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6,7月号2024.05.01発売

永遠のふたり 白洲次郎と正子

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Culture

2024.06.07

インスタも話題! 大槻裕一・成田奏・河村凛太郎、若手能楽師の人気講座を体験リポート

能楽を観たことがありますか?「興味はあるけれど、何となく難しそう」「能楽堂へ入るのに緊張する」など、第一歩が踏み出せない人も多いのではないでしょうか。

そんな人たちに魅力を伝えたいと思っていたところ、若手実力派能楽師の人気講座があると知りました。東京と大阪で継続して開催するなか、新たに京都でも始まると知り、人気の秘密を探るべくお邪魔をしてきました!

インスタグラムでの告知が話題!!

能楽師シテ方観世流の大槻裕一(おおつきゆういち)さんと、能楽師小鼓方幸流(こつづみかた こうりゅう)の成田奏(なりたそう)さんは、初心者向けの能楽講座を自主的に行っています。「2年前に東京で能楽公演を開催したときに、出演をしてくれた成田君と一緒に、せっかくだからと事前の講座を開いたのがきっかけです。お客様が予想以上に喜んでくださったので、続けていくうちに、当初の会場では手狭になってしまって、現在は東京・巣鴨にある西方寺の本堂で開催しています」と大槻さん。その後、お二人の活動の本拠地である関西でも行おうと、1年後には大阪・大槻能楽堂でも開始して、現在も継続しています。

インスタグラム『月イチ能楽講座』より 左から大槻裕一さん、成田奏さん

ユニークなのは講座の告知にインスタグラムを使っていることです。軽快な現代の音楽にのせて、お互いにクイズを出し合って答える動画もあります。時には能の装束と面(おもて)※1をつけているクイズもあって、てっきり公演の本番前の撮影かと思いきや、「お互いに空いているときに、能装束を着付けてもらって能舞台で撮りました」と大槻さんが説明してくれました。スゴい! 本気度を感じます。2人でアイデアを出しながら制作しているこのインスタグラムは、能楽初心者の間で「面白い!」と話題。自然と能に興味を持つようにと、工夫がされているのがいいですね。

※1:能の舞台で使われる仮面のこと。

笑いが起こるざっくばらんな、演目解説

東京、大阪と継続していく内に、自然な流れで京都での開催が決まったそうです。「大阪の会場では夜に行っているので、京都の方が参加できないという声もありまして」と成田さんがいきさつを話します。今回は、能楽師大鼓方(おおつづみかた)石井流の河村凜太郎(かわむらりんたろう)さんも加わって、初めて3人で講師をつとめます。会場の百万遍如意寺は、舞台ではなくてフラットな和室なので、講師との距離も近くてアットホームな印象。畳敷きですが、客席は椅子席というのもありがたいです。「インスタグラムでこの講座を知って来ました」というお客様もおられました。

最初にそれぞれの自己紹介がありましたが、今回初参加の河村さんは、「何も聞かされていないです」と爆弾発言!! ええ!? 始まる前に集まったけれど、打ち合わせはナシだったそうです。大丈夫なのかなぁ? でもそこは、普段能楽堂の舞台を共に踏んでいる仲間同士の結束で、乗り切る様子。実は河村さんと大槻さんは中学校3年間同じクラスで学んだ同級生。また成田さんは京都で修行中に、京都在住の河村さんと親しくなったそうで、そのせいか和やかな空気が漂います。

左から河村凜太郎さん、成田奏さん

最初に大槻さんが「僕たちは研究者ではないので、わからないこともあります。ですから、皆さんと一緒に学ぶ気持ちで進めますので」とのコメントもあって、一気に気分が楽になりました。『自然居士(じねんこじ)』という能の詞章(ししょう)※2のテキストが参加者に配られて、区切りながら丁寧に成田さんが解説をしていきます。難しい漢字が出てくると、これなんて読むのだっけ? 3人でその場で相談しながら進行するのもご愛敬。あー全部わからなくてもいいのだと、こちらもリラックスできます。

