日本文化の入り口マガジン和樂web
5月12日(水)
Love the life you live. Live the life you love. (ボブ・マーリー) 映画「HOKUSAI」公式サイトはこちら
日本文化の入り口マガジン 和樂web
日本文化の入り口マガジン 和樂web
5月11日(火)

Love the life you live. Live the life you love. (ボブ・マーリー) 映画「HOKUSAI」公式サイトはこちら

読み物
Culture
2019.09.27

レトロ可愛い!「ロマン写真館」で大正時代のアンティーク着物を着てみた【東京】

この記事を書いた人

ロマン写真館ってなに?

大正ロマン。

それは、人々がひと時の自由と華やぎを謳歌した夢のような時代を指す言葉。

明治以降、半世紀近い時間をかけて西洋文化を取り入れてきた日本人は、大正時代になって和洋折衷文化の花を咲かせました。

そのひとつの象徴が、大正時代に作られた着物の数々です。百年も前のデザインとは思えない大胆な色使いや柄行きは、まさに「モダニズム」の極地。21世紀のデザイナーですら真似できないほど自由闊達な着物の数々が生まれました。

時代は感じられるけど、古くさくはない--そんな大正から昭和初期にかけての着物は「アンティーク着物」と称され、今も多くの愛好家がいます。竹久夢二や高畠華宵(たかばたけかしょう)を彷彿させる乙女チックな世界にあこがれて、一度は袖に腕を通してみたいと願う女性は少なくないはず。

そんな夢を叶えてくれるのが、東京の弥生美術館で開催される「ロマン写真館」なのです。

ロマン写真館は、スタイリストの岩田ちえ子さんとフォトグラファーの首藤幹夫さんが2012年4月に立ち上げた参加型写真アートプロジェクトで、弥生美術館併設の「カフェ港や」を拠点として毎月1回(1月、8月は除く)撮影会を行っています。

岩田さんは、あの荒木経惟さんの被写体となった着物女性たちのスタイリングを一手に引き受けてきた、すごいスタイリスト。2019年夏に弥生美術館で開催の「アンティーク着物万華鏡 ー大正~昭和の乙女に学ぶ着こなしー」の総合プロデューサーでもあります(「アンティーク着物万華鏡」展の記事はこちらからご覧になれます)。

首藤さんは、雑誌や新聞を中心に、映画、演劇、音楽関係の撮影を主にしているカメラマン。ご自身のアート活動としては幻燈写真作品や写真映画『ヤーチャイカ』を手掛け、美大で後進の指導にもあたっているプロ中のプロです。

そんな一流のお二方が、私のために(ここ大事)スタイリングし、写真を撮ってくれるのです。さらにはプロのメイクアップアーティストの手でヘアメイクもしてもらえます。

これを試さずにおられましょうや。

というわけで、7月の「ロマン写真館」に申し込み、体験してきました。

ロマン写真館体験記

まずは申し込み

申込みはWEBサイトの予約フォームから行いますが、最近はとても人気で予約開始後すぐにすべての枠が埋まってしまうような状況。

ですので、まずはメール登録をして次回開催日と予約開始日の情報をゲットしましょう。

予約が始まったら、予約フォームに情報を入力し、あとはロマン写真館さんからの連絡を待ちます。

運良く予約が取れたら、メールで質問が届きます。質問内容は身長、足のサイズ、体型(S/M/Lサイズ)、髪の長さなど。すべて当日のスタイリングに必要な情報です。そして、顔全体がよくわかる写真を同送します。

どうして写真が必要かって? それは、岩田さんがその人の個性や雰囲気に合わせた着物を選ぶためなのです。

「単に似合うというだけでなく、新しい自分に出会える着物を着てもらいたいので、先にお顔を見せてもらっています」と言う岩田さん。

ロマン写真館が他の同種サービスと一線を画する理由は、ここにあります。プロにお似合いの一点を選んでもらえるだけでなく、新しい個性を見つけることができるのです。これはなかなかできない体験ですよね。どうしてもこんな色柄を着てみたいという強い要望があれば対応してくれますが、あえて希望は出さず、すべて選んでもらうのもロマン写真館の楽しみ方のひとつ。私はもちろん完全にお任せしました。どんな着物が私を待っているのか、当日が楽しみでなりません!

当日の前準備

さて、撮影当日となりました。準備は持参する足袋と着物用の下着をカバンに詰めるだけ。そんなの持っていない! という方もご安心ください。足袋は当日現場で貸してもらえますし、下着はキャミソールのような袖なしのものを着用しておけばOKです。ひとつだけ守って欲しいのは、前開きの洋服を着用すること。着付けはメイク後に行うので、頭から被るタイプの服だとせっかくのヘアメイクが壊れてしまいます。

お化粧に関しては会場でメイクしてもらう際に化粧落としなどが必要にならないよう、できればノーメイク、無理であれば薄化粧やポイントメイクだけだとありがたい、とのことでした。よって、私は日焼け止めクリームを塗ったら、あとは眉を描くだけですませました。人目なんて気にしませんとも。

弥生美術館の最寄り駅は東京メトロ千代田線の根津駅ですが、駅からは少し歩くので、指定の時間に遅刻しないよう余裕を持って出発です。

会場についたら、門を入ってすぐ左側にある建物「カフェ港や」に入り、スタッフに声をかけて名前と予約時間を告げます。

さあ、あとはまな板の上の鯉になるだけ。

「今日は暑いですね~」などと気さくに声をかけてくださるスタッフのみなさんとお話しつつ、まずはヘアメイクから始めます。

メイクももちろん大正時代を意識して、レトロな雰囲気に。髪型はもちろん、眉の描き方や口紅のさし方まで、当時の写真やイラストを参考に再現しているそうです。鏡の中の自分が、どんどんモガっぽくなっていきます。テンションも自然と高まって、気分はもう完全に女優です。

そして、いよいよ今日着る着物とご対面!

