歌舞伎俳優・尾上右近さん、東博の「正倉院の世界−皇室がまもり伝えた美−」を行く!

歌舞伎俳優・尾上右近さん、東博の「正倉院の世界−皇室がまもり伝えた美−」を行く!

今、若手歌舞伎俳優で注目されている尾上右近さん(こと、ケンケン)が話題の美術展を巡るweb連載。今回は、東京国立博物館で開催中の御即位記念展「正倉院の世界−皇室がまもり伝えた美−」を、東博・研究員の三田覚之さんに案内していただきました。

ご存知、奈良の正倉院では毎秋、琵琶や鏡やガラス食器など、選りすぐりのご宝物が出展される正倉院展が開催されており、全国から1日1万人以上の来場者が訪れ、奈良はホテルが不足するほどの人気です。

今年は、天皇陛下御即位というご慶事を記念して、なんと、東京国立博物館に正倉院のご宝物がやってきました。その数43件。しかも、毎年の正倉院展の目玉に匹敵するほどのオールスターズが勢揃いなのです。正倉院展に10年、20年通うほどの値打ちがあるそうです。その一部をご紹介します!

これがご宝物を守ってきた唐櫃だ!

正倉院宝物 『古櫃(こき)』(前期展示)

「これは正倉院のご宝物を千年以上守ってきた唐櫃(からびつ)です」と、三田さん。正倉院には206合の唐櫃が現存しますが、古代に遡るものを『古櫃』というそうです。

正倉院宝物 『東大寺献物帳(国家珍宝帳)』(前期展示)を見るケンケンと三田さん。

「高い調湿性能をもつ唐櫃は宝物の保存に大きな役割を果たしました。たとえば、今回ご覧いただける『国家珍宝帳』も、実にいい状態で残っているんですよ」と、三田さん。「本当だ、すごく美しいですね。そんな昔のものとは思えないなぁ」と、ケンケン。「そうでしょう。これは聖武天皇の四十九日に、光明皇后が天皇遺愛の品を中心とした六百数十点を東大寺に捧げたときの献納の目録なんです。約15mありますが、こうして全部を一挙にご覧いただけることはほとんどないです」と、三田さん。

国宝 『法隆寺献物帳』(東京国立博物館蔵 前期展示)を見るケンケン。

「しかも、今回の展覧会は法隆寺の宝物と一緒に展示しています。光明皇后は聖徳太子への信仰も強かったので、聖武天皇がお亡くなりになった後に皇女の孝謙天皇が法隆寺にも宝物を寄進されており、そのときの目録が『法隆寺献物帳』です。1260年目にして初めて隣り合わせで展示されます。目録の最後には、藤原仲麻呂とか、当時の閣僚たちがサインをしています。これが、ちょっと下手で味わい深いんですよ(笑)」と、三田さん。

正倉院宝物 『平螺鈿背円鏡(へいらでんはいのえんきょう)』(前期展示)

「うわ、これはすごく綺麗ですね!」と、ケンケン。「こちらは国家珍宝帳にも記載されている『平螺鈿背円鏡』、楊貴妃が使っていたものと同じ時代の鏡です」と、三田さん。鏡背には夜光貝や琥珀の薄板を貼付けて文様を表しています。

花葉を配した宝相華紋の花芯や、花弁に配した琥珀の下には、緑や赤野彩色を伏せ、文様の間地は黒色の樹脂で埋めて、青金石(ラピスラズリ)とトルコ石の細粒や黄銅粉を散りばめています。「すべてのセンスや手間のかけ方は現代にも通じる…、いや現代以上だなと思いますね」と、感動するケンケン。

正倉院宝物 『紅牙撥鏤碁子(こうげばちるのきし)』、『紺牙撥鏤碁子(こんげばちるのきし)』(展示替えあり)

こちらは象牙の碁石『紅牙撥鏤碁子』『紺牙撥鏤碁子』です。撥鏤技法で表現された赤地に花枝をくわえた八頭と、紺地に花枝をくわえた鴨の碁石。「お洒落な碁石だなあ。囲碁という日常の遊びの中に、これだけ細部にまでこだわった技術とセンスを注ぎ込むなんて、当時の生活の中にあった豊かさを感じます。

「現代人も負けちゃいられないですね」と、ケンケン。すると三田さんが「かわいいでしょう。これ、チョコレートで撥鏤碁石をつくってミュージアムショップで売っています。これは人気でお薦めです(笑)」。

というわけで、さっそくミュージアムショップで購入してみた撥鏤碁石 500円。

ご宝物が1260年以上残ったのは、第一に、天皇の許可がなければ蔵を開けてはいけないという制度を続けてきたから。

正倉院宝物 『鳥毛帖成文書屛風』(前期展示)

