Craftsmanship

2024.02.13

「不完全なもの」に心惹かれて。【一生愛せる「うつわ」と出合う・その11】村田森(7)

「古いものの写しの腕は抜群。料理を生かすうつわをつくる」と話題の陶芸家・村田さんは近年、二十四節気(にじゅうしせっき)きをテーマにした作品づくりに取り組んでいます。 立春、雨水(うすい)、啓蟄(けいちつ)、春分…と1年を24等分した二十四節気に注目した理由は…。 今回は、山深い京都・雲ケ畑(くもがはた)で、自分と向き合いながら作陶を続ける村田さんの元を訪れ、そのうつわの魅力に迫りました。

シリーズ一覧はこちら

古いもののエッセンスが積み重なってできる〝村田森〟

京都市内の修学院(しゅうがくいん)に仕事場を持っていた村田さんが、雲ケ畑に引っ越してきてから約20年になります。
「春になると、ここの山仕事の人たちは、タムシバという木の新芽をとって、ガム代わりに嚙んでいたそうです」と村田さん。雲ケ畑に来て、自然と人との密な関わりを知ることが増えたと語ります。

仕事場の一角には、大きな棚に美術館・博物館の図録、茶懐石や料理人の本がぎっしりと並んでいます。うつわの構想を練るときに、こうした本をよく参考にしているとか。
「特に古染付が好きで、展覧会に行ったり、コレクターの方に見せていただいたりしましたね」と説明してくれました。

古染付は中国・明(みん)時代(1368~1644)末期に、景徳鎮民窯(けいとくちんみんよう)で焼かれた染付磁器で、虫喰いと呼ばれるほつれがある、一見すると粗雑な趣のうつわです。

「不完全なものにあらがいがたい魅力を感じます。
さりげなくて味のあるものが好き」

白磁の陽刻皿(ようこくざら)は初期伊万里。水に花がポチャリと落ちているような不思議な味わい。右奥の湯吞は、お世話になったデザイナーの渡邊かをるさんからもらった古染付で、実際にお茶を飲んだりするという。左奥は平安蚤の市で買った高麗青磁の小鉢。

「古染付の〝きれいすぎないところ〟が好みですね。磁器なのに、土もののような味わい。模様然としていない絵画のような絵付け。昔の日本の茶人が依頼して中国でつくらせたといわれているものだから、美の感覚がちょっとズレていて、とぼけた情趣もある。そこに雅味(がみ)を感じますね」

もちろん資料本ばかりでなく、骨董のコレクションも多く持ち、京都・岡崎の平安蚤(のみ)の市や、東寺(とうじ)の弘法市(こうぼういち)にも足繁く通っていたそうです。

「当時、平安蚤の市には韓国から骨董を売りに来ている人がいて、口縁が少し曲がった高麗青磁の小鉢を買ったことも。正確に描こう、形づくろう、としているのにつくれない。そんな自由なものに心惹かれるのは、ずっと昔からなんです」

村田さんがつくるうつわの「かわいげ」は、元々そういう妙味があるものを愛してやまない、村田さん自身に由来していたのだとわかります。次々と机の上に自慢の品を並べてもらったら、どれもすごくグッとくる! そして素敵! 「好き」という感覚がぶれないところに、村田さんという陶芸家の秘密があるのかもしれません。

オランダに行ったときに現地で見つけた400年前の古いデルフトタイル。「お尻を出して、ウーンときばっているユーモアに惹かれました(笑)」と村田さん。

「北大路魯山人にも惹かれ続けています。
シンプルかつ本物。こんなうつわが夢ですね」

辻留(つじとめ)先代主人・辻嘉一(つじかいち)さんの『懐石傳書(かいせきでんしょ)』全7巻(婦人画報社刊)は村田さんのバイブル。事あるごとに見返している。「北大路魯山人(きたおおじろさんじん)のうつわと料理との競演はちっとも色褪せません」と語ってくれた。

村田森さんのうつわを買うなら、
「となりの村田」(京都市・岡崎)へ!

住所:京都府京都市左京区岡崎南御所町18-11
電話:075-746-6897 
営業時間:12時~18時
https://tonarinomurata.com
※毎月不定期でオープンする予定のため、詳細はインスタグラムのアカウント(@tonari_no_murata)を確認してください。オープンしている間は、村田さんと奥様の扶佐子さんが、実際に接客を担当。うつわについて詳しく話を聞くことができます。

村田 森 むらた しん
1970年京都生まれ。1993年に京都精華大学陶芸科を、翌年に同研究科を卒業。荒木義隆氏に師事後に独立。2003年に京都・雲ケ畑に築窯し、年間10回以上個展を開いてきた人気作家でありながら、2016年に新作の発表を停止。2020年に、現代美術家の村上隆氏とともに陶芸専門店「となりの村田」(https://tonarinomurata.com/)を立ち上げ、二十四節気をテーマにした392点のうつわの受注生産を始める。

撮影/篠原宏明、小池紀行 構成/植田伊津子、後藤淳美(本誌)
※本記事は雑誌『和樂(2023年2・3月号)』の転載です。
※表示価格はすべて税込価格です(「となりの村田」https://tonarinomurata.com/)。
※掲載商品には1点ものや数量が限られているものがあり、取材時期から時間がたっていることから、在庫がない場合もあります。

Share

和樂web編集部

おすすめの記事

「民藝のプロデューサー」吉田璋也の息吹は今もなお。鳥取・民藝館通り【民藝の息づく街を訪ねて・鳥取編その2】

和樂web編集部

心洗われる緑に包まれて見えてくるもの。二十四節気「夏」 【一生愛せる「うつわ」と出合う・その8】村田森(4)

和樂web編集部

「不完全なもの」に心惹かれて。【一生愛せる「うつわ」と出合う・その11】村田森(7)

和樂web編集部

どう織っても〝失敗〟はない? 田中美里さんが語る「さをり織り」の魅力

田中美里

人気記事ランキング

最新号紹介

12,1月号2024.11.01発売

愛しの「美仏」大解剖!

※和樂本誌ならびに和樂webに関するお問い合わせはこちら
※小学館が雑誌『和樂』およびWEBサイト『和樂web』にて運営しているInstagramの公式アカウントは「@warakumagazine」のみになります。
和樂webのロゴや名称、公式アカウントの投稿を無断使用しプレゼント企画などを行っている類似アカウントがございますが、弊社とは一切関係ないのでご注意ください。
類似アカウントから不審なDM(プレゼント当選告知)などを受け取った際は、記載されたURLにはアクセスせずDM自体を削除していただくようお願いいたします。
また被害防止のため、同アカウントのブロックをお願いいたします。

関連メディア