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Culture
2021.08.30

財閥や社長も「見立て」を楽しんだってほんと?日本史研究家とアニメ茶碗で抹茶をたててみた

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アニメ茶碗で抹茶をたてる茶道ユニット・給湯流茶道(きゅうとうりゅう・さどう)。オフィスの給湯室でアニメ茶碗に抹茶をいれて、シャカシャカと茶会をする団体だ。

写真/福羅広幸

給湯流茶道は自称「茶道の、ある伝統を受け継ぐ」団体として2010年から活動。アメリカやイギリスの大手メディアにも取り上げられきた。「ある伝統」とは、ずばり「見立て」。茶道では「わびさび」が有名だが、じつは「見立て」も茶道にとっては重要なキーワードだ。茶道にまつわる幅広い歴史を解説した『茶道教養講座1 伝統文化』執筆者、京都芸術大学・野村朋弘先生に、給湯流茶道が「見立て」について聞いてきた。

アニメ茶碗で茶道をやってみた

野村先生が教鞭をとる大学の給湯室にお邪魔し、茶会をさせていただいた。

さっそく給湯流茶会をやらせていただきます。

給湯室ではじめて正座しました(笑)

写真/阿部章仁(以下、同じ)

信長や秀吉が戦のとき、茶道具を持参し戦場でも茶会をしたエピソードがあります。それにのっとり、パワハラや長時間労働などと戦う現代の戦国武将・サラリーマンが主役の茶道を企画しました。サラリーマンの戦場、オフィスで茶会をやるんです。また利休が作った国宝の茶室『待庵(たいあん)』がとても狭く、給湯室くらいの広さかなってことで給湯室を『待庵』に見立てています。まとめると、給湯流茶道は「見立て」しかしない茶道団体です(笑)

給湯室の中で茶会をやるから、『給湯流茶道』なんですね。

今日の茶碗です。銘『高度経済成長なんて知らない』をご用意しました。

なんですか、これは。

草津温泉に行ったとき、鄙びたおみやげ屋さんで買った茶碗です。観光旅行のお土産を茶道具に見立てました! おそらく数十年、売れ残ってきたデッドストックでしょう。高度経済成長期、長時間残業や土日のゴルフ三昧だったおじさんの絵です。温泉に家族を連れてきて日頃の埋め合わせしていたと。今や、人前でたばこを吸う男性も激減したと思います。たった数十年で消えていった男性像がこの茶碗に描かれています。ああ、諸行無常……。

諸行無常がお好きなんですね。

はい。気が合わない同僚やパワハラ上司がいたとしても、いつかは異動したり、転職したりして自分の周りから消える。つらい状況は永遠には続かない……だから今日も働こう!といった意味で諸行無常をテーマにしています。サラリーマンにとって、諸行無常は働くためのガソリンです!

茶道具でないものを茶室に持ち込む「見立て」

シンクの隣に置いてあるものは?

茶室では床の間に掛け軸をかけ、茶会のテーマを表現します。大正時代に建てられた大阪のビルの給湯室にあった看板を、掛け軸に見立てました! 残念ながらビルは最近取り壊しになりました。諸行無常~!

おお、諸行無常……。

茶道具ではないものを茶道具に見立てる文化は戦国時代にはあったと聞いています。朝鮮では庶民のごはん茶碗だったものをわざわざ輸入して抹茶をたててみたり、利休が魚をとる籠を花をいける道具にしたりしたと。それで給湯流茶道では、アニメ茶碗を茶道具に見立て茶会をするというルールを勝手に課しています(笑)

給湯流さんは戦国武将をサラリーマンに読み替えて茶道をやるとおっしゃっていますが、どちらかというと近代茶人のイメージに近いなと思いました。

本当ですか。私、近代茶人の大ファンなんです!!

そうでしたか。

財閥や社長たちも「見立て」茶道で楽しんでいた時代

「近代茶人」とは、明治時代から第二次世界大戦頃まで盛り上がった茶道ムーブメントの言葉。金融、鉄道、ガスなどの分野で大金を手にしたビジネスマンの間で茶道が大流行。江戸時代に開国してから欧米列強に経済力で戦いを挑んだ財界人。文化面でも自国に誇りをもとうと、海外に流出しかけた日本美術を大金で買い上げ、自由な茶会を開いた。

近代の茶道は、大きく分けて二つの動きがありました。1つは家元のお茶です。歴史の中で作られた価値基準をしっかり守る茶道。この作家の茶碗は価値がある、などランクをつけてきました。もう1つが財界人たちのお茶です。彼らは必死に文化的素養に身に着けようと努力した。茶道具を集める際は、家元が決めた価値基準だけにとらわれず、自分が好きなものを購入したんです。

近代茶人の茶会、古くて大きいお面をどーんと床の間にかけてる写真を見たことあります。茶室で床の間にかけるのは絵か書というルールを破り、でかいお面を掛け軸に見立てている。面白いです! 

家元たちが鑑定した由緒正しい茶道具だけではなく、近代茶人は自分の美的センスで自由に茶道具を見立てた。給湯流さんも似ているかもしれません。茶道具としては価値が定まってないアニメ茶碗で茶会をするというのは(笑)

大変、光栄です!

