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2019.09.10

京都の茶筒の老舗「開化堂」の新作はティーバッグのための保存缶

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京都の老舗が打ち出す画期的な新商品誕生秘話の裏側に迫る

京都で「老舗」と呼ばれる100年以上続く専門店。こんな斬新な発想が! と驚くものが実は100年以上前につくられたものだったりします。

ベストセラーであり、ロングセラーを抱える老舗であればあるほど、頻繁に新商品を出すことはありません。目先のことにとらわれ過ぎていたら、既存のものが売れなくなる。とはいえ、古いものだけで勝負していたら時代から取り残される。といった絶妙な勘どころで、新しいものを生み出したり、古いものをリニューアルしながらその家に伝わる商品を育てていくのが老舗のやり方。攻めと守りのバランスは当代の腕次第。それぞれの家に伝わる商いの手法で代をつないでいくのは、なんとも興味深いものです。

100年以上のロングセラーと肩を並べるものをつくるには、この先100年以上売るぐらいの自信のあるもの、、、のはず! そんな当代の思いが詰まった老舗の新商品をひもといてみましょう。

開化堂は明治8年創業、日本でいちばん古い手づくりの茶筒専門店

宇治茶の産地として長い歴史をもつ京都。茶葉を湿気から守り、保存するための茶筒も宇治茶の生産・流通に伴い発展してきました。今回取り上げる開化堂は創業明治8年。河原町六条にある小さな工房で創業時と変わらずに現在も手仕事で茶筒がつくられています。
こちらは数年前に改装されたショップ。その隣に工房が併設されていている。

開化堂の原点はブリキの茶筒。イギリスの美術工芸博物館にも収蔵された美しさ

老舗を老舗たらしめる「家宝」と呼べる逸品を毎回紹介していますが、開化堂といえばブリキ製の茶筒です。ブリキとは薄い鉄板に錫(すず)を施したもの。加工しやすく、安定して入手できるこの素材にいち早く目をつけ、日本で初めて開化堂がブリキの茶筒をつくりました。このブリキですが、現在は電気メッキを施したものが主流(仕上がりはピカピカ)。それに対して開化堂では昔ながらの製法でつくられるブリキ(ドボ漬けと呼ばれるもので、錫の中にドボンと鉄板をつけることからこの呼び名になっているそうですよ)にこだわり、ドボ漬けのブリキしか使わないために創業当時とまったく変わらない姿の茶筒を提供することができています。
「茶筒 長型 ブリキ200g」(直径7.8高さ13.6㎝)14,000円(税抜)。
この少しくすんだ色とやわらかな風合いがあるから、無地でも存在感があるし、無地だからこそいい! のですよね。
茶筒の素材はのちに銅と真鍮も加わって3素材の展開になりましたが、機能美に徹したつくりとデザインは海外からも高く評価されています。2014年にはイギリスのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(1852年創設。世界中から集められた美術工芸品を所蔵するデザインの殿堂として知られる)のパーマネントコレクションに認定されています。

見た目だけじゃない! 密閉性を高めた構造が世界に誇る開化堂の手わざ

シンプルな美しさも自慢ですが、開化堂の茶筒の真の評価はその構造にあり。まず胴体の部分が二重構造になっています。そしてふたと重なる部分に、少しだけふくらみをもたせてあるのです。そのため、ふたを開けるときは「空気がモチっと抜けていく気もちのよさ」(6代目八木隆裕さんの発言より)があり、ふたと胴体の継ぎ目のラインを合わせると、ひとりでにふたが落ちて閉まるように。これだけ気密性が高ければ、中の茶葉は新鮮な状態が続き、おいしいお茶が飲めるというわけ。これを初代が手を動かしながら考えたというのがすごい!

この後に登場いただく6代目隆裕さん自らがふたの開け閉めを実演してくださいました。「開化堂の茶筒といえば、ふたが閉まる話だけが独り歩きしていますが、開けるときの気持ちよさを僕は!もっと!アピールしたい!」とのこと。”モチっと”空気が抜けていく感じ、動画から感じてくださいね。

ちなみに動画の茶筒は通常の茶筒に溜(ため)の透き漆を重ねた新作。「漆塗茶筒 長型200g」(直径7.8高さ13.6㎝)34,000円(税抜)。

開化堂の大転換⁉︎ 新商品「Tea Bag缶」の発売理由を6代目に直撃

さて今回紹介する新商品ですが、な・ん・と、茶筒ではない!ティーバッグのための収納缶、その名も「Tea Bag缶」です。

茶筒=茶葉のためにものづくりを続けてきた開化堂ですから、大前提に「茶葉で淹れたお茶を飲む生活」の提案があるもので、そこは揺らぎがないものと思い込んでいたわたしです、、、。「ついに開化堂もティーバッグ用の缶をねぇ」といった戸惑いもあり、同時に「そうは言っても、現代の生活にこれが登場したら喜ぶ人はたくさんいるよね?」と歓迎する思いもあり、複雑な思いで完成したばかりの実物と対面したのでした。
あら? これ、かわいい!

