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2020.03.21

寝袋から日本酒のパッケージまで!驚異の進化を遂げた、プチプチの世界

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プチプチを手にしたら、あなたはどうしますか?通販で買った商品をくるんでくれていたプチプチ。もらったプレゼントを守ってくれていたプチプチ。「また使うかもしれないからとっておこう」との保存派ですか?それとも気がついたら全部つぶしてしまっている、つぶす派ですか?どちらのみなさんにも、きょうは伝えたいことがあります。それは「プチプチがそれだけのものだと思っているなら、それは勘違いだね!」ということ。
プチプチの深淵を探るべく、日本のトップシェアをほこる川上産業株式会社の杉山彩香さんにお話を伺ってきました。

日本でプチプチがつくられるようになったのはいつ?

今回お伺いした川上産業は、1968(昭和43)年に創業、1976年に設立された会社です。2019年5月現在従業員数447人、売上げ144億円と堅実に規模を拡大しているとのこと。また、日本で初めてプチプチ生産機を開発した企業として業界の50%以上のシェアをもち、成長を続けています。

そもそも、どうしてプチプチを作ることになったのでしょうか。気泡シートのもととなる構造物を発案したのは実はアメリカの研究者で、当初は梱包材としての発明ではなかったといわれています。1963(昭和38)年に故・川上聰氏(川上産業創業者)が海外の技術情報の中で、気泡シートの存在を知り、将来性を予見して独自に機械の開発を開始しました。

プチプチが登場するまでは新聞紙などを使った梱包が一般的だったため、気泡シートは全く新しいものでした。そうした時代にプチプチという未知のものを売り出すということで、最初は販売に苦労しましたが、名古屋の会社ということもあり、瀬戸物とのかかわりで普及したといわれています。また、当時から積極的に展示会などに出品し、広くアピールすることに努めていました

「プチプチ」という名称は、1994年に商標登録されています。それまでの商品名は「エア・バッグ」でしたが、車のエアバッグほうが有名になったので「プチプチ」を商品名にしたのです。

数えきれない…こんなにあるプチプチの種類

実はプチプチはとてもたくさんの種類があります。中でも目をひくのが2004年に発売したハート型のプチプチ「はぁとぷち」です。これは杉山さんが2001年に提案したものだそう。
「当時は業界内にあまりかわいいものがなく、自分のテンションを上げたかったですし、かわいいものをつくってみたいという思いがありました。また、もっと一般のかたに楽しんでもらえるような商品をつくりたかったのです。こわれものをはぁとぷちで巻けば、より一層かわいい贈り物に仕上がります」(杉山さん)

いろんな色で思い思いにラッピングできる「はぁとぷち」。

ハート形のプチプチづくりは技術的に難しく、開発に時間がかかりましたが、はぁとぷちは無事に完成し販売を開始、いまでは人気商品のひとつとなっています。「もっとほかの形のもの、たとえば星形や猫の肉球などをつくれたらいいなと考えています」と杉山さんはさらなる挑戦をめざしているようです。

また、最近話題になっているのが浮世絵を大胆に施したプチプチです。これは4人組のデザインユニット「coneru」さんからの持ち込み企画。彼らが「Tokyo Midtown Award 2015」(東京ミッドタウンが「JAPAN VALUE(新しい日本の価値・感性・才能)」を創造・結集し世界に発信し続ける街”を目指す一環として行っているアートとデザインのコンペ)に出品、受賞したことから製品化したいとの連絡があって進められたとのこと。こちらの商品は「2018年度グッドデザイン賞」を受賞しました。

話題になった「浮世絵ぷちぷち」。先に「浮世絵×ぷちぷち」のアイデアがあり、製品化の際になにを包めばいいのかを考えた結果、日本酒を包むパッケージを作ることになった。

用途に応じたものも多く、日本酒用だけでも1升瓶や4合瓶などサイズがいろいろあり、いずれも順調な売れ行きだといいます。問い合わせや注文にも、公式通販サイト「プチプチショップ」で対応しているので、気になる方はぜひチェックしてみてください。

プチプチのよしあしってどんなところでわかるの?

