Culture

2025.03.14

奇跡のパワー! 国宝「蓮華王院 三十三間堂」 すごいのは千手観音だけじゃない! 建築センセイが詳細解説します

1000体を超える黄金の千手観音の姿に圧倒されるけれど、「三十三間堂(さんじゅうさんげんどう)」の素晴らしさは、それだけにとどまりません。実は長大なお堂も、国宝としての見どころが詰まっています。建築史を研究する矢ヶ崎善太郎(やがさき・ぜんたろう)先生に、その魅力を教えていただきました。

「三十三間堂」5つの見どころ

まずは国宝建築としての魅力をざっくり押さえましょう

後白河上皇(ごしらかわじょうこう)の願いにより、長寛2(1164)年に平清盛が造進。約80年後に焼失したものの、文永3(1266)年に再建されました。平安時代の和様(わよう)と鎌倉時代の技術が融合した国宝建築としての見どころを、カテゴリー別にご紹介します。

Profile
矢ヶ崎善太郎(大阪電気通信大学建築・デザイン学部教授)
やがさきぜんたろう/建築史家。日本建築史、庭園史、伝統建築技術、文化財保存技術、茶室・数寄屋建築などを専門に研究。わかりやすい解説に定評がある。文化財建築の調査研究や保存活用計画にも携わる。日本建築にまつわる編著書も多数。

見どころ1「圧倒的な長大さは、ほかでは体感できません!」

三十三間堂のいちばんの魅力は、なんといっても類のない長大さ。その長さは約120m、新幹線の車両にたとえると、約4.8両分というから驚きです! 「しかも、ただ長くて大きいだけではありません。あれだけの空間がありながら宗教空間としての緊張感も、しっかりと漂っている。しかし威圧感はないところに、平安貴族の美意識が反映されているといえるでしょう」

お堂に入ったら、まずは通路の端から向こう側の壁を見てみて。かすむほど遠いことに、建物の長さが実感できるはず。

見どころ2「仏と人間の空間を構造の工夫で分けています」

中尊や千手観音像が並ぶ内陣(ないじん)と、人が礼拝する外陣(げじん)。空間は広くとも、その違いは明確に分けられています。「わかりやすいのは天井。中尊が位置する場所には格調高い格子が張られているのに対し、外陣の天井は化粧屋根裏(見どころ4の写真参照)になっています」。壁で隔てなかった演出方法は、お見事です。

建物中央に鎮座する、中尊の千手観音坐像と、その上の格子が張られている天井の様子。外陣の化粧屋根裏と差をつけることで、人間が仏と同じ屋根の下に入ることを叶えている。

見どころ3「和様建築に最新技術を反映。日本建築史の進化が刻まれて」

三十三間堂の創建は平安時代後期ですが、焼失後、鎌倉時代中期に再建。「基本は平安時代の様式である『和様』を踏襲していますが、再建時に中国からの新しい技法も加えられています。たとえば柱同士をつなぐ『虹梁(こうりょう)』(写真左)が突き出たような『木鼻(きばな)』(写真右)に、その形跡が」。構造だけでなく、意匠を施すことに、職人の技が光り始めた時代でした。

木造建築の技術が頂点を迎えていた鎌倉時代、職人たちは意匠に自分の技術を施し始めたという。木鼻の彫刻などは、当時の最先端の建築技術で、装飾が盛んになる、桃山時代の建築様式へとつながる。

見どころ4「よく見ると、当時の極彩色の面影も残っています」

燦々と輝く仏像と、落ち着いたお堂のコントラストが印象的ですが、実は創建当時の三十三間堂は、朱塗りの外装でした。堂内も極彩色の花や雲文様で飾られたといわれ、今もわずかながら、その名残を留めています。「当時の内部は、限られた連子窓(れんじまど)からの光とロウソクの灯りだけ。観音像も、今とは違う見え方をしていたことを想像して鑑賞するのも、面白いのではないでしょうか」

外陣の化粧屋根裏の一部には、花や雲文様が描かれていたであろう箇所が。訪れたら見逃し厳禁!

