Culture

2025.02.08

25絃の箏が結ぶ古典と現代。箏曲家・中井智弥×日本舞踊家・尾上菊之丞、伝統文化の協奏

尾上菊之丞(おのえきくのじょう)さんは、日本舞踊家です。尾上流四代家元としてお弟子さんの指導にもあたる一方で、歌舞伎、花柳界、歌劇、アイスショーなど舞台の演出や振付にも携わっています。そんな菊之丞さんが「降り注ぐメロディにワクワクした」と惚れ込むのが、箏曲家の中井智弥(なかいともや)さんです。紡ぎ出すメロディは、古くからある箏の音色でありながら清新。菊之丞さんが演出をした新作歌舞伎『刀剣乱舞』では、中井さんの箏曲が話題となりました。実は中井さんは、一般的に「箏」と呼ばれる十三絃の箏とは別に、二十五絃の箏のプレイヤーでもあるのです。 2月には「源氏物語」がモチーフのオリジナル舞台、詩楽劇『めいぼくげんじ物語 夢浮橋』で共演するおふたりに、箏の表現の違いや新作歌舞伎での気づきを伺いました。

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一般的な「こと」には13本の絃があります。その他、大正時代、箏曲家・宮城道雄が生み出した17本の絃からなる箏を「十七絃」と呼びます。平成3(1991)年に、箏曲家・野坂操壽(惠子)により新たに創られたのが「二十五弦箏にじゅうごげんそう」です。中井さんは、母親のお稽古事(三味線)についていったのをきっかけに6歳で箏を始め、東京芸術大学で野坂先生に師事し、二十五絃箏と出会いました。

13絃と25絃、違いと魅力

——箏といえば、お正月に流れる「春の海」のような“お箏”の音色を思い浮かべます。

尾上菊之丞(以下、菊之丞): 多くの方がそのイメージをお持ちでしょうね。一般的に「箏」と呼ばれるのは、13本の絃の伝統的な箏。中井さんはそれだけでなく、25本の絃がある「二十五絃箏」のプレイヤーでもあるんですよね。二十五絃箏は、和楽器でありながらモダンなメロディーを奏でます。伝統的な音階で演奏される箏とは、別の楽器のような印象を受けます。

——絃の数が違うと、音色も変わるものですか?

中井智弥(以下、中井): 二十五絃箏は、伝統的な箏の延長にある楽器です。でも表現できることがまるで違うんです。

左手より箏曲家・作曲家の中井智弥さん、日本舞踊家の尾上菊之丞さん。

——箏と二十五絃箏、それぞれの特色や中井さんの中での位置づけを教えてください。

中井: まず伝統的な箏は、絃が少ない分だけ音楽的な制限がありますよね。そんな箏の魅力は、2~3オクターブの広い音域の中、いかに音を間引き、伝統的な音階の13絃で美しい音楽を創るか、という場面で発揮されます。制限のある中で、という意味では、短歌や俳句に近いイメージです。

——たしかに短歌や俳句には、言葉数が限られているからこその広がりがありますね。

中井: 二十五絃箏の場合、箏と比べて音数の制限は減ります。また、西洋音楽のドレミの音階に調弦しているので、現代曲(純邦楽に対しての「洋楽」)を無理なく成立させられるんです。洋楽器に近い表現を、日本の伝統楽器の音で演奏できるんです。

菊之丞: 日本舞踊や歌舞伎にとって音楽は切り離せないものですが、近年、日本舞踊や歌舞伎の舞台でも、現代曲を扱う機会が増えています。ですが現代曲を音楽として成立させられる古典の楽器って、実はそう多くありませんよね。

中井: そうなんです。箏も三味線も一音ずつ鳴らす単旋律のため和声感がありません。でも二十五絃箏であれば、伝統楽器の音のまま洋楽で耳馴染みのあるコード進行で奏でられるので、どんな和楽器編成でも洋楽的な響きに導けます。そのため二十五弦箏を邦楽に馴染みのない方も感情移入しやすく、色彩豊かに感じられたりするのだと思います。

——実際、新作歌舞伎『刀剣乱舞』のテーマ曲は「エモい!」と話題になりました。となると、古典の箏の強みとは何でしょうか?

