Art
2020.05.17

世界が注目!気鋭の切り絵アーティスト・柴田あゆみさんの作品や人物像に迫る!

この記事を書いた人

「切り絵」というアートジャンルを知っていますか?

カッターナイフと1枚の紙があれば気軽な趣味として誰でも簡単に楽しめる一方で、プロとして活動している切り絵作家の中には、技術の粋を尽くした物凄い超絶技巧作品を作るアーティストもいます。

実は先日、柴田あゆみさんという若手切り絵アーティストと偶然知り合う機会がありました。これまで海外を中心に活動してきており、本格的に日本で活動し始めた期待の若手アーティストです。

早速作品を見せていただいたのですが、ひと目見て作品の美しさにびっくりしました。

「さんごの街」

切り絵制作に対する確かな技術力をベースに、何枚も切り絵を重層的に重ねた彫刻のような立体感や、光に当てることで醸し出される神秘的な美しさには、圧倒的な個性が光っているように思えたのです。

聞けば、2020年は個展が数件予定されているものの、日本国内での活動歴が短いこともあって、まだそれほど日本では知られていないのだとか。調べてみると、英語のインタビュー記事や特集記事はあるのに、日本語で書かれた本格的な取材記事はweb上にほとんど見当たりません。

そこで、ここは先物買い……じゃないですが、将来有望なアーティストを見逃すわけにはいかない!ということで、早速ロングインタビューを敢行してきました!たっぷりの作品画像と合わせて、まさに今ブレイク寸前の切り絵アーティスト・柴田あゆみさんについて掘り下げてみたいと思います!

「切り絵アーティスト」柴田あゆみさんについて

柴田あゆみさん近影(アトリエにて)

現在、切り絵アーティストとして活躍中の柴田あゆみさん。

横浜市出身ですが、これまでニューヨークやパリなど海外で個展を積み重ねてきました。2019年からは、制作拠点を日本に移して活動中。現在、神戸のアトリエと東京のアトリエを往復しながら、今後相次いで開催される予定の個展に向けて鋭意準備を進めているそうです。

ところで、日本では柴田さんのような「切り絵」を趣味や工作からアート作品の領域にまで高め、アーティストとして活動している作家は意外に多いのです。試しにGoogle画像検索で「切り絵」と検索してみましょう。きれいな作品が多数紹介されていますよね。絵画や彫刻、やきものなどに比べると「切り絵」はまだまだマイナーなジャンルかもしれません。しかし、古来から技巧に優れ、緻密に作り込む美術工芸を得意としてきた日本人にとって、繊細でデコラティブな表現力を活かせる「切り絵」というジャンルはうってつけの美術分野なのかもしれません。

そんな数多く活躍する切り絵アーティストの中でも、なぜ柴田あゆみさんが凄いのかというと、他のアーティストにはない際立った個性があるからなんです。それでは、柴田さんの代表作を見ながら、その造形上の特徴を見ていくことにしましょう。

柴田あゆみさんの切り絵は何が凄いのか?

光と影が織りなす神秘的な美しさ

「In the Jar」シリーズより「夜明け 」

日本で活躍する他の切り絵作家と際立って違っている点として、必ず作品に光を当てて展示されるということ。単に額に入れただけの状態ではなく、光を当てることによって、光が当たる部分と陰になる部分にバランスよく分かれます。すると、切り絵で表現された模様や絵に幻想的な美しさが加わるのです。

「ときの森」(部分)

柴田さんは、紙を切る行為自体を「陰」と「陽」に分けることだと解釈しているそうです。一枚の紙を切り取る時、紙自体が「陰」で、紙を切る作業自体が「陽」。紙を切ることで切り込み部分に光が入ってきて、世界の中で陰と陽が交わり調和する。陰と陽が合わさって作品に初めて命が宿る。柴田さんは、切り絵に対してそんなイメージを持っているそうです。

作品「In the Jar」シリーズ

そんな柴田さんの最近のお気に入りは、様々なガラスの器に入った作品。ハーバリウムみたいで、インテリアとしても生活空間にもよく馴染んでくれそうです。

「In the Jar」シリーズより「In the Jar(しげみ)」

何十枚も切り絵を重ねた立体感の面白さ

「Volcano Book」(部分)/煩悩を象徴する「108」枚もの切り絵を重ね、108枚全ての切り絵の見えない部分に「地下帝国」を切り出しています。見えている部分よりも、実は見えない部分に力を入れたという作品です。