見どころ5「1000体の仏像を並べる空前のチャレンジ精神に感動」

たくさんの仏像をつくること=多くの功徳や善行を積むこととされていた平安時代。1000体の千手観音像を並べる発想は、後白河上皇の強い信仰心の表れです。「それまでも複数の仏像を並べる信仰はあったけれど、1000体はあまりに別次元。類例のない空間づくりが、建築の発展につながったことは間違いありません」

千手観音立像は、創建当初の124体と、再建時に造立された876体からなっている。

鎌倉時代の建物が市中に現存!「三十三間堂」が奇跡の国宝建築である理由

堂内の建物を支える太い柱には、貫(横木)を抜いた跡を塞いだ様子が見られる(写真右)。「職人には、跡が見えてもいいという意識があるんです。研究家の間では『繕いの跡があるものこそが、いい建築』と言われるほどで、修理をしながら、時代に合わせて建物が使い続けられていた尊さが、そこにはあるんですね」

「公家、僧侶、武士…時代のリーダーが代わるごとに、建築のあり方も変わっていきます。それらが多く存在しているのが京都の街の魅力ですが、なかでも三十三間堂は、公家の強い信仰心が生み出した宗教空間であるところが特徴。いわゆる伝統的な仏教のお寺とは別の、皇族や貴族の信仰の場であり、極楽浄土を表現する場でした。それが独特の雅な雰囲気を醸し出していますし、唯一無二の魅力ではないでしょうか」と、矢ヶ崎先生は語ります。

「長く時代の表舞台であった京都は、人的な火災も含めて災害が多く、鎌倉時代の、それもあれだけ長大な建物が市内に残っているのは、奇跡的なことなんです。敷地面積だけでいうと、日本で4番目に広い木造建築なんですよ」

ひょっとしたら周囲には、もっと立派で美しい建物があったかもしれません。しかしながらここだけが難を逃れたことに、先生は「建物がもっている不思議な生命力を感じる」そうです。「建築物というのは、どんなに素晴らしくても、不必要になったらなくなってしまう。残るべくして残っている建築というものが存在する──長く研究する身として、そんなことを思います」。鎌倉時代の再建後も、室町、桃山、江戸そして昭和に4度の大修理が行われ、750年以上にわたり保存されてきたのには、いつの時代も人々の心を捉えて離さない、“何か”があったからかもしれません。

また先生曰く、訪れる際は、周囲の環境も楽しんでほしいとか。
「もとは後白河上皇が離宮として建てた、法住寺殿(ほうじゅうじどの)の一画だったんです。平安時代、鴨川の東側は、いわゆる郊外にあたるエリア。ここでは上皇たちが寺院などを造営したという、当時の郊外の雰囲気を感じ取ることができます。今も京都国立博物館といった、重厚な公共施設があるのはその名残。鴨川や東山の風景は変わりませんから、長く壮大な歴史が重層している様を、ゆっくり歩きながら感じてほしいですね」

国宝/蓮華王院本堂(三十三間堂)、本尊千手観音坐像、千体千手観音立像、風神・雷神像、二十八部衆立像

国宝 蓮華王院 三十三間堂

れんげおういん さんじゅうさんげんどう
住所:京都府京都市東山区三十三間堂廻り町657
電話:075-561-0467
拝観時間:8時30分~17時(11月16日~3月31日は9時~16時、受付は30分前まで)
拝観料:600円 無休
www.sanjusangendo.jp

※本記事は『和樂(2025年4・5月号)』の転載です。
文/湯口かおり 写真/伊藤信

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湯口かおり

編集プロダクションからファッション誌のエディターに。ファッション以外に挑戦したくなった矢先に「和樂」に捕縛される。商品開発を主に担当しているが、早くもアパレルに着手し始め、人生の矛盾を感じている。
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