Culture
2019.10.21

横浜はパイプオルガンの街だった!この秋、世界にたったひとつの音色を聴きに行こう

この記事を書いた人

かつてローマ帝国の円形闘技場で、王侯貴族の食事や宴会で演奏され、ヨーロッパ各地の大聖堂に設置されたオルガンは、教会やコンサートホールで今もなお多くの人々を魅了している。

横浜はハイカラの発信地

開港以来、海外の文化や品物が流入されて栄えた横浜はハイカラの発信地。グルメならスパゲティナポリタンや食パン、アイスクリーム。鉄道、電話、ガス灯が日本で最初に建てられたのもこの地だった。そしてオルガンが始めて設置されたのも、横浜だ。明治時代にオルガンは横浜外国人居留地から全国へと広がっていく。19世紀末には国産のオルガン製作所(西川オルガン)が誕生。関東大震災と太平洋戦争で激しく破壊されたので資料は少ないが、明治時代の記録を見ると横浜には少なくとも当時3台のパイプオルガンがあったとされる。

パイプオルガンの仕組み

一言でいうと、パイプオルガンとは「パイプに風を通して音を出す楽器」。何本ものパイプから音を出すから、発音の仕組みは管楽器。音を出すために演奏するのは鍵盤。だからパイプオルガンは管楽器と鍵盤楽器の仲間に入るちょっと複雑な構造の楽器と言える。そんなパイプオルガンの最大の魅力はやはり「音色」だろう。1本1本のパイプはリコーダーと同じ仕組みだ。リコーダーは人間が息を吹き込むが、オルガンは送風機に溜められた空気をパイプへと流し込んで音を出す。

音色を混ぜ合わせて、新しい音をつくる

オルガンのパイプは1本につき1つの音しか出せない。パイプの材質、形、太さ、細さによっても音はがらりと変わる。音色や音の高さを変えるストップレバー(鍵盤の横に並んでいる小さなドアノブのような形をしたボタン)にはそれぞれ名前がついていて、「フルート」というストップを引くと、フルートのようなかわいらしい音が出るし、フルートの音色が出る状態で「トランペット」のストップを引くと、フルートとトランペット、2種類の音が重なり新しい音が生まれる。音色1種類に対しても、鍵盤の数だけパイプ1本が当てられているから「鍵盤の数」×「音色の数」の分の、ものすごい数のパイプが必要になるのだ。さらにパイプオルガンには「足鍵盤」もある。オルガンの奏者は右手、左手、右足、左足を曲や曲想に応じて自由に動かすことまで求められる。

教会とオルガン

教会のパイプオルガンはただの楽器ではない。神へ捧げる音楽を紡ぐ神聖な楽器だ。だからパイプオルガンは教会建築と一体不可分だった。第二バチカン公会議の『典礼憲章』には、「パイプオルガンは、その音色が、教会の祭式にすばらしい輝きを添え、心を神と天上のものへ高く揚げる伝統的楽器として、ラテン教会において大いに尊重されなければならない。(120)」なんて言及もあるくらいだ。「楽器の王様」と呼ばれることもあるオルガンは何百年も生きる。現在のオルガンの起源は、紀元前3世紀頃の「水オルガン(水を動力源としている)」に由来するそうだ。その時代の音色はどんなだったろう。

横浜音祭り2019『パイプオルガンと横浜の街』

9月27日から10月27日までの1ヶ月間、パイプオルガンに出合えるイベントが横浜で開催される。歴史あるオルガンを実際に目撃するだけでなく、国内外のオルガニストによる個性豊かなオルガンの音色を楽しめるコンサート内容になっている。舞台となるのは、教会、コンサートホール、大学のホールと、どれもパイプオルガンを聴くのに最高の場所。天井の高い建物で響く荘厳な音色は特別な音楽経験になるだろう。

『横浜みなとみらいホール(大ホール)』アメリカのC.B.フィスク社製の4623本のパイプを持つ国内最大規模のパイプオルガン。愛称“ルーシー(「光」を意味する)”。