また、柴田さんの切り絵作品のもう一つの特徴は、「立体感」です。1枚の切り絵を単独で見せるのではなく、何枚も、時には何十枚も切り絵を重ねたり丸めたりすることで、作品に3D的な奥行きや立体性が生まれているのが凄いのです。

「Voyager Book」/何層にも重なった切り絵の内側。外からは見えない部分にも、ちゃんと丁寧に切り抜かれていることがわかります。

「切り絵」という言葉からは、どうしても絵画や版画のような平面的な作品をイメージしてしまいがちです。しかし、柴田さんの作品は、一つの「絵」というより、立体彫刻やオブジェに極めて近い感覚で楽しめます。

切り絵の森の中に入って鑑賞する作品「こだまの森」

また、作品のサイズも非常にバラエティに富んでいます。手のひらに載ってしまうような小さな作品から、部屋全体が紙で覆い尽くされたような、巨大なインスタレーションまで非常に多彩。

手のひらサイズで紙芝居のような面白さのある作品「Invisible book」

さらに、作品を生活用品に巻きつけたり、切り絵でアクセサリを作ったりと、私達が切り絵に対して漠然と持っているような固定観念を打ち破ってくれる意外性も魅力の一つです。植物のつるを思わせるような、細長く切り込まれた、世界に一つしかない切り絵のアクセサリー。イヤリングのように身につけても良いし、インテリアとしてもいろいろ活用できそうです。

キャンドルに巻きつけて楽しむタイプの作品は、時折開催されるワークショップでも体験できます。生活にちょっとした彩りを与えてくれそうです。

意外?!切り絵に使われる道具はとてもシンプルだった!

アトリエでの作品制作中の風景

ここまで見てきたように、何十枚も切り絵を重ね、光の陰影を計算に入れて制作されているのが特徴的な柴田さんの作品。さぞかし特殊な道具を使って繊細な工程を積み重ねて制作されているのかな……と思って聞いてみたら、意外なことに使っている道具は普通の工作用カッターナイフと紙、そしてカッター用のマットだけと非常にシンプル。ちょっと拍子抜けでした(笑)。

柴田さんの愛用するオルファ社のデザインナイフ。「itoyaでも近所の画材屋さんでもどこでも買えます」とのこと。この何の変哲もないカッターナイフから、神秘的な作品群がつぎつぎと生み出されているのです。

柴田さんは、なぜ切り絵作家を目指すことになったのか

柴田さんのアーティストとしてのキャリアに目を移してみましょう。柴田さんは、非常にユニークな経歴の持ち主なんです。いわゆる芸術系の大学を卒業したわけではなく、本格的に美術を学んだのは社会人になってから。それも日本ではなく、留学先のニューヨークでした。自分探しのために日本を離れ、海外留学先の語学学校時代に偶然切り絵の魅力にとりつかれ、そこではじめて「アーティストになろう」と自覚したというのです。ますます面白いな!と思い、興味深くお話を伺いました。

せっかくなので、ここからは柴田さんがなぜ切り絵アーティストを目指すことになったのか、インタビュー形式でじっくりお聞きしていきたいと思います。インタビューの最後には、2020年に予定されている期待の個展についてもたっぷり語って頂きました。

柴田あゆみさん近影(アトリエにて)

――アーティストになりたいなと思ったきっかけや理由を教えて頂けますか?

実はいまだにアーティストって何なのかよくわからなくて。ニューヨークで切り絵作家として活動する前、日本ではもともと音楽をやっていたんです。

――えっ?音楽活動をされていたのですか?

そうなんです。高校を卒業してから7~8年は曲を書いて音楽活動をしていました。他には、旅行先で訪れたバリ島で、決して物質的に豊かではないけれど、精神的に豊かで人間らしい生活をする人々に惚れ込みました。大都市で朝から晩まで時間とお金を稼ぐ事に追われ、日常のちょっとした美しさ、優しさ、人間らしさを忘れかけている人たちを癒す空間を作る仕事をしたいと思って、建築の勉強をしたこともありました。でも、制度上の制約があったり、音楽活動も表現に行き詰まったりして、結局交通事故にあったことをきっかけに、音楽もやめちゃったんですよね。

――それで、その後は……?