中井: 一音一音の響きが、箏の音はふくよかでものすごく綺麗なんです。二十五絃箏も、もちろん箏らしく鳴りますが似て非なる音です。例えば箏の一般的な調弦のレ・ミ♭・ソ・ラ・シ♭の5音階を一気に弾くのと、25絃のうち、音を飛ばしながらレ・ミ♭・ソ・ラ・シ♭と弾くのでは、音階の並びが違いますから響き方も変わりますよね。どちらが優れているかではなく、それぞれに得意な表現があり、求められる表現にあわせて使い分けることが大事です。

菊之丞: 実際、中井さんは複数の箏を使い分けていらっしゃるんですよね。

中井: はい。高音の二十五絃箏、それより1オクターブ低い二十五絃箏、そして伝統的な十三絃の箏と、大正時代にできた十七絃の4つです。

降り注ぐメロディーにワクワクした

菊之丞: 中井さんとは、出会ってまだ4、5年ですが、すでにいくつもの作品でご一緒していますね。中井さんを知ったきっかけは、2020年のコロナ禍に、歌舞伎俳優の中村壱太郎かずたろうさんが主体となられた配信公演『ART歌舞伎』でした。一発撮りの生配信と聞いて少し心配もしたのですが、想像をはるかに超えるエネルギーでびっくりするほど素晴らしかった。中でも音楽が印象的で、その時に箏を弾いていたのが中井さんだったんです。これが二十五絃か、みたいな聴き方はしていません。ただただ降り注ぐメロディーにワクワクしました。

中井: 菊之丞さんと実際に初めてお会いしたのは、『ART歌舞伎』と同じ年でした。日本舞踊協会の映像作品『地水火風空 そして、踊』のレコーディングスタジオでしたね。

菊之丞: そう。協会のコロナ対策チームの活動の一環で、助成金を基本資金に映像作品を創りました。地、水、火、風、雨のシーンがあり、「なおかつ僕らには踊りが必要だ」というメッセージを込めた作品だったのですが、天女が水の中で潔斎をする(身を清める)シーンで箏を入れたいと思ったんです。

潔斎のシーンは、高知県の仁淀川で撮影。菊之丞さんも川に入りイメージを創りました。

菊之丞: そこで「中井さんだ!」って。音楽は、藤舎貴生とうしゃきしょうさん(横笛奏者、作曲家)にお任せしていたので、はじめ僕はレコーディングブースの中と外でガラス越しに、抽象的なイメージを伝えるくらいでした。でも中井さんが「こんな感じですか?」と弾いてくださるものが、あまりにも良くて興奮してしまって。

中井: 結局ブースの中に入ってこられたのを覚えています(笑)。

菊之丞 いてもたってもいられなかったんです(笑)。

日本舞踊協会『地水火風空 そして、踊』予告動画はこちら(https://youtu.be/zF4b-be-l88)よりご覧いただけます(現在、本編の配信はございません)。

新作歌舞伎は「新しいものでした」

菊之丞: その後、篠井英介さんの朗読劇『天守物語』でも音楽をお願いし、2023年の新作歌舞伎『刀剣乱舞』でもご一緒させていただきました。

——中井さんにとって、歌舞伎の現場はいかがでしたか?

中井: すべての経験が、新しいものでした。初めに驚いたのが、スケジュールのタイトさ。3月に偶然菊之丞さんにお会いして、そこでお話をいただき、7月が本番だけれどまだ台本もなくて。

菊之丞: 我々としては、いつも通りのスケジュールだったのですが。

中井: 僕は「ええ!」って(笑)。ただ、以前に『刀剣乱舞-宴奏会-』(和楽器とオーケストラによるコンサート)のツアーに参加していたこともあり、どんなゲーム音楽があるかはある程度知っていましたので、あとは自分なりに準備をして。予想外だったのは、現場の空気です。歌舞伎って、伝統の世界だし厳しくて少し怖い空気なんだろうなと想像していたらまるで違いました。皆さん気さくで本当に温かくて。僕の音楽を尊重していただき、自由にやらせていただきました。

——では、現場に入ってからは順調だったのですね!

