本書の第4章「素材や技法」では、使われた素材や技法から国宝の魅力を知るだけでなく、なぜ長い間作品が残り続けているのかその理由に触れることもできます。
その素材のひとつ「墨」は、粒子がとても細かいので紙や布の奥に入り込み何千年もそのまま残ります。日本の多くの絵画や書物に使われ、文化や歴史を現代まで残してきた墨とはどういうものなのか、奈良の老舗墨屋、古梅園(こばいえん)を取材しました。
▼連載「はみだしNEOアート」とは?
『小学館の図鑑NEOアート はじめての国宝』に掲載しきれなかった感動をお届け! 連載 「はみだしNEOアート」はじまります
墨づくりの伝統を守る古梅園
墨の基本的な材料は植物油(またはマツの木やヤニ)を燃やして出た煤(すす)と膠(にかわ)だけ。材料はとってもシンプルですが、その煤の採取や膠の溶解、材料の配合など作業のひとつひとつに知識と技術が必要です。古梅園では400年以上の伝統を受け継ぎ、現在も5人の職人たちが研究を重ねながら墨づくりを行っています。
200もの火が灯る幻想的な採煙蔵!
採煙蔵は部屋が4つあり、同時に400の火を灯し煤を採ることができます。火のもとは土器に注がれた植物性油とイグサの芯からつくられた灯心を用いています。揺らぐ炎の上にフタを被せてフタに煤をつけていくのですが、これがとても手間のかかる作業。フタの位置が高すぎると完全燃焼して灰になってしまうので、細かな粒子の煤を採るためにつきっきりで火加減やフタの位置を細かく調整しています。
時間との勝負! 膠の溶解
膠は動物の骨や皮を煮出してつくったもので、煤を固める強力なのりとして使われます。保存用に板状に固めた膠を湯煎で溶かして煤と練り合わせますが、膠はすぐに固まるので作業は手早く行います。何度もこまめに溶かす必要があるので大変ですが、この膠が凝固する力のおかげで墨を紙にしっかり定着させることができます。
上質な墨になるかは練り次第!
煤と膠を練り合わせた墨玉は、はじめは煤も細かく、膠も凝固するのでがっちがち。
まずは足で練ってやわらかくしてから、墨ひとつ分に分けて手で光沢が出るまで転がすように練り上げ、図柄が彫られた木型に入れ成形します。
江戸時代から受け継がれた灰で乾燥!
木型から取り出した墨は水分を多く含んでいるので、古梅園では墨をクヌギの木の灰に埋めて中からじんわりと乾燥させています。その灰はなんと江戸時代から何十年かに一度継ぎ足しながら使ってきた希少なもの! 灰は箱ごとに含まれる水分量が違い、水分量が多い箱から少ない箱へと1〜2日おきに移動させます。
墨は生き物!? 寝かせて楽しむ墨の味わい
灰乾燥したあとは、藁で軽く編み、障子1枚だけで外と隔たれた室内に最低1〜6か月程度吊して自然乾燥させます。長く置くほどに膠が落ち着いて使いやすくなり、さらに10年20年と長期間寝かせると、膠が経年変化して墨色に深みや味わいが出てくるそう。
墨といえば黒い色というイメージですが、その黒も墨の材料や製法によってさまざまで、使う人の磨り方や溶かす水の量でも色合いが変わります。墨が使われた作品でそれぞれの墨色を見比べてみるのもおすすめです。
「図鑑NEOアート はじめての国宝」では、ほかにも国宝に使われた素材や技法をくわしく紹介しています。本書で国宝を素材からじっくりとお楽しみください。
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