プチプチを使っていて「はさみがうまく進まないな」と思うことが時々あります。これはどうして起こるのでしょうか。

「はさみの進み具合は『コシ』の違いから起こります。安価なものは柔らかく、はさみが進みづらい傾向があります。コシがなさすぎると切りにくいのです」(杉山さん)

コシですか!?コシと聞いてまるでうどんみたいだな~という気分になりつつ、サンプル帳で確かめさせていただきました。たしかに触ると全然違います。おそらく包まれる側でも守られている感じが全然違うんじゃないかと思うほどです。「コシはフィルム(つまり素材)の密度によって変わり、それによって重さも変わります。面積あたりほんの数グラムの違いですが、プチプチの高さは同じでも、ちょっとの違いでまったく変わってくるんです」と杉山さん。「恐れ入りました」と言いたいくらいちょっとずつ違うサンプル帳の手触りに、プチプチの世界の奥深さを思い知らされるようです。

粒の大きさもさまざま。

プチプチの小さなシートを集めて綴じたサンプル帳には、30種類くらいのものがありました。それに組み合わせかたの違いや、お客様からの個別に要望に応じて作るものを加えると、なんと1,000種類を越えます!このなかでいちばん流通しているのはやはり通常の無色透明のもので、次が静電気対策用のピンク色のもの。家電量販店などでよく使われているので見覚えがあるかたもいるのではないでしょうか。静電気対策は普通のプチプチでもしていますが、こちらはより強く対策されています。さらに強く対策されたプチプチが黒いもので、精密機械に使われます。

電子機器への梱包に最適な静電防止効果のある「静防プチ」。

このように、お菓子から自動車部品まで、ものに合わせてコシの強さが違うプチプチが大活躍しているのです。

未来へ向けたプチプチ エコそして防災

環境にやさしいことも製品づくりのひとつの指針になっている昨今、川上産業の製品もグリーンポリエチレンから作られた「バイオ プチ」と呼ばれる環境対応製品を中心に、再生原料や植物由来のものがふえているそうです。

バイオ プチに向けた機運はかなり早い段階から盛り上がりを見せていました。バイオ プチより早く1998年に「オレンジプチ」を販売開始。現在は廃盤になっていますが、環境負荷を低減する商品開発に力を入れる第一歩となった商品です。当時は「ダイオキシン問題」が現れたころでした。焼却炉の性能が現在より低く、生ごみなどの水分を含んだゴミが低温で燃えてしまうことにより、ダイオキシンが発生したと言われています。オレンジプチは一緒に燃やすと燃焼カロリーが高くなり、ダイオキシンの発生を抑制できるというすぐれた商品でした。

サトウキビ由来の「グリーンポリエチレン」(Braskem社)を使用したさわやかな若草色の「バイオ プチ」。

川上産業で、1990年代から環境問題に関心が高いのは「プチプチは最終的にゴミになることが多い」ということが根底にあると杉山さんは言います。「環境負荷をかけたくない、地球環境を積極的に守りたいという思いで商品開発をしてきました」

「ループプチ」という国内循環型リサイクルも積極的に行っています。それは「たとえばA社さまが使用したプチプチを回収し、それを再度プチプチに作り直し、またA社さま使ってもらう、これを繰り返すリサイクルです」(杉山さん)プチプチのエコロジーは未来をしっかりと見据えているんですね。

杉山さんがいま注目してほしいのは、防災関係で使えるプチプチだといいます。「東日本大震災の際には避難所にプチプチを提供しました。はさみで簡単に切れますし、クッションにもなるし、巻くとあたたかいので、初動で役に立つアイテムだと思っています。ぜひ使い方を知ってほしいですね」と杉山さん。「プチプチにくるまれば一晩はしのげますし、なんにでも使えます。多少かさばりますが、家に常備しておくと安心です」とも。いまでは、防災に特化した製品をいくつか作っています。