利休たちの茶の湯も似ています。室町時代は、足利将軍家や公家がよいと格付した中国製の道具に価値秩序があった。いわば身分主義です。でも堺の商人、利休たちは個人主義。様式にとらわれず自分の目でいいと思ったものを集めて楽しんでいたんです。

清少納言も「見立て」で遊んでいた

ここからは野村先生がお書きになった本『伝統文化』を中心に、「見立て」の歴史をお伺いしたいと思います。

『茶道教養講座1 伝統文化』野村朋弘 著▼

文献に「見立て」という言葉が出てくるのは、平安時代。日本最古の庭園書である『作庭記』に載っています。庭園をつくるとき「池を掘って石を立てるときに地形を見立てろ」、と書いてあるんです。

自然に削られた石を置いて山に見立てた日本庭園、みたことあります! 仙人が住み、不老不死の薬があると信じられた中国の伝説の山、『蓬莱山』を石で表現するなど。

見立てを大きくとらえると、『枕草子』にも出てきます。『香炉峰(こうろほう)の雪』というくだりです。香炉峰の雪というのは、白居易の漢詩が元ネタ。エリート官僚だった白居易が左遷されてしまい、香炉峰という場所のふもとに住む。そこで見た雪景色を描いた漢詩です。一条天皇の正室、中宮定子に清少納言は仕えていました。庭に雪が降り積もっているのをみた中宮定子と清少納言が「まるで香炉峰の雪みたい」といった会話をするんです。

平安貴族ってズボラですかね……。家の中にいながら「中国に旅行した気分~!」って、はしゃいでるという。

そんな風に言ったら怒られますよ(笑)平安時代は飛行機もないわけですから、そうそう簡単に中国には行けません。そして古代から中国は文化大国、絶対的な美は中国にありました。あこがれの地です。でもすべてのものを中国から日本に輸入できるわけではない。代わりを考えなきゃいけない。その中で、漢詩でしか知らないことをなんとか日本の中に取り込みたい。そんな才女たちのやりとりなんです。

江戸時代の浮世絵に、『刀剣乱舞』の元祖があった!?

なるほど~。“絶対的エース”中国への憧れから、「見立て」は始まったんですね。

日本は古代からずっとずっと、舶来文化が好きですから。ちなみに神奈川県の駅名にもなってる『金沢八景』も見立てのひとつです。

『八景島シーパラダイス』でおなじみのあの場所が!

古くから漢詩や山水画に描かれた中国の8つの名所があります。それが『瀟湘(しょうしょう)八景』というんです。江戸時代に明から日本にわたってきたお坊さんが、神奈川・金沢の風景から瀟湘八景に見立てた場所を「金沢八景」と名付けました。

「瀟湘八景」を美女に見立てて描かれた絵もありますよね。 有名な名所を、8人の女の子に描きかえるという。北斎や広重の大先輩にあたる絵師、鈴木春信の『坐鋪(ざしき)八景』というシリーズです。名所を美女に見立てるなんて画期的です!

『坐舗八景 塗桶の暮雪』鈴木春信 出典:シカゴ美術館

平安時代に始まった見立て文化は、どんどん発展してパロディー要素も加わり江戸時代にとても盛り上がりました。そして、今もあるじゃないですか。たとえば『刀剣乱舞』。そういうお国柄なんですよ、日本は。

そうか、有名な刀をイケメンに見立てている! 見立て文化って古代から現代日本まで、脈々とつながりがあるんですね。おもしろい!

見立てはさまざまなジャンルに広がり、現代につながっている。今回紹介した庭園、古典文学、茶道、浮世絵のほかにも、落語や歌舞伎をはじめ、俳諧、和歌などにも見立てが用いられているのだ。あなたもぜひ「見立て」目線で日本文化に触れてみるのはいかが?

野村朋弘(京都芸術大学芸術学部准教授)

茶道教養講座1 伝統文化
日本史研究者。北海道生まれ。幼少の頃から歴史好き。しかし「歴史では食べていけない 」といわれ、工業高校に進学。上京して郵便局員として仕事をしつつ、國學院大學で日本中世史を専攻。大学院進学を機に公務員を辞め、それからは持って生まれた器用貧乏さで、さまざまな分野に迷い込み現在に至る。主な専門領域は日本文化史や神社史。著書『死を巡る知の旅』(幻冬舎)、『諡 天皇の呼び名』(中央公論新社)、共編著『史料纂集 宇治堀家文書』(八木書店)などがある。

給湯流茶道

公式サイト
サラリーマンのため、彼らの戦場であるオフィスビル給湯室で抹茶をたてる茶道ユニット、2010年結成。信長や秀吉が戦場で茶会をしていたエピソードを現代に再現し、リストラ、パワハラなどと戦う人の職場で抹茶をたてる。文化放送で立川志の輔さんに褒められたり、テレビ朝日・女子アナに「抹茶おいしい」とほっこりしてもらったり、MXTVで梅沢富美男さんに「サラリーマンは生ぬるい」とディスられたり、賛否両論いただく。給湯室を飛び出し、ロンドンの弁護士事務所から、廃線になったJR西日本・宇都井駅、道後温泉ストリップ小屋まで、様々な「諸行無常な戦いの場」でも茶会を決行。

書いた人

きゅうとうりゅう・さどう。信長や秀吉が戦場で茶会をした歴史を再現!現代の戦場、オフィス給湯室で抹茶をたてる団体、2010年発足。道後温泉ストリップ劇場、ロンドンの弁護士事務所、廃線になる駅前で茶会をしたことも。サラリーマン視点で日本文化を再構築。現在は雅楽、狂言、詩吟などの公演も行っている。ぜひ遊びにきてください!