中井: それが、初めて役者さんの動きと演奏を合わせた時、ツケに驚いてしまって。バン!と鳴った瞬間、頭が真っ白になりました(笑)。ふだん歌舞伎を観ていても、ツケのことは分かっていなかったんですよね。音楽的に想像がつかないところで急に打たれるし、バンと1回の時もあれば、バタバタッと続く時もある。慣れるまでは「次はいつ来るの? もう1回来るの?」とドキドキしっぱなしでした(笑)。

菊之丞: (笑)。たしかにツケには楽譜がありません。役者の動きに合わせて、見計らいで打つんですよね。中井さんは、見計らいで演奏するのが初めてで。そもそもオファーの段階では、スタジオでのレコーディングのみにご参加いただく予定でしたから。

——え!?

中井: はい、舞台に出る予定はなかったんです(笑)。

菊之丞: 共同演出の松也さんや立師たてし(立廻りの流れや型を考え、出演者に指導・演出する人)と作品を作っていく中で、「クライマックスの三日月宗近と足利義輝の立廻りは、あえてツケを入れずに箏の演奏だけでおみせしたい」となりました。でも録音した音楽に立廻りをあわせるのは難しい。かといって急に「舞台に出てください」なんて無茶だよね、と言いつつ絶対に生演奏が素敵だと思うと諦めきれず。恐る恐る中井さんにご予定をうかがったところ……幸いにも、あらかたの日程はお越しいただけることが分かったんです!

——それはラッキーでしたね!

中井 万が一に備えて空けておいたんです!(笑) 歌舞伎は初めてでした。開幕後もデータの編集作業など、いつでも対応できるようにって。結果的に「宴」、「夜の庭」、そして立廻りの最後の一騎打ちを生で演奏させていただきました。

中井さんのYouTubeでは、2023年の新作歌舞伎「刀剣乱舞」(https://www.youtube.com/WEADqlMnmW4)のテーマ曲をはじめ、古典からオリジナル楽曲までお聴きいただけます。

伝統の進化は、両輪で切り拓く

——歌舞伎の立廻りと言えば、ツケが打たれるものだと思っていました。あえて箏の演奏だけで、という発想はとてもチャレンジングですね。新しい試みに対し、「伝統芸能だから」という躊躇や不自由を感じることはありましたか?

菊之丞: そこは自由にできました。まず、ツケがない立廻りは決して新発明ではありません。おそらく過去にもあったはずですが、あまり良いシーンにならなかったり、成立させるのが難しかったりで、定着していないのでしょう。それに伝統的な立廻りは、すでに素晴らしいメカニズムで出来上がっているんです。立廻りの時に演奏される下座音楽は、役者がどう動きいつトドメを刺そうと、柔軟に合わせられる。素晴らしい「いつもの立廻り」があるのに、あえて違うやり方を試すとなると、やはり準備は必要です。

——未知数だからこそのリスクや負担があったのですね。

菊之丞: 松也さんとは、古典歌舞伎の良さがありつつ「ありそうでなかった」ものを目指しました。結果として「一騎打ちをするふたりは、戦いたくて戦ってるわけじゃない」という心情を、中井さんが音楽に反映してくれました。役の心が音楽で表現される立廻りは、過去にあまりなかったはず。あの作品のあのシーンを皆さんに評価いただけているとしたら、二十五絃箏の生演奏、松也さんと尾上右近さんの立廻りの熱量、そして刀剣男士や歴史の登場人物たちの思いが相まって、ある種の沸点となり得た結果だと思います。

——中井さんはクラッシックやジャズなど様々なジャンルとコラボレーションもされています。伝統楽器の奏者であることと、新たな試みへのバランスはどう意識されていますか?

中井: 僕は伝統的な箏を演奏する機会もしばしばあり、ふだん生徒さんに教えているのは生田流の古典。この生田流というのが、時代により大きく変わってきた流派なんです。はじまりは1600年代ですが、当時のものをそのまま継承しているわけではありません。奏法だけでなく、楽器の形や素材、構造も変わりました。「伝統」と言いながらも進化を続けてきた流派なので、挑戦や変化に対する恐れはありません。

菊之丞: 二十五絃箏は、まさに時代にあわせた進化の楽器なのでしょうね。だって今の時代、大半の方が邦楽より洋楽のメロディに慣れていらっしゃるでしょう? 新作歌舞伎でも日本舞踊でも、親しみやすい洋楽的なメロディ展開を多く使うようになりました。二十五絃箏なら和楽器の良さを残したまま、皆さんに馴染みのある洋楽のメロディで勝負できる。伝統芸能を今の人たちに伝える上でも、必要とされる楽器ですね。