ニューヨークに行くことにしました。高校を卒業してから、自分にできることをだましだましやって、これぐらいでいいやとか、凄く中途半端だった自分を変えたかったんです。自分を本当にもみ洗いできるところに行こうと決意して、どこにいけばいいのか考えた時、直感的にニューヨークだな、と思ったんです。さまざまな国の人が集まり、希望と欲望が渦巻くニューヨークで自分の柱が立つまでは戻らない、と決めて渡りました。

――留学先のニューヨークでは、どんな生活を送っていたのでしょうか?

いや、もう最初は地獄でした(笑)。英語が本当に話せなくて。まずちゃんと英語をしゃべれるまで4年かかったんです。特に最初の2年間は、語学学校のクラスに行ったものの意見も言えないし、友達を作っても浅い会話しかできないし大変でした。例えば日常生活で携帯電話やインターネットをひとつ契約するだけでも、英語が全くできないので本当に苦労しましたね。また、ニューヨークは時間の流れも人の流れも凄く速くて、せっかく外国人の留学生と友達になったと思ったら、みんな短期ですぐに帰国してしまったり。街も凄くうるさいし、もう半分うつ病みたいな感じになっていましたね。

――ニューヨークでの留学生活は本当に大変だったんですね?!

とにかく街の忙しなさや目まぐるしく変わる生活環境に心が全くついていけなくて。それで、街の雑踏、雑音から逃れるために、下宿先の近くにあった教会に入り浸ってよくぼーっとしていました。実は、私が転機を掴んだのは半分現実逃避のために通った教会での偶然の出来事だったんです。

アーティストへの転機を掴んだ「切り絵」との出会い

ニューヨークの教会のイメージ画像

――教会で何があったんですか?!

教会って、中に一歩足を踏み入れただけで、表通りの喧騒が嘘のように静寂な空間が広がっているんです。外のクラクションも何も聞こえなくて。別世界なんです。ちょうど私がニューヨークに来て3年目のことだったんですが、その日もたまたま教会に佇んでいて。それで、ふと教会の窓を見上げてみると、ステンドグラスの光が本当にきれいだったんです。あっ!と思って。私、幼稚園がカトリックだったんですけど、その幼稚園で礼拝の時間があった時、きれいだなと感じていた幼い時のおぼろげな記憶を思い出したんです。

教会内のステンドグラスのイメージ画像

――ひょっとして、それが切り絵との最初の出会いになったとか?!

そうなんです。小学校の低学年の時、図工の時間に黒い紙を切ってカラーセロファンを貼るような工作の授業、みんなやりますよね。楽しかったなと。ステンドグラスの光を見ていたらそのことを思い出して、黒い紙を買って帰って、下宿先で作って窓際に飾ってみたんです。そうしたら、やっぱり凄くきれいで。子供の時に感じた、楽しさがそっくり蘇ってきたんですよね。それで、凄い子供のように夢中で何個か作ったんですよ。楽しくって。

――紙でステンドグラスみたいな作品を即席でいくつも作ってみたんですね?

そうです。それで、今度はちょっと別の作品を作ってみました。カラーセロファンではなくて、ただ切り絵に色紙を重ねて、窓越しの光に当ててみたんですね。すると今度は影越しに入ってくる光が美しくて。それで、8個くらい作った時に一度友達に観てもらったんです。そうしたら、その友達がたまたまニューヨークのギャラリー寿司屋の常連さんで、私をお店のオーナーに紹介してくれました。それで、オーナーが私の作品を気に入ってくれて、展示してくださることになったんです。

すると、ギャラリー寿司屋での最初の展示を見た方が面白がってくれて、今度は別の展示が決まり……みたいな感じで、ご縁がどんどんつながって切り絵の展示を何度かやることになったんですよね。

――凄い!趣味で作った作品が、アート作品として認められ、どんどんファンが増えていくっていいですよね。

不思議なご縁ですよね。なんかそういう風に縁がつながるうちに、気づいたらちょうど4年経っていて、ビザを切り替えなければならない時期が来たんですね。以前目指した建築家になるための勉強にも興味があったんですが、そうするとTOEFLの点数が全然足りなくて(笑)。

