茶の湯の作法にはすべて意味があります。それと同じく茶室の構造にもひとつひとつ意味や理由があります! それは、茶の湯初心者のきむらととま子が体験してはじめて知ったこと。「にじり口」と呼ばれる入り口が狭くて低い理由や、天井の高さの違いなど…。茶室にまつわるあれこれを知ると、茶の湯の作法もスッと体に入ってきました。
※こちらの記事は、茶の湯初心者のきむらととま子が、茶人・近藤俊太郎さんに教えていただいた茶の湯のイロハをお届けする連載です。
教えて近藤さん! 茶室の構造にも意味があるってホントですか?
茶室に足を踏み入れたことのない、茶の湯初心者のきむらととま子。「茶の湯ってルールがたくさんあって難しそう…」と、近寄ることを避けて生きてきたふたりに、「“ルール”や“決まりごと”ではなくて、ひとつひとつに意味があるんだよ」と、優しく楽しく教えてくださったのは茶人の近藤俊太郎さん。『茶団法人 アバンギャルド茶会(通称:アバ茶)』を立ち上げ、幅広い世代の人たちが茶道を楽しめる場をつくる活動をしている方です。
今回、きむらととま子が訪問したのは、豪徳寺駅から歩いて約10分、いたって普通のマンションの2階。そこには、都心のマンションの一室とは思えないような、本格的な茶室がありました。ここで、アバ茶の茶道稽古が行われているそうです。
茶の湯初心者が茶室に突入!
ギャップがありすぎる空間に圧倒されつつも、気を引き締めていざ茶室に突入。実際に入ってみると、知らなかったことや気になることがたくさんありました!
茶室の外露路と内露路ってなに?
ん? 茶室の外に、バス停みたいな椅子がある…
近藤 ここは『待合(まちあい)』です。お茶会の準備が整うまで待つ場所。準備が終わりましたよ〜という合図があったら、中門の内側に進みます。
近藤 待合がある場所が『外露路(そとろじ)』。ここはまだ下界です。亭主から合図があったら、中門を通って『内露路(うちろじ)』に進みます。茶道の世界で茶室は神聖な場所。内露路にある蹲(つくばい)で身を清めてから茶室に入りましょう。
段階を踏んで茶室に向かっていくと、自然と心の準備ができますね。外露路と内露路に分けられているこの構造は「二重露地」と呼びます。このほかには、分けられていない「一重露地」や、外露路と内露路のあいだに中露路がある「三重露地」もあるそうです。
にじり口ってなんでこんなに低いの?
にじり口とは、小間(4畳半以下の茶室)の入り口の名称です。茶の湯初心者はまずその低さにびっくり。忍者屋敷の隠し扉のようで、ちょっぴり心が踊ります。
近藤 このにじり口を茶室に取り入れたのは、千利休。千利休が生きた戦国時代は、主従関係が強い時代でしたが、茶室の中ではすべての人が平等ということを示すために入り口を低くしました。どんなに身分が高い人でも、刀を外し頭を下げなくては茶室に入ることができません。
たしかに、交流の場でもある茶室に、刀を持った武士がいたら落ち着きませんよね。刀などの装身具をすべて外さないと入ることができないように、千利休は入り口をこんなにも低くしたのだそうです。
狭い茶室が誕生した理由は?
千利休も好んだ、小間と呼ばれる4畳半以下の茶室。なぜこんなにもコンパクトな茶室が誕生したのでしょうか。
近藤 大きな理由としては、亭主とお客さんの親密な関係をつくるため。千利休の時代は、武士たちが密談のためにお茶の場を利用することもありました。コンパクトな茶室だと、ひそひそと話すことができ、かつ安心感もありますよね。
争いが絶えなかった戦国の時代、茶室はほっと安心できる武士たちの心の拠り所でもあったのかもしれません。
小間は狭くて薄暗い印象ですが、利休以前の室町時代までは、広くて明るく煌びやかな書院造りの茶室が主流でした。お茶のスタイルは、時代の背景に沿って変化してきたのです。
茶室の天井の高さの違いには理由があった!
茶室の天井を見上げると、高さに違いがあることに気がつきます。
近藤 亭主が座るところより、お客さんが座るところの方が天井が高くなっているんです。普通は、偉い人は、高座など下が高くなっているところに座りますよね。物理的に、茶室では下に高さをつけることができないので、天井で格を変えているのです。
なるほど。本来は上座に座っていただきたいお客さんの位置の天井を高くすることで、『皆さんの空間は格が高いんですよ』ということを、天井の高低を利用して表現しているのですね。
近藤 素材も藁と網代でわけています。高さだけでなく、素材やデザインでも差をつける。これは、数寄屋建築のひとつの特徴です。
「炉」と「風炉」の違いは?
畳の上に置いてあるのが「風炉」で、畳の下に埋め込まれているのが「炉」…。見た目以外にどんな違いがあるのでしょう。
近藤 まず、使用する時季が異なります。5月から11月ごろまでは風炉、11月から4月までは炉の季節です。何故だと思いますか?
むむむ…気分転換…?
近藤 正客の位置に座ってみるとよくわかりますよ。正解は火の関係です。お茶はお湯を沸かさないといけない。でも夏は暑いですよね。暑い時期につかう風炉は、火を遠ざけるためにお客さんから遠くにあって、寒い時期はお客さんに近い位置に置ける炉を使います。
茶の湯が誕生したころは風炉しかなかったそう。小間が誕生してから炉も生まれたので、お茶でいうと風炉の方が使われている歴史は長いそうです。
お茶会の道具ってどこで支度しているの?
茶室のなかをぐるっと見渡してみると、何かを収納できるような場所はありません。お茶会で使う道具やお水はどこで準備しているのでしょうか。
近藤 では、茶室の裏側に行ってみましょう。基本的にお茶室には入り口がふたつあります。お客さん専用と、亭主専用の出入り口。裏口などでばったり会うことがないように、分けられています。
亭主専用の出入り口から出ると、茶室の裏側につながっていました。そこには水屋(みずや)と呼ばれる、お茶会の準備をする場所が。
近藤 茶器を洗って、拭いて、乾かすまで、この小さい空間で全部できます。なにをどこに置くかなど、細かく規定されているんですよ。
茶室の構造を知ると理解が深まる「茶の湯の精神」
茶の湯に関して、右も左もわからないきむらととま子でしたが、なんとなく茶室の構造がわかってきました。構造や意味を理解することで、「茶室は神聖な場所で、その中では皆平等」「亭主はお客さまに敬意を払っている」など、茶道をする上で重要な茶の湯の精神を、少しだけ理解することができた気がします。
文/きむら 撮影/篠原宏明
教えて近藤さんシリーズ
右も左もわからない茶の湯初心者のきむらととま子が、茶人・近藤俊太郎さんに教えていただいた茶の湯のイロハをシリーズでお届け! いつか私たちも編集部でお茶を振る舞える日が来るかも!?
近藤俊太郎さん。IT事業に携わる一方で、かしこまらず茶道に触れられる活動の場「茶団法人アバンギャルド茶会」を立ち上げる。百貨店、ギャラリーなどでの企画展プロデュースも。