中井: ありがとうございます。ただ新しいことをやるならば、新しい箏と伝統的な箏、両方できなくてはどちらも破綻してしまうように思います。古典をやるからには「1600年代はどのように弾いていたのか」と遡り研究をしたり、師事している芦垣美穂先生から古典曲の復曲や途絶えそうな曲をお習いしています。両輪を上手く回して初めて、時代に合わせた挑戦ができると思っています。

ジャンルを越えたキャストが源氏物語の世界を創る

——2月には、詩楽劇『めいぼくげんじ物語 夢浮橋』で、菊之丞さんが構成・演出を手掛け喜撰法師役でご出演。音楽は中井さんです。また脚本は、ふだん歌舞伎を書かれている戸部和久さんによるものです。

菊之丞: 『源氏物語』の最終章にあたる「橋姫」から「夢浮橋」までの「宇治十帖うじじゅうじょう」が題材です。光源氏の死後、出生の苦悩を抱えながら生きる薫と、光源氏の孫である匂宮を中心に、大君や中君、浮舟たちとの恋物語が繰り広げられます。これまでも『源氏物語』からは、六条御息所や夕顔、紫の上などのエピソードを扱ってきました。それと比べ「宇治十帖」は渋めのエピソード。でも冒頭に、大君と中君の姉妹がひとりは琵琶を、もうひとりは箏を演奏し、そこに薫があらわれるくだりがあります。これは僕らがやってきた詩楽劇で、シーンとして立ち上げることができると思いました。救いのない物語の中にも、見る人の共感や新しい切り口を創れたら、というものを目指しています。

中井: 僕は今回、作曲とあわせてバンドマスター(演奏チームの司令塔)的な立ち位置で出演もします。劇中では歌が歌われるので、二十五絃箏を使いたくさん音を紡いであげて、歌い手さんが包まれるような、歌いやすいベースを創れたらと考えています。

「詩楽劇」シリーズは、日本文化の魅力を発信する目的で、2018年にスタートした東京国際フォーラムのJ-CULTURE FESTの企画公演。「源氏物語」の世界を、本物の宮廷装束、歌、和楽器による演奏や舞踊で表現します。

——大君役は元宝塚歌劇団星組トップスター北翔海莉ほくしょう かいりさん、薫役に歌舞伎界から中村莟玉かんぎょくさん、匂宮役には舞台、映像でご活躍の和田琢磨さん、中君役には元宝塚歌劇団星組の男役スター天華あまはなえまさんが、井筒装束店さんによる本格的な装束をまとって出演されます。

菊之丞: このシリーズでは、様々なバックグラウンドをお持ちの皆さんに、作品の中で和の楽器や日本舞踊などにチャレンジしていただくのも一つのコンセプトです。今回北翔さんと天華さんには箏を弾いていただきます。

中井: 11月からお稽古を見させていただいています。地方公演の時には箏をもっていったり、現地で借りたり。本当は毎日でも箏に触れていただきたいので、フォローしながら頑張っていただいています。

菊之丞 そして莟玉さんは琵琶を弾かれます。一度聞かせていただきましたが、いい感じでした! 大きなお世話かもしれませんが、これをきっかけに箏や琵琶を好きになってくれたら僕らは嬉しいし、それが何かに繋がっていけば幸せだなと思うんです。

——演出家として、ジャンルを超えた挑戦が舞台にどのような影響を与えると期待されますか?

菊之丞: 常々、表現者は自分の中に様々な引き出しを持ってる方がいい。持っているに越したことはないと考えています。だから、皆さんには和楽器でも日本舞踊でも本気で取り組んでほしいし、楽しんでほしい。その感覚を共有できる方々との作品創りは、やはり楽しいものです。本気で、苦労してこそ生まれる……というものもあるはずで。例えば僕が「覚えるのはすごく簡単なのに、すごく高度に見える振付」を創れるようになればいいのかもしれない。でも僕が創るのは、たいてい「大変そうに見えて本当に大変」な振(笑)。出演者の皆さんは、他のお仕事もあり、この舞台だけにかけるわけにもいかない。だから無理強いはしないけれど、ギリギリ嫌がられることを覚悟で僕は、「無理かもしれないけど……やってほしいな」と無理難題を笑顔でお願いするわけです。

中井: いやいや(笑)

——中井さんにも、菊之丞さんから無理難題はありましたか?

