館。【京都の美術館で「工藝の美」に酔う】の前編は、工藝の企画展がこの春開催される美術館をご紹介します。

アサヒグループ大山崎山荘美術館|民藝運動を支えた山本爲三郎のコレクションを見どころ満載の山荘で

左/ドイツ三大オルゴールメーカーのひとつ、ポリフォン・ムジクヴェルケ社製のディスク・オルゴール。今も現役で、1時間に1回演奏が。100年以上前から変わらない音色を響かせている。右/大正から昭和初期にかけて建設された「大山崎山荘」。15世紀から16世紀にイギリスで流行した建築様式による本館は、昭和7(1932)年ごろの完成。ヨーロッパから取り寄せたこのステンドグラスは、設計当初から階段の踊り場に設置することが想定されていた。

イギリスのウィンザー城を訪れた際に記憶に深く刻まれたテムズ川にも劣らないと賞賛する景色を、木津川、宇治川、桂川が合流する大山崎(おおやまざき)に見出(みいだ)し、それを眺望する高台の土地に山荘を造営した実業家の加賀正太郎(かがしょうたろう)。
大阪屈指の資産家に生まれ、明治、大正、昭和にかけて活躍した加賀は、建物や調度品、庭園などの設計や、蘭の栽培で多くの新種を開発するなど、趣味人としても知られています。

左/山本記念展示室の窓には、金が練り込まれたステンドグラスが。室内外で色が異なって見える。室内ではオレンジ色に、室外では何色? 中/展示室では出陳品だけでなく、室内装飾にも見どころが。右/本館正面のドアにはめられているのは、ヨーロッパ建築でよく見られる鋳物の装飾的な窓格子。ドアの上には「大山崎山荘」と揮毫(きごう)された扁額(へんがく)も。

加賀家の手を離れて以来、荒廃してしまった山荘を修復し、「アサヒビール大山崎山荘美術館(現アサヒグループ大山崎山荘美術館)」として再生させたのが当時の朝日麦酒株式会社の初代社長、山本爲三郎(やまもとためさぶろう)です。

左/賓客を迎えることもあったというホール。応接間としても使用された歴史。中/小さな“素敵”を見つける楽しみ。ドアノブや、使用人を呼ぶベルなどにも美しい細工が施されている。右/意匠の意味を解きながら鑑賞するのも楽しい。天井や暖炉の意匠には、地域の特産品であるタケノコを取り入れている。

芸術や文化活動への関心が高かった山本が特に熱心だったのは民藝運動への支援。
河井寛次郎(かわいかんじろう)や濱田庄司(はまだしょうじ)、バーナード・リーチらの陶磁器や、彼らが招来した東西の古作民藝を自らコレクションしました。それらの工藝の逸品を、このアサヒグループ大山崎山荘美術館で鑑賞することができます。

左/重厚感と軽やかさを併せもつ見事な建築。第2期工事で本館に増築された、2階から3階へ続く階段部分。中/日差しをやわらかく彩るステンドグラス。木造建築に映える。右/ミュージアムショップの脇には、暖炉と造り付けソファのある空間が。暖炉の風防には獅子のようなレリーフ。

イギリスのチューダー・ゴシック様式の特徴である木骨(もっこつ)を見せる方式を採用した本館は、その建造物と調度品にも工藝の趣が。企画展の内容にかかわらず、高い技術をもった職人のさまざまな技をたっぷりと楽しむことができます。

左/玄関ドアの脇や、ダイニングルームとして使われていた部屋の窓には心躍るカットガラスの美しい輝きが。晴れた日には、太陽光を小さな虹色の光として取り込む。中/濱田庄司とバーナード・リーチが、益子(ましこ)の濱田窯で制作したタイル(写真奥)。喫茶室としても営業するテラスに設置。テラスからは奈良の山々の景色が。右/アサヒグループ大山崎山荘美術館の外観。

開館30周年記念 山本爲三郎・河井寬次郎没後60年記念「共鳴 河井寬次郎×濱田庄司 ―山本爲三郎コレクションより」 ~9月6日

民藝コレクションをたっぷりと!
素材も意匠も細部にまでこだわり、それ自体が秀逸な工芸品だといえる大山崎山荘が美術館として開館して、今春で30周年を迎えます。
それを記念して、コレクションの核をなす河井寛次郎と濱田庄司の名品をセレクトした展覧会を、3月20日から約半年にわたって開催。展示品も建物もじっくり鑑賞せずにいられないはずなので、時間に余裕をもって、ぜひ!

