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Culture
2019.11.11

上方と江戸の笑いには違いがある!豪胆にして繊細、落語家・笑福亭純瓶師匠インタビュー

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落語は関西が発祥であることをご存知でしたか?上方から江戸に伝えられた落語は、上方では商人文化、江戸では武士文化という土壌の違いを吸収して、それぞれ独自の発展を遂げました。元は兄弟のような上方落語と江戸落語、しかしその違いは今ではより幅広い楽しみを私たちに与えてくれています。そんな上方落語の魅力をあらためて知りたいと、老舗酒造とのコラボレーション落語会やサザンオールスターズをテーマにした企画落語など、精力的に新しい世界を生み出している、笑福亭一門の笑福亭純瓶(しょうふくていじゅんぺい)師匠にじっくりお話をお聞きしました。

笑福亭純瓶プロフィール

大阪府堺市生まれ。笑福亭鶴瓶一門3番弟子。所属事務所は松竹芸能。現在はびわ湖放送の番組に多く出演している。主な会は奈良の老舗酒造今西清兵衛商店 とコラボレートした「春鹿寄席」「土曜てぃーたいむ寄席」「ほろよい寄席」「豊中芸人倶楽部」「ゑびす寄席」「神農寄席」など多数。他にもサザンオールスターズファンの上方落語家による「勝手に桑佳ファンだから!」などの企画落語など、古典、新作問わず意欲的に活動している。

今の笑いは喜怒哀楽の「喜」。満点でも25点

――落語は元々、関西発祥の文化だと言われています。長い時を経て、今では江戸落語の印象が強い面もあるようですが、そのあたりをどう感じられますか?

笑福亭純瓶:正直なことを言えば、東京で落語をやると笑いは僕らの方がとるんですよ。けれど今日は誰が面白かったか、という問いに名前があがらないんです。上方落語は、松竹、吉本など新喜劇の影響もあって、どんどん笑いにフォーカスされていきました。喜怒哀楽の喜、つまり100点満点の1/4、25点です。満点を取っても25点にしかならない。

東京では、ネタの中に喜怒哀楽全てを出しているから、印象に残りやすい。大阪も過去はそういう全てを網羅した人情モノも多くありましたし、むしろ受け入れられて来た土壌はあるんです。でも今は練りに練った25点で勝負している感じです。

――練りに練った25点、ですか?

笑福亭純瓶:例えば出演したドラマなんかでセリフをカットされたりしても、ただ「切ってしまうんですかあああ」と起こったことをそのまま言っても当然面白くないわけです。それを笑えるネタにまで昇華するには、話し方や声のトーン、そして表情なんかも裏には綿密な計算があります。舞台に出てくる瞬間から演じる、あけっぴろげに見えて口に出すことは計算している。だから笑いがとれるんです。

――どこまで冗談なのかわからなくて一瞬笑っていいのか悩みます(笑)

笑福亭純瓶:大阪って敷居が低いんですよ。お客さんと演者の間の差が少なくて全員が親戚みたいな感覚が強いんです。ほとんど身内感覚だから、割ときついこともあけっぴろげに言ってしまったり、またそれが喜ばれるようなところがあります。

高座で言っていることはほとんど嘘ですが、でもそこにリアリティがあるから怒りではなく笑いになる。デフォルメしてデフォルメして、笑えるまで練っていく。笑いに対してはすごく精度が高いんです。それが、ものすごく練った25点、ということなんです。

大阪と東京のまくらの違いとツンデレ

笑福亭純瓶:大阪だとまくらは下から行くんです。ちょっと媚びてるというか、ええ気持ちにさせるというか。東京は文化人だ、ということを前面に出してまずは上から行く。その後で改めて下から行くので緩急があって受けるわけです。いわゆるツンデレですね。たぶん、あちらの方達の方が女性にはモテはるでしょうね(笑)

大阪だと、日頃から言葉をひねって笑いにする気質がお客さん側にもあるので、その分、笑いに対する点数が辛い。そういう意味ではお客さんの要求そのものも違うんです。東京だとやっぱり喜怒哀楽を全部見せるのが期待されますし、大阪だとやっぱり笑わせてなんぼ、ってとこはあります。

――東京と大阪で演じ方を変えたりする?

笑福亭純瓶:うちの師匠なんかは全国区ですが、本人は言わなくても大阪東京でやり方を変えている、という人もいるみたいです。が、実際にはそこまで僕らが東京で演じる機会はあまりないんですよ。年に数回レベルでは実験すらできない(笑)もちろん、古くは汽車が走るようになってから、色々交流もあるし情報交換もされてます。関西では「当たり前」だったから書き残されていないことが、江戸には文書でたくさん残されていたりもするんです。

江戸に持って行った上方落語が定着して「もともと上方の落語」というのもたくさんあるし、上方で廃れても江戸に残っているものは未だ多いです。ただ、やっぱり江戸弁と大阪言葉の違い、みたいな部分だけでなく、お客さんの求めるものの違いはあると思います。まあ、毎日誰かが新作落語作ってるわけですし、古典はどんどん融合していってるので、もっと細分化されていくのかもしれませんが。

真打制度のない上方落語。誰でも師匠と呼んでいい?

