Culture

2024.02.13

天才が描くグロテスクとエロティシズム。デンマーク人キュレーターが「武田秀雄」に注目する理由

浮世絵や創作版画・新版画などの魅力について、コペンハーゲンを拠点に発信しているキュレーターでアートディレクターのマリーヌ・ワグナーさん。イギリスの美術出版社やオークション業界での勤務経験を持つ彼女に、日本の浮世絵・版画の文化を北欧の視点から読み解いてもらいました。

「自分は漫画家」と断言するアーティスト

1993年、ロンドンの大英博物館は、欧米の美術館では初となる武田秀雄の展覧会「武田秀雄と日本の漫画の伝統」を開催しました。そして、それから30年後の今年、彼の作品はデンマークでも初めて展示されました。キュレーターとして、私は彼の作品がデンマークで非常に好意的に受け入れられていると感じています。

武田秀雄は1948年に大阪で生まれました。多摩美術大学で彫刻を学びますが、当時すでにグラフィック・アートの仕事を始めており、1970年代に最初の漫画集『マダム・チャンの中華料理店』(1973年)と『ヨギ』(1974年)を出版しています。

武田秀雄/Takeda Hideo(画像:本人提供)

私が初めて彼と会うことができたのは2022年の秋のこと。彼は大阪にある自宅への訪問を快く引き受けてくれました。その時は日本の近代版画に関する本を出版するための取材でしたが、昨年10月に再び訪問した際は、デンマークで開催予定の私がキュレーションする展覧会に彼の作品を展示しようと、直接借りに伺ったのでした。

彼は長いキャリアを通じて彫刻、絵画、ドローイング、版画など、さまざまなメディアを使って作品を制作してきました。しかし、彼は自分を「アーティストだ」とは考えていません。あくまで「漫画家」を自称する彼は、芸術家であろうとなかろうと、私が見る限り「線と模様の天才」であり、ユーモアの達人でもあります。

Photo by Takeda Hideo

彼の家は、コミカルかつグロテスクなモチーフの作品で溢れかえっており、どの版画を展覧会に出すかを決めるのは大変な作業でした。山積みにされた作品の中から、私はシルクスクリーンの最も美しい作品を選び、それは現在デンマーク、ユトランド半島の中央にある「ヴァイレ美術館」で開催中の「Skabninger(デンマーク語で創作の意):Graphic Art from Japan to Denmark」展に、デンマークを代表する作品とともに並んでいます。この展覧会は2024年8月31日まで開催されています。

私が彼の作品を選んだのは、それが日本の近代版画史において重要な役割を担っていると考えるからです。私は武田秀雄の作品こそ、今ヨーロッパで最も評価されるべき作品だと考えています。

ヴァイレ美術館に展示される武田秀雄「源平シリーズ」。Photo by Iben Marika Parum.

デンマーク人が見る「ヤクザ」文化

武田秀雄の作品の魅力については、もう少し説明が必要かもしれません。

1976年、彼は初めてシルクスクリーンの版画作品を制作しました。鮮やかな色彩とパターンに、くっきりとした黒い線を組み合わせた作品には、彼独特のユーモアのセンスと驚異的な筆致が見て取れます。
最初のシリーズは「Mon Mon」と題され、これは日本の「ヤクザ」文化の中で生まれ、息づいてきた刺青である「倶利迦羅紋紋(くりからもんもん)」にちなんでいます。

Takeda Hideo, Mon Mon, silkscreen print, 1976

「男性的」な身体からあえて衣服を剥ぎ取り、日本の伝統的なモチーフとしての刺青を、女性のパンティを着せた体に描き、不条理でコミカルに表現しています。

「源平」シリーズは、私が説明するまでもなく、平安時代の源氏と平家の確執を題材にしています。源平合戦は1180年から1185年まで続き、軍事力、ひいては日本の支配権をめぐる数十年にわたる対立の頂点でした。日本画家の間で長く好まれてきたこのモチーフを、彼はその伝統を受け継ぎつつ、現代風にアレンジしています。

Takeda Hideo, The Death of Taira no Kiyomori, silkscreen print, 1985-99 

彼が描く武士たちは、先程の「ヤクザ」のように体の刺青で飾られているだけです。背景に描かれた人物は、よく見ると、何人かは馬に乗っているのではなく、グロテスクなポーズで女性の上に乗っているものもあります。

テクニカルな面でも、モチーフの面においても、日本の伝統が彼の作品に痕跡を残していることは間違いないでしょう。彼のシルクスクリーンの版画は、私には19世紀の歌舞伎役者や歌川派が描いてきた武士たちに似ているように思えます。いくつかの作品には、古典的な波のモチーフへの言及も明確に見られます。

Utagawa Kunisada(歌川国貞), Contention for the Vanguard at Fujigawa, woodblock print, 1838

グロテスクとエロティシズムとユーモア

ところが、興味深いことに、武田秀雄自身は、自らの作品に影響を与えた源として日本人の「血筋」を認めていません。代わりに、イギリスの漫画家ロナルド・サール(1920-2011)とフランスの風刺画家トミ・ウンゲラー(1931-2019)にインスピレーションを受けたと述べています。

フランスの新聞の取材を受け、トミ・ウンゲラーと写真に収まる武田秀雄氏。/Tomi Ungerer and Takeda Hideo photographed in 2006

武田秀雄の作品の特徴は、不条理とユーモアが交錯し、しばしば残酷なエロティシズムと組み合わされるところにあります。それが彼の作品を際立たせていると、私は考えます。

Takeda Hideo, Contention for the Vanguard at Fujigawa, silkscreen print, 1985-99 

皮肉と不条理は、「女性にとっての地獄」を描いた彼のシリーズ『インフェルノ』(2000年)でも明らかです。このシリーズが教訓を与えているとすれば、「パートナーを大切にしなければ、ここに行き着く可能性がある」ということかもしれません。

Takeda Hideo, Inferno, silkscreen print, 2000

ここでも彼はグロテスク、暴力的、快楽的なものの対比を、伝統的な春画をベースにしながらも、まったく独創的な表現で描いています。

江戸時代に浮世絵版画、書籍、絵画の形で確立されたエロティックなジャンルである春画は、あらゆる社会階層で楽しまれ、しばしばユーモラスなアプローチでセックスやセクシュアリティの様々な側面を描きました。

武田秀雄作品を日本から招いた現在開催中の展覧会では、風刺画の伝統を知るデンマークの観客がその美しさ、ユーモア、そしてとりわけ版画の質の高さに感動しているように見受けられます。アーティストとして——その素晴らしい才能から、私は彼をこう呼ぶことにします——武田秀雄は日本の版画の長い伝統を現代に受け継ぎつつも、その版画は相変わらず素晴らしく、愉快で、まさに時代を超越しているのです。

翻訳:安藤智郎(Translated by Ando Tomoro)
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マリーヌ・ワグナー

キュレーター、アートディレクター、「Tiger Tanuki: Japanese Art & Aesthetics」創設者。日本美術史の修士号取得後、出版業界やオークション業界を経て、現在はさまざまな観点から日本美術に関する執筆やキュレーション、アートディレクションを行っている。専門は日本の版画と19世紀から20世紀にかけての日本と西洋の文化交流。https://www.tiger-tanuki.com/
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