Culture

2026.05.20

奈良宗久さんに伺う「初風炉のころ」【新連載 金沢好古庵の 「茶の美」ごよみ】

日本の古都、金沢。ここは春と夏が短く、秋や冬は曇天の日が続きます。だからこそ季節が織りなす美しさやあわいを、この地の茶人たちは大切に愛(いと)おしんできました。『和樂(2026年6・7月号)』より、裏千家今日庵業躰(うらせんけこんにちあんぎょうてい)にして生粋の金沢人である奈良宗久(なら そうきゅう)さんが、四季折々の北陸の茶趣をご紹介する連載がはじまります。

「はじめまして。金沢より茶のある日常をお届けします」

奈良宗久さんの金沢の稽古場・好古庵(こうこあん)で初風炉(しょぶろ)の取り合わせ。冬から使用した炉を閉じ、畳を入れ替え、風炉という仕様にした最初のしつらえを「初風炉」という。茶人にとって、さわやかな夏への変化は心がはずむ喜びがある。

日本海の青、きらめく緑。北陸に待ち望んだ季節が訪れました

北陸に暮らしていると、季節のうつろいを体で感じるんです。なかでも晴れ渡る初夏のころは特別ですよ。待ちに待った太陽が日本海に降り注いで、波は白くキラキラして、空気もどこか軽やかで。5月と10月の北陸は、日本でいちばん美しいところじゃないかと思うくらい。「いい陽気になったねぇ」と言い合うほど、本当に気持ちがいいんです。

茶席では11月から4月は炉、5月からは風炉へと切り替わります。炭は小ぶりになり、茶道具もすべてが夏向きに替わって、冬のあいだ室内に籠(こ)もっていた気持ちが外に開いていくようになるんですよね。

さて私の稽古場の好古庵は、もともと仙叟居士(せんそうこじ)の屋敷があったとされる土地に立っています。仙叟居士は裏千家今日庵の4代、江戸前期の茶堂(さどう)ですね。寛文6(1666)年、加賀前田家5代綱紀(つなのり)公に招かれて来沢(らいたく)し、今日庵を写した「臘月庵(ろうげつあん)」という庵を構えたと伝わっています。その場所は長く「このあたりだろう」といわれてきましたが、約30年前に地元の歴史研究者が古地図を基に検証し、ここがその跡地だとわかりました。しかも驚いたことに、こちらは私の祖父の隠居所で。偶然とはいえ、何か不思議なご縁を感じましたね。

少し生家の話をすると、父は10代大樋陶冶斎(おおひとうやさい)、祖父は9代目の陶土斎(とうどさい)です。大樋焼は、仙叟居士に伴って金沢に来た初代大樋長左衛門(ちょうざえもん)からはじまります。もともと初代は、樂家4代一入(いちにゅう)の高弟で、樂焼(らくやき)の流れを受けて大樋村(現在の金沢市大樋町)の土を使用して窯を開いた人でした。そんな約350年続く大樋焼の家に、10代陶冶斎の二男として私は生まれました。

子供時代は松の下に筵(むしろ)を敷いて、祖父と抹茶を飲んだり、近所を散歩したり。ずいぶんかわいがってもらったものです。ですからここが屋敷跡だとわかったときは、父も私も大きな驚きで。仙叟居士300年遠忌の年に、記念碑を建て、裏千家の設計監修で好古庵という茶室をあたらしくつくったのです。ちょうど私が、今日庵の内弟子修業をしていたころの話です。

この稽古場の魅力は、単に昔の出来事を伝える場所ではないところにあると思うんです。歴史が途切れずに続いているという感覚。ここでお茶が営まれていることで、過去と今がつながっていく。そんな実感があります。学びの場でありながら、どこか特別な意味を感じるんですね。

名君、前田綱紀公ゆかりの品格をたたえた青磁茶碗で

今回の初風炉の道具組では、そのつながりを大切にしたいと思い、前田綱紀(つなのり)公ゆかりの青磁茶碗を主役に据えました。仙叟居士を招いたお殿様がいたからこそ、金沢の茶が形づくられ、今の私たちにも重なっている。そう考えると、この茶碗は象徴的な存在です。初風炉らしさを表したいと、清々しい和菓子や粽の絵の掛物、加賀水引の具足飾りも取り合わせましたが、中心にあるのはこの一碗、というわけです。

こちらの新連載は、金沢という土地が育んできた文化の厚みや魅力を、多くの方に知っていただける機会ととらえています。加賀の茶の有り様(ありよう)を、肩の力を抜いて楽しんでもらえたらうれしいですね。

加賀前田家5代前田綱紀公の箱書が添う茶碗で。翡翠色をした落ち着いた釉調で、天龍寺青磁と呼ばれるもの。前田家の家紋をあしらった薄茶器は、大下宗香(おおしたそうこう)の梅鉢文蒔絵大棗(うめばちもんまきえおおなつめ)。駒沢利斎(こまざわりさい)の桑小卓(くわこじょく)に、白釉デルフト焼の細水指(ほそみずさし)を合わせて。

右上/和菓子は吉はし製で、前田家の家紋に通じる梅の焼印入り。永楽和全(えいらくわぜん)の九谷焼八角鉢には、『三国志』の赤壁の戦いを詠んだ漢詩が描かれている。右下/勇ましい趣の兜釜(かぶとがま)は初代大西浄林(おおにしじょうりん)造。左上/洒落た加賀水引の具足飾りも脇床(わきどこ)に配して。こちらは金沢の老舗、津田水引折型5代目津田六佑(つだろくすけ)の作。左下/本席の掛物は、裏千家14代淡々斎(たんたんさい)の粽絵画賛。前田利為(としなり)作の竹一重切(たけいちじゅうぎり)、銘「涛聲(とうせい)」には、苧環(おだまき)と小手毬(こでまり)を。前田家の兜である鯰尾兜(なまずおのかぶと)をかたどった香合もとなりに。これは3代西村松逸(にしむらしょういつ)造。

奈良宗久(なら・そうきゅう)

裏千家今日庵業躰(正教授方)。1969年金沢生まれ。父である10代大樋陶冶斎に師事し、大学時代より日展などに出品。現在は、国内外で茶道の普及、後進の指導に努める。また工芸やアートの領域にも積極的に関わり、その活動が注目を集める。

茶道教場「好古庵」http://kokoan-kanazawa.com/

※本記事は雑誌『和樂(2026年6・7月号)』の転載です。
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和樂web編集部


撮影/宮濱祐美子 構成/植田伊津子
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