「こちらの屛風の文字は、鳥の毛で貼り絵のように書かれているんです」と、三田さん。『国家珍宝帳』に記載されている六扇一畳の屛風には、各扇とも二行各八字で君主の戒めとなる座右の銘を表し、聖武天皇がお側に置かれたものだという。「どういう意味なんでしょうか?」と、ケンケン。「心が正直であれば、神様も知っている。不益の臣を納めず、仕えないやつはいらない。というような意味でしょうか…」と、三田さん。「なるほど…。当たり前だけど、忘れてしまいがちなことを教訓として側に置いておくわけですね(笑)。それにしても、きれいに残っていますね。やっぱりお櫃が凄いんでしょうか?」とケンケン。「ええ。ふつうならば朽ちてしまうようなものが1300年もの間残っているのは、第一に、天皇の許可がなければ蔵を開けてはいけないという勅封を厳しく続けてきたからでしょう。いくら権力があっても、勝手に観たい欲しいといって手を出すことはできなかった。中でも、染織品はいちばん朽ちやすいものなんですが、古代の織物が伝世品として残っていたのは日本だけです」と、三田さん。

正倉院宝物 『花氈(かせん)』(前期展示)

「これは絨毯だって一目でわかる、すごくお洒落だなあ!」と、ケンケン。「羊の毛を圧縮してつくったフェルトの敷物です。本来、これは遊牧民族の生活用品ですが、そういうものが宮廷文化に取り入れられて日本でこうして残されてきたわけです。たまに砂が落ちるそうで、おそらく外に敷いていたのでしょう。絨毯の真ん中あたりには打毬というポロかゲートボールをやっているような男の子が描かれています」と、三田さん。

足利義政や織田信長、天下人が切望した香り黄熟香「蘭奢待」

正倉院宝物 『黄熟香(蘭奢待)』おうじゅくこう(らんじゃたい)』(通期展示)

「今、正倉院のご宝物といえば、美術工芸品や染織品が非常に有名ですけど、歴史的には正倉院を代表するご宝物は香木なんですよ」と、三田さん。なかでも『黄熟香(蘭奢待)』は香木として高い知名度を誇っています。足利義政や織田信長といった時の権力者たちが香木を得たいと熱望して、蘭奢待の一部を切り取った跡も残っています。また、明治天皇は、明治10年に東大寺で蘭奢待を切り取って、その小片を火中に投じさせた際に、建物を香りが満ちたと伝わっています。日頃からお香好きのケンケンは、「どんな香りなんだろう。僕はお香が好きなのですごく気になるなあ」というと、「蘭奢待の基原植物は、ジンチョウゲ科ジンコウ属の樹木で、香の名称は沈香です」と、三田さん。

『黄熟香(蘭奢待)』を納めるために元禄6年に製作された木製の唐櫃。黄熟香元禄期収納箱

さて、こちらは徳川綱吉により新調され、寄進された櫃です。「当時、黄熟香は宝物の中でも知名度が高く、明治時代には内箱も新調されています。いかに蘭奢待を特別な物として伝えてきたかの歴史を示していますね」と、三田さん。

正倉院宝物 『白石火舎(はくせきのかしゃ)』(前期展示)

「ああ、この香炉、かわいいですね! 獅子? 獅子が下で支えていますね!」と、ケンケン。「ええ、仏前に置いて香を焚くために用いる大理石製の火炉です。これ、中の灰まで当時のまま残っているんです。灰を崩さずに保存するのも、運ぶのも大変。とても重くて二人掛かりでないと持てないです」と、三田さん。

正倉院宝物 『銅薫炉(どうのくんろ)』(後期展示)

こちらは、衣服や寝具に香を焚き込めるために用いられた銅製銀製の球形香炉です。球体の上下がどのような位置にきても火皿は常に水平を保ち、動いたときに香や灰がこぼれないような仕掛けがある。その仕組みをレプリカでわかりやすく説明展示しています。

◆こちらの記事もおすすめ!「皇室がまもり伝えた美 正倉院の世界」展に感化され、蘭奢待の香りを追いかけて銀座香箱へ!

正倉院の五絃琵琶、これぞ、工芸美の極致!

正倉院宝物 『螺鈿紫檀五絃琵琶(らでんしたんのごげんびわ)』(前期展示)

「本当の見どころは琵琶の裏です。先ほどの鏡と同じ螺鈿の技法で、見えないところに贅を尽くしています」と、三田さん。「あ、無駄こそ文化、ですね」とケンケン。「ええ、無駄の極みでしょう(笑)。明治時代にバラバラであったのを元の形に修復したのですが、足りないパーツは当時の技で補っています。糸鋸で切ったり、すごく細かい作業が施されています。ただ修復した部分はちゃんとわかるように直しているんです」と、三田さん。会場には、8年間かけて同じ素材で同じ技法でつくった琵琶の復元模造品も展示されている。「なんか違うなあ。たしかにどちらも高い技術で製作しているんでしょうけど、何か違う」と、ケンケン。「おそらく古いものは、いい意味で雑なんですよ。熟練した職人がさっさっさとリズミカルに手を動かしている感じです。一方、復元模造品は真似をして描くのでどうしても線が堅くなる。素晴しい作品ですが、そこに違いが出るんでしょうね」と、三田さん。「なるほど。たしかに古い方は丁寧な仕事じゃないかもしれないけど、勢いがあるし、愛着を感じる。復元模造品は遊び心に欠けるところがある。それが写すということなんでしょうね」と、ケンケン。

正倉院のガラスは信じ難いほど透明!

