阿部顕嵐さんが金継ぎに挑戦した前回はこちらから。
▼金継ぎはガンプラと似ている? 金継ぎの世界的マスターを訪ねてみた。阿部顕嵐が語る「あらん限りの歴史愛」vol.28
オフの日は、九谷焼の豆皿と手料理で友達をもてなす
ナカムラ:阿部さんは日本文化がお好きとのことですが、焼き物はどんなものが気になりますか?

阿部:仕事で金沢に行ったときに、九谷焼の豆皿を買いました。色が鮮やかで、好きですね。自宅に友達を呼んで料理をつくる時にも使っています。

ナカムラ:料理をされるのですか?
阿部:はい。最近は某チェーン店のお肉料理の再現がマイブームです。海外の蚤の市で買ったお皿に盛りつけたりしています。
―― 以前、抹茶をたてたお写真をSNSで拝見しました。茶道具もお持ちだったりしますか?
阿部:そうですね。最近は天目(てんもく/※1)を買いました。

―― 天目! それはすごい。
阿部:祖母が家にきたときに天目で抹茶を出したら「あら、上等ね。」と褒めてくれました(笑)。
※1:天目……鎌倉時代に中国・浙江省にある天目山の禅院に学んだ僧侶たちが,帰国にあたって持ち帰ったという黒い釉薬がかかった喫茶用の碗。茶道では最上級の茶碗といわれている。
ヨーガンレールの器に伊万里焼の陶片を合体! 呼継ぎの面白さ
ナカムラ:僕が好きな「呼継ぎ(よびつぎ)」は、室町時代か、戦国時代頃に生まれたといわれる技術です。欠けた器に、まったく別の器の破片をつなぎます。“修理”というより“アップサイクル”なんです。

阿部:おもしろい!
ナカムラ:例えばヨーガンレールの器に、古伊万里(こいまり/※2)の陶片を合体させたりします。日本の代表的な模様である唐草模様とドイツの作家の器がミックスされる。アメリカの古いジーンズと日本のジーンズをパッチワークする、みたいな感覚です。
阿部:ファッションに近いところがあるのですね。
ナカムラ:そうそう。茶道をやっている方からも呼継ぎの依頼がきます。たとえば、同じ石川県産の九谷焼と大樋焼(おおひやき/※3)で作ってくれ、とか。茶会でお客さんが茶碗を見て「もしやこれ、九谷焼と大樋焼がくっついている?」とざわついたりして。

阿部:茶道オタクたちの考察、最高ですね(笑)。

ナカムラ:今の茶道は「伝統」のイメージが強いですが、千利休の時代はアバンギャルドやパンクの感覚で呼継ぎをしていたと思います。「まさか、これとこれが合体するなんて!」と茶会のお客さんをびっくりさせることにも重きを置いていた。
※2:古伊万里……佐賀県有田でつくられた日本で最初の磁器。完成品が伊万里港から出荷されたので伊万里焼と呼ばれる。とくに江戸時代初期のものは古伊万里といわれる貴重な骨董品。
※3:大樋焼……石川県金沢市で生産される焼き物。江戸時代初期に加賀藩が京都から呼んだ陶工・初代長左衞門が、金沢郊外の大樋村の土で茶碗などを作ったのがルーツ。
陶片を見つめると、大昔の作り手と会話ができる?
阿部:ナカムラさん、いろんな陶片をお持ちなのですね。

ナカムラ:いろいろな時代の陶片を集めています。絵唐津(えからつ/※4)、縄文土器、弥生土器もありますよ。
阿部:縄文、弥生! すごいですね。

▲絵唐津/絵唐津草文壺/安土桃山~江戸時代 17世紀/九州国立博物館/出典:Colbase
ナカムラ:完品は偽物も多いですが、陶片はみんな本物です。陶片には失敗作も混じっていて、それがまた面白い。
阿部:失敗作なのですか?

ナカムラ:ええ。陶片は、焼き物を作った場所で失敗したものを捨てていたところから出土することが多いです。例えば「急須にしたかったけど、注ぎ口がうまくいかなかったのだろうな」みたいな跡が残っている陶片もあります。見ていると、作った人と会話している気分になるのですよ。
阿部:なるほど。陶片と会話、いいですね(笑)。

ナカムラ:縄文の陶片なんて特に個性がすごい。装飾に異常なこだわりがあるものも、ありますね。弥生土器はシンプルだけど口当たりがいい。弥生時代はおそらく、料理が発展して器に口をつけて食べるようになった時代なのでしょうね。
※4:絵唐津……唐津焼の一種。戦国時代以降、現在の唐津市の西部でつくられた焼き物。鉄絵の具で黒や褐色の絵や文様が描かれている。
ヨーロッパの焼き物事情は、日本と違う?
ナカムラ:これは、フェルメール(※5)の時代のデルフト焼きのタイルです。

阿部:え、フェルメールの時代? それはすごい!
ナカムラ:完品だと高価ですが、割れていれば10ユーロとかで買える(笑)。ヨーロッパでは割れたらボンドなどでくっつけて、継いだ跡を消す文化です。欠陥品という扱いになる。でも日本の呼継ぎは割れたもの同士を継いだ跡を見せ、価値を上げる。割れても「より良くなる」と思えるのが呼継ぎの魅力。
阿部:古着のリメイクに通じますね。
※5:フェルメール……1600年代に活躍したオランダ、デルフトの画家。『真珠の耳飾りの少女』は日本でも人気。
呼継ぎを知れば、器を割ることが怖くなくなる!
ナカムラ:呼継ぎを経験すると、器を割ることが怖くなくなりますね。割ってしまったら呼継ぎして新しい作品にすればいい。古くて貴重な焼き物も普段使いできるようになりました。

阿部:なるほど。僕は知識より、まずは実際に使ってみて感じたいタイプです。焼き物も気になったら買って、使いながら歴史を調べていくのが楽しいかも。
ナカムラ:いいですね。
阿部:いろんな陶片を見せていただいて、唐津焼に興味が出ました。土っぽい感じがかっこいい。これからもいろいろな焼き物を使ったり調べたりしてみます。今日はありがとうございました。
写真/篠原宏明
インタビュー・文/給湯流茶道
ナカムラクニオ
荻窪『6次元』主宰/美術家。著書は『金継ぎ手帖』『洋画家の美術史』『こじらせ美術館』など。新刊『図解 教養としての美術史』『一気読み西洋美術史』発売中。金継ぎや絵を描き、本を執筆。諏訪と輪島と珠洲でウルシを栽培中。
https://www.x.com/6jigen/
https://www.instagram.com/6jigen/
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