万が一の備えになる「プチプチ寝袋<オトナ用>」はプチプチなのでとても軽量。いざという時のために用意しておくとよさそう。

ところで、そうはいっても心配なのが耐久性です。「すぐつぶれるんじゃないの?と思われるかもしれませんが、意外につぶれないんです。指で押すと簡単につぶれますが、平面だとつぶれません。テレビ番組の企画で1トンプレスに挑戦したことや、プチプチの上に鉄板を敷いて4トントラックで踏んでも潰れなかった経験があります。平面の圧力には強いんです」(杉山さん)

プチプチ文化研究所のお仕事って??

川上産業には、プチプチで遊びつつ、プチプチにまつわるさまざまな事象を研究している「プチプチ文化研究所」があります。実は杉山さん、その人こそがプチプチ文化研究所の所長なのです。

プチプチ文化研究所の所長でもある杉山彩香さん。

2001年、社内でひそかに「プチプチ文化研究所」が立ち上げられました。きっかけは、携帯電話の1円で送れるショートメールの中吊り広告。広告の紙の上に大粒のプチがあってその中に1円玉が入っているのを、杉山さんは出勤中に発見したのです。しかし、社内ではそのことを誰も知りませんでした。広告代理店に聞いて、プチプチが使われている経緯を知ったのです。「そうしたプチプチ文化をきちんと把握したいと思って情報を集めることにしました」(杉山さん)

一方で、自分たちからも発信したい思いがあり、都内の服飾系大学等に呼びかけた結果、戸板女子短期大学でのプチプチのファッションショー開催などにつながりました。そのうちプチプチの使用事例がかなり集まってきたため『プチプチ OFFICIAL BOOK』(エンターブレイン)という本を作りました。2006年のことでした。明和電機、安齋肇といった錚々たるメンバーが寄稿したこの本の出版で、プチプチ文化研究所が社内でも知られるようになりました。

『プチプチ OFFICIAL BOOK』(エンターブレイン、2006年)

本出版に際しては、こんなエピソードも。
「入社1年目の時、ポッキー&プリッツの日みたいにプチプチの日を作りたいと当時の社長がアイデアを出し、一般社団法人 日本記念日協会の加瀬清志さんにお話をしました。そのご縁が5年後の本の出版にもつながり、加瀬さんにも寄稿していただきました。私たちの考えをおもしろがってもらい、『そのうち本でもつくれば』と言ってもらったんです。現在、加瀬さんはプチプチ文化研究所の主任研究員でもあります」(杉山さん)積極的な情報発信と、そこから生まれるつながりがあってプチプチ文化は盛り上がりを見せているようです。

プチプチの日は8月8日と社内公募で決まり、2000年に登録されました。プチプチを2つ見ると数字の「8」に見え、潰す時にパチパチと音がするからというのが由来です。

いろんな活動の中で、杉山さんが印象的だったのは、岡山での交通ルール啓蒙のための動画づくりだそうです。地元の自動車ディーラー・岡山トヨペットが、ウィンカーを出さない率が日本一の岡山県民への啓発動画を製作することになり、ある町一帯を「Bubblepack Town」としてプチプチでくるむことに。この動画作成はとても大がかりだったため、感慨深かったといいます。

岡山トヨペットの動画「Bubblepack Town」の一場面。あらゆるものがプチプチでくるまれている。(C)岡山トヨペット株式会社、川上産業株式会社

活動の一環としては、プチプチを使ったワークショップなども挙げられます。

チームラボキッズとのワークショップの様子。

ここ数年は8月8日の「プチプチの日」にチームラボキッズとコラボ、1日だけの「プチプチパーティー!」を行っています。「プチプチ博士による工場見学」など楽しいイベントです。

