異世界だと思っていた時代劇の女形で舞台に
30歳を過ぎてから日本舞踊を習い始めました。まさに「三十の手習い」です。2020年にテレビ番組の企画で、「何か挑戦してみたいことはありますか?」と聞かれて、その時に「日本舞踊で女形をやってみたい」と言ったのが始まりなんです。それで、名古屋の西川流四世家元、西川千雅(にしかわかずまさ)さんにご指導いただきました。その時、日本舞踊を体験したことが縁で、西川先生が2022年に立ち上げられた舞踊劇「名古屋をどりNEO傾奇者」※1に出演させていただくことになったんです。初めての時代劇で、それも女形で舞台に出させていただくことになり、本当にできるか最初は不安だったんですが、お稽古をする中で、表現という視点で新たな学びもあり、貴重な経験をさせてもらいました。そして改めて、伝統芸能の持つ美しさにも惹かれるようになりました。
インスタントな時代に生きる僕らからは、日本文化は遠くなってしまった
舞台稽古の後、本田さんへの取材に、西川先生にも参加いただき、お二人に語ってもらいました。
西川流についてはコチラ
伝統芸能の革命児!『舞踊の大衆化』をテーマに進化を続ける西川流四世家元に直撃インタビュー
本田剛文(以下:本田):僕自身、実家が昔から続く家業をやっていて、小さい頃から正座している環境で育っていました。幼稚園も仏教系だったり、高校の部活も弓道部を選んだりと、昔から日本文化に触れてはいたんです。ただ、だんだん時代の変化と共に、僕自身も日本文化に触れる機会がどんどん減ってしまった。僕らの世代って、いろいろなエンターテインメントをインスタントに楽しむことができるし、気軽に娯楽を摂取できますよね。そういったなかで、劇場に足を運んで伝統芸能を見るというのは、日常生活の中からは遠くなってしまったんです。
西川千雅(以下:西川):「名古屋をどりNEO」は、このままでは日本文化は忘れ去られてしまうという危機感もあって、日本文化に興味を持ってもらえるきっかけの一つになるよう始めたんです。だから、本田君が参加してくれたことで、今まで関心を持ってもらえなかった世代にもアプローチできてすごくうれしいんです。実際、本田君は、日本舞踊をやるようになって、どうでしたか。
本田:僕は、歌って踊るというボーイズグループをやっていますが、日本舞踊って、全く違う世界だなと感じました。普段やっているダンスは、オンビートで、または歌詞に合わせて体を動かしていくんですが、日本舞踊は、一定のリズムに乗って踊るわけではないんですよね。動きの一つひとつに、何らかの意味が感じられるというか。概念的な部分があるんです。踊りなんだけど、すべてにお芝居の要素があり、踊り一つひとつに、情景や物語のイメージがあるというのをすごく感じました。
西川:そういう感覚をパッと掴めるところが本田君のすごいところですよね。日本舞踊は、そもそも歌舞伎とか能とか、お芝居とセットになっているものですから、踊りにもストーリー性があるんです。
本田:それともう一つ、日本舞踊の踊りを見ていると目線も踊っているな、と感じるんです。視線の運び方も踊りの一部のように見えるというか。どういう視線を描くと、悲しそうに見えるかとか、うれしそうに見えるかとか、そういうことを、僕は今まで考えたことがなかったんです。日本舞踊を習い始めて、今まで全く気にしていなかった部分にも、神経がいくようになったのは、大きな変化でした。
西川:視線もそうだし、どこに手を置くか、首をかしげたり、体の向きにも、悲しいとか、うれしいとか、ちゃんと意味があるんです。子どもを演じる時は、関節を使わないで動くとか、お年寄りは体を丸めて動くとか、日本舞踊の場合、表現の方法を外側から作っていくというプロセスがあるんです。西洋の踊りは、内側からの感情を表現していくので、毎回違ってもいいし、そこが日本舞踊と大きく違うんです。