写真の「小もり」16,000円(税抜)は三角錐形のティーバッグがおよそ7袋入る容量。特製のトングは中ぶたにぴったり収まる設計で、この気の利いた感じが日本の手工芸ならでは。10袋入る「大もり」17,000円(税抜)もある。
これも、欲しいな。
実物を見たら、頭でごちゃごちゃ考えていたことが吹っ飛んでしまいました。そうしてお会いした6代目の八木隆裕さん。老舗の当主のイメージやら、気難しい職人のイメージからも遠く離れて爽やかです! 思わず「期待していた新商品が茶筒でなくて、びっくりしました」と口走ってしまいました。
先代、すなわち隆裕さんの父は自分の代で家業を畳むつもりだったが、隆裕さんが6代目を引き継いで海外輸出という手法によって取引先を拡大。新しい開化堂の道を切り開いている。
「開化堂がティーバッグ用の缶をつくることに賛否両論あるのは、僕もわかっています(笑)。ただ、僕の知っている若い子たちは実際、茶葉でお茶を淹れる子は少ないですからね。育った家にすでに急須がなかったりするようで、『使ったことがないし、どんなものがいいのかわからないから開化堂で安く急須をつくってくれませんか』って真顔で言われたりするんですよ(笑)。時代が変わって、ティーバッグを使う人が増えてきたのなら、それ専用の収納缶があってもいい。いろんな間口があって、そこから開化堂を知ってもらえたらと思っているんです」と八木さん。

ティーバッグ以外にも用途が広がる収納缶は、開化堂の新しいものづくり象徴

さて、こちらのTea Bag缶。開化堂が経営する「Kaikado Café」で提供している「EN TEA」のティーバッグを入れることを前提として開発されました。カフェで飲んで気に入った方がティーバッグを購入することが多く、それであればその収納缶もあった方がいいということがこの缶の誕生の理由です(Kaikado Caféについては次の記事で紹介します)。ティーバッグはもちろん、スパイス入れにも使えそう。お茶用の砂糖や干菓子を入れてもいいな、と使い道がいくつも思い浮かんできます。小さくて完璧な収納缶、実は必要としていた人は多いのかも?


「何をつくっても開化堂なんだから、と自信がもてるようになったのはここ数年のことです。実演販売で地方のデパートを回ったりすると、お客様から『開化堂のお茶筒には特別な茶葉しか入れられない』って言われることが多くて。僕は毎日飲む茶葉でいいので、毎日うちの茶筒を使ってほしいですけれど、その話はまた置いといて(笑)。それほどに”開化堂といえば確かな品質の茶筒”というイメージが浸透しているなら、茶筒だけにとらわれなくてもいいんじゃないかと」。

6代目隆裕さんは稀代のヒットメーカー。すべてのネタ元は代々の当主にあった

日本茶専売店に茶筒の卸売りが長年の商いの中心であったこの店。隆裕さんが6代目を引き継いだところから、国内外の家庭用茶筒販売に方向転換しています。開化堂の認知度が京都を超えて、国内外に高く広まったのは、隆裕さんが茶筒を「日本茶」以外にも転用させたこと。具体的には「紅茶の茶葉」「コーヒー豆」を収納する缶が若い世代の心をつかみ、大ブレイクに。
写真右から2つがコーヒー豆用に発売されたものだが、今ではシリアルや昆布・鰹節といった乾物を入れたりと自由な発想で使われているとか。「珈琲缶 銅200g」(直径11高さ16cm)23,500円(税抜)、「珈琲缶 ブリキ300g)直径11高さ21.5cm)21,500円(税抜)。*中ふた、スプーン付き、高さは取っ手含む
写真向かって右が「珈琲缶」。取手を付けて、直径や高さを変えることで茶筒のイメージを一新。取手がつくだけで洋風なたたずまいに見えるところが不思議です。左は開化堂の海外進出のきっかけとなったロンドンのお茶専門店「Postcard Teas」のオリジナル紅茶缶(現在は開化堂でも販売中)。この紅茶缶の画期的なところは2点あります。もうちょっと寄ってみてみましょうか。
「Postcard Teas缶 銅120g」(直径7.8高さ8.1cm)14,000円(
税抜)、「Postcard Teas缶 真鍮200g」(直径9.2高さ13.6cm)16,500円(税抜)。*押し込み中ふた付。

ひとつめは、店名の刻印とともに、ティーポットのイラストが刻まれていること。無地一辺倒と思いきや、こんな柄もつけられるのか、と発売当時は新鮮な驚きがありました。ふたを閉めるとぴったり絵柄を合わせられるのは、これぞ職人技。ふたつめには、紅茶缶に「押込み中蓋」が採用されていること。茶葉が減るのに合わせてふたが下がって、自然と密封されるデザインになっています。こんな「中ぶた」があったなんて、知らなかった!