おお! これが!

淡緑色の地に、紫--伝統色でいうなら紅桔梗に近いでしょうか--のストライプが入っています。葉のような文様の上にはショッキングピンクに近い鮮やかな撫子の花が散っていて、中間色なのにかなりビビットな配色。自分でチョイスしろと言われたら、大胆すぎてちょっと気後れするかもしれません。

でも、ここは岩田さんの「お顔のイメージとライターという職業柄を考えて、今回は知的で優しく見える着物にしました。絶対似合いますよ!」という言葉を信じて、さっそく着付け開始です!

着付けをしてくれる岩田さん。スタッフのみなさんの衣装も大正ロマン風です。

岩田さんの着付けは、「自然な立ち振る舞いで、座ればシワになり、動けば襟元もゆるみ、風が吹けば裾も袖もゆれる」、そんな自然な着方がモットー。過度に締めつけたり、あちこち固定したりしないので、着せてもらう方もとても楽です。短時間でできあがり、最後に髪飾りをつけてもらったら準備終了。

いよいよ撮影に臨みます。

いよいよ撮影!

撮影場所は弥生美術館の前庭です。

首藤さんの指示に従って、いろんな場所に立ったり、座ったり、花を持ったり、団扇を持ったりと大忙し。

アシスタントの方が目の前で反射板を持ってお立ちになると、こちらの気分もなにやらシャキっとしてくるのが不思議なもので、ちょっと緊張したのも束の間、ポージングや表情作りに夢中になっているうちに撮影はどんどん進みます。

ロマン写真館では、被写体はにっこり笑ったりしません。夢二の女たちのように、アンニュイで、憂いを含む大正乙女にならなければならないのす。撮影中は的確でわかりやすい指示をしてくれるので戸惑うことはないのですが、それでも「写真を撮る時は笑顔」が身に染み付いてしまっている私たちにとっては、顔から笑みを消すのはなかなか大変です。

仕事柄、プロの俳優さんやモデルさんの撮影現場に立ち会ったことは何度もあるのですが、自分が被写体になってみると「写真を撮られること」の難しさをしみじみと感じました。普段何気なく見ているワンショットでも、プロの技がたくさん詰まっているものなのですね。本当にいい経験になりました。

撮影終了後

撮影が終われば、そのままの姿で弥生美術館の見学ができます。入館料は料金に含まれているので手ぶらで館内に。撮影会は美術館の休館日に行われるため、見学者はロマン写真館で写真を撮り終えた人だけです。つまり、ほぼ独り占めで展示を見られるのです。なんて贅沢なのでしょう。しかも、自分の装いと展示品の世界が完全に溶け合っている。こんな観覧体験、そうそうできるものではありません。

すっかり大正マダムの気分で高畠華宵の屏風絵を見ていると、「あっ! この人の髪型、今の私とそっくり!」と驚くような一場面も。これもロマン写真館ならではといえるでしょう。

見つけた髪型そっくりさん。顔は、まあ……。

展示品を心ゆくまで堪能して館の外に出ると、次の方の撮影が始まっていました。
二十代の若い女性でしたが、お話を伺ったところ、以前からロマン写真館に興味があったので、お母様が還暦を迎えられた記念におふたりで参加されたとのこと。記念日にアンティーク着物で撮影なんて、とてもロマンティックですね。また、私の前に撮影していた一組はご夫婦で、しかもリピーターだとか。男性の大正ロマン姿も往時の文士のようで素敵でした。年齢や性別関係なく、誰でも「ひと時の大正時代」に遊べるわけです。

心ゆくまで着物を楽しんだら、あとはおうちに帰るだけ。ヘアメイクはもちろんきちんと落としてくれますが、私はあまりに気に入ったのでそのままにしてもらいました。

家に帰るまでが大正ロマン!

写真が届くまで

当日撮ってもらった写真は、首藤さんがベストショットと認定した1枚を紙焼きに、他にも選り抜きの5枚をCD-ROMに焼いて、だいたい1ヶ月後を目安に郵送してくれます。

紙焼きは、昔ながらの写真館さながらの立派なオリジナル台紙付き。開く瞬間もときめきが止まりません。

そして、出てきたのは……。

おお……これは……。なんだか自分じゃないみたいです。

華宵みがある……。この写真の姿のまま、大正マダム、いやさ、大正乙女のふりをして銀座を歩いてみたい……。京都や鎌倉でもいいかもしれない……。

妄想を爆発させつつ、「大正時代の着付けはとても自由で、今よりもっとラフでした。現代の私たちだって、細かいことは気にせずももっと楽しめばいいんです」という岩田さんの言葉を噛み締めながら、最高の思い出となった撮影の一日をしみじみと振り返ったのでした。

最初にも書いた通り、ロマン写真館は常設の写真館ではなく、1ヶ月に1度だけ開かれる魔法の写真館です。

価格や次回開催予定日など、くわしいことは下記公式サイトでチェックしてみてくださいね。

ロマン写真館
http://www.roman3.net/

最高の大正乙女体験があなたを待っています。私もこれを機会に、一丁「乙女修行」を始めてみるか……。

書いた人

書評家。主に文学、宗教、美術、民俗関係。著書に『自分でつける戒名』『ときめく妖怪図鑑』『ときめく御仏図鑑』、共著に『史上最強 図解仏教入門』など。現在、よみもの.comにて「文豪の死に様」を連載中。最近の関心事項は文化としての『あの世』(スピリチュアルではない)。