――TOEFL!現実的な壁があるものなんですね。

そうなんですよ。それで、私のそんな状況を見ていた留学生の先輩が、「ここだったら入れるよ」ということで、ニューヨークで一番歴史のある老舗の「ナショナル・アカデミー・スクール」というアートスクールを紹介してくれたんです。ここでラッキーだったのが、私が語学学校時代に始めていた切り絵アーティストとしての活動が評価されて、ダメ元で応募していた奨学金がもらえるようになったことでした。ニューヨークはとにかくお金のかかるところなので、本当にありがたかったですね。それで、ビザも美術学校用に切り替えて、本格的にアートスクールに通うことになったんです。

NYでアーティスト修行を終えていよいよプロの道へ

ミラノ・マルペンサ空港ターミナルで展示された巨大な切り絵作品「天の岩戸開き」

――アートスクールではどんなことを学んだのですか?

最初は色々やってみようと思って入ったんですけど、私、デッサンとか基礎をやるのが大嫌いで(笑)。伝統校だったので思いっきりクラシックなアート理論を教育カリキュラムのベースにしていたんですが、ラッキーなことに私が入学した時に校長が交代したんです。新しい校長先生は、マウリツィオ・ペレグリンさんという現代アーティストで、基礎学習や理論とか関係なく、自分がやりたいと思うことをやりなさい、という方針で教えるようになったんですね。これは助かりました。アートスクールには4年間在籍しましたが、そのうち後半の2年間は、マウリツィオ先生のアシスタントを務めながら、近くで学ばせていただきました。

――では、そこで切り絵の探求に100%没頭されたんですか?

とはいえ、先生からは「色々な技法を試せ」と勧められていたので、一通りはやってみました。木彫や金工、アルミや石を素材とするような工芸もやりましたし、アクリルや水彩でのペインティングのクラスも受講しましたね。その中では銅版画が一番好きでした。

――銅版画……。緻密な作業が必要なのは、切り絵と似ていますよね。細かい作業、お好きですよね?!

はい(笑)。先生は色々他にも私に色々やらせようとするんですが、もうつまらないので全然やりませんでした。結局、4年間ちゃんとやったのは銅版画と切り絵だけでしたね。特に、紙を使って切っている時は本当に自分と一体になれるんです。他の素材の時は自分と分離している感じがするんですが、切り絵は心と身体が一つになっている感覚が不思議と持続するんです。「ああ、やっぱり紙だな」と思って、4年間ずっと切り絵に集中していましたね。

手のひらサイズの作品「Memory of the Stars」/柴田さんのニューヨーク時代の友人夫妻が制作する映画内で使われたそうです。

――制作時は、誰かにヒントをもらったことなどはあったんですか?

基本的にはなかったです。私の他には誰もやっていなかったので。何ができるのか自分で探求を深めて、表現や技法を磨いていきました。でも、要所要所でマウリツィオ先生から頂いたアドバイスは、凄く参考になりました。

――例えばどのような点で?

最初、私は小さい切り絵作品しか作っていなかったんです。2次元の紙を数枚重ねた程度の作品ですね。そこで、先生から「もっと奥行きを出したらどうだ?」とヒントを頂いて。そこで思い切って数十枚紙を重ねて奥行きを出してみたら、凄く楽しくなったんです。しばらくして学内の展示会向けに作品を制作していた時、私が自分の作品を眺めながら、この中に入りたいって言ったんです。すると、先生から「じゃあ入ればいいじゃないか。思い切って人間が入れるくらいの切り絵を作ってみたらどうだ」ってアドバイスを頂いたんです。

「柴田あゆみ〜切り絵アート展」CATWALK Boutique(北九州市)での展示準備風景

そこからですね。人が入れるような巨大なサイズから、手のひらサイズのミクロな作品まで色々作るようになったのは。それまでそんなことを考えたこともなくて。本当に、それぞれの生徒がここまでしかできないという境界線みたいなものを、完全にぶち破ってくれる素晴らしい先生でした。

――現在の柴田さんの作風につながるようなステップアップをさせてくれたという点で、まさに恩師ですよね!?