「いやいや、どちらも新しいものではありません。実は柄を入れた茶筒は、これまでにもつくられていたんですよ。おじいちゃんがデザインした青海波の柄は僕の代で復刻しましたが、ほかにも社名をあしらったものも残っています。押込み中蓋も、昔からあったものなんです。僕の発想のヒントはすべて先代以降が残してくれた茶筒にあるんです」。

と聞けば、先達が残した茶筒も気になります。現在も発売中のものをご紹介しましょう。こちらは4代目が考案した携帯用抹茶缶。銅製の茶筒に加えて抹茶をこすための「ふるい」が収められた缶(左)を付けたところが、当時も今も画期的です! 

「御抹茶用 銅40g(フルイアミ付セット)」(直径6.5・高さ6.5㎝)16,000円(税抜)。*ふるいにはヘラが、茶筒には中ふた・茶さじ・巾着つき。

5代目は携帯用茶筒を創案。これは、、、Tea Bag缶の前身の姿ともいえますね。
「携帯用 銅30g」(直径8高さ3.3cm)14,000円(税抜)*中ふた、茶さじ、巾着つき。写真の茶筒は経年変化によって色が変わっています。

「新商品を生み出す苦労はもちろんあるし、ストンとできたときの喜びもある」と言いつつも、これだけのヒット商品に囲まれながらも「自分がやりました!」という主張を押し出さない八木さん。

そこには、八木さんの開化堂の歴代当主に対しての思いがありました。「代々の当主は何もしていないわけではなく、新しいことには挑戦しているんです。売りたかったけれど、材料難の時代もあったし、時流に乗れなかったときもあるんでしょう。それを僕が今の時代に焼き直ししているといいますか。自分の代で売れるものがつくれたことは喜ばしいことですが、それは自分のもの、という感覚はありません。過去のものをつくり続けているうえでできた、という認識なんだと思います」。

驚愕! 6代目になって茶筒製作の工程がさらに増えました

新商品の「Tea Bag缶」しかり、茶筒という枠を超えたものが開化堂からどんどんと生まれているように感じます。八木さんの「海外では Food Container と説明した方が理解が早い」という言葉がまさにそうで、収納缶が今後は増えそうですね。

どんなものをつくるにしても、ブレないのは”昔ながらの手づくりで全工程つくる”という開化堂の姿勢。ひとつの茶筒におよそ130以上の工程があるといいますが、ここで最後の質問。
「技術進歩がめまぐるしいなか、省略できる工程ができたりしました?」
「それが、実は手数はさらに増えているんです(笑)。ふたの内側の継ぎ目の部分を見てください」と八木さん。

「つなぎ目のところ、角が丸くなっているでしょう? お客様に指が引っかかると言われることがあって、叩いて丸くしているんです。昔はここまで気を使ってなかった、というよりも一般の方と直接の取引がなかったので、こういった声は届いてこなかった。丁寧に仕上げるために、以前よりさらに工程が増えました」。

そしてもうひとつ、時代だなぁと思うエピソードも。
「若い子だけ限りませんが、生活空間に茶筒がなく育ってきた人は茶筒の開け方がわからないんです。ふつうは、手を上からふたにかぶせて、垂直に引き上げますよね? それを知らない人は、横から手をかけてふたを上に引き上げようとする。そうすると、うちの茶筒の場合は硬くて開けにくく感じるんです。なので、ふたの気密性はこれまで通りを保ちつつも、その開け方でもスッと開けられるように最近は仕上げています」

そこまでしても、開化堂の茶筒を使って欲しい理由があるんですね?
「ふたを開けたとき、閉めたときの心地よさ。これを知ってもらったら、大げさでなく意識が変わると思うんです。自分が気もちがいいと思うものが少しずつ増えていけば、暮らしも変わります。そのお手伝いができたらと願っているんです」。

わたしが手仕事に惹かれる理由も同じです。気もちよく使える道具は生活を変えてくれる! ティーバッグにしたって開化堂の茶筒に保存しておいたものは、お茶の味が違います。わざわざハードルを上げる必要もなし、自分の心地よいところから開化堂とのおつきあい、始めてみてはいかがですか?

開化堂
京都市下京区河原町六条東入る
075-351-5788
開化堂が発信するカフェ「Kaikado Café」の記事と情報はこちらに。
*9月10日〜16日まで松屋銀座にて開催される「銀座・手仕事直売所」に開化堂が出店。実演販売を行います。13日〜16日は「Kaikado Café」も出店。どうぞ足をお運びください。

撮影/石井宏明

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書いた人

職人の手から生まれるもの、創意工夫を追いかけて日本を旅する。雑誌和樂ではfoodと風土にまつわる取材が多い。和樂Webでは街のあちこちでとびきり腕のいい職人に出会える京都と日本酒を中心に寄稿。夏でも燗酒派。お燗酒の追究は飽きることがなく、自主練が続く。著書に「Aritsugu 京都・有次の庖丁案内」があり、「青山ふーみんの和食材でつくる絶品台湾料理」では構成を担当(共に小学館)。