途中で登場人物の動きなどを、成田さんが大槻さんに問いかけると、能の主役を演じるシテ方ならではの、具体的な説明が入ります。物語のなかで、人商人(ひとあきびと)が現れていたいけな少女を連れ去る場面があるのですが、お二人の誇張したやりとりが、まるでコントのようで吹き出してしまいました。本当に打ち合わせナシ? 息ぴったりのライブ感が楽しいです。会場の笑い声に包まれながら、こんな雰囲気で能の講座を受けるのは、初めてかもしれないと思いました。

※2:謡とせりふで構成された文章のこと。

『自然居士』の作り物や装束の説明を聞いて、情景が浮かぶ

講座で配られたテキストの『自然居士』は、2024年6月に3人が共演する演目でもあります。「今回は古い演出方法で行うので、お配りしたテキストも古い形のものになっています」と大槻さん。作者の観阿弥(かんあみ)※3が行っていた古演出で、作り物の船が登場するそうです。その後、息子の世阿弥(ぜあみ)※4の代になってその演出はカットされたとの説明は、能楽ツウの人にとっては興味深い内容。初心者向けかと思いきや、こんなレアな知識が得られるのも、この講座の魅力なのでしょう。そのためか、数々の能舞台を鑑賞されている様子のお客様も参加されていました。

装束の説明をする大槻裕一さん

自然居士は、このような内容です。

自然居士という若い説教師が、京都東山・雲居寺(うんごじ)に人を集めて、7日間の説法を行っていました。最終日に孤児の少女が、両親の追善のために小袖を添えて、読経を願う文を持ってきます。居士はその文を読み上げ、少女の健気さに感動します。そこへ人商人が現れて、少女を連れ去ってしまいます。居士は少女が両親の追善のために自分の身を売ったことを知り、説法を中止して救出に向います。そして船出しようとしていた一行を呼び止め、船に取り付いて引き留める居士。根負けした人商人は少女を渡す代わりに、舞が見たいと言い出します。居士はなぶられていると知りながら、耐えて舞を舞い、ついに少女を取り返し、ともに都へと帰っていくのでした。

観世流では、小袖は赤い縫箔(ぬいはく)※5を使用すると決まっているそうで、大槻さんは身にまといながら装束の説明もして下さいました。「少女がようやく買えた小袖なので、今日持ってきたのは少し豪華かもしれませんね」。舞台展開で、居士は小袖を細長く折りたたんで、肩にかけた状態で少女の救出に向うのだとか。実際にかけた様子も再現してもらえて、能舞台での情景がリアルに浮かびました。

※3:南北朝時代の能役者・能作者。現代の能の基礎を作ったとされる人物。
※4:父の後を受けて、能を発展させた室町前期の能役者・能作者。『風姿花伝』など能楽論書も多数書き残した。
※5:繻子地(しゅすじ)に箔を置き、絹色糸で刺繍をほどこした能装束。

圧巻のお囃子と謡の実演

居士が舞を舞う場面は、謡とお囃子が入ります。「ここ、ちょっと一緒にやってみようか」と大槻さんが成田さんと河村さんに話しかけて、いきなり演奏が始まりました。打ち合わせナシで、リハーサルも音だしもなくて、このクオリティ!? すごい迫力です。会場からは自然と拍手が沸き起こりました。

左から河村凜太郎さん、成田奏さん、大槻裕一さん

「以前にこの演目を演奏した時に、シテ方の大槻文藏(おおつきぶんぞう)先生から『最初に居士が舞うところは気が進まないので、お囃子もつまらない演奏にしてほしい』とアドバイスしてもらったことがあるのですが、僕たちはお囃子が好きなので、楽しく演奏してしまったことがありました」と成田さん。その後の舞はにぎやかになるので、お囃子も変化するそう。その違いも生で体験できて興味深く感じました。

段取りや打ち合わせがなくても、こんな風に講座ができるのは、それぞれが日々技術を磨いているから可能なのだと実感しました。そして、能楽師同士の信頼関係があるからなのでしょう。とても楽しく、凝縮された時間でした。いきなり能の公演へ行くのは、ちょっと勇気が出ないという方に、是非お勧めしたいです!

講師の皆さんに聞いてみた!

—-本当に打ち合わせナシだったのですか?

