独りの読書はもう古い!? みんなで語らう読書会のススメ

独りの読書はもう古い!? みんなで語らう読書会のススメ

2019年本屋大賞ノミネート作品の一つに森見登美彦氏が書いた「熱帯」が選ばれた。誰も最後まで読んだことのない謎の本「熱帯」にまつわる奇想天外な展開が話題となったが、その中にこんな一節がある。

「不思議の国への入り口という感じがする」
そうして私たちは沈黙読書会へ足を踏み入れたのである。

「熱帯」のストーリーが実際に動き出すのは、主人公が「沈黙読書会」に参加してからだ。

「読書会」ってどんなところだろう。

現実として読書会が開かれているのであれば、是非とも体験してみたい。いつしかそんな気持ちがあったことも忘れていたある日、偶然にも地元の広報誌にある一文を見つけた。

「9月のとやま月イチ読学部―本を通じた青年同士の交流会です」
閉鎖的という印象はぬぐえないが、だからこそ、最初の一歩を踏み出せば、懐に入り込めそうな気がする。

こうして私は読書会へ足を踏み入れたのである。

あれ?思ったよりも開放的?な読書会

巷では多くの読書会が開催されている。「読書会」で検索すれば、三大都市圏を中心に全国各地で意外にも様々な読書会が既に活動中だ。定期的に週1回の夜に開催されるものもあれば、朝活スタイルのもの、週末限定での秘密会めいたものまで、多種多様である。

さて、今回参加することになった読書会は、とやま月イチ読学部が開催しているものだ。平成25年8月のスタートから数えて、今回の読書会は74回目となる。とやま月イチ読学部とは、富山市が主催する「オトナの部活」の一つで、仕事、プライベート以外に、新しい刺激を受けることのできる活動の場という意味合いを持つ。スターバックスが「サードプレイス」を提供しているように、同様のニーズが背景にあるのかもしれない。本を片手に、仲間とにぎやかに熱く語り合う場を無償で提供してくれる。

もう少しここで、とやま月イチ読学部の詳細を説明すると、活動は月1回。年齢は概ね20~40歳、富山市在住、もしくは勤務・活動しているという条件がつき、毎月事前に公表される課題本を読み終えることが必要だ。参加費はもちろん無料。2019年8月末現在で、読学部のメンバーは290名を超えたという。ただ、実際に読書会に参加できるのは、申し込み順で30名限定とのこと。

9月の読書会は、9月26日(木)の夜に富山駅前にあるCiCの会議室で開かれた。課題本は、荻原浩氏の直木賞受賞作である『海の見える理髪店』である。

9月のとやま月イチ読書会の会場案内

会場はガラス張りのオープンな会議室で、向かい合って座る形式となっている。読書会の進行役を務めるファシリテーターの席だけは固定されており、あとは各々自由に座ることができる。

読書会の会場となった富山CiC3階会議室

読書会自体は大体1時間半程度。始まれば、読書会の運営は進行役のファシリテーターに任される。最初にそれぞれ簡単な自己紹介と読書会に参加したきっかけを話す。そこからはファシリテーターの進め方次第。

特に個人の意見を大切にして否定や論破を控えることがルールとして定められている。そのせいか、閉鎖的なイメージは消え、全体的に明るくてオープンな雰囲気といえる。

毎回違うからこそ、読書会は面白い?

今回の課題本である『海の見える理髪店』は、家族をテーマにした6編が収録されている短編集だ。

「毒親とか児童虐待とか、ネットニュースだと簡単に転がっているような話でも、デティールがすごくて、荻原さんの本はまさに疑似体験できるような感じ」「荻原さんの作品って最後の一言で決めてくるというか、すごく印象的な締め方だと思った」「同じ傾向の小説になる作家さんもいるけど、荻原さんはジャンルが幅広くて同じ作家の作品とは分からない」短編集自体の感想だ。皆が一様に頷く。

「私も勝手に『海の見える理髪店』というタイトルからアットホームな話を想像していたけれど、ちょっと影のある部分があって、いい意味でギャップが味わえたという印象を持っています」
「個人的には『成人式』の話が一番好き」
「僕は『時のない時計』が好きです。店主と私の考えが逆になるという終わり方」

とにかく話は尽きない。そこから話は小説の映画化へと続く。
「『海の見える理髪店』を映像化してほしい。なんかできそう」
「小説を読んでから映像化作品を見ると、あそこが違うってチェックするという視点で見てしまうから、集中できない。映画として楽しめないなっていう時がある」
「私は逆に小説のみで、映画を見ないんですよね」
「映画と小説はそもそも作り方が違うって聞きました」

和気あいあいとした雰囲気の読書会の様子

今回の読書会は初参加が3名。それだけで、読書会の雰囲気が変わるという。その上、ファシリテーターも交代制であるため、毎回参加しても、全く同じ読書会となることはない。

まるで生き物のように、話の行き着く先がその場その場で変わるから面白い。全般的な荻原作品の話になったと思えば、急に今回のテーマである家族について「母親は娘に厳しい」「同性に厳しいのか?」など全く関係ない話になる。脈絡もなく、皆が思いついたように発言するので、どんどん話は転がり、それこそ先が読めない物語を読んでいるようである。これは、一度体感しなければ分からない感覚だろう。

聞いて発見、話して発見。それが読書会

「あくまで本を媒体とした青年同士の交流の場です」
とやま月イチ読学部を主宰する富山市役所市民生活部 男女参画・市民協働課の高倉康子氏はこう語る。

確かに、今回の参加者の中でも、参加のきっかけが「本好き」と「交流の場にしたい」に分かれた。特に、とやま月イチ読学部の読書会の場合、参加者の年齢幅は狭く、比較的近い世代の人との交流が可能となる。中には、この読書会をきっかけに交流を深め、互いの結婚式に呼び合うほどの仲となった人もいるのだとか。

とやま月イチ読学部へのアイデアも積極的に歓迎

「参加者からは、課題本が選定されるので、それをきっかけに新しいジャンルの本に出会うことができて良かったとか、他の人の意見を聞いて再度読み直してみればまた違った味わい方ができるなどの声を頂いています」

少しでも多くの参加者を募りたいと、広報誌に掲載するだけでなく、市内の大型書店などにも案内を掲示しているという。

ちなみに参加してみた感想だが、今更ながら感が半端ないが、いかに感情を言葉にすることが難しいかを改めて実感した。日々の日常会話が知らぬ間に短縮され、正確な文章で会話をしていないことに気付かされる。一方で、自分が何者かを一切知らない人たちとの自由な会話は、思いのほか肩ひじ張らず楽しかった。今回の読書会を通して、普段はしがらみの中で身動きのとれない自分でいることを自覚できたのも一つの収穫ではないだろうか。

月並みだが、人生初めての読書会は非常に新鮮な体験だった。
是非とも、この未知なる世界へ飛び込むその楽しさを体感してもらいたい。

基本情報

とやま月イチ読学部
公式webサイト:https://www.toyama-tsukiichi-dokugakubu.jp/

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