SNS時代に広まるプチプチ文化

プチプチ文化研究所の地道な取り組みは、SNS時代に入って新展開を迎えました。そのひとつが新幹線から見える看板の設置です。

川上産業は、投稿と名古屋の二本社制をとっています。いまでも東京と名古屋を社長は行き来することが多いといいます。2代目社長の川上氏がそんな移動の際、車窓から見た看板に「空き看板」と連絡先を見つけ、すぐさまメモしたことがあったそうです。「すごい動体視力ですよね」と杉山さんは笑いますが、そのメモをもとに本当に問い合わせをして、新幹線から見える看板を1か所だけ設置することにしました。1999年のことでした。設置後、特にPRをしていませんでしたが、TwitterなどのSNSが広まった現在は、いろいろな人に知られるようになりました。「その中で、車窓からの景色に大変お詳しくて著書も出されている、フォトジャーナリストの栗原景さんが取り上げてくれたので、盛り上がりを見せました。栗原さん主催の『車窓ナイト』と言うイベントのゲストに呼んでいただいたこともあるんですよ」(杉山さん)

4代目の看板。絵はイラストレーターのつぼいひろきさんが手がけた。

昨年の台風15号で、残念ながら3代目の看板が壊れてしまったため、先日4代目の看板が設置されました。実はこの4代目の看板にはQRコードの記載があります。まさか新幹線の車内からは読み取ることができないであろうこのQRコードは、実は現地を訪れてくれた人のためのものなのです。看板は新幹線からも見えるけれど現地の人が散歩で見ることも多いし、わざわざ出かけて観に行く人もいるといいます。

「2001年からふつうのプチプチにも1万個に1個ハート型の粒を入れています。とくに告知はしておらず、3年に1度くらいハート型のものがありましたという問い合わせがあるくらいでした。それが変わったのはTwitterが使われ始めてからですね。とくにダウンタウンの松本人志さんが写真とともに『プチプチの中にひとつ 愛を見つけました。。。』とツイートしてくださった際には64万5,000リツイートされました。とても驚きましたね」(杉山さん)

さまざまなプチプチとユニークな取り組みを伺ってきました。いまではプチプチをつぶすことが高齢者の指の運動によいと考えられ始めているそうです。また「マインドフルネス」などが話題になっていますが、自分自身の振り返りなどを行う際にもプチプチをつぶすことは役立つという話も。まだアカデミックな証明はされていませんが、集中するのに効くかもしれません。ストレス解消でプチプチするためだけに、触った時のモチモチ感とつぶした時の高音質にこだわった「プッチンスカット」という商品もあります。

杉山さんは言います。「プチプチはみなさんご存じで使い方も知られているものですが、リサイクルのことを考えている真面目なプチプチたちです。シンプルな作りですが可能性は無限大です」

ちょっとプチプチしたり、こわれものを包んだり、そのくらいの関係でしかなかったプチプチ。調べてみるととんでもなく奥深いものでした。単純な製品だと思っていたのは大きな勘違い。防災にも役に立つと聞き、少し大きめのシートを買っておこうと思いました。みなさんも手元のプチプチを使ったりつぶしたりする時は、プチプチの世界に思いをはせてみてください。きっと今までとは見え方が変わってくるでしょう。

※プチプチ、はぁとぷち、浮世絵ぷちぷち、オレンジプチ、ループプチは川上産業株式会社の登録商標です。

プチプチ関連リンク

●プチプチ文化研究所
http://www.putiputi.co.jp/putilabo/

●プチプチSHOP
http://shop.putiputi.co.jp/

●coneru(会社員4名によるクリエイティブユニット)
https://coneru.tokyo/

●岡山トヨペット「日本一ウインカーを出さない県の驚きの安全策とは・・・?Bubblepack Town」(動画)
https://youtu.be/z24kMH-BgNg

書いた人

岡山市出身、歴史学の博士号をもつ大の歴史好き。レトロという言葉だけでは語れない、戦前の日本文化を伝えたいと思っている。趣味は読書と街歩きと宝塚観劇と漫才で笑うこと。紺野ともという名で詩人もしている。