左/濱田庄司『青柿掛分白流掛大鉢(あおかきかけわけしろながしがけおおばち)』 右/河井寬次郎『青磁釉辰砂差瓶(せいじゆうしんしゃさしへい)』(いずれもアサヒグループ大山崎山荘美術館蔵)

●アサヒグループ大山崎山荘美術館 DATA
住所:京都府乙訓郡大山崎町銭原5-3
電話:075-957-3123(総合案内)
開館時間:10時~17時(入館は16時30分まで)
公式サイト:https://www.asahigroup-oyamazaki.com/

樂美術館|土の歪み、釉の溜まり、口縁の揺らぎ──「茶の湯」のためのうつわをじっくりと

左/館内の茶花がいつも素敵! 右/展示室の2階。樂美術館では、すべての作品解説に英語も表記されている。

茶の湯のために生まれたやきもの、「樂焼(らくやき)」専門の、世界でも稀有な美術館です。
樂焼は、轆轤(ろくろ)を使わず、手で形をつくる「手捏(てづく)ね」による制作が特徴で、土のやわらかさ、つくり手の呼吸、感覚が、ダイレクトに形に表れます。
黒や赤を基調とした静かな茶碗は、茶の湯の精神と深く結びつき、装飾よりも「用」と向き合う工藝として育まれてきました。
樂家は、初代の長次郎(ちょうじろう)以来、約450年にわたり、一子相伝(いっしそうでん)で技と美意識を受け継いできた名門。館内では、歴代の名碗を通して、時代ごとの美の変遷を、丹念に辿ることができます。年に2、3回ほど開催される企画展で、樂焼の世界を多角的に紹介しています。

新春展「春のことほぎ」 ~4月19日

銘、形、模様、絵柄など、樂歴代のさまざまな「ことほぎ」の作品を紹介。茶碗だけでなく懐石(かいせき)のうつわ、香合(こうごう)、菓子鉢などバリエーション豊かに展示。

左/本阿弥光悦(ほんあみこうえつ)が制作した『黒樂(くろらく)茶碗 銘「村雲(むらくも)」』。黒釉(こくゆう)を掛け外し、茶褐色の土肌(つちはだ)を見せるなど、光悦独自の工夫や技が満載。これぞ光悦! 彫刻作品を見ているみたい! 右/3代道入(どうにゅう 通称ノンコウ)の『赤樂(あからく)茶碗、銘「僧正(そうじょう)」』。抽象的なデザインを採り入れるという革新性が、道入を樂家歴代随一の名工へと押し上げた。

15代直入(じきにゅう)の『焼貫黒樂巌(やきぬきくろらくがんせき)茶碗』(2022年)。写真の3作とも「春のことほぎ」展に展示中。


●樂美術館 DATA
住所:京都府京都市上京区油小路通一条下ル
電話:075-414-0304
公式サイト:https://raku-yaki.or.jp/

野村美術館|南禅寺の別荘地の一画で楽しむ、野村得庵の優れたコレクション

野村美術館は、野村證券、旧大和銀行などの創業者である野村徳七(とくしち 号・得庵〈とくあん〉)のコレクションをもとに、昭和59(1984)年に開館。南禅寺(なんぜんじ)から徒歩3分ほどの場所にあり、新緑と紅葉が美しい春と秋に、特別展を開催しています。
とりわけ茶道具、能面(のうめん)・能装束(のうしょうぞく)の質の高さで知られ、並ぶのはいずれも第一級の名品。工藝の良質な上澄みだけをすくい取ったような、密度の高い世界を実際に味わってみてください。

春季特別展「春爛漫―春の茶の取りあわせ―」 ~6月7日

雅やかな茶道具や香道具、春のモチーフを表した能装束の名品も併せて展示(展示替え期間に休館あり。詳細は公式サイト参照)。

中国の龍泉窯(りゅうせんよう)でつくられた『砧青磁袴腰香炉(きぬたせいじはかまごしこうろ)』(南宋〈なんそう〉時代・13世紀)。翡翠(ひすい)を思わせるような淡青色が特徴。美しい発色と気品に釘付け! 4月19日まで展示。

『網代芦雁蒔絵籠茶箱(あじろろがんまきえちゃばこ)』のなかには、文字が記された黒樂茶碗や時代物の美しい薄茶器(うすちゃき)が。茶の湯を知らなくてもときめいてしまう。4月25日~6月7日に展示。


●野村美術館 DATA
住所:京都府京都市左京区南禅寺下河原町61
電話:075-751-0374
公式サイト:https://nomura-museum.or.jp/

ZENBI|老舗和菓子舗・鍵善良房が発信する「暮らしのなかにある美の世界」

祇園(ぎおん)の鍵善良房(かぎぜんよしふさ)が2021年に開いた、私設美術館、ZENBI。今春は工藝ファン必見の「NIGO®と半泥子(はんでいし)」展を開催中です。有名なファッションデザイナー・NIGO®が、これまでに蒐集(しゅうしゅう)してきた川喜田(かわきた)半泥子の作品に加え、半泥子に触発されて制作を始めた自作の茶碗を展示します。
半泥子は百五(ひゃくご)銀行の頭取を務めるなど、財界人でありながら数寄者(すきしゃ)としても知られ、“昭和の光悦”と称された人物。秀逸な陶芸作品を数多く手がけました。時代も立場も異なるふたりを結ぶのは、工藝に注がれた確かな審美眼です。幅広いジャンルの展覧会を行うZENBIですが、この春はまさに「工藝」を味わう絶好のタイミング! ぜひ訪れてみてください。