中井: たしかにぎりぎりまで、たくさん注文や要望はされます(笑)。

菊之丞: 諦められない性格なんです、僕が(笑)。

中井: でも作品のために必要なことばかりなので、無理難題とは感じません。いかようにでも対応します。それとは別に、作品の要となるオーダーにおいては、菊之丞さん特有のものがあると感じています。うまく言えないのですが「生命力溢れるものを作りたいんだな」と。僕も、生命力みなぎる音を奏でたいと思っているから、すごく寄り添いたいしオーダーがあるとすごく嬉しくなる。その菊之丞さんのスタイルや感性は、もしかしたら尾上流の心意気なのかな、という気もます。「品格、新鮮、意外性」という言葉があるんですよね?

菊之丞: 意識はしていないけれど、刷り込まれたものはあるのかもしれません。尾上流の初代家元、六代尾上菊五郎の言葉ですよね。でも「品格、新鮮、意外性」って、思えばどれも当たり前に大切にするべきことなんです。「品格」は、「芸の怖さ、舞台への畏れをもつように」と僕は受け止めています。「新鮮さ」は、繰り返し取り組む古典にも、常に「新鮮」な思いで向き合いなさいということ。そして「意外性」は、奇をてらったことではなく、芸能の品格と本質に寄り添いながら、どれだけはみ出していけるかだと思っています。もしそれが無意識にも作品の空気に繋がり、皆さんの生命力として舞台に現れるなら、とても嬉しいことですね。そのパッションが発生する時、ご覧になっているお客さんもきっと楽しいはずですから。

——生命力は、演者さんの挑戦や必死さから現れるものなのでしょうか。

菊之丞: そもそも生命力がなければ「挑戦しよう」とも思っていただけないんじゃないかな。生命力を秘めた方々に惹かれて、お集まりいただいているのかも知れません。ただ、やはり挑戦を突き詰めることの強要はできないから、お一人おひとりが「しょうがないな。こいつ(菊之丞)がこれだけやるなら付き合うか」と感じていただけるよう、僕は態度で示すしかない。だから僕は、絶対に楽はできないんです。そしてお互いに融通が利く限り、すりあわせていく。そこは芸術家としてではなく、プロの表現者同士の領域で。

——芸術家ではなく、プロなのですね。

菊之丞: 少なくとも僕は、舞台を創るプロという意識です。出来上がったものを誰かが芸術だと感じてくれたら、もちろんそれは嬉しいけれど。中井さんはどうでしょうか。プロでありつつ、演奏の最中は芸術家なのかな。

中井: いや、僕も自分を「芸術家」だと思うことはありません。あえて言うなら、自分は「箏曲家」です。箏曲を作ることも弾くこともしますし、昔の箏を調べたり古典曲を復活させることもします。箏のことなら何でも貪欲に。

菊之丞: 箏がテーマの一つである対談で言うのもあれですが、正直、僕は箏がどうとか絃は何本かとかではなく、中井さんから紡がれるものに感動しているんだな、とあらためて思いました。中井さんに出会わせてくれた壱太郎さんにも感謝ですし、「無理難題とは感じない」と笑顔で無理難題に対応してくださる中井さんにも感謝しています。今年の詩楽劇も、今回のメンバーだからこそのパッションで、お客さんに楽しんで頂けたら嬉しいですね。

関連情報

中井智弥 公式サイト
https://tomoyanakai.com/index.html

日本舞踊尾上流 公式サイト
https://onoe-ryu.com/

J-CULTURE FEST presents 井筒装束シリーズ
詩楽劇『めいぼくげんじ物語 夢浮橋』

日程:2025年2月8日(土)~2月12日(水) ①12:00開演 ②16:00開演 
会場:東京国際フォーラム ホールD7
https://ujijujo.com/

新作歌舞伎『刀剣乱舞』
2025年7月、8月
会場:新橋演舞場、博多座、京都南座
出演:尾上松也他 脚本:松岡亮 演出:尾上松也、尾上菊之丞
https://kabuki-toukenranbu.jp/

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塚田史香

ライター・フォトグラファー。好きな場所は、自宅、劇場、美術館。写真も撮ります。よく行く劇場は歌舞伎座です。
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和樂web編集部

祈るために踊る。映像舞踊作品「地水火風空 そして、踊」が配信!尾上菊之丞さんインタビュー

新居 典子

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