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Culture

2026.03.12

坂東玉三郎さんが進藤 学さんと語る「縁」のありよう–竹久夢二の美人画を舞踊劇に

坂東玉三郎さんが、竹久夢二の描いた女性を演じる舞踊劇『長崎十二景』。大正ロマン溢れる夢二の美人画をモチーフに、唯是震一(ゆいぜ しんいち)が組曲を創作。そこから生まれたのがこの舞踊劇です。

女性たちの相手役となる“男”を勤めるのは、ダンサーで俳優の進藤 学(しんどう がく)さん。4月の新橋演舞場「坂東玉三郎 特別公演」で初めて共演するお二方に、公演への思いをうかがいました。お二方にとっての「縁」とは何か。

その重なりから生まれる舞台に、期待が高まる取材となりました。

夢二の描く女性を踊る

——夢二の『長崎十二景』は、長崎の風景とともに描かれた美人画の連作です。舞踊劇としては、1979年に初演されました。そのきっかけは?

坂東玉三郎(以下、玉三郎): 僕の(邦楽の演奏の)先生だった箏曲家の川瀬白秋さんに、「あなた、夢二の女をやったらどう?」と言われたことがありました。月日が経ち、唯是震一ゆいぜしんいち先生の『長崎十二景』という素晴らしい組曲に巡りあい、友人で振付家・演出家の竹邑 類たけむら るいさんと一緒に、これで何かできないかと考えました。そこで白秋さんの言葉も思い出し、上演したのが最初です。

『長崎十二景』令和7年1月大阪松竹座 ©松竹

——4月の公演では、竹久夢二を題材にした映像作品『夢二慕情』も上映されます。

玉三郎: もとは岩谷時子さんに書いていただいたお芝居です。それを昨年、映像作品として撮りおろしました。(玉三郎が演じる)3人の女性が、夢二の生涯を語ります。その後に『長崎十二景』をご覧いただくことで、お客様の中に夢二の世界としてリンクするものがあるのではと考えました。

——映像にしたことで、『長崎十二景』と続けてご覧いただくことが可能に。夢二にまつわる2作品とも、玉三郎さんは、まさに夢二の描く女性の雰囲気で登場されます。

玉三郎: 夢二の女性には、どこか儚さや気だるさがあり、それが魅力でもありますね。夢二自身がそのような人だったのだと思います。ただ、演じる上で絵をそのまま再現するわけにもいきません。たとえば『立田姫』だから、と絵と同じ赤の着物では、真っ赤になりすぎてしまう。絵として見るのと、実際に人間が着て耐えられる色とは少し違いがあるので、少しズラしているのです。その調整は難しいところで、『丘の青楼』の白鷺の衣裳なども色々と検討しました。

坂東玉三郎さん

美しい花、かっこ良く美しい額縁

——今回『長崎十二景』で「男」を勤めるのが進藤 学さんです。

進藤 学(以下、進藤): 自分の人生で、玉三郎さんとご一緒できるなんて思いもしませんでした。この機会を存分に楽しみ、一生懸命稽古に励んで舞台の上に立ちたいです。

——玉三郎さんの『長崎十二景』について、どのように感じましたか?

進藤: この作品で玉三郎さんが演じる女性たちは、美しさだけでなく、茶目っ気があり活動的でもあったり。異国情緒あふれる“長崎の女”らしい魅力を感じました。ペアダンスにはリード&フォロー(男性がリードして女性がフォローするもの)という概念があります。しかし時には女性から仕掛けてくることもあり、それを受けてまた男性がリードしたくなる。そのような自然発生的なものを生み出せたらと思っています。

進藤 学さん

玉三郎: 私からは「踊ることができ、僕と背丈のあう方を」とお願いをし、今回進藤さんと巡り合いました。進藤さんは舞踊家であり、俳優でもある。背も高いので、私の背丈でも女方として“つかまりやすい”。昔の歌舞伎役者たちは、立役なら、どうすれば女方がそばに居やすいかを考え、女方もどこまで立役に寄り添えるかを考えるものでした。男役と、女方という女の形をした人間が、舞台上でいかに自然にそばにいられるか。その意味で“つかまり”やすく、そばに居やすい相手であることは重要なんです。

進藤: ペアダンスに「女性は花、男性は額縁」という例えがあります。トータル的に女性を美しく見せたいですし、そのためには自分自身もかっこ良く美しい額縁でいなくてはと思っています。