本当に、いい先生でした。人間的にも優れた方で、さまざまな人種や年齢層の人々がいる中でのコミュニケーション能力や提案力、観察力なども抜群でした。先生の立ち振る舞いに学びながら、アーティストとして固定概念にとらわれず自由に発想する大切さも先生から教えて頂きました。

留学先のアートスクールでの展示会風景より「Budding Tree」

特に、在学中に制作した「Budding Tree」という、森の中をイメージした巨大な切り絵の木のゲートをが右と左で28枚ずつ制作したインスタレーションは、非常に思い出深いですね。

――鑑賞者自身が切り絵の世界へと入っていける、スケール感の大きい巨大な作品は柴田さんならではですよね!

留学中、興味があったので宇宙論や物理学の本なども読んでいたんです。ニューヨーク大学の有名な教授で、ミチオ・カク先生という方がいるんですが、ミチオ先生曰く、「人間は、高層ビルの横を歩いているアリのようなものなんだ」と。横にあるものが大きすぎて、自分では何の横を歩いているのかすらもわからない。本当にそうだなと腑に落ちたんです。宇宙の外には未知の世界が広がっていて何があるのかわからないし、人類はまだまだほんの少ししか宇宙について知らない。宇宙全体から見たら、人間はアリみたいなものだなと思って。そこからヒントを得て、手のひらサイズのミクロの世界と、鑑賞者がすっぽり入るような大きな森のような、未知の世界をイメージしたマクロの世界を一つのインスタレーションとして作るようにしたんです。

2020年も力の入った期待の個展が目白押し!

富士川・切り絵の森美術館がある「山梨県富士川クラフトパーク」の園内風景

――昨年は、日本に帰国されてから各地で精力的に個展やグループ展に参加されていましたよね。今年は、夏頃までに個展が2つ予定されているとのことでしたが、まさに今伺ったようなマクロとミクロが同居するような作品も楽しめそうですね?

まず今年一番大規模な展覧会は、9月12日から富士川・切り絵の森美術館で予定されている「柴田あゆみ展(仮)」です。ここは展示スペースも凄く大きいので、天井まで届くような大型インスタレーションを作る予定です。巨木の木の根っこの中をイメージして、3mくらいの紙を80枚くらいのレイヤーで重ねてトンネル状のゲートにして、トンネルの奥には右と左に道が別れていて、それぞれの部屋の奥にはまた小さな世界がいっぱい存在して……といったように、まさにミチオ・カク先生が仰る宇宙の入れ子構造みたいなものが表現できればと思っています。

――それは楽しみですね!また、8月8日(土)からは銀座・和光での個展も予定されていますよね?

銀座・和光

はい!8月8日(土)~8月19日(水)まで、銀座・和光で「柴田あゆみ切り絵展 ひかりの集い -Le banquet de Lumiére-」という個展を予定しています。

――銀座での個展では、なにかテーマを設けていらっしゃるんですか?

「調和」ですね。新作の制作にあたって、和光さんからは切り絵で「銀座」を作ってくださいと言われたんです。でも、コンクリートで土が固められ、川も埋め立てられて、人工的に区画された今の銀座が私はそれほど好きじゃないんですよね。そこで、和光さんには未来の銀座を作りたいです、と提案したところ、喜んでくださって。私が望む未来の銀座は、人間と自然が調和した世界なんです。ちゃんと街に緑や鳥などの生き物も戻って、昔のように街のいろんなところに小川も流れていて。

銀座・和光の個展「柴田あゆみ切り絵展 ひかりの集い -Le banquet de Lumiére-」向けに制作中の作品(部分)

――柴田さんが考える理想の銀座が表現されているんですね?