大槻:はい。実は毎回そうなんです。

—-突然に謡とお囃子の演奏が始まりましたが、せーの! とか合図もなく始まるのですね! 息がぴったりでびっくりしました。

河村:そうですね、合図とかはないですね(笑)。能という芸能がすごいのだと思います。

大槻:大鼓も小鼓も楽器とは呼ばないのですよ。お道具と呼びます。

—-お道具ですか! 知りませんでした。

大槻:小鼓は打てば音が出る訳ではなくて、音を出すまでがとても難しいです。

—-そうなのですか?

成田:だから面白くもありますね。音程を変えることができるので、様々な音色が出ます。

河村:大鼓は、演奏前に必ず炭火で皮を乾燥させます。そうしないと、チョンと響く高い調子の音が出ないので。

成田:小鼓は反対に乾燥を嫌うので、演奏の途中に息を吹きかけて、乾燥しないように気をつけています。

—-えっ! 私、ずっと演奏中に舐めておられるのだと思っていました……。

成田:いえいえ、キャンディじゃないので舐めないですよ(苦笑い)。

—-今回の講座はとてもアットホームで、楽しく参加できました。

大槻:二人で続けていこうと決めた時に、お客様と一緒に学ぶ気持でやろうと話しました。距離も近いようにと考えて、大槻能楽堂で行う時も能舞台はあえて使わずに、客席に降りて行っています。

後列左から河村凜太郎さん、成田奏さん 前列大槻裕一さん

—-装束と面が間近に見られて感激しました。縫箔には箔と刺繍がほどこされていて、きれいですね。

大槻:縫箔の箔と刺繍は、手仕事で作られていて、とても繊細です。はがれたりほどけたりしやすい着物の真ん中あたりは、こすれてしまうので、その装飾をあえてつけない工夫がされています。

縫箔の能装束 面は『自然居士』でシテ方がつける喝食(かっしき)

—-講座を続けてこられて、何かご自身で変化はありましたか?

成田:講座のなかでシテ方の型や装束のことを尋ねる聞き役になっていますが、僕自身も今まで学ぶ機会がなかったので、有り難いです。面の名前とか装束の模様など、細かいところを色々教えてもらっています。

大槻:それは、お互い様で、僕もお囃子のお道具のことを詳しく知る良い機会となっています。

以前にシテ方が激しく舞い、お囃子の演奏がロックのように感じたことがありました。決してアドリブで行っているのではなくて、全て寸法が決まっていて、どれだけ早いテンポでもどの部分なのか双方が把握していると知って驚きました。決められた型のなかで、繰り出されるグルーヴ感は、能の魅力のひとつなのでしょう。京都での2回目の開催が、7月に決まったと、取材後に知りました! 詳細はインスタグラムをご覧下さい。
Instagram:@noh_once_a_month

公演情報

月イチ能楽講座in大槻能楽堂
開催日:2024年6月10日(月)
時間:19時~
会場:大槻能楽堂(大阪メトロ谷町線・中央線「谷町四丁目」10番出口徒歩約5分)
講座内容:「自然居士」
入場料:2000円
講師:大槻裕一 成田奏

大槻文藏と読み解く能の世界
開催日:2024年6月15日(土)
時間:14時開演(13時半開場)
会場:大槻能楽堂
入場料:S席7500円(前売6500円)、A席7000円(前売6000円)、B席6500円(5500円)
対談「観阿弥」大槻文藏 田中玲子
能 「自然居士」大槻裕一、成田奏、河村凜太郎 他
■チケット取り扱い:大槻能楽堂ウェブサイトhttps://noh-kyogen.com/ticket/

月イチ能楽講座イン東京
開催日:2024年6月25日(火)
時間:18時半~
会場:西方寺(都営三田線「西巣鴨駅」より徒歩約3分)
講座内容:「忠度」
入場料:2000円
講師:大槻裕一 成田奏

■月イチ能楽講座チケット取り扱い:専用インスタグラム予約フォームより
https://www.instagram.com/noh_once_a_month/

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瓦谷登貴子

幼い頃より舞台芸術に親しみながら育つ。一時勘違いして舞台女優を目指すが、挫折。育児雑誌や外国人向け雑誌、古民家保存雑誌などに参加。能、狂言、文楽、歌舞伎、上方落語をこよなく愛す。十五代目片岡仁左衛門ラブ。ずっと浮世離れしていると言われ続けていて、多分一生直らないと諦めている。
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