「NIGO®と半泥子」 ~4月12日

NIGO®が蒐集した川喜田半泥子の作品55点と、自作の茶碗25点を前期(3月1日終了)・後期(3月4日〜4月12日)で展示(前期と後期で作品すべてが入れ替わります)。

左/千家十職のひとつ、樂吉左衞門(らくきちざえもん)家で制作したNIGO®の樂茶碗も。『赤樂茶碗 銘「胡坐(こざ)」』。右/昭和10年代につくられた川喜田半泥子の『伊賀水指(いがみずさし)』。

左/こちらもNIGO®作の『萩割高台(はぎわりこうだい)茶碗 銘「弐心(にしん)」』。萩焼の名門・不走庵三輪窯(ふそうあんみわがま)で制作された。右/落ち着いた趣のZENBIの館内。会期中にはZENBI向かいの「ZEN CAFE」でNIGO®の茶碗を使用した特別メニューが期間限定で提供される。

半泥子による「火の用心」の書と、半泥子作の『織部手鉢(おりべてばち)』。半泥子はユーモアあふれる人で、「波和遊(How are you)」という書も。茶目っ気のあるさまざまな作品が並ぶ。

左/ZENBIの外観。右/特製の紅白和三盆(こうはくわさんぼん)「NIGO®と半泥子」1,500円もミュージアムショップで販売。ふたりの似顔絵と「半泥子」「NIGO」の文字がモダンにデザインされたもの。おひとりさま3箱まで!

●ZENBI DATA
住所:京都府京都市東山区祇園町南側570-107
電話:075-561-2875
公式サイト:https://zenbi.kagizen.com/

細見美術館|日本美術の多分野の展覧会を企画、今春は人間国宝・志村ふくみさんを特集

魅力的な工藝の展覧会を、次々と打ち出す美術館として、細見(ほそみ)美術館の存在も欠かせません。細見家3代にわたる蒐集品をもとに、岡崎エリアの琵琶湖疏水(びわこそすい)のそばに、平成10(1998)年に開館。初代・細見古香庵(ここうあん)は、漆芸の根来(ねごろ)や茶の湯釜(かま)などの工藝に深く惹かれ、卓抜したセンスで名品を集めた数寄者でした。
今春は、101歳を迎えた染織家・志村ふくみさんの展覧会を開催。志村さんは草木染(くさきぞめ)の糸づくりから織りまでを一貫して手がけますが、草木染の色は、単色でも、決して単調ではありません。奥からにじみ出るような深みのある色調です。奇跡のような手仕事──その真価をあらためて味わえる機会となるでしょう。

特別展「志村ふくみ 百一寿 ―夢の浮橋―」 〜5月31日

70年にわたる、哲学的な表現の軌跡を紹介。新作2点を初公開。前期(3月3日〜4月12日)・後期(4月14日〜5月31日)。

『源氏物語(げんじものがたり)』の登場人物、のちの紫(むらさき)の上(うえ)をイメージした作品、『若紫(わかむらさき)』2007年作。想像が広がる奥深い色合い。移ろいゆく紫が美しい。前期展示。

『風露(ふうろ)』2000年作。バリエーション豊かな色と文様の布を、パッチワークのように縫い合わせている。後期展示。

石牟礼道子(いしむれみちこ)原作の新作能「沖宮(おきのみや)」で主人公・あやの装束として制作。長絹(ちょうけん)『紅扇(べにおうぎ)』2018年作。志村ふくみ 監修・制作 都機(つき)工房。目が覚めるような鮮やかな緋色(ひいろ)です。後期展示。


●細見美術館 DATA
住所:京都府京都市左京区岡崎最勝寺町6-3
電話:075-752-5555
公式サイト:https://emuseum.or.jp/

※本記事は雑誌『和樂(2026年4・5月号)』の転載です。※各美術館、展覧会の詳細は公式サイトでご確認ください。
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和樂web編集部


撮影/篠原宏明、伊藤 信 構成/小竹智子、植田伊津子、後藤淳美(和樂)
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※『和樂』2026年4・5月号 美術展カレンダーに誤りがありました。P.224で紹介しました、福岡県・久留米市美術館で開催中の「美の新地平ー石橋財団アーティゾン美術館のいま」の入館料は、正しくは一般1,500円となります。お詫びして訂正いたします。
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