もちろん、完全に昔の生活に戻ろうよというわけではないんです。高度に進歩した科学の力や技術力を使って、人間の生活と元ある自然がうまく調和している世界こそが、将来私達がちゃんと作れる理想の東京の姿なんじゃないかなと思います。

――いいですね!都会で働く人の疲れをいやしてくれそうですね。

留学先のニューヨークでもそうでしたが、特に都会って本当に時間がなくてみんな急いでいて忙しないですよね。始発から夜まで働きづめのような状態だと、もっと自然と調和して生きなきゃ……といったようなことに気づく余裕もないと思うんです。

パリでの個展の展示風景より「Shirakaba」

バーっと忙しく歩いている時、全員が全員は無理だと思うんですが、たとえば何人かの人が見てくれた時に、ショーウインドウの中で光っている私の作品にちょっとでも気づいてくれて、1分でも30秒でも立ち止まって見てくれた時に、心が満たされて人間らしさを取り戻すきっかけになってくれればいいなと思いながら作っています。だから、今ある銀座じゃダメなんですね。いつもコンセプトにしているのは、こうあればいいなという世界。人の暮らしと自然、森などが調和している持続可能な世界なんです。

――ありがとうございました。最後に、和楽web読者に一言メッセージを頂けますか?

実際に、自分がニューヨークの喧騒の中で心を失いかけた時に見つけた美しい光。その光によって、私は癒され、私は私に戻ることができました。東京や世界の大都市で働く人の疲れを癒したいという、18歳の時に思った原点を表現する自分とぴったり合った方法が切り絵でした。小さなグラスの中に作り出した調和の世界が、いつか現実の世界に投影されることを願っています。2020年も銀座・和光をはじめ、いくつかの場所で作品を披露させて頂く予定です。このような状況なので無理なことは言えませんが、ぜひ機会があれば展覧会場で作品をご覧頂ければ嬉しいです。

2020年はいよいよブレイク必至!生の切り絵をぜひチェックしてみて下さい!

いかがでしたでしょうか?インタビューを経て気付かされたのは、作品の持つ幻想的な美しさや高い技術力はもちろん、非常に作品のコンセプトがしっかりしているんだなということ。自分自身の原体験や直感をベースに、最新の宇宙論が提示するマクロとミクロの織りなす世界観が見事に作品の中に表現されていたことです。

ただ単にSNSで映えるような美しさや技巧を極めるだけでなく、オリジナリティを突き詰め、テーマ性もしっかりした骨太な作品群からは強いメッセージ性を感じました。ぜひ、画像だけでなく今後開催される個展で柴田さんの作品の世界観をたっぷり感じてみてくださいね。

柴田あゆみ 展覧会情報&プロフィール

銀座・和光「柴田あゆみ切り絵展 ひかりの集い -Le banquet de Lumiére-」
開催日時:2020年8月8日(土)~8月19日(水)
開催場所:銀座・和光 本館地下(〒104-8105 東京都中央区銀座4丁目5-11)
公式HP:https://www.wako.co.jp/exhibitions/next

「柴田あゆみ展」(仮題)
開催日時:2020年9月12日(土)~12月20日(日)
開催場所:富士川・切り絵の森美術館
(〒409-2522 山梨県南巨摩郡身延町下山1597)
公式HP:https://www.kirienomori.jp/art_museum/50/

●柴田あゆみ:プロフィール
横浜出身。2007年にニューヨークに移り、国立アカデミーにて版画とマルチメディアを習得。2015年よりパリに移り、パリ市運営のアトリエ59リボリにて2年間の展示と制作活動を行う。パリ滞在中、フランス最大のペーパーアーキテクト会社より支援を受け、4メートル四方の大型作品の展示やフランス老舗ブランドrepetto本店にて特別展示や、その他多数展示を行う。2018年より横浜を拠点として活動中。同年、イタリアミラノマルペンサ空港での大型作品の展示や、ドイツ国際アートトリエンナーレにて入賞。2020年には、銀座・和光での個展(8月8日~8月19日)、富士川・切り絵の森美術館(9月12日~)など、より一層の活躍が見込まれている。

公式HP:https://www.ayumishibata.com/
公式Facebook:https://www.facebook.com/ayumishibatart/
公式Instagram:https://www.instagram.com/ayumishibatart/?hl=ja

書いた人

サラリーマン生活に疲れ、40歳で突如会社を退職。日々の始末書提出で鍛えた長文作成能力を活かし、ブログ一本で生活をしてみようと思い立って3年。主夫業をこなす傍ら、美術館・博物館の面白さにハマり、子供と共に全国の展覧会に出没しては10000字オーバーの長文まとめ記事を嬉々として書き散らしている。