玉三郎: いい例えですね。稽古はこれからですが、進藤さんは踊りをなさってきた方。これまで僕は、海外のアーティストたちとたくさんお目にかかってきましたが、踊っている人間同士というのは、不思議とあまり言葉はいりません。(バレエダンサーで振付家のミハイル・)バリシニコフともほとんど喋らず、それでもコミュニケーションはとれていました。言葉なく通じ合うものがあると思います。

人生の素敵な1ページに

——玉三郎さんは、歌舞伎だけでなくジャンルを越えた様々な表現に挑戦してこられました。例えば20代の時からシェイクスピア劇にも挑戦し、バリシニコフをはじめ世界的なアーティストとも創作をされていらっしゃいます。

玉三郎: 他の世界が知りたいという好奇心ですね。自分は邦楽の中で生きているけれど、イギリスではどんなものやっているのか。「行って観るより、やった方が早い」という感じでしょうか。それが周りからは、挑戦と見えることはあるかもしれません。

——進藤さんにとって、今回のご出演はひとつの挑戦と言えますか?

進藤: 「挑戦」という言葉とは少し違う感覚で受け止めています。僕は大学で社交ダンスと出会い、24歳で芸能プロダクションにお声掛けいただきました。そこからオーソドックスな芸能活動をしてきたのですが、30代半ばから、自分が前に出ること以上に、人の健康を作ることに興味を持ち、エクササイズクリエイターとして“人をつくる”ことに向き合っています。自分が演者としてのキャリアを貫いている最中でしたら、「これは大きな挑戦だ」と思ったかもしれません。でも今の自分にとっては、人生のバイオリズムが重なり、貴重なご縁をいただいた。人生の素敵な1ページになるのだろうなという期待です。物づくりは大変好きなことですので、この舞台にも、全力でエネルギーを注ぎます。

——そのような心持ちの場合、お二方とも緊張やプレッシャーとは無縁になるのでしょうか。

玉三郎: 緊張はあります。お客様の前に立つのですから、どれだけ準備を重ねても。初めて『阿古屋』をやった時、話が決まってから初日までに2年半の時間がありました。三曲(箏、三味線、胡弓)の稽古は若い頃からしていましたし、その2年半は巡業先でもどこでもとにかく稽古。それでも初日は頭がパンパンになるほどの緊張の極みでした。でも時間が迫ってきて、いざ出番になったら「もういいや」という感じで、「ハイ」と言って、揚幕からお客様の前へ出ました。最後はもう、やるっきゃないんです。

4月の公演では『三曲糸の調べ』と題し、『阿古屋』の三曲が、お芝居ではなく純粋な演奏として披露されます。

すれ違っただけでパッと繋がる縁もある

——先ほど進藤さんから「ご縁」という言葉がありました。

進藤: 父が長崎出身なんです。玉三郎さんにご挨拶をさせていただいたのは、昨年8月に『火の鳥』を見させていただいた時でした。そこで初めてお会いしたのですが……。

玉三郎: そんな気が、しなかった。

進藤: そうなんです。これまでの自分を静かに、一気に立ち返ることができるような、懐かしい気持ちにさせてくださる雰囲気を感じました。「そういえば高校の3年間、長唄三味線を習っていたな」とか、すっかり忘れていた記憶がよみがえったりもして。ありがたいご縁だと思っています。

玉三郎: 僕にとっても、うれしいご縁です。進藤さんが経験してきたことと、私の経験していくことが混ざっていくわけですから。

——遡ればお二方それぞれの中に、これまでにご縁があった方々との経験が混ざっているのですね。

玉三郎: ありがたいことです。越路さんのコンサートで、チケットを切っていらしたのが(越路吹雪のマネージャーであり)『夢二慕情』を書いてくれた岩谷時子さんでした。「いつでもいらっしゃい」と声をかけてくださって、それから何十年ものお付き合いに。でも越路さんご本人とは、実は二度しかお会いしませんでした。ほかにもいろんな方とのご縁がありました。進藤さんも、アルゼンチンタンゴがそのような出会いだったのでしょう?

進藤: 僕は大学生の時に社交ダンスに出会いました。そこからアルゼンチンタンゴにも足を踏み入れたきっかけが、結婚式場でのアルバイトだったんです。会場にきていた日本のアルゼンチンタンゴの巨匠から、「君、アルゼンチンで会ったことあるよね」と声をかけられて。でも、アルゼンチンに行ったことはありませんでした(笑)。そう答えたけれどご縁は繋がり、僕はその後アルゼンチンタンゴの世界にのめり込みました。