『神奈川県民ホール(小ホール)』ドイツのヨハネス・クライス社によって建造。公立ホールの中に設置された日本で最初のパイプオルガン。

『フェリス女学院大学フェリスホール』アメリカのテイラー&ブーディ社が建造したバロック様式のパイプオルガン。

『横浜聖アンデレ教会』日本に現存し、実際に使用されているパイプオルガンで最も古いものの1つ。

『紅葉坂教会』会堂後方の2階ギャラリーに設置されているドイツ・ラウコフ社製のパイプオルガン。

『横浜指路教会』創立125周年記念に設置されたスイス・マティス製作会社のパイプオルガン。

『横浜英和学院ブリテンホール』外装に無垢のオーク材を用いたフランス・アルフレッド・ケルン社のパイプオルガン。

記憶に残る、圧倒的音楽体験

パイプオルガンは記憶に残る楽器だ。15年も前に海外のコンサートホールで初めて聴いたパイプオルガンの壮大な響きと音がもたらしてくれた身の震える感動を、私は今でもよく覚えている。オルガンは1台1台鍵盤の数やストップも違うし、鍵の長さ、深さ、重さも楽器によって様々。同じ楽器というのは1台もない。なにより、設置場所と一体になったパイプオルガンはどこへも持ち運べない。だから、出向かなくては聴くことのできない音がたくさんある。たとえオルガンが弾けなくたって、美しい楽器との出会いはいつも喜びをもたらしてくれるものだ。さあ、個性豊かなパイプオルガンを巡る旅にでかけよう。

イベント基本情報

◆横浜音祭り2019『パイプオルガンと横浜の街』
開催期間:2019年9月27日(金)、9月29日(日)、10月3日(木)~10月5日(土)、10月19日(土)、10月23日(水)、10月27日(日)
場所:横浜みなとみらいホール、神奈川県民ホール、紅葉坂教会、横浜英和学院ブリテンホール、横浜指路教会、フェリス女学院大学、横浜聖アンデレ教会
お問い合わせ:
横浜みなとみらいホールチケットセンター TEL:045-682-2000(10:00~17:00)
神奈川県民ホール 事業課 TEL:045-633-3686
フェリス女学院大学 音楽学部 演奏委員会室 TEL:045-681-5189(月火木金10:00~17:00)
URL:http://www.yaf.or.jp/mmh/index.php

※詳細は主催者のホームページ等で確認を。

開催スケジュール

※日程/コンサート名/会場/料金・定員

9月27日(金) オルガン・プロムナード・コンサート Vol.373/神奈川県民ホール 小ホール/無料(先着400名)
9月29日(日) オルガン演奏会/紅葉坂教会/無料(先着100名)
10月3日(木) オルガン演奏会/横浜英和学院ブリテンホール/無料(先着800名)
10月4日(金) オルガン演奏会/横浜指路教会/無料(先着300名)
10月5日(土) 第226回オルガン・1ドルコンサート/横浜みなとみらいホール 大ホール/100円or1ドル(先着1600名)
10月19日(土) リオネル・アヴォ オルガン・リサイタル/横浜みなとみらいホール 大ホール/全席指定2500円
10月23日(水) フェリスホール・オルガンコンサート/フェリス女学院大学 フェリスホール/全席自由1000円
10月27日(日) アンデレコンサート/横浜聖アンデレ教会/無料(先着150名)

書いた人

文筆家。12歳で海外へ単身バレエ留学。University of Otagoで哲学を学び、帰国。筑波大学人文学類卒。在学中からライターをはじめ、アートや本についてのコラムを執筆する。舞踊や演劇などすべての視覚的表現を愛し、古今東西の枯れた「物語」を集める古書蒐集家でもある。古本を漁り、劇場へ行き、その間に原稿を書く。古いものばかり追いかけているせいでいつも世間から取り残されている。