正倉院宝物 『瑠璃壷(るりのつぼ)』(前期展示)

これが、1260年以上守り抜いてきた『正倉海老錠』だ!

正倉院の北倉、中倉、南倉の扉に付けられている鍵『正倉海老錠』の実物。ただし、陛下の親署は入っていません。

「今でも宝物を納めた倉には勅封のついた海老錠がかけられています。箱形の牝金具と板バネをもつ牡金具を麻縄で結んで、要所に勅書を付して竹皮で包む。さらに竹皮の外には、儀式に立ち合った侍従の方のサインを入れた封が綴じ付けられています。たとえ権力があっても、天皇の許可がなければ勝手に開けることは絶対に許されませんでした。この制度によって正倉院の宝物は1260年以上守られてきたのです」と、三田さん。ケンケン、ロッカーのキーでは開きませんよ!

報道内覧会の日、初めての「正倉院の世界」展体験の感想をケンケンに聞いてみた。

「時空の超え方が半端じゃない」——ケンケン

もともと聖武天皇の身の回りにあったものは、当時から第一級品といわれてきた価値の高い物で、当初から物を残すことを考え、唐櫃の湿度や温度が変わらないよう実験的経験値で手間をかけて保存状態もよい環境で、さらに自分勝手に物を動かせないシステムでご宝物を守ってきた。そのため、質感や配色やデザインも1260年以上前から変わらないということに驚きました。

五絃琵琶に関しては、芸の伝承にも繋がる深さを感じました。復元模造品をつくった職人も、物づくりに特化した職人さんがつくっているはずです。8年もかけて現代の最上級の技術をもって作られた琵琶。でも、何か違う。それは、昔は職人としてかかわっている仕事が、昔は日常の中に入り混んでいたんじゃないかと思うんです。日常の中で仕事にかかわる密度が高かったんだろうと。だから、手捌きの素早さ、雑感とか大ざっぱな感じ、作品全体のバランスや迫力が違うんだと思う。そして、そこに生まれた隙に、人は愛着感や特別感を感じるようにできていると思うんです。歌舞伎の伝統や伝承も、当時の役者はこうだったというときに、本物と同じ作りになってはいても何か違う、と。でも、それに近づけて行こうという熱意や、繋げていく次世代、素晴しいものが昔に存在したというゆるぎない事実を伝えていこうという熱量に繋がっているのは確かですよね。

僕は知識に長けているわけではないので、今日は研究員の三田さんに説明を受けられたことが申し訳ないくらいの贅沢でしたが、ここにお越しの皆様は博物館巡りのエキスパートという感じの方々ばかりで、そんな方々の中に混じらせていただいて面白かったです。きっとここに関わる方々も来客者の皆様もロマンチストなんでしょうね。「正倉院の世界」展は時空の超え方が半端じゃなかったです。

展覧会情報

御即位記念特別展 「正倉院の世界−皇室がまもり伝えた美−」

日程/10月14日(月・祝)〜11月24日(日)

前期/10月14日(月・祝)〜11月4日(月・休)
後期/11月6日(水)〜11月24日(日)
開館時間/9時30分〜17時 (入館は閉館の30分前まで)
    ※金・土曜、11月3日(日・祝)、4日(月・休)は21時まで。
休館日/月曜日、11月5日(火)
    ※ただし、11月4日(月・休)は開館
観覧料/一般 1,700円

公式サイト

尾上右近(おのえうこん)

歌舞伎俳優。1992年生まれ。江戸浄瑠璃清元節宗家・七代目清元延寿太夫の次男として生まれる。兄は清元節三味線方の清元斎寿。曾祖父は六代目尾上菊五郎。母方の祖父は鶴田浩二。2000年4月、本名・岡村研佑(けんすけ)の名で、歌舞伎座公演「舞鶴雪月花」松虫で初舞台を踏み、名子役として大活躍。05年に二代目尾上右近を襲名。舞踊の腕も群を抜く存在。また、役者を続けながらも清元のプロとして、父親の前名である栄寿太夫の七代目を襲名し、活躍している。【公式Twitter】 【公式Instagram】 【公式ブログ】

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