玉三郎: 縁って独特のものですよね。すれ違っただけでパッと繋がる人もいる。縁があるだろうと思っていても結局なかったり、あったものが消えてしまうこともある。

「思い」が繋がり生まれるもの

——縁に恵まれるために、できることはあるのでしょうか。

玉三郎: 自分でどうこうできるものでも、準備でどうなるものでもないでしょうね。モーリス・ベジャールさんとの縁も、思いがけない形でした。ベジャール・バレエ団の来日ツアーがあった時、私は名古屋公演の最中でした。一度は諦めたのですが、タイミングよく神戸での公演に足を運ぶことができたんです。客席にいたら呼び出されて、急きょお目にかかることになりました。その時、私は上下つなぎ姿。着るもののことを考えるのが面倒で、当時はどこへ行くにもイッセイミヤケのグレーのジャンプスーツだったんです。冬はコートを羽織ればいいし、暑ければ上を脱いで腰に巻けば済むでしょう? 大変気に入っていたのですが、まさかこの格好でお会いすることになるなんて、と。でも彼は、ジャンプスーツの私をみて「君とは仕事ができるだろう」と前向きに解釈してくださいました。

進藤: ハハハ!

玉三郎: 結局、作品をご一緒することはできませんでしたが、年越しを共にするほどのご縁になりました。若いときは「ご縁」という言葉が、どこか表面的で建前的に聞こえていたんです。年を重ねた今、人生は縁でしかないなと思えています。

進藤: 僕も昔は、ご縁は建前だと思っていたように思います。よく言われる「引き寄せの法則」は、どう思われますか? 思っていれば、いずれ自分のもとに引き寄せられるという。

玉三郎: 縁に関しては、「引き寄せ」られるようなものでもないでしょうね。ただ「思い」はあると思います。縁に触れた時に「思い」があれば、そこから生まれるものがある。

進藤: 言われてみればアルゼンチンタンゴも、自分の中のどこかに「思い」はありました。アルゼンチンタンゴってかっこいいな、とか。

玉三郎: 繋がりたいと思って繋がれるものでもないし、断ったつもりでも繋がっちゃうご縁もある。それでも、いただいたご縁に対しては、精一杯やらなきゃと思っています。歌舞伎の世界も、入るつもりはなかったけれど縁があった。役者としての名前をもらい修業をするうちに、中途半端ではいけないと思いました。だから精一杯やっているだけなんです。

——ご縁で入った歌舞伎界で、誰もが認める「女方の最高峰」に。そこまで突き詰めてこられたことに圧倒されます。

玉三郎: 性格もあるかもしれません。ただ、「突き詰めて」というと一点に集中し、細かいところにこだわるようなイメージをされるでしょう? それは少し違っていて、例えば、この衣裳にこんな雰囲気を出したい。「どうしたらいいの?」と人に聞き、「京都のあそこでないとできません」と教えてもらうと「そうなんだ」と京都へ行き、「この色を作りたいんだけど」と聞いて「このやり方でならできます」と言われたら、「じゃあ、それでお願いします」と。その積み重ねだけだったように思います。

——その過程には「歌舞伎のために」といった思いもございましたか?

玉三郎: 歌舞伎のために、と考えたことはないですね。お客様のため、興行のため、お客様がいなければ、幕はあけられませんから。

進藤: 僕もシンプルにサービス精神として、人に喜んでもらえることが好きです。そのための「もの作り」として、この舞台にも全力を尽くしたいと思っています。

——最後に、4月の公演に向けて一言お願いします。

進藤: 相手は玉三郎さんですから小細工のしようもありません。ナチュラルに板の上に立つことができたら、多くの方の心に残るような作品にできると思います。

玉三郎: 私の場合は、プロとして『長崎十二景』をやる上で、それなりに創っていかなければならないと思っています。でも進藤さんは大変まっすぐな方です。稽古はまだこれからですが、寄り添っていればどうにかなる、という気がしています。“つかまりやすい”進藤さんがいることにより、自分がどんな滑らかな『長崎十二景』をできるか。それを楽しみにしています。

公演情報

「坂東玉三郎特別公演」
2026年4月8日(水)~23日(木)【休演:16日(木)】
劇場:新橋演舞場
演目:
一、口上
二、三曲糸の調べ
三、〈映像〉夢二慕情
四、長崎十二景
公式サイト

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塚田史香

ライター・フォトグラファー。好きな場所は、自宅、劇場、美術館。写真も撮ります。よく行く劇場は歌舞伎座です。
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※『和樂』2026年4・5月号 美術展カレンダーに誤りがありました。P.224で紹介しました、福岡県・久留米市美術館で開催中の「美の新地平ー石橋財団アーティゾン美術館のいま」の入館料は、正しくは一般1,500円となります。お詫びして訂正いたします。
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