日本舞踊を入口に伝統芸能の世界が楽しめるようになった
本田:僕らの世代って、日本文化に触れる機会が少ないので、ダンスも西洋の踊りでしか知らない人がほとんどです。でも日本舞踊などの伝統芸能を知ると、長い年月を経て、受け継がれてきた感情表現の細やかさや内に秘めた想いを表現しているんだなと感じます。以前、番組で、中村勘九郎さんや七之助さんとご一緒させていただいて、その後、平成中村座の名古屋公演を観に行ったんです。日本舞踊を習っていなかったら、「すごいな」で終わっていたかもしれないんですが、心情を現した美しい動きとか凄みをすごく感じられるようになって。こんな難しい動きをこともなげにやっているのか、というのもわかるようになったんです。
西川:本田君の使う日本語ってすごいよね。「こともなげに」なんて、若い人が言うのを初めて聞きました(笑)。でもそういう感性が、お芝居にも日本舞踊にも大切で。簡単そうにやっている所作の一つひとつが、自然に見えるようになるには、日々の訓練が大事なんです。
本田:僕らがやっているボーイズグループの活動って、キャラクターがあって、感情表現もわかりやすさを強調した陽の世界だったりするんです(笑)。だから余計に、それとは対照的な日本舞踊の内省的で、情緒的な部分が面白くて、ハマっているのかもしれません。僕のファンの方も『名古屋をどりNEO』を見てから、僕以外の方の踊りの部分に興味を持ってくれたり、踊りについて語っているのを見ると、新しい扉を開くきっかけになれたかなと、うれしくなります。僕がライトユーザーを増やす入口となって、かじってもらうことで、だんだんと伝統芸能の奥深さや面白さを感じてもらえたらと思うんです。
西川:これから時代を作っていく人たちに、関心を持ってもらえるのはすごくうれしい。本田君もボイメンのメンバーも、日本文化に対して、真摯に、一生懸命に取り組んでくれているし、礼儀とかもきちんとしていますよね。そういう日本の良い部分は、どんどん受け継いでいってもらえたらいいなと思います。
本田:知らないと遠ざかりがちな世界であるとは思うんですが、家元が『名古屋をどりNEO』という日本舞踊と芝居をPOPな音楽とか、映像も組み合わせながら、現代風にアレンジして、さまざまなアプローチで楽しんでもらえるようにしているのは、すごく大切なことだなと思うんです。
名古屋をどり創始者、西川鯉三郎を演じるという重み
本田:今年の「名古屋をどりNEO」での『名古屋ハイカラ華劇團』では、西川流二世家元で名古屋をどり創始者であり、西川先生の祖父、西川鯉三郎(にしかわこいさぶろう)さんをモデルにした役を演じさせていただくことになりました。実際に、ずっと東京で歌舞伎役者として活躍していて、30歳で新天地の名古屋に移って、西川流を受け継いでこられた鯉三郎さんて、すごいパワフルな人だったと思うんです。そのパワーに負けないよう、頑張りたいと思います。僕としても大きな挑戦であり、今後の自分にとっても糧となる課題だと思っています。日々、日本舞踊のお稽古をしながら、どう美しく魅せていくかを観に来てくださる方に楽しみにしてもらえたらと思っています。
西川:1回目の『名古屋心中』の舞台で演じた女形も本当に美しかったので大丈夫ですよ。実際の鯉三郎は、かなり破天荒な人だったけれど、本田君は人を惹き付ける人の良さがあり、鯉三郎のまた違った魅力を引き出してもらうきっかけになる舞台だと思います。
本田:年を重ねるにつれ、物事を面白がるには、知識と好奇心が必要だなと思うようになりました。知識は飛び込んでからでも、だんだんとわかっていけばいいのかなと思うんですが、飛び込むには好奇心、心のハードルを取っ払って、やってみることが大事だなと思います。セオリーや知識は、飛び込んでからでも学んでいけますから。この『名古屋をどりNEO』は、飛び込むには打ってつけの舞台だと思うので、ぜひ観に来てもらえたらと思います。