笑福亭純瓶:昔はあったようですが、今は真打制度はないですね。その場で誰が古株か、みたいな形で順番を決めるのがセオリーですが、その日のネタを見て序列は気にしない場合も多いです。

東京では楽屋はしーんとしてるでしょう。大阪はうるさいですよ、親戚の家にきたみたいです。

――真打制度がないということは、どなたでも師匠とお呼びしていいのでしょうか。

笑福亭純瓶:師匠と呼ぶ線引きもあまりないですが、表立っては嫌がる人もいますね。あんまり若いと呼ばれるのが恥ずかしいとか、自分はまだそこまでじゃないとか。6年くらいで弟子を取った人も過去には存在してましたから、ほんと人によります。もちろん、弟子をとるかどうかは当然師匠に許可を取ってますし、直弟子の修行は厳しいのは変わりません。

上方落語の主役は商人、江戸落語は武家文化が中心

笑福亭純瓶:基本的に上方は派手です。最初に外で机をたたいたりはやし立てて人を集めてましたから。その名残が見台で、見台がないとできない噺もあります。江戸は頭からインドアで始まっているのでその必要もなかったし、出囃子もなかったんです。

上方はテーマソングもありますよ。前座は共通のを使ったりするんですけどね。ハメモノといって、落語の最中にもお囃子を入れたり、三味で歌を歌うような落語もあります。BGMですね。

江戸の落語は武家社会が舞台ですが、上方はやっぱり商人の話が多いです。お金の話がやっぱり多い(笑)それに上方の落語は武士が遠慮してて、商人が強いんですよ。そもそも武士が出てくる落語も少なくて、そういうところにも違いはあるかもですね。

あと、代名詞なんかも違います。江戸だと熊さん八っつあんとかですけど、大阪は喜六と清八がほぼ9割くらい。江戸だとだいたいご隠居に話を聞きに行きますが、こっちだと甚兵衛さんです。医者だと赤壁俊庵先生とか、登場人物はだいたい決まってますね。

同じ噺でも違う笑いのツボ

――色々違いがあって面白いですね。ますます上方落語を色々聴いて見たくなりました。これを読んでいる方も同じ思いの方は多いと思いますが、もしなにか上方らしい噺をみたいと思ったらおすすめはありますか?

笑福亭純瓶:上方落語にはてなの茶碗という噺があるんですが、実は江戸落語に井戸の茶碗というのがあって、よく対比して語られるんですよ。

同じ茶碗の話なんですが、はてなの茶碗は出てくる誰もがちゃっかりしてて、井戸の茶碗はいい人しか出てこない(笑)まさに武士は食わねど、って感じなんです。どちらも象徴的な大ネタで、よく似ているのに商人文化と武士文化の違いがよく表れているので、比較して聞いてみると面白いと思います。

はてなの茶碗 あらすじ

油屋が清水の茶店で茶を飲んでいると、有名な道具屋の茶金さんが店の湯飲をまじまじと見てため息をついているのを見かける。価値ある茶碗に違いないと思った油屋は、あれこれ理由を付けてその湯飲みをなけなしの二両で譲ってもらう。

早速、茶金さんの店に行き高く買ってもらおうとするが、価値などなにもない、単に水が漏っていたのにひびが見えないことが不思議に思っていただけだと言われ意気消沈する油屋だったが、申し訳なく思った茶金さんはそれを三両で購入し、この金を持って親元に帰って孝行するように諭す。

その話を知り合いの公家に話したところ、興味を持たれ千両で売ることに。後日、再び油屋がやってきて・・・。

井戸の茶碗 あらすじ

屑屋の清兵衛はある日、千代田卜斎という人物から仏像を200文で買い取って欲しいと頼まれる。始めは断った清兵衛だったが、どうしてもお金が必要という男の頼みに負け200文で仏像を買い取る。この仏像をもって道を歩いていると若い侍に呼び止められ譲ってほしいと言われ300文で売ることに。その侍が家に持ち帰り仏像を磨いていると仏像の中からなんと50両もの大金が出てきたので、その侍は持ち主に返そうと屑屋の清兵衛を探し回る。やっとの思いで見つけた清兵衛だったが、それは自分のものではないと千代田卜斎に渡しに行くが、卜斎も一度売ったものだからとガンとして受け取らない。仕方なく、卜斎の粗末な茶碗を質草ということにして受け取らせたものの、その茶碗を見た殿様が300両で買いたいと言い出し・・・。

上方落語ならではの喜怒哀楽を目指して

――今日はありがとうございました。最後に師匠の思う上方落語に楽しみ方をぜひ指南して頂けませんか。

笑福亭純瓶:大阪では、まず笑かしてナンボです。その分、軽く見えることもあります。最初に話した25点も喜怒哀楽の喜でしかなく、喜怒哀楽の要素のうちの一つでしかありません。けれども上方落語の笑いの後ろには、残り75点がちゃんとあります。

どうしても笑いにフォーカスせざるを得ない場合も多いですが、機会があれば純度高く練られた「笑い」を楽しみながら、残りの75点に上方の人情も感じて欲しいですね。

笑福亭純瓶オフィシャルブログ

https://ameblo.jp/shofukutei-junpei/

書いた人

インターネット黎明期よりIT業界にてさまざまな業務に関わる。多くのWEBメディアやコンテンツ制作を経験したことからライターに。 現在はオウンドメディアにおけるSEO支援に関わる会社員でもある。過去にオランダに四年、香港に三年半生活した経験があり、好奇心が尽きることがないのが悩み。 プライベートでは普段から着物を愛用し、普段着物研究家を自称。日常で着物を着る人を増やしたい野望をせっせとSNSなどで発信中。美味しいお酒に目がない。https://www.daily-kimono.tokyo/